10歳から一緒に暮らしてきた「モノより思い出。」な存在1998年式日産セレナ ハイウェイスター(C23型)
愛車に対する想いは「一緒に過ごしてきた時間に比例する」のは、気のせいではないかもしれない。
その対象が、幼少期から家にあったクルマであればなおさらだ。それはもはや「道具ではなく家族の一員」とも呼べる存在だろう。
かつて「モノより思い出。」というコピーで話題になったクルマがある。日産セレナ(2代目)のCMだ。シンプルだが、クルマと接する本質を端的に表現した名コピーではないかと個人的に思う。
今回のセレナは、それよりも一世代前、貴重な存在となりつつある初代モデルだ。父子2代でこのセレナの面倒を見るオーナーの息子さんに話しを伺うことができた。
「このクルマは1998年式日産セレナ ハイウェイスター(C23型/以下、セレナ)です。父が新車で手に入れてから25年になりました。これまでの走行距離は約12万キロ。現在も名義は父のままですが、運転免許を取得してからは実質的に私がこのクルマの面倒を見ています」
父に代わり、このセレナの面倒を見ているのは「実質的オーナー」である息子さんだ。実は過去に2度、この方の愛車を取材させていただいたことがある。可能な限り、自ら愛車の面倒を見る方なので、まさに適任というわけだ。
1991年、バネットコーチの後継モデルとしてデビューしたのが「バネットセレナ」だ。その後、1994年に行われたマイナーチェンジで車名が「セレナ」に変わり、30年近く経ったいまでも進化を続けている。ちなみに、昨年12月にフルモデルチェンジを果たした「C28型」は6代目にあたる。
父親が手に入れた個体は初代モデルの最終型にあたり、フロントバンパーのデザインやホワイトメーター、センターコンソールおよびドアパネルがカーボン調になるなど、細かいところで違いがある。
ボディサイズは全長×全幅×全高:4380×1695×1915mm。排気量1998cc、直列4気筒DOHCエンジン「SR20DE型」の最高出力は130馬力。シルビアなどに搭載されたものと同型式だ。
ちなみにこのC23型の初代セレナは、歴代モデルのなかで唯一、駆動方式がFRであった。さらにリアのサスペンションはマルチリンク式、5MTを選べるグレードもあるなど、まるでスポーツカーのような仕様であることはあまり知られていないかもしれない。この他、4WDモデルやディーゼルエンジン仕様も用意されるなど、幅広いユーザーのニーズに対応したグレード展開を行っていた点も興味深い。
さて、このセレナがオーナーの家に嫁いできたときのことをいまでも憶えているという息子さん。当時のことを振り返っていただいた。
「私がまだ小学生、年齢でいうと10歳くらいの頃、父親が突如クルマを買い替えることが決まったんです。セレナの前は先代の日産バネットに乗っていました。我が家は祖父母を含めて6人家族なので、大人数で乗れるクルマが必須条件だったんです。
父親はバネットを気に入っていたようですが、当時、メカニックとして勤めていた日産ディーラーでセレナの取り扱いが終了となり、在庫車のなかからクルマを選ぶことになったんです。グレードはハイウェイスターで、ボディカラーはホワイトとパープリッシュブルー/プラチナシルバーツートンのみ。それならば、と、私がこのボディカラーを推したんです(笑)」
父親名義とはいえ、少年だった息子からの熱烈アピールを無視するわけにはいかなかったのだろう(笑)。こうしてバネットからセレナへと乗り替えが決まった。
「バネットも、私が物心ついたときから家にあったので、別れの日の朝はさすがに寂しかったです。そのまま父親が職場まで乗っていって、職場でセレナに乗り替えてから帰宅することになったんです。当時、我が家では初めての新車だっただけに、私もバネットとの別れの辛さもすっかり忘れ、テンションがあがりまくりでしたね(苦笑)」
無理もない。少年時代、我が家に新車がやってくるとなれば、これはもう否応なしにビッグイベント確定だ(笑)。
「ご近所さんにも“ウチに新しいクルマが来る”と話していたので、「どれどれ?」という感じで我が家まで見に来ましたよ(笑)。実際にセレナを見てみると、幼心にも“今どきのクルマだなぁ”と感じましたね。何しろ、それまで父親が乗っていたバネットは1985年式で、最上級グレードでもなぜかパワーウィンドウが装備されていなかったんです。それがセレナはパワーウィンドウになったんですから(笑)」
一気に近代化した、ピカピカのセレナが届いてウキウキだったはずだが、このとき、ちょっとした「事件」が起こった。
「私には弟がいるのですが、セレナに乗り替えた当時は6~7歳でした。よりにもよって、納車当日にスライドドアをポールにぶつけたんです。"カツン"と当たったくらいで傷はつかなかったのですが、当時すでにクルマ好きだった私は激怒。めちゃめちゃ弟を叱ったことを憶えています(笑)」
とにもかくにも、こうして新たな家族のクルマとして嫁いできたセレナ。しかし、オーナーである父親はディーラー勤務。それはつまり、平日休みであることを意味する。兄弟たちは学校に通っているので、普段の休みは週末か祝祭日だ。せっかくピカピカの新車が届いたにもかかわらず、セレナで出掛ける機会は限られたようだ。
「普段、父親は電車通勤だったので、家にずっとセレナが置いてあるわけです。ときどき車内に乗り込んで遊んでいましたね。セレナに乗るのは、普段は父親の仕事が休みの日に家族で買い物に行くときくらいで、遠出に使うのは年に1度程度でした。私と弟がある程度大きくなってから、1~2回、セレナに乗ってスキーに連れてってもらったりしましたね」
その後、18歳で運転免許を取得して、いよいよ父子でセレナに乗れるようになった。
「それまでは走行距離が数万キロだったのが、私が運転免許を取得してからは一気に伸びました。親子でドライバーチェンジができる分、セレナで長距離移動する機会が増えましたね。
実際に運転してみて、大人数で乗ったときでもきちんとブレーキが効くように設計されているのか、私1人だと“カックンブレーキ”になってしまうんです。乗り方にコツがいるクルマだなと思いましたね。それと、ミニバンでありながら駆動方式はFR、そしてシルビア(Q's)と同じSR20DEエンジンを搭載しているので、ミニバンだけどスポーティなクルマだという印象を持ちました」
こうして、いつの間にか父親に代わって「実質的なオーナー」に。しかし、生産されてから今年で25年も経てば、さすがにトラブルも起こるわけで……。そんなアクシデントが起こっても、きっちりと面倒を見てきたようだ。
「以前、僕がセレナを借りて出かけたときに、警告灯が点灯していて、どうもバッテリーの警告灯なんですね。それと、後付けの電圧計もエラー音を発していました。帰宅して調べてみたらオルタネーターが壊れていたんです。
前日に弟が乗ったときもピーピー音が聞こえたけど、気にせず運転して帰宅したようなんです。“なんでそういうことを早く言わないんだ!”って怒りました(笑)。仕方がないことですが、弟はそれほどクルマに興味がない分、どうしても無頓着になりがちなんです」
そんなセレナに最大のピンチというか、重大事件が起こった。
「5年くらい前のことです。私が以前、愛車のブルーバードをヒットさせた親戚の家の出入口にあるガードレールに父親がセレナをぶつけたんです。弟が先回りして『お父さんがクルマぶつけたけど、帰ってきたときに責めないで!たぶん、お兄ちゃんが絶句するくらいの壊れ方してるよ。そうなるとお兄ちゃんかなり強く怒るし、お父さんも相当へこんでるからきつくいわないように!!』と電話があったんです。
帰宅後、確かに父親はへこんでいましたが、それ以上にセレナもへこんでいました。弟がいうように“絶句するレベル”でした」
このときに撮影した画像を見せていただいたのだが、左サイド、スライドドアからうしろのテールレンズのところまで横一直線にえぐれているのが確認できた。お気の毒だが絶句するレベルであることは確かだ。
「私も“さすがに今回ばかりは廃車かもしれないな”と思いましたね。父は直すつもりでいたんですけど、とりあえず部品代がいくら掛かるのか、そもそも部品が手に入るのか、それから、懇意にしている板金屋さんに持って行って、直せるかって相談してみることにしたんです。
父親としてもわざわざそんな動くクルマをつぶすという行為が受け容れ難かったんじゃないですかね。修理費が100万といわれたら諦めたかもしれません。でも、どうにか現実的な金額で直せそうだということがわかってきたんです。それで修理することに決めました」
とはいえ、決して安い金額ではなかったようだが、一大決心のすえ、2ヶ月ほどの修理期間を終えて、セレナは美しく甦った。が、新たな「悩ましき問題」が発生したようだ。
「予備の部品としてストックしてあったデカールを貼ってもらい、クルマがビシッとしました。きれいに仕上がった分、出先で遭遇したときは仕方がないとはいえ、基本的には雨の日は乗りたくないし、スキーには乗っていけない…。と、それなりに気を遣うようになりましたね」
ぶつけたクルマを板金修理して直すという、想定外の復活劇とはいえ、本来の美しさを取り戻したセレナ、「実質的なオーナー」として今後はどのように接していくつもりなのだろうか。
「まぁ、過保護にしつつも必要なときは動かしますし、今までどおり、家族みんなで出掛けるならこのセレナがいいです。母親からは『雨の日に乗れないクルマってどうなの?』といわれますが(苦笑)。クルマが好きな4歳になる甥っ子からも『セレナは雨の日には乗らないんでしょ?』といわれます」
納車当日から今日まで、25年という時間をともに過ごしてきたセレナ。「実質的なオーナー」としてともに歩んできた時間はかけがえのないものであったに違いない。1台のクルマと長きに渡り、じっくりと付き合ってきたからこそ想い入れもあるし、代えがたい存在であることを、誰よりも、何よりも理解しているはずだ。今後もこれまでと同様に「モノより思い出」の時間を積み重ねていくに違いない。また、そうであってほしいと心から思う。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenavi MAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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