高3のときに「タダで」譲り受けた人生初の愛車と18年!1992年式日産パルサーGTI-R(N14型)
新しいクルマを手に入れたのは嬉しいけれど、いまの愛車も手放したくない・・・。クルマ好きの多くが1度は直面したことがあるジレンマではないだろうか?
・・・とはいうものの、オーナーの切実な想いとは裏腹に現実は残酷だ。置き場所の確保や維持費の問題など、きれいごとでは済まされない問題が山ほどある。
その結果、多くのクルマ好きが「乗り替え」という選択をせざるを得ない一方で、これまで手に入れた愛車を1度も手放したことがないというオーナーに「再び」会うことができた。
以前、日産ブルーバードを取材の際に伺ったクルマの修理が完成したとのご連絡をいただき、再度、ご登場願うこととなった。
「このクルマは1992年式日産パルサー GTI-R(N14型/以下、パルサーGTI-R)、所有年数は18年です。現在の走行距離は11万2700キロ、私が所有してからは3万キロほど乗りました。現在、35歳の私が17歳、高校3年生のときに手に入れた初めての愛車です」
パルサーの名を冠したモデルとしては4代目にあたるN14型。そのなかでも、飛び抜けて高性能だったのがこのGTI-Rだ。
当時、WRC(FIA 世界ラリー選手権)に参戦するべく開発されたGTI-Rにおける特徴のひとつに、ボンネットに備えつけられたパワーバルジや大型のリアスポイラーが挙げられる。
ボディサイズは、全長×全幅×全高:3975×1690×1400mm。S13型シルビアなどにも搭載された「SR20DET型」と呼ばれる、排気量1998cc、直列4気筒DOHCターボエンジンが搭載され、最高出力230馬力を誇る。
駆動方式は4WD、トランスミッションは5速MTのみ。0~400m加速は13.5秒。当時のこのクラスとしてはかなりの俊足ぶりであった。
いまでは貴重な存在となりつつあるパルサーGTI-R。このクルマとの出会いは、現在の旧車およびネオクラシックカー事情からは想像もつかないほど「素っ気ないもの」だったようだ。
「高校時代の部活の先輩がこのGTI-Rを廃車にすると聞き、譲ってもらいました。それがいまから18年前のことでした。冗談かと思いきや、本当にタダで譲ってくださるとのことで、菓子折りを持って取りに行ったことを覚えています。
ちょうど、受験が終わって教習所に通っているときだったので、クルマの運転ができる父親に同行してもらいました」
高校生の時点でGTI-Rを手に入れ、さらに最初の愛車とはうらやましい限りだ。だがしかし、オーナー自身、このときはさほどGTI-Rに思い入れがあったわけではなかったという。
「私自身、この次のモデル(N15型)のVZ-Rを考えていたんです。ところが、ちょうどいいタイミングでGTI-R売却の話(それもタダで)をいただけてよかったです。私としては、こちらの方がハイパワーだし、ボディカラーも珍しい赤(アクティブレッド)だったので譲り受けることにしたんです」
オーナー自身、いまでもGTI-Rを譲ってくれた先輩と交流があるという。
「GTI-Rを復活させたことを話したら『よくやるわ~』といわれました(笑)。先輩はこのクルマを手に入れて2ヶ月くらい経ったとき『本当に手間もお金も掛かるクルマだから、やめるなら早いうちに手放そう』と悟ったそうです。
まさか私がここまで長く乗るとは思っていなかったそうで『もうわかった、お前の根性は認める』といってくれましたよ。その先輩も、ご結婚されてお子さんが産まれ『ミニバン・4駆・MT』の条件に合致したスバル ドミンゴを買っちゃうような方なんですけどね(笑)」
類は友を呼ぶというか、似たもの同士というか(笑)。無事に運転免許を取得し、最初の愛車であるGTI-R、しかもコンディション良好とはいえない個体だったそうで、それなりに苦労もあったと思うのだが・・・。
「メンテナンスノートを見る限りでは、私が4人目のオーナーみたいです。先輩から譲ってもらったとき、ボディには穴があき、タービンとエンジンがブローしている状態でした。
出先でプラグがカブって、そのたびに駐車場にクルマを停め、インタークーラーや配線類を外してプラグを磨いたり(笑)。こんなことを繰り返しているうちに、一連の作業が45分くらいでできるようになりました。
その他、エンジンの載せ換えをお願いしたらクラッチを破断されてしまったり・・・いろいろとありましたね。でもレッカーで運ばれたことは1度だけなんです。意外と何とかなってきたんですよね」
出先でエンジンがカブるたびにプラグ清掃・・・。たいていの場合、ここで嫌気が差して手放してしまうものだが、オーナーは違う。諦めないのだ。
「出先で壊れてもいいように工具も積んでありますし。それこそ、遠方に出掛けたときは何度も途中でクルマを停めてプラグ清掃をしましたよ(笑)。それ以外にもクラッチのマスターシリンダーのオーバーホールを自分でやってみたり。
整備書によると、エンジンを降ろしてから作業することを推奨しているんですが、工夫次第で載せたままでも作業ができることを発見したんです」
そんな折、オーナーが新しいクルマを手に入れることになった。それが、オーナーが二十歳のときに手に入れたという、以前取材させていただいた赤いブルーバードだ。
「このブルーバードも知人から譲り受けたわけですが、GTI-Rとは違ってどこも壊れなくて違和感があったくらいです(笑)。何しろ二十歳で2台持ちですから、当時はさすがにGTI-Rを手放すことを考えましたね。
しかし、日産党の父親から『GTI-Rもいろいろ手を掛けたんだから手放さない方がいいんじゃないか?』と諭され・・・。父も私も貧乏性なんですよ(笑)。運良く、駐車場を安く借りられたこともあり、どうにかなりました」
その後、何かと使い勝手のよいブルーバードばかり乗るようになってしまい、GTI-Rに触れる機会が減っていったという。
「手元にないこともあり、GTI-Rに乗るのは洗車のときくらいになっていきましたね。しばらくは所有というよりも、保管している状態が続きました」
やがて社会人となったオーナー、縁あってダイハツ コペンと日産エクストレイル GTを増車(コペンは知人から譲り受けたものだとか)する。
これで計4台。台数だけ聞くと驚きだが、どちらかというと、オーナーというよりも里親(多頭飼い?)となった感覚に近いかもしれない。こうして出番が減っていたGTI-Rだが、ついにリフレッシュに着手することとなった。
「母親からは『乗らないなら売りなさい!』といわれる始末です。そこで、エンジンの載せ換えを実施、その数年後にボディのリフレッシュに着手しました。蓋を開けてみたら当初の倍の金額が掛かりましたけれどね(笑)。
当初の予算だと、ボディのサビの処理とその周辺の板金塗装くらいで、他の箇所はそのままになってしまうと板金屋さんにいわれ・・・。せっかくなので、勢いで板金塗装をお願いしてしまいました。
トータルで8ヶ月くらい掛かったので、予算オーバーだった分は待っている期間にどうにか工面しました。ちなみに、載せ換える前のエンジンは部品取りとして、車庫の奥の方に保管してあります」
こうして見事に復活したGTI-R。改めて気に入っているポイントを伺ってみた。
「GTI-Rの特徴でもあるボンネットのダクトよりも右後ろからの眺めですね。フォルクスワーゲン ゴルフっぽいところも気に入っています。あとは、GTI-R専用のリアスポイラーですね。リアシートが広い点もお気に入りです。最近のクーペモデルって案外リアの空間が狭いですけど、GTI-Rは大人4人乗っても快適に移動できるんですよ!」
同年代に発売されていたR32型スカイラインGT-Rと比較すると、パルサーGTI-Rの残存率はかなり低いといわざるを得ない。その理由について、オーナーなりの見解を伺った。
「とにかく壊れる人はとことんトラブルに悩まされるみたいです。自分ではそうは思えないんですが・・・。度重なるトラブルに嫌気が差した結果、手放してしまうようです。
あと、GTI-Rは専門店がない点もつらいところです。部品の製廃(製造廃止)も多いので、確保も厳しいですしね。最近はインターネットオークションに出品されること自体が減ってきました。いざ、出品されると争奪戦になることも珍しくありません。
方や、スカイラインGT-Rは専門店も多いし、ニスモが純正部品を再販しましたよね。2台の置かれている境遇があまりにも違いすぎるんです」
それでも、GTI-Rを欲しいという人から相談を受けたら・・・?
「キツイ言い方かもしれませんが“やめた方がいいですよ”とお伝えしますね。現に、いまの相場だったら私も買いません。
どうしても欲しいというなら、記録簿がしっかりと残っている個体にした方がですね。当時を知る方でないと調子の良し悪しなんて分かりませんから。維持していくには相応の覚悟が必要だと思います」
オーナーが17歳のときに手に入れたGTI-R。気づけば30代半ばに差し掛かり、人生の半分近くをともに過ごしてきたことになる。オーナー自身、そろそろ身を固めたいという思いもあるようだが、今後、このクルマを含めた愛車たちとどのように接していくつもりなのだろうか?
「ときどき『愛車を手元に残すとしたらどれにするの?』と人から聞かれるんですが、これが一番悩ましい問題です。とはいえ、車検を切ってまで手元に置いておこうというつもりもありません。それに我が家は『車検切れのクルマはゴミ扱い』なんですよ。本音をいえばすべて手元に残しておきたいんですけどね・・・」
クルマに興味がない女性からすれば理解不能かもしれない。しかし、オーナーは欲望の赴くままにクルマを手に入れてきたわけではない。
先々、苦労することもある程度は覚悟したうえで、廃車になりかけたり、雑に扱われかねないクルマをレスキューしてきた結果なのだ!!このクルマに対する愛情の深さこそが、オーナーの人柄を垣間見る何よりの証拠だと思う。
そのことを裏付けるエピソードをひとつ、ご紹介しよう。当時のGTI-Rを知る人であればずっと違和感を覚えている箇所があるかもしれない。フロントグリルのエンブレムだ。オーナーの個体にはパルサーの頭文字である「P」のエンブレムがもともと装着されていなかったという。
今回の取材に際して『エンブレムがないとかっこ悪いから』と、先代(N13型)用の「P」の未使用品エンブレムを友人が貸してくれたそうだ。
オーナーとしては引き取りに行くつもりだったが、友人がわざわざレターパックで送ってきてくれたそうだ。困ったときには誰かが手を差し伸べてくれる・・・。多くの友人に慕われているオーナーの人柄を垣間見た気がする。
貴重なクルマといえど、トラブル続きではさすがの愛も冷めてしまう。しかし、オーナーは冷めるどころか、当時の雰囲気が感じられるほど素晴らしいコンディションに復活させてしまった。
取材中、道行く男性が「おっ!パルサーGTI-Rじゃん!」という視線を投げ掛けているのが分かった。このクルマはそこに佇んでいるだけで人目を引くだけの強いオーラがあるのだ。
嫁ぎ先次第ではとうの昔にスクラップになっていたかもしれないこの個体をレスキューし、ここまで見事に復活を遂げることができたのはオーナーの愛情の賜物だ。
近い将来、レスキューしたGTI-Rからオーナーへの恩返しがあるのではないか?そんな、確信めいた予感すらした取材となった。
(編集:vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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