26歳のオーナーが少年時代から憧れた存在。2003年式マツダ RX-8(SE3P型)
1990年代に販売されていた国産スポーツカーの相場が高騰している。新車価格を上回る話題が日常となりつつある昨今。今回登場するマツダ RX-8も例外ではない。2020年現在の中古車相場はこなれてはいるものの、後期型はじわじわと高騰しつつあるようだ。いずれは全モデルが高騰する可能性も否定できない。もし、いずれRX-8のオーナーになりたい…と考えているなら、早めに決断すべきなのか…。それだけではない。海外へと流れているクルマが増えていることも、もはや周知の事実だろう。近い将来、すべての国産スポーツカーが手の届かない存在となる日が近づいているかもしれない…。
今回は、マツダ RX-8(SE3P型、以下、RX-8)を所有する26歳の男性オーナーが主人公だ。小学生の頃から憧れだったRX-8を手に入れたというオーナーは、クルマが好きな父親の影響で、幼い頃からクルマやバイクに親しんで育った。赤ちゃんの頃からミニカーで遊び、かつては父親に連れられてバイクで遠出もしていたという。そんなオーナーに、まずは“人生や価値観を変えた1台”を伺ってみた。
「価値観を変えたクルマは、スズキエブリイランディです。私が15歳のときから11年間、実家にあったクルマでした。運転免許取ってすぐステアリングを握ったクルマであり、見守ってくれていた存在でもあります。このクルマを借りて友達と出かけたことがあるんですが、運転してみて“クルマは走るだけじゃなく、コミュニケーションの楽しさもある”と気づきました。軽自動車サイズなのに1.3リッターエンジンが搭載された乗用車です。3列シート&7人乗りなので、車内は正直そんな広くないんです。だから一番窮屈なサードシートに誰が座るか、ジャンケンして決めるんですよ(笑)。それがまた楽しくて」
オーナーの愛車遍歴だが、これまでスバル ヴィヴィオef、マツダ ポーターキャブ、スバル サンバーバン、スズキ ラパンを乗り継いできたという。愛車遍歴を見る限り、実用的なクルマが好みという印象だが?
「乗り物全般が好きなので、ジャンルにこだわっているつもりはありません。でも、ちょっとゆったりしているクルマが好きみたいです。将来は三菱 ミニカ アミ55、スポーツカーならMGB MK-1を所有できたらいいですね。ポーターキャブを所有したのは、同じエンジンのミニカ アミ55に乗ることを想定していたのもあります。100km/hも出ないクルマですが、その性能のなかでクルマと“おしゃべり”をすることが好きでした。ちなみに、ロータリーエンジンの魅力を知ったきっかけは、小学生の頃に見たRX-7(FD3S型)でした。自宅マンションの駐車場に停まっていたので見に行くと、居合わせたオーナーさんが運転席に座らせてくれたんです。そして『5000回転以上は回さないでね』と言いながら、少しだけブリッピングまでさせてくれました。RX-8を知ったのは、それからまもなくのことでした」
そう話すオーナーは現在、ファミリーカーとしてフォルクスワーゲン パサートヴァリアントの納車待ちでもある。ステーションワゴンとスポーツカー、理想の2台体制だ。
RX-8は、RX-7(FD3S)が生産終了した翌年の2003年に発売。2013年まで生産された。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4440×1770×1340mm。エンジンは「13B-MSP型」水冷式直列2ローターエンジン。内部構造が新設計された自然吸気型となった。排気量1308cc、駆動方式はFRである。
キャッチコピー「A Sports Car Like No Other」の意味は「比類なきスポーツカー」だ。「フリースタイルドア(観音開きドア)」が特徴の4ドア・4シーターで居住性を確保しつつ、運動性能を追求した唯一無二のスポーツカーといえるだろう。
オーナーの愛車は2003年式の前期型で、グレードは「タイプS」。18インチホイールとスポーツサスペンションが標準装備となっている。最高出力は250馬力をマークし、NAながらRX-7(FD3S)デビュー当時の255馬力に比肩する。さらにレッドゾーンは9000回転を許容。前後重量配分は50:50を実現している。
オーナーの個体は、納車から半年で約5000キロを走行しているという。オドメーター上は9万9000キロ。まずは、迎えて半年というRX-8との馴れ初めを伺った。
「私が小学生の頃にRX-8がデビューして以来、憧れの1台でした。ロータリーエンジンでしかもNA。9000回転まで回るエンジンも、クルマのなかでは稀でしょう。唯一無二のデザインにも惹かれました。他の候補としてトヨタ アルテッツァやBMW3シリーズがあったのですが、幼い頃から魅了されているロータリーエンジンであること、そしてFRスポーツということ、手が届きやすい価格も魅力だったので購入を決めました」
実際に暮らしはじめてみて感じたことは?
「楽しいです。乗っていて本当に気持ちいいんですよ…。切れ味は鋭いんですが、実はオールマイティ。懐の深さを感じました。家族にも乗ってもらえるかと思っていたんですが、ファミリーカーにする気はなくなりましたね(笑)。それと、想像以上に“熱くなれる”クルマでした。加速力があり、コーナリングもすごく安定します。単に安定性が良いだけではなく、道のどのあたりをどのように走っているかをドライバーへ的確に伝達してくれる設計になっていて、まるで“生き物”のようなクルマだと感じています」
うれしそうに話すオーナーを見ていると、RX-8との対話を楽しむ場面が思い浮かぶようだ。さらに、この個体に加えたモディファイを伺う。
「購入時はフルノーマルでした。納車してすぐにエアフィルターと、ほぼ新品の後期型純正サスペンション(ビルシュタイン製)を交換しています。それから、MOMO製のステアリングやRAZO製のシフトノブに交換し、フロントブレーキを小さいものに換えて16インチタイヤを履けるようにしました。あえて扁平率の高いタイヤを履くことで、サーキット走行時においてタイヤの変化や“つぶれ方”を感じてみたかったからです。そして、シートを電動レザーシートから手動式のファブリックシートに交換しました。ホールド性が良く、ノッチで好みにポジショニングできるところが気に入っています」
この先のモディファイ予定は?
「今後手を入れるとしても、エキゾーストパイプとスポーツキャタライザーのみの予定です。静かすぎて何回転で走っているかわからないことがあったので、もう少し車内にエンジン音が入ればいいなという期待と、トルクの確保が目的です」
排気音が静かでありながら純正マフラーにこだわる理由は?
「静かではありますが、やはり純正の音が一番カッコイイと思うからです。パワーも犠牲にしないで、耳障りではないところが魅力です。本当によくできていると感じています」
まるで酸いも甘いも知り尽くしたベテランかと思うほどの達観したコメントに驚いてしまった。さらに、RX-8で走ることに対してのこだわりも伺ってみた。
「一番はドライビングポジションとサスペンションとタイヤのバランスですね。以前テストドライバーをされていた方にドラポジの奥深さを聞いてからこだわっています。それと、クルマのコントロール技術。ドリフトに興味があったので、D1ドライバーをされている方のナビシートに乗せてもらったんですが、そのとき“クルマをコントロールする技術ってここまでいくんだ…”と衝撃を受けてから、サーキット走行におけるコントロール方法を探求中です」
いつものように、今後このRX-8とどのように接していきたいか尋ねてみた。
「私にとっては贅沢品ですが、環境が許す限り一緒に走りたいと思っていますね。自信を持って乗りこなせるようになりたいです」
クルマの価値観の違いに寛容ながら、走りにおいてはストイックなオーナーと“懐の深いスポーツカー”RX-8はシンクロした良い関係。オーナーとRX-8との旅路はこれからも続きそうだ。では最後に、20代のクルマ好きとして「クルマの未来」について伺ってみた。
「私のなかでは、クルマの…特にエンジンはコンピューターに頼らずに動いてほしいと思っています。しかし、ハイブリッド車や電気自動車に対して否定的というわけではありません。BMW i3に試乗したときは、その性能に感動しました。決して“懐古主義”になるわけではなく、新しいクルマが出るたびにワクワクを感じていたいですよね」
オーナーの話にふと、世界的に加速する“脱ガソリン化”の流れを思う。最近のネット上ではガソリン車とEVの対立構図も散見される。それは、ガソリン車の愛好者と“脱ガソリン政策”の対立構図でもある。そうした場面を目にするたびに、クルマを愛するからこそ“CO2削減そのもの”について考えてみてはと思わずにはいられない。そして、我々はおそらく内燃エンジンとEVの両方を楽しめる最後の世代となるだろう。それだけに、RX-8のような魅力的なクルマたちが数多く残る“今”を見直しながら「自動車の未来」にワクワクを感じ、また「共存していけること」を信じていきたいものである。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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