新車で購入して27年、フルレストアを実施した一生モノ。1992年式フェアレディZ 2シーター Tバールーフ改(Z32型)
一生モノ。
愛車広場の取材を続けていると、自身の愛車を「一生モノ」といい切るオーナーが、かなり多く存在する。事実、何十年も所有しているオーナーを取材させていただいたことは1度や2度ではないし、所有する期間が短い場合でも、その想いが本気であることは充分に感じ取れた方ばかりだ。
そうなると、ほぼ毎回、オーナーの分身といっていいほど大切に所有している愛車を取材させていただくことになる。オーナーとしても、できる限りきれいな状態で撮影して欲しいというのが本音だろう。そんな想いを汲んで、取材日が雨の予報の場合は順延としている。取材前日に雪が降り、翌日が晴れた場合でも順延。残雪や融雪剤が撒かれている可能性があるからだ。このように、これまで悪天候の影響で取材が延期になったケースは数え切れない。
※「路面が濡れていてもいいので取材OK」とオーナーから許可を得られない限り、可能な限りドライコンディションで取材を行っている。
今回の取材も、撮影場所まで行ってはみたものの、現地はいまにも雨が降りそうな天候だった。オーナーやカメラマンの古宮氏と話し合い、この日はインタビューのみ行い、後日改めて撮影という結論に至った。その結果、撮影当日は雲ひとつない冬晴れとなった。
前置きが長くなったが、今回のオーナーは、現在の愛車と本気で「一生モノ」として添い遂げるはずだ。半端ではない覚悟と想い入れをお届けしたい。
「このクルマは、1992年式フェアレディZ 2シーター Tバールーフ(以下、フェアレディZ)です。当時、新車で手に入れてから27年間、ずっと所有しているクルマです。現在のオドメーターの走行距離は約19万8千キロです。現在、私は53歳ですから、27年間、気がつけば人生の半分の時間をこのクルマと過ごしたことになるんですね」
Z32型のフェアレディZがデビューしたのは1989年、まさに日本がバブル絶頂期だった時代だ。初期モデルのカタログの表紙をめくると「スポーツカーに乗ろうと思う。」のコピーが踊り、真紅のフェアレディZを正面から捉えた美しい写真が目に飛び込んでくる。ワイドアンドローのフォルムが強調された3ナンバー専用ボディが与えられ、さらに3Lエンジンを搭載したフェアレディZは、豪華さとハイパワーを兼ね備えたスポーツカーとして人気を博した。
フェアレディZのボディには、2シーター仕様とリアシート付きの2by2仕様が用意された。2台を並べるとその大きさの違いは一目瞭然なのだが、よほど詳しい人でない限り、単体で2シーターか2by2かを見分けるのは難しい。それほど均整の取れたフォルムに驚かされたものだ。
そんなフェアレディZは「VG30DETT型」と呼ばれる排気量2960cc、V型6気筒DOHCツインターボエンジンが搭載され、最高出力は280馬力を誇る。オーナーの個体はNAエンジンとなる「VG30DE型」が搭載されたグレードとなり、こちらの最高出力は230馬力だ。2シーター仕様はTバールーフまたはノーマルルーフが選択できたが、2by2はTバールーフのみ。これにターボまたはNAエンジン、5速MTまたは4速ATという組み合わせでグレードが構成されていた。
いまや、オーナーにとって人生の半分以上の時間をともにしてきたフェアレディZ、このクルマの存在を知ったきっかけとは?
「デビュー当時にこのクルマの存在を知り、その瞬間『なんてカッコイイんだ…』と一目惚れしてしまいました。このときは20代前半でしたから、Z32型なんて高嶺の花。手の届かない存在だったことはいうまでもありません。そこから数年間は、コツコツとお金を貯めつつも、敢えてこのクルマの情報を遮断していたんです。知れば知るほど欲しくなってしまいますから(笑)。こうしてようやく手に入れられたのは、デビューから3年後の1992年でした。S30型時代のフェアレディZも好きなんです。購入するなら、ボディカラーは黒、2シーター・Tバールーフ・5速MTと決めていましたね。その影響かもしれないですね。本当はツインターボが欲しかったんですが、予算の関係でNAエンジン仕様にしました。でも、ディーラーの店長に頼んで、納車時にツインターボ仕様のフロントバンパーに交換してもらったんです」
こうして手に入れた念願のフェアレディZ。蜜月の日々がはじまったかと思いきや、意外にもそうではなかったようだ。
「ようやく購入できたものの、想いが強かった分、しばらくはリラックスして乗れなかったですね(苦笑)。『このクルマ、本当に俺のかな』なんて思ったり…」
現在、53歳というオーナー、失礼ながら思っていたよりも愛車遍歴が少ないことに驚いた。
「最初のクルマはスカイライン ジャパンでした。マツダ・ファミリアを乗り継いで現在のフェアレディZ、そして足車としてホンダ・フィットを所有しています。1度手に入れると、愛着が湧いてしまって手放せなくなるんですね。スイッチの位置を体が覚えてしまっていますし、長く乗りたい性分なんです」
そんな愛車遍歴のなかでも、特に長く所有しているのがこのフェアレディZというわけだ。大切に乗ってきたとはいえ、経年劣化は避けられない。しかし、ふとした出会いが、オーナーにとって転機となった。
「『Nostalgic 2days』という旧車のイベントに行ったときのことです。Z32の専門店である『Zone』が出店していたんです。代表の方にその場でクルマの状況を伝え、後日、私の愛車をじっくりと診てもらうことになりました。実際にお邪魔してみると、入手困難な部品はもちろん、欠品になったモノまで。Z32に関するありとあらゆるモノがそろっていたんです。経年劣化で痛んでしまう初期型用のリアスポイラーも、少しだけ長さを強調させて対策が施されたZoneオリジナル製品を造っていたり…。私には天国に映りましたね(笑)」
奇しくも、この愛車広場がはじまったばかりの頃、「Zone」にお邪魔して取材させていただいたことがある。日本で唯一のZ32型のみを扱う専門店として、同車のオーナーにとって駆け込み寺であり、セーフティーネットになっているショップだ。
こうして、「Zone」との関係を深めていったオーナー。ついに大きな決断を下すこととなる。
「それまではディーラーに預けていたんですが、相次ぐ純正部品の廃番やZ32型に触れたことのある世代のメカニックさんがいなくなっていた時期でもあったので、事情を話してこのショップに大切な愛車を託してみることにしたんです。これは仕方ないことなんですが、ディーラーは、交換する部品がない箇所は直せないんですね。その点、こちらのショップは、このクルマを維持していくうえで、さまざまな提案やサポートをしてくれます。しかし、大切に乗ってきたとはいえ、20年以上前のクルマです。あちこちに不具合が出ていた時期でもあり、思い切って『可能な限りレストアしてください』と依頼することにしたんです」
こうして綿密な打ち合わせを繰り返し、前代未聞のレストアプロジェクトがスタートした。何しろ、専門店である「Zone」ですら、ここまで大規模なレストアは初めてだという。つまり、ここまで本格的にレストアされたZ32型は日本で唯一かもしれない。こうして、さまざまな試行錯誤を重ね、完成までに1年10カ月という時間を要したという。
「時間とお金はいくら掛かってもいいから、完璧に仕上げてくださいとお願いしました。とはいえ、予算が青天井というわけではありません。しかし、こんな機会は2度とないかもしれないと思い、このフェアレディZにもめいっぱいのことをしてあげたかったんです。待った甲斐があり、仕上がりは完璧でした。もう別のクルマになったかのようです。それなりの高級スポーツカーが買えるくらいの費用が掛かりましたが、大金をつぎ込めば完璧にレストアできるというものでもありませんし…。「Zone」さんを信頼して良かったです。そして、私の想いを叶えてくれたことも嬉しかったですね…」
よく見ると、初期モデルのZ32とはいくつか異なるポイントがあるようだ。主なレストアの箇所を挙げてもらった。
「生産時に搭載されていたエンジンをオーバーホールするより、可能な限り新品やコンディション良好の部品を組み込んだZ32型の最終型のエンジン・電装系・補機類をまとめて交換することにしました(メーターも最終型に交換されている)。1日でも長く乗りたいという想いを優先させた形ですが、一筋縄ではいかなかったようで、大変な苦労があったと聞いています。下回りもすべて洗浄し、アンダーコートも再塗装しています。リアの足回りも可能な限りリフレッシュ&新品に交換しました。サスペンションはオーリンズ製、ホイールはWORK製の3ピース(特注)、レカロシートのリフレッシュ、レザー内装への貼り替え、大のお気に入りであるZEES製マフラーの装着等々…、フルオリジナルのレストアではなく、私好みのポイントにも柔軟に対応していただけたのはありがたかったですね…」
実際にレストアした箇所をひとつずつ挙げていくと、それだけで記事の文字量が倍以上に膨れ上がるレベルだ。今回は割愛させてもらったが、エンジンルーム内はもちろん、下回りや、1度組み上げてしまったら見えないところまで…。オーナーと主治医である「Zone」のこだわりが生み出した意地、そして執念ともいえる仕上がりとなっている。
海外のメーカーだけでなく、最近では日本車メーカーもレストアプロジェクトをスタートさせている。しかし、あくまでも「フルオリジナルへの戻し」が原則だ。レストア時に社外のパーツを組み込んだり、オリジナルとは異なるエンジンやブレーキを組み込むことは許されないだろう。その点、オーナーのフェアレディZは「いいとこ取り」の仕様ともいえる。レストアというより、レストモッドの感覚に近いかもしれない。オーナーの好みや希望に合わせて柔軟に対応できるのも、豊富なノウハウを持つ専門店ならではの強みだ。
ここまで美しく甦ったフェアレディZ、改めて気に入っているポイントや、こだわりについて伺った。
「前から観た佇まいですね。30年前につくられたのに、古さを感じさせないデザインも最高です。20代から乗り始めて50代になりましたが、年齢を重ねても乗れる大人っぽさも好きです。こだわり…ですが、もともと洗車が好きで、レストアする以前から大切に乗ってきました。コンディション維持が最優先なので、天気の悪い日にはぜったいに乗りません(笑)」
オーナーや古宮カメラマンと相談してやむを得ず延期とした前回の撮影。結果的に雨は降らなかったが、オーナーの心中を察するに延期して正解だったのだろう。オーナーにもとても喜んでいただけたようだ。最後に、今後このクルマとどう接していきたいのか?意気込みを伺ってみた。
「一生乗り続けますね。今回、少なくともあと20年は乗るつもりでレストアしましたから。それでも、いつか乗れなくなるときが訪れるはずです。そのときは、「Zone」にこのクルマを託して、私と同じか、それ以上に大切に乗ってくれる人に乗り継いでもらいたいと思っています」
あれほど、人々が憧れ、羨望の眼差しで観ていたこのフェアレディZも、最近では見掛ける機会も減ってきた。悲しいかな、廃車になってしまった個体も少なからずあるだろう。その一方で、今回のように新車同然の輝きを取り戻した個体も実在する。嫁ぎ先次第で、そのクルマの運命は大きく変わる。今回、そのことを改めて痛感させられた。
くたびれた姿はフェアレディZには似合わない。「貴婦人」の名のとおり、常に華やかさを身に纏っているべきクルマだ。オーナーにこれほど溺愛されて美しく甦ったフェアレディZは、昭和から平成、そして新しい元号に変わっても美しく輝き続けることだろう。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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