MaaSで生活はどう変わる? MaaS先進国シンガポールに日本の未来を見る

シンガポールと言えば読者の皆さんはどんなイメージだろうか。観光で訪れた人であればマーライオンやマリーナベイ・サンズなどのアイコニックな観光地かもしれないし、使い勝手のよさで毎年世界の空港ランキングで上位に入るチャンギ空港かもしれない。しかし、今それ以上にシンガポールが注目されている理由がある。

それが、最近シンガポールが力を入れている「MaaS(Mobility as a Service)」だ。なぜシンガポールでMaaSが注目されているのか?ここではそんなシンガポールならではのMaaS事情について紹介していきたい。

ITを利用して公共交通機関を効率化していくMaaSが急速に発展中

狭い国土ながら、都市部に高層ビルが建ち並ぶシンガポール
狭い国土ながら、都市部に高層ビルが建ち並ぶシンガポール

MaaSとは、IT(Information Technology、情報技術)を利用して交通システムを効率よく統合し、利用者の利便性を高めていく未来の交通システムのことだ。将来的にはスマートフォン一つあれば乗車券や運賃はすべてインターネットを経由して決済が完了し、家を出てから目的地までシームレスに到着できる、そうした未来が想定されている。

シンガポールは1965年にマレー半島の南端にあったシンガポール島およびその周辺の島嶼部が独立してできた国家で、独立当初より貿易立国を国是として成長してきた。というのも、シンガポールの国土は約720平方kmで、東京23区とほぼ同程度とされており、他の国などと比べて十分な国土や資源がない。そのため、貿易を産業の中心として経済発展を目指してきた。それは成功を収め、独立以来めざましい発展を遂げ、アジアの金融センター、そしてIT産業などによりASEAN諸国の中心国の1つになっている。

そんなシンガポールが今、国策としてMaaSに積極的に取り組んでいて、現在シンガポールでは様々なサービスが始まっている。それではそれはなぜなのだろうか? それには、同国が東京都23区と同程度という同国の国土が大きく影響している。

入札で税金が決定する「COE」を入手しないと自動車が所有できないというシンガポールの自動車所有の仕組み

COEを落札しないとクルマが所有できないというシンガポールの特殊なマイカー事情
COEを落札しないとクルマが所有できないというシンガポールの特殊なマイカー事情

そのことを象徴しているのが、同国で行なわれている自動車政策だ。

シンガポールでは自動車の所有数や都市部への流入などに制限を設ける政策を行なっている。既に述べたとおり同国の面積は東京都23区と同程度であるため、仮に際限なく自動車の所有や都心部への流入を認めた場合には、そこら中で路上駐車などの違法行為が発生し、それに伴う大渋滞で都市機能の麻痺などが想定されるからだ。

このため、シンガポールではユニークな自動車の所有制限政策がとられている。それがCOE(Certificate of Entitlement)だ。COEとは「所有のための証明書」とでも訳すべきもので、日本で言えば自動車取得税に近いものだ。

日本の、自動車取得税との最大の違いは自動車取得税が自動車の取得時価格に応じて決まってくる税金であるのに対して、COEは決まった価格がない。車格によってある程度クラス分けはされているものの、最終的な価格は入札で決まるというシステムになっている。各クラスで総台数が決まっており、購入した自動車は10年を超えて所有することはできず、10年で廃車になった分が月2回行なわれる入札に出されてその価格が決まるという仕組みになっている(このため、常に総台数は一定になる)。

既に述べたとおりCOEの価格は入札で決まるため、常に変動している。その過去数年分の価格はシンガポール政府のサイト[https://coe.sgcharts.com/]で公開されているが、例えば、1600cc以上の自動車で見ると、2018年12月19日時点では3万1001SGD(1SGD=81円換算で、日本円で251万1081円)となっており、日本人の価格で言うと小型車1台が変えてしまうだけの税金を払わなければいけない、それがシンガポールでの自動車所有の現状だ。

それに車両本体価格、さらにはそのほかの税金などを足していくと、日本なら乗りだし200万円ほどのヴィッツクラスの小型車であっても、600万円超えという価格になってしまうのだ(COEが高騰していればさらにそれがプラスされる)。

このようなシステムになっているため、シンガポールでは自動車を所有することそのものが富裕層のステータスとなっており、一般庶民には高嶺の花というのが実情なのだ。

電車、バス、タクシーなどだけでなくライドシェアに力を入れているシンガポール

街中ではバスやタクシーが目立つが、相乗りサービスであるライドシェアを行っているクルマも多い
街中ではバスやタクシーが目立つが、相乗りサービスであるライドシェアを行っているクルマも多い

こうした状況があるため、シンガポール政府は、庶民の足としての公共交通機関の充実には力を入れて取り組んでいる。シンガポールの市内には、通称MRT(Mass Rapid Transit)と呼ばれる鉄道が5路線敷設されており、それを利用して多くの場所へと行くことが可能になっている。また、その鉄道がない先にはバスが用意されており、ラスト数マイルをカバーする。

さらに充実しているのはタクシー、ライドシェアの仕組みだ。タクシーと言えば、どこの国でも当たり前の光景である空港や駅などで空車待ちをしているタクシーももちろんいるが、それと同時に、そのタクシーをスマートフォンのアプリを利用して呼ぶことができる。

また、ライドシェアのサービスが充実しているのも特徴だ。シンガポールにおけるライドシェアサービスは、以前はUberとGrabの2つが競合状態にあったが、昨年の早い時期にUberが撤退して、Grabの一強になった。その後Ride、Tadaなどの新しいサービスを展開する事業者が伸びてきて、Grabと競争をしている状態だ。

このため、シンガポールの中産階級にとっては、無理して自動車を買うよりは、こうした公共交通機関を上手く利用するというのが便利という状況になっている。出かけるときには、MRTである程度のところまで行き、そこからはバスやライドシェアなどを組み合わせて移動する、そうした状況になっている。

また、都心部では自転車や電動キックボードなどのシェアサービスも行なわれており、2点間の移動に使われている。自動車を使うほどの距離ではないときにはこうした自転車や電動キックボードなどをレンタルすることでより容易に移動することが可能になっている。

さらに、ライドシェアの発展に合わせて、フードデリバリーサービスも充実してきている。フードデリバリーサービスは、ライドシェアのドライバーが両方を兼ねていることが多く、ライドシェアが発展すればフードデリバリーサービスも同時に発展するという側面があるからだ。

民間だけでなく政府もスマートフォンアプリを提供するなど取り組みを行なっている

シンガポール政府が開発しているアプリ「MyTransport.SG」。MRTや各社タクシー、ライドシェアなどを組み合わせたルート検索ができる
シンガポール政府が開発しているアプリ「MyTransport.SG」。MRTや各社タクシー、ライドシェアなどを組み合わせたルート検索ができる

このように、シンガポールでは政府が公共交通機関の育成に力を入れていることもあって、高度に交通機関が発展してきていることが大きな特徴となっている。現時点ではそれぞれが別のサービスとして提供されているが、これが将来的には1つのサービスとして提供されMaaSに発展していく可能性を秘めている。例えばシンガポール政府の陸上交通庁(Land Transport Authority、日本で言えば国土交通省に相当する交通省の外局として設置されている公共交通機関を管轄する省庁)が運営する「MyTransport.SG」というWebサービスやスマートフォンアプリでは、出発地と目的地を入力すれば、MRTやライドシェアなども組み合わせて、最適な移動経路を検索することができる。

現在は検索できるだけだが将来的にはこのアプリを使って、運賃の決済やモバイルチケットなどの仕組みを提供していくことが可能で、それらを組み合わせることで本格的なMaaSを実現できるだろう。シンガポールでは既にそのために必要なピースはそろいつつあり、そう遠くない時期にそれが実現される可能性があるのではないだろうか。

[ガズー編集部]

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