日本も近い将来こうなる?シンガポールのライドシェア・カーシェア・配車サービス事情
ASEANの主要国の1つであるシンガポールでは、MaaSの実現に向けてさまざまなサービスが立ち上がってきている。その中でももっとも発達しているのが、自動車関連のカーシェア、ライドシェアなどのシェアリングサービスだ。
以前の記事(https://gazoo.com/maas/singapore/190218.html)でも説明したとおり、マレー半島の先のシンガポール島を中心とした島嶼国家のシンガポールは、国土に限りがあるため、個人が持つ私有自動車の総数に制限を設ける政策を採っている。
クルマを所有するために必要な、COE(Certificate Of Entitlement)と呼ばれる入札式の一種の自動車税などを設けていることで、カローラクラスであっても乗りだしには600万円オーバーという価格になってしまい、結果的に自動車を買うことそのものが高嶺の花となってしまっているのだ。
このため、シンガポールでは大衆の足として、タクシーやバス、MRTと呼ばれる地下鉄などが発展しているが、近年ではそれに加えてカーシェア、ライドシェアが発展してきており、文字どおり「庶民の足」として活用されている。
自動車の私有コストが高いシンガポールで最初に発展したのはカーシェア
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- シンガポールを代表する観光地マーライオン
そうした自動車の私有のコストがとても高いシンガポールでは、自動車を私有する以外の形での自動車の利用が一般的になっている。そうした方法として最初に発展したのが「カーシェア」だ。
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- シンガポールの街中にはさまざまな車両が走っている、自動車の総量制限により渋滞はあるものの抑制されている
カーシェアとは、レンタカーの発展系だが、レンタカーと異なる点は、有人の店舗を持たないという点にある。
車両はあらかじめカーシェアの運営会社が契約した場所に置かれていて、利用者はそこに行き、運営会社から提供されている共通鍵やスマートフォンなどを利用してドアを解錠する。その後車両の中に用意されているキーを利用してエンジンをかけて利用するという仕組みになっている。
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- Car Club(シンガポールのカーシェアサービス)の鍵、これを利用して車両のドアを解錠する
利用者はあらかじめ利用日時を、カーシェアの運営会社が提供するWebサイトやモバイルアプリから予約し、自分が必要とした時間だけ利用する。利用時間はサービスによって異なるが、10分や1時間といった短時間での利用も可能だ。
すでに述べたとおり、カーシェアは予約や車両の引き渡しなどはITを活用して行なうため、有人の店舗などが必要ない。駐車スペースさえあればどこでも運用することが可能だ。
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- シンガポールのマンションのパーキングに用意されているCar Clubのパーキング、Webやスマートフォンアプリで予約してここから乗っていく
シンガポールではいくつかのカーシェアサービスが提供されているが、最もよく知られているのが日本の三井物産などが中心になって運営されているCar Clubだ。
Car Clubはマンションやアパートなどに併設されている契約駐車場などにも駐車場を設けており、ユーザーはあらかじめ利用できる車両を予約してから向かう形になる。
このため、パーキングが自分のマンションやその近くなどに設置されていれば非常に使い勝手がよいと言える。
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- Car Clubのロゴ
カーシェアの次にはライドシェアが発展していった。シンガポールではGrab一強という状況に
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- Grabのロゴ
カーシェアは自家用車の代わりに使いたい時には便利なサービスなのだが、利用するためには利用できる車両が停められているパーキングへ利用者自身が出向く必要がある。
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- 車道にはタクシーやライドシェアの車両などが混在して走っている
このため、現在のシンガポールでは、より新しい車両のシェア方法として、ライドシェアが広く利用されている。
ライドシェアとは、運営会社があらかじめドライバーと契約しておき、ドライバー自身の私有車ないしは貸与車を利用して、乗客を乗せて運行する仕組みのことだ。
こうしたビジネスモデルは、日本では「白タク」(日本では営業車は色つきのナンバー、私有車は白ナンバーであることから、無許可でタクシー行為を行なうことの通称)として禁止されているが、米国でUber Technologies(以下Uber)がこうしたサービスを開始してから、瞬く間に世界中に広がり、現在ではいくつかの国で合法のサービスとして提供されている(日本では依然として違法行為)。
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- ライドシェアでは利用者もドライバーもスマートフォンを利用する。事業者のコンピュータが両者をマッチングする
ライドシェアの特徴は、ITを最大限活用していることにある。
利用者はスマートフォンで現在地(GPSからある程度は自動で入るが調整が必要)、目的地(住所などから検索が可能)、利用したい車両の種類などを設定してオーダーする。すると、ライドシェアの運営会社のコンピュータが自動的に近くを走っている契約ドライバーとマッチングして、ドライバーを利用者の指定した場所に向かわせる。
利用料金の決済も、出発地から目的地までのルートによってオーダー時に金額が確定しているので、遠回りされて高い運賃を取られる心配がない。
さらにあらかじめ登録しておいたクレジットカードなどからアプリ上で決済する形になっているので、ドライバーとの現金のやりとりが不要というのも利便性が高い。
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- ライドシェアで利用されている車両はさまざまな車種がある、シンガポールでは日本車に遭遇する率がかなり高い
シンガポールではライドシェアが高度に発展しており、国民の足として活用されている。最大の事業者はシンガポールの企業であるGrab。
Grabは東南アジア全域でライドシェアビジネスを展開している事業者で、シンガポールで最も多くのライドシェア車両を走らせている。
以前は競合としてUberもシンガポールでビジネスを展開していたが、2018年に撤退を決め、そのビジネスはGrabに引き継がれた。このため、現在シンガポールではGrab一強という状況が生じている。
しかし、現在は競合も力を入れていて、RYDE TECHNOLOGIESや、Tadaといった競合が奮闘している。特にドライバーに提示する条件(料金のうちのドライバーの取り分や勤務形態など)をGrabに比べて引き上げることで、契約ドライバーの数で対抗を始めている。
というのも、Grabを追いかける競合の車両数はGrabに比べるとまだまだ少なく、郊外などに行けば、Grabはすぐ呼べるが、競合他社はなかなかドライバーが捕まらないという状況が発生しているからだ。
既存のタクシー会社もGrabに対抗してITを導入、ComfortDelGro社などがサービスを提供
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- 客待ちをしているComfortDelGro社のタクシー
そうしたGrab一強という状況のライドシェアに、従来のタクシー会社も対抗を始めている。世界規模で見れば、タクシー会社こそがライドシェアと競合するビジネスだと考えられている。
例えばスペインのバルセロナ市では、Uberが参入したことに抗議してタクシーのドライバー組合がストを起こし、その結果Uberが撤退するなどの事態も発生している。顧客が奪われることに対するタクシー業界の抵抗が激しいのは、多かれ少なかれどこの都市でも見られる現象だ。
シンガポールの場合はタクシー会社が、ライドシェアが利用しているITをタクシービジネスに持ち込むことで対抗をしている。
シンガポールで多数の車両を走らせているタクシー会社として知られているComfortDelGro社は「ComfortDelGro Taxi Booking App」というモバイルアプリを提供しており、タクシーをライドシェアと同じように利用することを可能にしている。
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- 料金体系はタクシーと同じ
利用者はアプリを利用して、ComfortDelGro社のタクシーを呼ぶことができる。料金もライドシェアと同じようにオンラインで決済することが可能で、料金はタクシーのメーターに基づいていることを除けばライドシェアと同じ感覚で利用することが可能だ。
このように、シンガポールでは、カーシェアにせよ、ライドシェアにせよ、そして今やタクシーでさえ、ITやスマートフォンを活用して利用者の利便性を競っているという状況になっており、その先にあるITにより実現されるMaaS社会を見据えている。
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- シンガポールのアイコンとなったマリーナ・ベイ・サンズ
[ガズー編集部]
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