オーナーにとって「2台の本命の愛車」の1台、1988年式日産 レパード アルティマ ツインカムターボ(F31型)
「本命の愛車が1台だけとは限らない」。今回の取材を通じ、そのことを改めて実感した。
そもそも「本命のクルマは1台だけ」といったルールや法律も存在しない。本命が2台でも3台でも、もちろんそれ以上であってもいいのだ。
今回の取材は当初、このレパードのみの予定であった。しかし、オーナーと取材日を調整する段階で「もう1台、取材してほしいクルマがある」とのオファーがあった。話を伺ったところ、こちらとしても「ぜひ!」とお願いせずにはいられないほどのエピソードがあり、2台同日取材と相成った。
1日で2台取材するとなると、少なくとも半日以上の時間を要する。そして、オーナーはさらに大変だ。撮影当日までに愛車をすみずみまで洗車したり、必要に応じてモディファイしたり……。1台目の取材が終わると、いったん帰宅して次の愛車に乗ってきていただくことになる。慌ただしいなかでご協力いただいたオーナーには感謝しかない。
この日も、オーナーのご協力のもと、無事に2台の本命の愛車を取材することができた。その模様を2回連続でお伝えしたい。今回は2台のうちの1台目の愛車についてまとめた記事をご紹介する。
「このクルマは1988年式日産 レパード アルティマ ツインカムターボ(F31型/以下、レパード)です。手に入れてから今年で11年目、オドメーターの距離数は15万2千キロです。このうち、私が乗ったのは約3万キロです」
F31型レパードといえば「あぶない刑事」の劇用車としてあまりにも有名だ。劇中では、ゴールドツートンのボディカラーをまとった前期型と、ダークブルーツートンに塗られた後期型、それぞれのレパードが起用され、ドラマや映画で大活躍したことを覚えているファンも多いだろう。
オーナーが所有するレパードは1988年に行われたマイナーチェンジ後(後期型)にあたり、そのなかでも頂点に君臨する「アルティマ ツインカムターボ」だ。ボディサイズは全長×全幅×全高:4805×1690×1370mm。搭載されるエンジンはY31型シーマにも搭載された排気量2960cc、V型6気筒DOHCターボ「VG30DET型」であり、最高出力は255馬力をたたき出した。なお「アルティマ」には「VG30DE型」を搭載したノンターボのグレードも用意されていた。
「レパード=あぶない刑事」というイメージはあまりにも強烈だが、オーナーもその影響を受けたひとりなのだろうか?
「いま40歳なので、世代的に“あぶない刑事”の影響をまともに受けていますね(笑)。私が中高生の頃に住んでいたエリアで16時からテレビシリーズ第2作目にあたる“もっとあぶない刑事”の再放送をオンエアしていたんです。劇中で後期型のレパードが豪快にリアを沈めながら加速していくシーンを観て、このクルマに惚れてしまいました(笑)。それ以来、ビデオのタイマー予約をしていたにも関わらず、学校が終わったらダッシュで帰宅して、オンタイムで“あぶない刑事”シリーズを観ていましたね」
16時からの再放送……というと、ホームルームが終わって急いで帰宅しないと「オープニングテーマ"She's So Good"とともに、タカとユージが振り向きざまに拳銃を撃つシーン」からはじまるタイトルバックが観られない。
ここは毎回同じなのだから見逃しても問題ないのでは?と思う人がいるかもしれない。しかし、実際にはそうではない。このタイトルバックから本編、そして舘ひろしが歌うエンディングテーマ、締めの次回予告までが“あぶない刑事”の1話分に相当するのだ。ファンにとっては1分1秒たりとも見逃したくないのだ。たとえ録画していたとしても(笑)。
それはさておき、もしテレビシリーズ第1作目“あぶない刑事”で使用されていた前期モデルに惚れ込んでいたら、そちらを愛車に選んだ可能性もあったのだろうか?
「そうかもしれません。でも、私は後期型のアルティマ ターボを手に入れるのが夢でした。後期型の方が加速時のリアの沈み方がすごかったんです。前期型よりもエンジンがパワーアップされ、なおかつリアの沈み込みがより強調されたことで、より強烈に覚えているのかもしれないですね」
VG30DET型エンジンを搭載したY31型シーマおよびF31型レパードが加速するとき、グッとリアが沈み込む姿を覚えている人がいるかもしれない。もはやこの2台のアイデンティティでもあり、オーナーとなった人たちの所有感を満たす要因のひとつとなっているに違いない。もっとも、日産からすれば想定外だったはずだ。
これほどまでレパードに憧れたオーナー。何と人生初の愛車がレパード(ただし別の個体)だというからすごい。
「18歳で運転免許を取得しまして、最初からレパードを手に入れようと考えていました。とはいえ、この時点で最終モデルですら10年以上が経過しており、もともと生産台数が少ないこともあって、なかなか良い個体が見つからなかったんです。実は父が日産ディーラーに勤めていたこともあり『故障が多いクルマだから最初に乗るもんじゃない。どうしても欲しいなら日産ディーラーで売られている中古車を選びなさい』といわれてしまい…。半ば諦め掛けていたんです」
オーナーの父親の勤め先が日産ディーラーともなれば、これはかなり説得力がある。ここで諦めずに初志貫徹するか、思わぬ朗報が舞い込むかのどちらかになるわけだが、オーナーの強い想いが天に通じたのか、思わぬ幸運に恵まれたようだ。
「レパードがだめなら、フェアレディZ(Z32)やスカイライン(R32)もいいなと思ったこともありましたね。ダメ元で地元の日産ディーラーに問い合わせてみたところ、なんとレパードの売り物があるというんですね。その日のうちに父親を連れて現車確認しました。結局、その場で即決です。希望するアルティマ ターボではなかったけれど、1988年式、後期型のXSターボ、ボディカラーは今の個体と同じブラックツートンでした」
思い描いた仕様ではないものの、ついにレパードオーナーとなったオーナー。もう20年以上も前だが、当時のことをいまでも覚えているという。
「アルティマ ターボではないとはいえ、念願のレパードですから、それはもう嬉しかったですね。通勤にも使っていたので、出勤時そして帰宅時にも”レパードに乗れる”というだけで心躍りました」
しかし、父親の予言どおり、トラブルには悩まされたようだ。
「1台目のレパードを所有していた約7年のあいだに、山中でエンジンが止まったり、エアコンが壊れたり…。父からレパードは電気系が弱いと聞かされていましたし、めげることなく乗りつづけていたんです。しかし、原因不明の電気系トラブルに見舞われ、走行できない状態となってしまいました。それでも諦めきれず、ナンバーを切って、1年くらい自宅の敷地に置いていたんです。最後は泣く泣く手放しましたね」
レパードに憧れつづけ、ようやくレパードを手に入れたオーナーにとって、まさに断腸の思いだったことだろう。1台目のレパードとは涙の別れとなったわけだが、「後期型のアルティマ ターボに乗りたい」という夢は諦め切れなかったようだ。
「“あぶない刑事”は人気作品ですから、その後もたびたびテレビで再放送されるんですね。観ていると必然的にレパード(それも憧れのアルティマ ターボ)が映るわけじゃないですか。レパード熱が再燃していくのが自分でも分かるんです。もう1度レパードに、今度は本命のアルティマ ターボにしようと決意し、手に入れたのが現在の愛車です。
エンジンオーバーホール済み、リビルト品のATに換装されてからの走行距離が6千キロ台、ノーマルという条件が決め手になりましたね。奇しくも、1台目のレパードと同じ年式・ボディカラーでした」
あぶない刑事の劇用車はノーマルだったが、オーナーのレパードはモディファイが施されている。その理由を伺ってみた。
「1台目のレパードに乗っていたとき、クルマの雑誌に後期型・ブラックツートンのレパードをベースに車高を落として、Stich(シュティッヒ)のアルミホイールを履いた写真が載っていたんですね。このホイールが似合うクルマも他にないなと思い、1台目のレパードにもStichのホイールを履かせていたんです。
そして今回のアルティマ ターボにも履かせてみたいと思っていたら、ネットオークションで“18インチのStichメッシュIII、フロントが8.5J・リアが9.5Jという仕様が出品されていて落札しました。あとは、ヴィラネルマフラー(初期モデル)と第一電波工業(ダイヤモンド)社製の自動車電話型アンテナです」
アルティマ オーナーの特権でもある、前後バンパーの長さとホイールとのマッチングが絶妙だ。
「そうなんです。アルティマ(3ナンバー仕様)でないとこのバランスが出せないんですよね。雑誌で紹介されていたStichは17インチで、もっとローダウンされていました。18インチのサイズと、適度なローダウンのバランスがうまくまとまったように思います。実はStichのホイールはこれで3セット目というくらいお気に入りなんです。もし、劇用車と同じダークブルーツートンだったらノーマルの状態で乗っていたと思います。モディファイとしてはこれで完成ですね。あとはコンディション維持に努めます」
このレパードも、気づけば35年前に造られたクルマだ。もちろん、オーナーもその点は心得ているようだ。
「雨の日はなるべく乗らないようにしています。紫外線の影響を少なくしたいので、ガレージ保管です。それと、エンジン始動後の暖機運転、停止後にボンネットを開けて、放熱させることも毎回必ず行っていますね。そのお陰か、エアコンの照明が少し暗くなってきたのを修理したくらいで、大きなトラブルは経験していないんです」
オーナーが溺愛する様子をご家族はどう思っているのだろうか?
「6歳になる息子を乗せてドライブに行きます。子どもとドライブしているときがいちばん楽しいし、嬉しいですよね。事あるごとにあぶない刑事を見せているので、結構ノリノリです(笑)。レパードというよりは、あぶない刑事にハマっている印象です。
妻はノーリアクションです(苦笑)。このクルマに乗ったことないですし。でも、レパードをいじっていても何もいわれませんし、割と放任(黙認?)されている感じですね。“いつもありがとうございます。ホント、ワガママな旦那で申し訳ございません”と、この場をお借りして伝えたいです」
取材が終わったあと、息子さんと遊びに出掛ける予定があったようだ。もちろんレパードは大事だけれど、家族との時間を大切にし、良きパパであることを垣間見た気がする。息子さんの話をするときのオーナーの表情が愛情に満ちあふれていることが伝わってきたのだ。父親としての役目をきっちりと果たしたうえでクルマ趣味の時間を捻出しているからこそ、奥さまも何もいわないのだろう。
最後に、このレパードと今後どう接していこうと思っているのか、伺ってみた。
「可能な限り乗りつづけたいと思っています。でも、現時点では、将来息子に託すつもりはないんです。それなりにクセのあるクルマですし、維持費も掛かりますからね。それに、最新のクルマの方が安全ですし」
趣味人である以上に、1人のお子さんの父親でもあるオーナー。このあたりの葛藤はすぐには答えが見つからないのかもしれない。
見方を変えれば、結論を急ぐ必要もないのだ。オーナーは現在40歳。まだまだこの先、何十年もレパードと蜜月の時間を過ごせるだろう。息子さんがやがて運転免許を取得し、クルマを運転するようになったときに考えても遅くはない。
オーナー、そして息子さんのためにも、このレパードがいつまでも現役マシンとしていられるために……。これから先「古いクルマを大切に乗る人たちの想いを尊重する世の中」になってくれることを切に願うばかりだ。
そして次回、オーナーにとって「もう1台の本命の愛車」をご紹介したいと思い、準備を進めているところだ。もしかしたら意外な1台かもしれないが、レパード以上に現存率が低いクルマであることは間違いない。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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