「ハンドリングや楽しさは互角!」ポルシェ・911ターボオーナーをも魅了した2018年式スズキ・スイフトスポーツ(ZC33S型)
現在、国内に「ホットハッチ」と呼ぶにふさわしいモデルはどのくらいあるのだろうか。ホットハッチとは、走りを楽しめるチューニングが施された、大衆向けのコンパクトなクルマのことだ。ヨーロッパでは伝統的なジャンルとして確立されており、日本国内では1980年から90年代にかけて各メーカーが次々と発表、若者を中心に人気となった。ご存じトヨタ・カローラレビン、スプリンタートレノ、スターレットをはじめ、ホンダ・シビックなどは今もなおファンが多く、時に格上のクルマを追い回すこともあった。読者のなかにも、ホットハッチを相棒に、ジムカーナやサーキット、ワインディングロードを駆け回っていた人は少なくないと思う。
現在注目のホットハッチを挙げるとすれば、新型スズキ・スイフトスポーツ(ZC33S型、以下スイフトスポーツ)かもしれない。現行モデルはシリーズ4代目にあたり、昨年秋にフルモデルチェンジが行われた。ボディサイズは全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm。最も大きな特長は、エンジンのターボ化だろう。「K14C型」エンジンは、1.4リッターの直4DOHCターボで140馬力を発生。トランスミッションは6速MTと6速AT。後者は先代に設定されていたCVTが改められたものだ。
この新型スイフトスポーツを、今年の5月に迎えたばかりの男性オーナーが、今回の主人公。現在はポルシェ・911ターボ(991型)、BMW・430グランクーペMスポーツ(F06型)、そしてスイフトスポーツの3台と暮らしている。おもに乗るシーンは通勤やプライベートで、3台を分け隔てなく可愛がっているようだ。
オーナーは現在61歳。20歳から41年間、32台ものクルマを乗り継いできた。ここに佇むスイフトスポーツがその32台目にあたる。精悍なブラックのボディカラーがまぶしいこの個体は、オーナーが5ヶ月待ちの末、ようやく手に入れたという。仕様は6速AT。ナビやETC以外、アフターパーツによるモディファイは施されていない。先日、ようやくオドメーターが1000kmを超えた、まさに「ピカピカの新車」である。
オーナーが今まで乗り継いだクルマは、ポルシェ・カレラ4S、メルセデス・ベンツ・E320、BMW・525i 、BMW・アルピナB5、フォルクスワーゲン・ゴルフGTI、プジョー・207CCなどの世界に冠たる欧州車がズラリと並ぶ。なぜ突然、国産ホットハッチに惹かれたのだろうか。まずは、オーナーが欧州車を好むようになった経緯から伺った。
「今と違い、若い頃は国産スポーツを乗り継いでいたんです。あれは1990年頃、買ったばかりのある国産スポーツセダンで移動中のことでした。ちょうど停車していたとき、後方から急病の発作で意識を失ったドライバーにノーブレーキで追突され炎上、全焼してしまう事故に遭いました。このモデルは、ガソリンタンクがトランクの下にあったので引火しやすかったんですね。この事故をきっかけに、欧州車へとシフトしました。BMW・525i(E34型)に乗ったとき、構造の違いをすごく感じましたね。とくに90年初頭は、欧州車と日本車には、乗員の安全に対する考え方に大きな差があったように思います。ここから、ドイツ車の良さに気づき、何台も乗り継ぐことになりました」
欧州車一筋だったオーナーが、スイフトスポーツと出会ったきっかけとは?
「スイフトスポーツの人気は噂で聞いていました。ネット記事や自動車誌では、ほとんどの評論家やライターに絶賛されていましたよね。そこまで本当に良いのか?と疑ったりもしましたが、そうではないと感じたのは、辛口で有名なイギリスの自動車誌『CAR』での評価が高かったからです。いつも日本車に対してシビアなコメントが多いのですが、スイフトスポーツは2代目から評価が上がり続けているんです。これはいよいよ自分の目で確かめないと気が済まなくなり、ディーラーへ試乗に出かけたのが昨年末。乗った瞬間『良いクルマ』であることがわかりました。良いクルマは、ちょっと運転するだけでわかると言われていますが、本当ですね。車体はATでも990キロの軽さで、スズキの軽量化技術には舌を巻きます。価格以上のクオリティーだと感じましたね。ハンドリングも、ポルシェ・911ターボに負けないほど好印象でした。すっかり魅了されてしまって、その日のうちに契約しました」
スポーツカーが好きであればMTを選択しそうだが、今回ATを選択した理由は?
「MTも好きですが、今回CVTから6速ATになったからです。ターボエンジンとATとの相性も良くて、キビキビとした走りが楽しめますね。何より、MTとATを選べるのは魅力的です。家族も運転できるのは購入の同意も得やすいと思いますし、今までスイフトスポーツの購買層は若者が多かったせいか、ユーザーの8割以上がMTだったみたいです。けれど、フルモデルチェンジ後はATが3〜4割で選ばれていると聞いているので、6速ATを設定したことで裾野が広がったのではないでしょうか」
ボディカラーをブラックにしたこだわりは?
「実は、チャンピオンイエローとスーパーブラックパールで迷いました(笑)。イエローはイメージカラーですし。今までの愛車でイエローだったのは1台だけなので、久しぶりに乗ってみたかったです。しかし当時は20代でしたし、60代でイエローはちょっと気恥ずかしいので諦めました。ホワイトも考えましたが、911ターボとBMWのボディカラーがホワイトなので、結果ブラックになりました。久々に選んだ色ですが、なかなか精悍で気に入っています」
実際に走らせてみて感じた魅力とは?
「まずはボディの軽さですよね。しかも、剛性の高さに驚きました。軋みもなく、道路の継ぎ目や段差を乗り越えてもしっかりしています。高いボディ剛性を持つ911ターボの後に乗っても、剛性の差をそれほど感じさせないほどです。これを実現できるということは、スズキの軽量化技術は本当にすごい。スズキ独自の『ハーテクト』という、軽量かつ高剛性のプラットフォームを採用している点も、スイフトスポーツの持ち味の良さに磨きを掛けているように思います」
各種安全装備の標準化や電装化が進む昨今、軽々と900kg台とは驚くばかりだ。さらに、オーナーはスイフトスポーツの走りも高く評価しているようだ。
「加速もすごくいいです。特に車重が軽いぶん、中間加速の良さが抜群です。高速の合流が苦手なペーパードライバーや初心者など、運転が得意でないユーザーにも向いている1台かもしれません。合流のタイミングを失ってしまう理由は、加速が間に合わないため怖くなってしまう場合もあります。合流で加速ができないのは危険なので、スイフトスポーツのようなクルマを選ぶのは安全のためにも『あり』だと、個人的には考えています。開発時には、アウトバーンに持ち込み、何度も時速200km/hでの追い越しテストを繰り返して煮詰められたと聞きました。200km/hで安定して走れるということは、それだけ安全マージンが大きいのだと思います」
さらに、スイフトスポーツにはスポーツカーとしてのこだわりも感じられるという。
「アイドリングストップが装備されていません。コストとの兼ね合いでしょうか?それとも『スポーツカーだからつけなかった』というスズキのこだわりかもしれませんね。タイヤにもこだわっていて、コンチネンタル社のContiSportContact 5を標準装着しています。しなやかさと剛性を両立していて、スポーツとコンフォートとのバランスがよく考えられている印象ですね。タイヤのチョイスも含めて、スイフトスポーツは通好みの1台かもしれないと感じています」
逆に、スイフトスポーツに乗っていて欠点を感じた部分はあるのだろうか?
「欠点はほとんどないですね。燃費はハイオク仕様でリッター11km/Lでしたが、特に悪いというわけではありません。強いて言えば、レザーステアリングの下の部分だけ樹脂製で、太さが変わっているところでしょうか。やはりスポーツカーであれば、全部同じ太さにしてほしかったです。それから、セレクターレバーをDレンジにするとき、一気にマニュアル・モードに入りやすいので、横に動かす構造にしてほしいです。加えて、セーフティパッケージ(予防安全機能)はオプションですが、これは標準装備にしても良いと思います」
このクルマを所有して、変化したことはあったのだろうか?
「毎日乗れていざとなれば家族も運転でき、4名乗車可能なスポーツカーとして、ポルシェ・911ターボが最高のクルマだと思ってきましたが、この先、年齢を重ねたとき、スイフトスポーツ1台でもいいという気持ちが湧いています。高齢者でも取り回しがしやすいサイズですし、走りも楽しめますから。それと、SNSにスイフトスポーツを褒める投稿ばかりしていたら、ロードスターに乗っている友人が最近、スイフトスポーツを買ってしまったみたいなんですよ。どうしても宣伝みたいになってしまいますが、いいものはいい。世の中で絶賛されているのは誇張ではないと感じましたね」
実質「アガリの1台(人生最後の1台)」の選択肢もあるほど魅力を感じているということだ。そんなオーナーが、クルマ好きのベテランとして今後、日本車に期待することを尋ねてみた。
「スズキは海外で評価されていることで技術も上がっているし、グローバルであることは大事だと思っています。スイフトスポーツのように、これほど良いクルマが造ることができるのなら、他メーカーも海外でどんどん勝負してほしいと願います。ホットハッチでは、フォードやフォルクスワーゲン、ルノーはライバルです。これらの強豪メーカーと戦うことで、クルマの質は向上していくのではないでしょうか。あとは、デビューすると噂されているトヨタの新型スープラの存在も気になっていますね」
最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺った。
「ハンドリングや走らせる楽しさは911ターボと互角と思えるほどです。大事に長く乗っていきたいです。今までのクルマは長く所有しても7年ほどでしたが、スイフトスポーツはずっと乗っていきたいですし、人にもすすめたいですね。走り屋のイメージを持つ人は多いかもしれないですが、私のなかではドイツ車に近い印象です。ドイツ車が好きな方は気に入るのではないかと思っています。クルマ離れと言われる若い世代はもちろん、40~50代の大人も楽しめる、すばらしい1台です」
高性能なクルマは得てして高額になりがちだ。その最たる例がスーパーカーだろう。スイフトスポーツのように、多くのユーザーにとって現実的な価格帯でありながら、それ以上の魅力を持ちあわせ、さらに所有欲を満たせるクルマこそ貴重な存在なのかもしれない。
そして、ブランドや車格など「うわべだけ」でクルマを判断することなく、純粋に「楽しいクルマ」を見極められる審美眼を持ちあわせたオーナーも、自他ともに認める根っからのクルマ好きなのだろう。
そんなオーナーに愛されるスズキ・スイフトスポーツは、ガソリンエンジンを搭載した時代の最後の名車として後世に残っていく1台になるのかもしれない。そして、オーナーとスイフトスポーツとのカーライフは、まだはじまったばかりだ。ポルシェ・911ターボ、BMW・430グランクーペMスポーツとともに「人生を楽しむ1台」としてオドメーターを刻んでいってほしいと思う。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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