新車から38年乗り続けてきたバラードスポーツCR-Xは、人生を思い出させてくれるアルバムのような存在

  • ホンダのバラードスポーツCR-X(AS型)

18才の時にホンダ・バラードスポーツCR-X 1.6Si(AS型)を新車で購入し、数え切れないほどの春夏秋冬を共に過ごしてきたという森田さん。通勤に買い物に家族とのお出かけに、現在に至るまで乗らなかった日はほぼ無いくらい、毎日を一緒に送ってきたという。

「青春時代をともに過ごしてきた自分が家庭を持ち、今では大学生の子供がいるということに、バラードが1番驚いているのでは?」という言葉からも深い歴史が感じられる。

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そんな森田さんとバラードの出会いは、発売直前に伯父さんがどこからか入手したというホンダの広報資料だったという。森田さんの御家族と親戚にはクルマ好きが多く、集まればクルマ談義に花を咲かせることはしょっちゅうで、その日もホンダから発売されるという新型車の広報資料をみんなで囲ったそうだ。

「表紙からページをめくっていくと『特許・実用新案登録出願の総数が301件』という表記があったんです。301件ですよ!?こんなすごいクルマが出るなら、絶対に買いたいと大興奮したのを今でも覚えています」

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すべてが好きだという1985年式のCR-Xだが、社会人になって初めてもらったボーナスで装着した無限のエアロキットはとくに気に入っているそうだ。

「このエアロはレーシングカーデザイナーの由良拓也さんが手がけたものなんです。オーバーフェンダーに注目されることが多いんですが、僕はフロントマスクがノーマルよりも低くて、シャープになっているところが1番好きなところですね。

もともとのボディーカラーは、黒とガンメタのツートンカラーだったんですが、ワイドキットを組み込んだ際に白にオールペイントしたんですよ。懐かしいなぁ。もう廃番になってしまって入手がほぼ不可能だから、大事にしていきたいですね。38年間も乗っていると、部品もパーツもいつの間にか廃盤ばかりですよ」と森田さん。

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無限の15インチアルミホイールも今となってはかなりのレア物だ。また、若い頃にジムカーナに挑戦した際に、乗員を守るためにと装着したロールケージは「ご老体になってきたので、転ばないように杖代わりみたいなものです。今、ロールケージを取り外すとボディが歪んで、フロントガラスが割れてきちゃう気がするんですよ」と笑みをこぼす。

それぞれのパーツやカスタムは、もちろん希少価値が高いということも魅力的だが、なによりモディファイした箇所にはそれぞれ思い出があり、見ているとアルバム写真を眺めているような気持ちになるのだと話してくれた。

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現代のクルマに比べれば、当然のことながら最新の機能や設備は付いていないのだが、長い年月を共にし、慣れ親しんだCR-X以外のクルマに乗ることに気が引けてしまうという。

「会社の社用車に乗ったことがあるんですけど、サイドブレーキがボタンで驚きましたよ(笑)。こういうデバイスが全然分からないし、見たことのないボタンがたくさんあって『どうすればいいの?』状態になってしまうんです。

たまたまホンダのN-ONEっていうクルマのスペックを見たことがあったんですけど、軽自動車なのに6速3000回転とか書いてあって、イマドキの軽自動車は速いんだなぁって思いました。今さらもう最新鋭のクルマには乗れないなと、つくづく感じますよ」

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森田さん曰く、CR-Xは高性能とはいえないが、フェンダーなどがFRPで車重が800kgほどしかなく、燃費が街乗りで13km/L〜15km/Lと実用的で日常使いには充分だという。車体サイズも、現在の軽よりも小さいため、機敏で操作しやすいそうだ。

あえて難点をあげるとすれば、維持の大変さや故障のしやすさだが、長年やってきたオーナーとしての勘がそなわっているので心配ないと教えてくれた。

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「長く乗っていると、そろそろこの辺が故障しそうだなというのが分かってくるんです。例えば、僕のバラードの燃料ポンプは大体25万キロで交換が必要だから、20万キロを越えた時点で燃料ポンプを積んで走ることにしています。今のクルマって、燃料ポンプが燃料タンクの中にあるんですけど、バラードは燃料タンクの外にあるから、出先で止まってしまったらジャッキアップをして自分で交換しています」

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ショップ任せだと限界があるというメンテナンスは、森田さんの熟年の勘と技によって何とかもっているのだ。
そして、それを傍らでずっと見てきた奥様は「もし、あなたのCR-Xに何かあったら、私のCR-Xを部品取りにしていいよ」と言ったという。
森田さんと同じように、結婚以前からCR-Xに乗り続けている奥様だからこその言葉だったのかもしれない。

「結婚をすることになったキッカケも、お互いがCR-Xに乗っていたからなんですよ。同じ店に通っていて、何度か会ううちに親しくなって、付き合ったのちに結婚しました。カミさんが乗っていた黒いボディのCR-Xには、大学生の長男が乗っています」
絵に書いたような素敵なストーリーに驚く取材班に、さらに追い討ちをかけるかのような事実を告げる森田さん。

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「もう1人息子がいるんですけどね、次男もCR-Xに乗っているんです。ちなみに、次男が乗っているクルマは、僕が若い時に部品取り用として購入したバラードなんです。当時、バラードって安かったので、ジムカーナでひっくり返ったときに修理できる様に1台持っておいたんです。

結局、部品取りとしては使うことはなかったので、次男の愛車になりました。2人とも遠くの大学に行っているので、お正月しか集まることはないですが、それでも全員の愛車が揃うと嬉しいですね」

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森田さんのお子様たちは昔から工作をするのが大好きで、タミヤのミニ四駆大会では、違う年代でそれぞれが優勝するほどの腕前だったという。
そんなお子様たちの目に、森田さんが CR-Xに乗る姿はとても楽しそうに映っていたに違いない。

「CR-Xに乗るように強要したことは1度もないんです。でも、乗りたいって言ってくれたんです。そりゃあもう、とても嬉しかったですよ」

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定年したら退職金で高精度3Dプリンターを購入し、廃番部品を精製し続けて生涯乗り続けるという森田さん。そして、その気持ちに応えるようにバラードスポーツCR-Xが森田さんの生涯を充実させてくれるはすだ。

『GAZOO愛車広場 出張撮影会 in 千葉市』
取材協力:フェスティバルウォーク蘇我

(⽂: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)

[GAZOO編集部]

出張撮影会で出会った素敵な愛車ストーリー(たっぷり撮影)

出張撮影会での愛車訪問(3カット撮影)

MORIZO on the Road