頭文字Dの舞台にもなった榛名山を走る 藤原拓海レプリカのハチロク
走り屋コミックの金字塔『頭文字D』(イニシャルD)。連載が終了してそろそろ10年が経とうとしていますが、その知名度はまったく衰えることはなくいまだファンを魅了しています。
トヨタ・スプリンタートレノに乗る主人公・藤原拓海の立志伝でもあるストーリーですが、その原点となる舞台は群馬県とされています。
その群馬県に住み、頭文字Dの世界観に自身を投影されているのが、オーナーの「空っ風」さんです。
──どこから見てもスキのない藤原拓海仕様の“パンダトレノ”ですね
ボディサイドには「藤原とうふ店」のデカール。RSワタナベの8スポークホイールや内装ではイタルボランテ・アドミラルのステアリング。ドリンクホルダーには紙コップと、拓海仕様のお約束ポイントは完璧に再現しています。
まだ真の走り屋として覚醒する前のアーリー拓海仕様です。
全国の峠を巡り制圧していくという団体「プロジェクトD」に加入し、バトル相手が多彩になっていく物語の進行にともないチューニングが進んでいく拓海のハチロクですが、初期の頃の何ともいえないシンプルさは、漂ってくるオーラが違いますね。
──多くのシニアオーナーがそうであるように、空っ風さんもカムバック派なんですね
はい、青春時代は峠遊びの全盛期でした。その時代、現役マシンだったのがハチロクです。中古車価格も手頃でテクニックを磨くのにとても良い素材でした。
もともとDOHC4気筒というエンジンレイアウトが大好きでした。グループAでR32GT-Rに果敢に立ち向かうハチロクの姿や、当時のBMW M3(E30)、ギャランVR-4、シルビアなどに惹かれていました。
実際、若い頃はハチロクと過ごした時期もありまし、まだ息子が小さな頃には幼稚園の送迎もハチロクで行っていました。
──峠遊び以外ではどんなところで走っていたんですか?
ドラテクの基本は、スキー部だった学生時代に学びました。年間2ヵ月近くはスキー場に合宿するという体育会系スケジュールで、スキーはもちろんですが雪上でのクルマのコントロールの仕方を身体に染みこませることができました。
その頃は、ギャランVR-4のほか、セリカGT-FOUR、ブルーバードSSSアテーサリミテッド、R32GT-Rなど国産の最新鋭4WDの黄金時代。友人の乗っているクルマを乗り比べたりしてそれぞれの機構の挙動の違いを体感できたり、私の基礎になりました。
──それからしばらくはクルマ趣味とは離れていたのですね
そうなんです。でもある時、アニメ版の頭文字Dを見て衝撃を受けました。私が現役で乗っていた頃のハチロクといえば、人気はレビン一択。それに比べトレノはどちらかと言えば日陰の存在でした。中古車市場ではヘッドランプとテールをレビン仕様に交換したほうがよく売れた時代でした。
そんな事情をリアルタイムで知っていますから、作品の中で圧倒的な存在感を放っているトレノの姿にハートを射貫かれました。
「もう一度ハチロクに乗りたい!」と思うまで時間はかかりませんでしたね。
──もう、いてもたってもいられなくなったんですね!
買うと決意したのが現在からおよそ10年前。しかし、もうその頃はハチロクの相場が着々と上昇していたタイミングでした。もちろん、現在ほどではないにせよ現役当時、数万円~数十万円で流通していた頃を知る私には、驚きの相場でした。
粗悪なものまでブームに便乗して価格が上がっていく様を見ていると、信頼できるお店から買いたいという思いが強くなっていったんです。
──そこで巡り会ったのが、京都にある「カーランド」さんなんですね
頭文字Dがブームになる、はるか前よりハチロク専門店の看板を掲げるスペシャルショップです。ここで程度上々の個体を手に入れ拓海仕様の製作に着手しました。
カーランドの得知雅人代表は、コミックを隅から隅まで読破し、アニメ版もDVDが擦り切れるくらい考察に考察を重ねた、拓海仕様製作に関してはプロ中のプロ。忠実に仕様を再現してくれます。安心して委ねることができました。
実はその高い完成度から、劇場版公開の際は劇場に飾られるなど、大好きな頭文字Dのプロモーションにかかわれたことは良い思い出になりました。
──空っ風さんの自宅からは“聖地”榛名山もお近いんですよね
はい、しょっちゅう出掛けていい汗をかいています(笑)。劇中に実際に登場するコーナーを走って感じるシンクロ感覚は、リアルでしか味わえない体験です。
週末の早朝に朝練をするストイックなチームにも顔を出していました。その関係者には「もしかして、しげの先生がこの人を取材したのかな?」と思わせるような榛名山を完全に手の内にした走りをする、地元では有名なハチロク使いの方もいました。
さらに噂ではその昔、青のシルエイティに乗っている女性の走り屋がいたという群馬ならではの都市伝説もあります。いつか検証してみたいですね。
──ハチロクの相場の高騰にともないコレクタブルカーとしての価値も上がっていますよね
飾って愛でる派が増えてきている昨今ですが、変わらず現役で走り込んでいます。それでこそ、ハチロクだと思います。生涯現役を貫きます。
同じ拓海仕様のオーナーさんたちとは「パントレ会」(パンダトレノの略)というコミュニティを作り、ツーリングを企画したりと交流しています。
高橋兄弟のRX-7をはじめとして劇中車をレプリカする楽しみ方もありますが、拓海の父親・文太のレプリカ(GC8インプレッサ)に乗る仲間と「藤原親子ミーティング」を催したりと作品世界をさらに深掘りしています。
同じ趣味趣向の、心から打ち解けられる仲間がたくさん出来たのもハチロクのおかげです。
あとは、関連グッズの収集も大好きで、ハチロクのミニチュアカー&スケールモデルはほぼ網羅しています。2022年11月に開催されていた「しげの秀一 原画展」でも、貴重なアイテムをまた手に入れることができ、コレクションが充実しました。
実はもう1台、息子用として仕様違いのハチロクも持っているのですが、トヨタ86の元デザイナーの古川高保さんにイラストを描いてもらったこともいい記念になりました。
──ハチロクに乗ることで世界が広がりましたね。これからも大事にしてください
かつて私が買った価格では、とても手に入らないくらい高騰してしまいました。ずっと大事に乗り続けていきます。
“聖地”群馬で今日も走る空っ風さんのハチロク。拓海のスピリットはいつまでも息づいていくことでしょう。
【Twitter】
『空っ風』さん
【Instagram】
Yokotaさん
(文:畑澤清志)
[GAZOO編集部]
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