SNSが守ったトヨタ マスターライン。おじいちゃんが残した愛車と家族のストーリー
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トヨタ・マスターライン(1967年式)
「生前の祖父は認知症でしたが、マスターラインの話になると、別人のように話し始めるんです」
そう語るのは、お祖父様のマスターラインを今も大切に残されている、孫のりかさん。
SNSではお祖父様との思い出やクルマへの想いを発信し続けているとのこと。
今回のお話は、りかさん×お祖父様のマスターラインのお話です。
――マスターライン、とても綺麗に残されているんですね
祖父がとても大事にメンテナンスをしながら乗っていたっていうのと、今では定期的に点検に出して大切に保管しています。母はエンジンがダメにならないようにと、定期的に走らせています。
――販売当初、お祖父様が購入されたんですか?
はい。昭和42年に買ったと聞いています。昭和42年(1967年)式で、ダブルピックアップです。
――お祖父様は昔からこのマスターラインを愛用されていたんですか?
祖父は昔、町の電気屋さんとして働いていたんですけど、大きい荷物や家族も乗せられるという点で、大変気に入っていたみたいです。ひとつ前に乗っていたのも、同じ車種だったと聞いています。
――お祖父様は当時からクルマが好きだったんでしょうか?
若い頃からかなり好きだったんじゃないかな……。祖父がまだ現役だったころ、当時は慣らし運転をよく頼まれていたみたいで、すごく上手だったらしいです。オーナーさんからめちゃくちゃ好評で、“祖父が慣らしたクルマは高く売れる“とまで言われていたらしいです。
それと、当時はフロントグリルの下らへんで棒(クランク棒)をぐるぐると回して、エンジンをかける仕組みのクルマがあったみたいなのですが、バスの運転手がエンジンをかけられなかった時、学生だった祖父が、代わりにかけてあげていたみたいです。
このマスターラインも生前は、祖父が大事にメンテナンスをしていました。
――りかさんが小さい頃は、よく乗せてもらっていたんですか?
私よりかは、母が小さい頃によく祖父が運転するマスターラインで出かけていたみたいです。
広島から大阪へ行ったり、どこへでも出かけていたみたいで。祖父の運転でいろんなところへ行ったと聞きました。
――りかさんはマスターラインに乗る時はお母様の運転で乗るくらいですか?
そうですね。私が祖父と会うようになった時は、既に認知症がかなり進行していて、運転は危ないから出来ないと言われていました。なので、どこかへ行く時は母の運転で、3人で行くという形が多かったです。
――3人で出かける時、お祖父様はマスターラインを覚えていたのでしょうか?
覚えていましたよ!
何度も運転席に乗りたがったり。駐車する時、ちょっとでも位置がズレていると「これは真ん中じゃないぞ!」って言ってきたりとかもありましたね(笑)。
駐車後、マスターラインから離れて、戻った時に「これはわしのクルマとソックリじゃのう」って言うのがしょっちゅうでした(笑)。
あとはずっとクルマの自慢話ですね。話し出したら止まらないんですよ(笑)。
――どんなお話をしてくれたんですか?
「トヨタが初めて6気筒のクルマを出したのが、このクルマだったんだよ」っていう話だったり、エンジンルームを開けて見せながら、説明してくれたりもしました。
その時だけ表情がキリッとするんですよ。まるで昔に戻ったかのように。でも車から降りたら、のほほんとしたいつものおじいちゃんで(笑)。「さっきのことは忘れてるよね?」ってお母さんと確認してみたり(笑)。
――相棒だったから……。マスターラインが大好きだったから、覚えてるんですね。
そうだと思います。その時は既に、祖父の認知症の進行がかなり進んでいて、物がどこにあるのか、人の名前もわからないっていう状態でした。
ただ、マスターラインの話になると別人になる父を見て母は、“絶対運転できるよね”って確信があったみたいです。大きめの安全な駐車場で、ふと「ちょっと乗ってみる?」と祖父に聞いてみたら、思いっきり喜んだ様子で運転席に座ったらしいです。
母が助手席に乗って、祖父が実際に運転をしたんですけど。操作は完璧だし戸惑いが一切なくて、体に染み付いているのが見ていて分かるくらいに、シフトチェンジもちゃんと操作して、しっかりと駐車できていたみたいです。
――マスターラインの存在が、いかに大きかったかが分かる素敵なお話ですね。その後、お祖父様が亡くなられて……。マスターラインはお母様が乗られているんですか?
月に2回くらい、エンジンがダメにならないようにと、母が運転しています。実家の10km四方をドライブしたり、たまーに遠くへドライブしたりもします。
マスターラインを動かすと町の人が喜んでくれるんですよ。
――すごいですね!昔から町で有名だったんですか!?
母曰く、祖父が認知症になる前は毎日、町中を走っていたらしくて、かなり有名だったみたいです。
「毎日見てるよ!」って何キロも先に住んでいる人たちから、声をかけてくださったりしました。祖父が亡くなった今、町中でクルマを見て「あれ!?」って驚く人が結構いてくださると聞きます。
――みんなの記憶の中で生き続けるマスターライン……素敵ですね。残していこうと思ったのは何故ですか?
実は、最初は売る予定だったんです……。マスターラインは祖父の物なので、祖父のことで何かお金が必要になったときに、売るなら“祖父のために”と思っていました。ですが、その祖父の認知症が進行していったので、今後のことを家族で話し合ったんです。
家族全員、クルマの知識が無いので、メンテナンスをどこまで出来るのかというのも、私たちは不安で…。
結局、当時の実家が古くてリフォームが必要だったのと、他にもどうしてもお金が必要というのが重なり、悩んだ挙句売ることに決心しました。
――1度売ることになったんですね。そこから、また残すことに決めたのは何故ですか?
当時から、マスターラインと祖父のことをSNSで発信していたのですが、見てくれた人から「資金はお貸しするので、おじいさんのマスターラインを残してあげてください」というメッセージをいただいたんです。
その人と直接電話でやりとりをした後、ご好意に感謝し、貸していただくことになりました。祖父のファンやマスターラインのファンの方から、たくさんの応援コメントをいただいていたのも後押しとなりました。
――ご家族で、マスターラインを残すことに決めたんですね!
祖父の遺産ですし、貴重なクルマというのもあり、手放したくない気持ちはずっとあって……。だけど、宝の持ち腐れというか、マスターラインを十分に活かしてあげられてないので、そこだけ当時からモヤモヤしていました。
母は、今後子供だけになった時に、誰も乗れないんじゃないかと心配しています。
それから、祖父と祖母は常にピッタリくっついて移動していたくらい、仲が良かったのですが、祖母が認知症だったのですが、その後祖父がひとりになった時、母に「運転してみるか?」とマスターラインの運転の仕方を教えたみたいなんです。
母も祖父から受け継いだマスターラインを守らなければいけないという気持ちがあるんじゃないかなと思います。母と祖父との思い出が詰まっているからか「運転できるうちは、私が守っていけたらいいな」と母は言っています。
――りかさんは今後、マスターラインを運転したいですか?
まだ運転したことはないのですが、私もいつか祖父のクルマを運転できたらなと思っています。実は最近、運転に向けてAT限定解除の試験を受けて合格したんですよ。
でも、まだ怖くて運転出来てないんです(笑)。母からは他のミッション車で練習してからと言われているので、運転はそれからですね!
「マスターラインに乗るとおじいちゃんを感じる。」
りかさんとお母様のお言葉を聞き、きっと今後もご家族で守り続けるのだろうなと、勝手ながら筆者は思いました。
町を飛び越えて、みんなの記憶に残るマスターライン。
きっとお祖父様は“全て“に誇りを感じているのではないでしょうか。
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旧車クラウンと祖父と孫【りか】
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旧車クラウンと祖父と孫
(文:秦 悠陽)
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