20代女性の愛車は、父親が乗っていたクルマと同じ1985年式トヨタ・スプリンタートレノ GTV(AE86型)

自分が幼かったとき、父親が乗っていたクルマのことを思い出せるだろうか?

世代によっては、マイカー自体が限られた人たちだけのものだった時代もあるだろう。しかし、40代以下の人であれば、家にクルマがあって、納車された日のことや、家族で出掛けた場所、売られていくときの寂しさなど、さまざまな記憶が残っている人も多いのではないだろうか?

自分がまだ幼かった頃、父親が乗っていたクルマや出掛けた場所、景色、匂い、何気ない一瞬のできごとを鮮明に記憶していることも少なくないはずだ。今回のオーナーは、まさに、父親が乗っていたクルマと同じモデルを手に入れたいという想いを大人になって実現した20代の女性を紹介したい。

「このクルマは、1985年式トヨタ・スプリンタートレノ GTV(以下、トレノ)です。手に入れてから6年、これまで4万キロくらい乗りました。この色のトレノは、私にとって思い出の1台なんです」。

型式のAE86型にちなみ、通称「ハチロク」という愛称で親しまれているこのクルマついて、改めて多くを語る必要はないだろう。かつての若者、そして現代の若者にも支持されていることはいうまでもない。さらに、漫画「頭文字D」の劇用車として起用され、人気は不動のものとなった。「Hakosuka」と同様に「Hachiroku」というキーワードは、今や日本を飛び出し、世界でも通用しつつあるキーワードだ。

そんなトレノのボディサイズは、全長×全幅×全高:4205x1625x1335mm。駆動方式はFRだ。「4A-GE型」と呼ばれる、排気量1587cc直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は130馬力を誇る。

それにしても、自身にとって思い出の1台とはいえ、20代の女性がハチロクを所有していることを意外に思う人は少なくないだろう。そのあたりの経緯を詳しく伺ってみることにした。

「私が幼い頃、父がトレノを購入したんです。聞くところでは、私の兄のリクエストでトレノになったそうです。家族でトレノに乗っていろいろなところに出掛けました。走行会にも行きましたし、家族で山道をドライブしたこともありましたね。このときの記憶が鮮明に残っていて、私も運転免許を取ったら、この型(AE86型)のトレノに乗ろうと決めていました」。

オーナーも、多くの人と同じように、「ハチロクのトレノ」が好きということで自分の愛車にしようと思ったのだろうか?

「私の場合、ハチロクが好きというよりも、父親の愛車がトレノだったということの方が大きいかもしれないですね(笑)。もちろん、頭文字Dも読みましたけれど、この作品の影響を受けたから…というわけではないんです」。

オーナーの女性はまだ20代ということで、トレノの方が明らかに「年上」だ。今や旧車の領域に入りつつあるクルマだけに、程度の良い個体を探すのにも苦労したのではないかと思われるのだが…。

「トレノの前に乗っていたスズキ・アルトが車検を迎える時期が近づいていたんです。アルトの車検が切れるまでにはトレノを手に入れようと決めていました。結局、1年くらい掛けて探しましたね。今の個体を見つけたショップに複数のハチロクがあり、それぞれエンジンを掛けていただいたり、シートに座ってみたりしたんです。そして、しっくりきたのが現在の愛車というわけです」。

ハチロクの中古車ともなれば、状態やモディファイされている仕様など、1台として同じ仕様は存在しないと思われる。なぜ、この個体を選んだのだろうか?

「分かりません(笑)。でも、このクルマだってピンときたんですよね。このときは、元ハチロクオーナーである父親も同行してくれて、クルマをチェックしてくれたんです。そして、父のお墨付きが出たので、買うことにしました」。

念願だった父親と同じトレノを手に入れたオーナー。そのときの印象はどうだったのだろうか?

「パワーステアリングは装備されていないし、エアコンの効きも今ひとつだけど、運転していて楽しいですね。父親のトレノがMTだったので、私のクルマももちろんMTです。このクルマに乗るためにAT限定免許にしなかったくらいですから(笑)。このトレノを運転するのが一番のストレス発散になります。父親がこのトレノを運転することはありませんが、ときどき助手席に乗ってくれるんです。購入した頃は通勤にも使っていたのですが、このクルマを労ってあげたいので、思い切って現行型のスズキ・アルトを増車しました。そのため、トレノに乗るのは仕事がお休みの日が多いです。もともとはインドアな方なのですが、トレノを手に入れてからはオフ会に参加してみたり、クルマ好きの友だちが増えたり、世界が変わりましたね」。

正直に言って、20代の女性がオーナーだとは思えないほど硬派な印象を受けるトレノだが、購入時、モディファイされていた箇所はどのあたりなのだろうか?

「ホイールとマフラー、ボンネット、運転席のバケットシートが交換されていましたが、足まわりはノーマルのようでした。実はこの個体、もともとはレビンみたいです。でも、私にとってはトレノなんですけどね」。

確かに、このクルマがもともとレビンだと気づく人は少ないかもしれない。それに、オーナーにとって、この個体は「トレノ」なのだ(オーナーの希望で、今回はレビンではなく敢えてトレノとして紹介することとした)。それほどこのトレノを溺愛するオーナーが、購入後にモディファイしたところを伺ってみた。

「ホイールをワタナベ製に交換しました。このホイールも父親のトレノが履いていたものと同じです。ちなみに、ホイールのセンターキャップは自分で塗装しました。あとは、納車時にバケットシートからノーマルに戻してもらったんですが、どうもしっくりこなくて、帰宅してからすぐにバケットシートに戻しました。あと、フロントバンパーのエンブレムもTE27トレノ用に交換しています。ホイールとこのエンブレムは、トレノを通じて知り合った方たちから譲っていただいたんです」。

このトレノも、今や旧車の仲間入りを果たした1台といえそうだ。果たして部品の確保はどうしているのだろうか?

「何よりもコンディション維持が最優先ですから、ハチロク乗りの仲間やショップの人に聞いてから部品を探すようにしています」。

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「ドリフトやジムカーナなど、クルマに負荷が掛かる走りは控えて、コンディション維持を最優先にしていきたいですね。父親との思い出としてトレノがあるように、将来、結婚して子どもが生まれたとしても、このクルマは手放したくないですね。このトレノを「売れ」っていうような人は旦那さんには選ばないと思います(笑)」。

子どもたちをミニバンのリアシートに座らせてDVDを見せたり、ゲームに熱中させていれば退屈しのぎにはなるかもしれない。しかし、子どもたちが大人になったときのことを考えてみてほしい。移動中に見える景色や車内で何気なく交わされる会話より、ディスプレイに映っている映像ばかりが記憶に残っているなんてあまりにも悲しいではないか。

父親の影響で息子がクルマ好きになった…というケースはしばしば存在する。しかし、愛娘がクルマ好きになり、さらに父親が若いときに乗っていたものと同一車種を愛車に選ぶというケースは珍しい。父親からすれば、自分の愛娘が幼少期の記憶を大切にしてくれているという事実は嬉しいに違いない。そして、娘を持つ多くの父親にとって、羨ましい限りのエピソードだろう。

そう遠くない未来、このトレノのオーナーである彼女が母親となり、子どもをチャイルドシートに乗せ、颯爽とこのトレノを運転している光景が日本のどこかで見られるかもしれない。そんな素敵なママがもっと日本に増えてくれたら…と願わずにはいられない取材となった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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