クルマが「走る蓄電池」に。電力の効率利用や安定供給に貢献するPHV/EV―クルマのトレンドワード⑮
自動で走ったり、電気で動いたり、インターネットにつながったりと、クルマを取り巻くトレンドは今、めまぐるしく変化を続けている。この連載では、なんとなく分かった気になってしまいがちな最新キーワードを整理して、現在進行形のクルマのトレンドに迫っていく。
今回は「走る蓄電池」になるクルマと、電力の効率利用や安定供給につながるスマートグリッドについて。
- 家庭の電力源にもなれるPHVやEV
台風や大雨といった自然災害が毎年のように発生し、その影響で停電が生じることも少なくない。このようなとき、頼りになるのがPHV(Plugin Hybrid Vehicle)やEV(Electric Vehicle)に分類されるクルマだ。
バッテリーを搭載しており、蓄電した電力を用いてモーターを駆動して走るが、それに加えて外部に電力を供給できる仕組みを持つものも多い。
たとえばプリウスPHVでは、車内2か所にあるコンセントを使って車内で電気製品を使えるだけでなく、普通充電インレットにヴィークルパワーコネクターを差し込むと外部給電用コンセントとなり、合計1500Wまで給電できるようになる。
- プリウスPHVには普通充電/急速充電インレットがある
- プリウスPHVのヴィークルパワーコネクター
さらにプリウスPHVには、バッテリーだけで給電する「EV給電モード」に加え、バッテリー残量が所定値を下回るとエンジンを使って給電する「HV給電モード」があり、これがあればガソリン満タン状態から、1500Wまでの家電を使い続けた状態でおおよそ2日分の電力を供給できるという。
これなら電子レンジやエアコン、ドライヤーなど消費電力の大きいものにも対応できる。
このような非常時のバックアップ電源としての役割に加え、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの有効利用にPHVやEVを利用しようという考え方も広まりつつある。
たとえば昼間に太陽光発電で得られた電力をPHVやEVのバッテリーに蓄電し、太陽光発電できない夜間にその電力を使えば、効率的に電力を利用できる。
盛夏にはエアコンへ日中多くの電力が使われるが、このようなピークシフトにもPHVやEVは有効だ。電気をあまり使わない夜間にPHVやEVのバッテリーに蓄電しておき、その電力を昼間に利用するわけだ。
- 使用頻度の低い時間帯にPHVに蓄電しておいて家庭の電源として活用する
スマートグリッドにもPHVやEVが貢献する社会へ
こうした個人レベルでの電力の融通だけでなく、社会全体での電力ネットワークの最適化や効率化においてもPHVやEVに対する期待は大きい。その具体例として、スマートグリッド・マイクログリッドとPHV/EVの接続が挙げられる。
スマートグリッドとは、電力会社など電気を生み出す供給側と、家庭・企業・街など電気の需要側の大きなネットワークにおいて、需給バランスを最適化しようという取り組み。
冬より夏に、夜より日中に電力の需要が高まるが、家庭やオフィスビルなどにある太陽光パネル、蓄電施設などから電気を融通・活用してピークを抑制し、バランスをとろうというものだ。
一方、マイクログリッドは、スマートグリッドのネットワーク規模をスケールダウンした「電気の地産地消」を目指す取り組み。風力や太陽光、バイオマスといった電源を地域独自に整備して、ロスの小さなネットワークを構築しようというもの。
スマートグリッド、マイクログリッドいずれも、需給の情報を収集して、バランスをとるための計算をして、電力の消費・蓄電をIT技術でコントロールしていく必要がある。
このスマートグリッドやマイクログリッドでPHV/EVに期待されているのは、電力ネットワークにおける蓄電池としての役割である。
そもそも電気は需要と供給を常に一致させる必要があり(同時同量)、需給バランスが崩れれば大規模停電に陥る可能性がある。
需給バランスを保つためには、発電所からの出力を適切にコントロールすることが欠かせないが、特に太陽光発電のような自然エネルギーは発電量を制御することが難しい。
そこで供給の発電量が需要を上回ったとき、スマートグリッドやマイクログリッドの電力ネットワークに接続したPHV/EVのバッテリーに蓄電するわけだ。
このようにPHV/EVのバッテリーを電力ネットワークの蓄電池として用いれば、余剰電力を有効利用することが可能になる。
なお、このように電力ネットワークにPHV/EVを接続し、余剰電力をバッテリーに蓄電することを「G2V(Grid to Vehicle)」と呼ぶ。
これとは逆に、PHV/EVから電力ネットワークに対して電力を供給する「V2G(Vehicle to Grid)」も考えられる。
たとえば需要が想定以上に大きくなったとき、電力ネットワークに接続したPHV/EVから電力を供給することで需給バランスを維持するという流れだ。
このようにPHVやEVには、電力利用の効率化や安定的な供給に貢献できる可能性があり、低炭素・省エネにつながるサスティナブル(持続可能)な社会を実現する上で、クルマは大きな鍵を握っている。
- プリウスPHV
「CASE」から始まり、ここまで15回に分けてクルマのトレンドをキーワードとともに紹介してきた。未来の出来事、夢のテクノロジーと思われていたことの多くが現実になる、あるいは現実になりつつあることがご理解いただけたのではないだろうか。
次回からは、この未来のモビリティを創造する人たちにスポットを当てた連載をスタートする。ここまでの連載で得られた知識で、ぜひ一緒に未来を覗いてみてほしい。
[ガズー編集部]
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