新車から40年!2ケタナンバーの愛車を息子に託したい。1985年式トヨタ カローラレビン GT APEX(AE86型改)
いつのまにか、変わり続けることを求められている気がする。現状維持をマイナスと捉える動きがあることも事実だ。
「これだ!」という最適解が見つけにくくあるなか、時代という渦のなかで、誰もが自分らしい生き方を模索している。スマートフォンやSNSの進化は、ライフスタイルを一変させた。クルマは電子制御化が進み、BEVへのシフトがジリジリと進行しつつある。
技術の進歩がもたらした当然の流れであるし、進化を否定する理由もないが、変わらずにいることは間違いなのだろうか。
そうした時代のなかで「これだけは」と守りたいものが、誰の心にもあると信じたくなる。
今回は、新車から40年に渡って1台の愛車に乗り続けるオーナーを紹介したい。取材当日、オーナーのご厚意で自宅ガレージにもお邪魔することができた。壁に掛けて並べられた工具は、手になじんだ輝きを放っており、部品は用途ごとにきちんと整理されていた。断っておくが、取材のために片付けたのではない。これが通常の状態であるという気配が伝わってくるのだ。
「このクルマは、1985年式トヨタ カローラ レビン GT APEX(AE86型改/以下、レビン)の後期型です。新車で手に入れて40年を迎えました。現在の走行距離は約12万キロです。ナンバーも当時モノを維持しています。私は59歳で、まもなく還暦を迎えます。専門学校を卒業して、トヨタのディーラーにメカニックとして勤務しました。それからレース関係、輸入車関係、町工場と30年以上メカニックひと筋でした。今はメカニックを引退して、別の仕事をしながら自宅で“ハチロクライフ”を楽しんでいます」
純正部品や輸入車の独特な構造に精通し、レース現場での過酷な環境も経験するなど、さまざまなキャリアを重ねてきたオーナー。家庭では良き父親として奮闘し、一男一女を育て上げた。お子さんたちはすでに独立し、息子さんはクルマ好きに育ったそうだ。独立後も自転車で行き来できる距離に住んでおり、その気になればいつでもハチロクのステアリングを握れる環境にあるそうだ。
そんなオーナーが所有するレビン(ハチロク)は、生産から40年以上が経過した今も世代を超えて支持され続けている。その魅力はもはや語るまでもないだろう。
オーナーの個体は、カローラ レビンの最上級グレード「GT APEX」だ。ボディサイズは全長×全幅×全高:4200mm×1625mm×1335mm。駆動方式はFR。搭載される1587ccの直列4気筒DOHCエンジン「4A-GEU型」は、最高出力130馬力を発揮する。「名機」と呼ばれ、回すほど加速の高揚感を楽しめるエンジンだといえる。ちなみに同社のスポーツモデル、MR2やセリカなどにも搭載された。ただし、今回紹介するオーナーの個体は、AE92後期型に搭載されていた「4A-GE型」に換装されている。
まずは、オーナーが歩んできたカーライフを振り返っていただいた。
「クルマは、幼い頃から憧れの存在でした。首都高を走るクルマを眺めるのが好きな子どもでしたね。スーパーカーブームの頃には、学校が終わるとすぐに輸入車代理店のショールームに行って、夢中でクルマの写真を撮っていたこともありました。運転免許を取得してからは、兄と共用でフォルクスワーゲン ゴルフ1に乗っていました」
もともと機械いじりが好きだったというオーナーだが、クルマを操る楽しさを知るなかで「自分のクルマを持ちたい」という思いが強くなったという。
「当時は4A-Gを搭載したモデルが多かったので、選択肢があったんですよ。私は当初、同じエンジンを搭載するカリーナのセダンを購入する予定でした。ところが生産終了になってしまい、AE86にシフトしたんです。ハチロクの人気は、フレッシュマンレースなどの競技によって人気が上昇していました。結局、デザインが好みだったレビンを選びました。
新車でオーダーしたこともあって、納車されるまでは、まるで子どもがクリスマスプレゼントを待っているようでしたよ。毎日のように販売店に確認して『今日は来てるかな?』って(笑)。あのワクワク感は、今でもよく覚えています」
そしてオーナーはレガシィツーリングワゴンGT-B(BH5型)、トヨタイスト1.5S-Lエディション(NCP61型)、ホンダオデッセイアブソルート(RB3型)、現在はトヨタアクアG’s(NHP10型)、を並行して所有していたそうだ。走行性能やグレードとオーナーのこだわりの選択を感じる。
「レビンにベビーカーおよびチャルドシートを搭載・取り付けしてファミリーカーも兼ねていた時期もありましたね。しかし、2人目が生まれてから、さすがに手狭になってきました」
ライフスタイルに合わせてクルマを乗り換える場面もあったなか、レビンを維持し続けたオーナー。「このクルマを手放したくない」と思うようになるまでの心境とは?
「若い頃は、このレビンじゃないとダメだという気持ちはなかったんです。もちろん好きで乗っていましたけど、他のクルマに乗り換える選択肢も普通に考えていました。でもあるときふと思ったんです、これだけ長く乗っているのに、なぜか手放さないな…って」
そうした矢先、オーナーは大きな事故を経験することになる。
「クルマを壊したときは、さすがに修理してから売ろうと考えました。でも、修理しているうちにやっぱり手放せないと思ったんですよね」
若い頃はひとつのクルマにこだわることはなかった。しかし、長く乗り続けるうちに「人生の一部」のような存在になっていたようだ。そんなレビンも経年劣化には抗えない。一般的には、経年劣化やトラブルを機に手放す人も多いかもしれない。しかしオーナーが選んだ道は違った。このクルマに新たな命を吹き込む機会と考えたようだ。
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(画像提供:ご本人様)
「2021年4月、ガソリン漏れが発生したことをきっかけに、お世話になっているショップにフルレストアといえるくらいの修理を依頼したんです。2年以上をかけて、スポット増しなどボディ補強からエンジン製作に至るまで、徹底したリフレッシュを行いました」
劣化した部分を交換するだけでなく、現代に合わせた仕様へとアップデートされている。
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(画像提供:ご本人様)
「外装はオリジナルを大切にし、カラーリングも当時のままの白黒ツートンを維持しています。エンジンはAE92後期型に搭載されていた「4A-GE型」をベースに、戸田レーシング製のハイコンプピストンを、シリンダーヘッドとブロックは面研し、ダミーヘッドボーリングも実施しました。タペットカバーもオリジナルの風合いを再現して塗り直してもらっています。
駆動系は、タカタテクノサービス製のクロスミッションに、エクセディ製のクロモリフライホイールおよび強化クラッチをセット。
吸排気系は、ショップオリジナルのエキマニに、サード製のメタルキャタライザー。マフラーは柿本製のステンレスマフラーです。ステンレスの輝きを抑えて車体になじませるようにしました。
冷却系は、セトラブ製のオイルクーラーや強化オイルポンプギアを導入しています。点火系は、従来のディストリビューター方式からダイレクトイグニッションに変更。制御は、LINK製のECUにより、シーケンシャル噴射方式となっています。
さらに、オルタネーターの容量アップやサード製の大容量燃料ポンプも装着。燃料タンクやウェザーストリップなどの純正部品で購入できるパーツは交換し、かなり細かい部分までリフレッシュしています」
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(画像提供:ご本人様)
ここまで徹底したリフレッシュを行ったなかで、もっともこだわったポイントはどこなのだろうか。
「オリジナルの雰囲気を重視したことですね。いかにも手を加えたような見せ方は好みではありません。『すごいね』といわれたいわけではないですが、見る人が見ればこだわりが伝わるようにしたい。AE86の持ち味を活かした、自分なりの理想形に仕上げることにこだわりましたね」
一つひとつの作業すべてが、意味のあるアップデートだ。「理想のAE86を追求した」というより「長く乗り続けるためにやるべきことを徹底した」という印象を受ける。そんなオーナーが気に入っているポイントを、さらに深くお聞きした。
「部分的ではなく、レビン全体の雰囲気や存在感が好きですね。今のクルマと比べると装備や電子制御が最小限で、それぞれの機能がシンプルに役割を果たしています。だからこそ、運転していてクルマの動きがダイレクトに伝わってくるし、走る楽しさを純粋に味わえるのだと思っています」
そして将来は、このレビンを息子さんに引き継ぐことも考えているという。
「いずれは息子に託す予定で、保険の手続きも終えています。彼はS2000やNSXに興味があるようなので、このクルマを無理に押し付けるつもりはないんです。気が向いたときに、自然とレビンに乗ってくれたらうれしいですね」
レビンを未来へ託すことを考えつつも、あくまで息子さんの気持ちと自然な流れを大切にしているようだ。そんなオーナーに、愛車と今後どう接していきたいかを伺った。
「今は1億出すといわれても、手放す気はありません。代わりとなるクルマがないので、これからも乗り続けるでしょうね。ただ、旧車である以上、多少なりとも壊れることは避けられません。動かさなくても劣化は進みますし、修理には相応の費用もかかります。いつのまにか乗る“覚悟”が必要なクルマになってしまいましたね。信頼できるショップや、経験や知識が豊富な人の協力が不可欠であることは確かです」
AE86が登場してから40年以上が経ち、メーカーもこれまでになかったアプローチを試みている。近年では、GRヘリテージパーツによるAE86純正部品の再生産や、水素エンジンのトレノやバッテリーEV仕様のレビンを製作するなど、新たなプロジェクトが話題となった。こうした取り組みについて、オーナーはどのように感じているのか尋ねてみた。
「AE86が注目される取り組みは、オーナーとして素直にうれしいです。弾みがついて、今乗っているレビンやトレノを維持しやすくする環境が整えばと願います。やはりメーカーでしか作れないものがあります。ドライブシャフトやブレーキキャリパーは優先して再販されていますが、経年劣化で抵抗が増えているハーネス関係・アルミボンネットなども販売してもらえるとありがたいですね」
「気づけば、そばにいた」。
そう思える愛車が、どれだけあるだろうか。40年に渡る年月のなかで、オーナーは何度も選択の機会を迎えたはずだ。しかし、レビンは変わらずそばにいた。あれこれと理由を並べるよりも、レビンと積み重ねた時間こそが確かな証だ。これからも変わらずオーナーと走り続けるにちがいない。
「変わらないもの」を持ち続けることは、時に覚悟をともなう。気持ちが揺らいでしまう瞬間だってあるかもしれない。しかし、気持ちを切り替え「このクルマこそが理想形」だと想いを新たにする。だからこそ、人は前を向けるのかもしれない。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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