特別養子縁組で実の親子となった「はるちゃん」のために手に入れた初の愛車2007年式三菱 デリカD:5(DBA-CV5W型)
クルマを購入する理由は人それぞれだ。憧れのクルマを手に入れたい、通勤や通学の足として必要になった、無事に定年まで勤め上げた自分へのご褒美……などなど。1台のクルマを愛車として迎え入れるまでにはさまざまなドラマがある。
子育て世代を例に挙げると、我が家にクルマがあると本当に便利だと実感した人も多いと思う。実家への帰省や家族旅行、真夏に子どもが熱を出し、朝一番で病院に連れて行きたい……などなど。必要なときに、すぐに使えるクルマがあるととても重宝する。
子どもが熱を出したり、大雨のなか、幼稚園や保育園まで送っていったり……。タクシーを呼んだり、レンタカーを借りればいいとはいかないような「いますぐにクルマが必要な状況」が実に多いのだ。
今回、取材することになったご夫婦は、ご主人が46歳、奥さまが48歳。それぞれ運転免許は取得していたものの、これまで1度もご自身のクルマを所有したことがなかったという。……というより、必要に迫られたことがなかったそうだ。
しかし、あるできごとがきっかけとなり状況が一変した。「特別養子縁組」という制度を利用して迎えた愛する我が子を育てるうち「ウチにもクルマが必要だ!」と実感し、愛車探しを決断したのだという。お互いにとって人生初の愛車だし、せっかくだから自分たちも楽しめるクルマを選ぼう!と、仕事と子育てのあいまに夫婦で話し合い、理想の1台として手に入れたのが、今回、取材したこちらのクルマだ。
「このクルマは2007年式三菱 デリカD:5(DBA-CV5W型、以下、デリカD:5)です。手に入れてから約7ヶ月、現在の走行距離はおよそ8.8万キロ、手に入れてから8千キロくらい走りました。あちこちカスタマイズされていますが、手に入れたときからこの状態でした」
「デリカ族」という言葉が存在するほど、長きにわたり多くのユーザーに愛されてきた三菱 デリカ。初代モデルの発売は1968年。5代目となる現行モデルは2007年にデビューし、「D:5」というサブネームが与えられた。車名の「デリカ」とは、荷物を運ぶクルマ(デリバリ・カー)から生まれた名前であり、「D:5」は5代目のデリカと、ミニバンシリーズのラージサイズカテゴリーという意味も込められているという。
デビュー当時の主な仕様は、排気量2359cc、直列4気筒DOHC「4B12型」MIVECエンジンを搭載し、最高出力は170psを誇る。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4730×1795×1870mm。先代モデルと比較して地上高が20mm高められ、駆動方式はフルタイム4WDを採用するなど、数あるミニバンのなかでも天候や路面状態を選ばない走行性能を実現したモデルといえる。
デビューからすでに16年が経過しているが、これまで前輪駆動やディーゼルエンジン搭載車の追加など、頻繁に仕様変更やマイナーチェンジが行われている。そして、2019年2月に行われたマイナーチェンジにおいてフロントマスクのデザインが大幅に変更された。多様性を持ったデザインを展開したことや力強いパフォーマンスと、プロテクションの安心感を表現したという「ダイナミックシールド」が採用されたことで印象が大きく変わった。
また、今回の記事では「特別養子縁組」という制度についても触れておきたい。厚生労働省の資料によると『「特別養⼦縁組」とは、⼦どもの福祉の増進を図るために、養⼦となるお⼦さんの実親(生みの親)との法的な親⼦関係を解消し、実の⼦として、新たな親⼦関係を結ぶ制度です。「特別養⼦縁組」は、養親になることを望むご夫婦が家庭裁判所に請求を⾏い、下記の要件を満たした場合に、家庭裁判所から決定を受けることで成⽴します。(原文ママ)』とある。
いろいろな理由で実の親による養育が難しい子どもが、実の親に代わって温かい家庭環境の中で健やかに育つことができるようにするための制度だ。
さまざま手続きを経て「特別養子縁組」が成立すると、子どもと実⽗⺟との法的な親族関係が終了し、子どもと養親との間で実の親子と同様の親族関係が⽣じることを意味する。つまり、戸籍上も養子ではなく、長男または長女などと記載される。特別養子縁組の年間の成立件数だが、近年は年間500〜700件前後で推移している。最新の集計によると、2021年は683件とのことだ。
このような過程を経て、正式におふたりの我が子となったお子さんを「はるちゃん」と呼んで溺愛しているという。取材のあいまにも、すやすやと眠る「はるちゃん」を気に掛けるおふたりを見ていると、目の中に入れても痛くないほど溺愛していることが容易に想像できた。
そんな愛する「はるちゃん」のために手に入れたデリカD:5、おふたりにとって初の愛車でもあるため、クルマ選びも悩みに悩んだようだ。
「私もそうですが、妻も登山やキャンプが趣味なので、荷物がたくさん積めること・未舗装路でも車高を気にせず走れること・個性的なクルマであること・車中泊ができること・サンドベージュのボディカラーであることが条件でした。
最初に候補に挙がったのがホンダ エレメントです。調べてみたら販売期間が短く、中古車の数も少ないんですよね。そこで、グランドチェロキーというアメリカ製のクルマの存在を知り、実車を見てそのまま衝動買いしそうになったのですが、クルマ好きの友人に『最初から中古の輸入車はハードルが高いからやめとけ!』と止められて……。
それならパジェロもいいかなと思いはじめたんですが、ある日、中古車検索サイトを見ていたときに見つけたのが現在の愛車です。すでに現在の仕様にカスタマイズされていて、見た目も条件もぴったり。もう一目惚れでしたね(ご主人)」
ご主人が一目惚れしたというデリカD:5、しかし、わずかな差で他の人に“押さえられて”しまったのだという。
「タッチの差で私たちより先に手付け金を持ってきた人がいたみたいなんです。ひとまずお店まで行ってみたところ、自分たち好みのクルマがたくさん置いてあって。たしかにどれも好みの仕様だったのですが、1台ずつ微妙に見た目が違うんですよね。やっぱり最初に見つけたデリカD:5がいいなぁと思っていたら、手付け金を払った人がキャンセルしたとお店の方から聞いて、即決しました(ご主人)」
こうして3人にとって理想的なクルマを手に入れることができたわけだが、実際に愛車を手に入れてみてライフスタイルに変化はあったのだろうか?
「これまでははるちゃんをベビーカーに乗せたり、抱っこひもなどで移動していたのですが、特に暑い時期の徒歩での移動は大変でした。妻が仕事で忙しいときは私が育休を取得してはるちゃんの子育てをした時期もあったのですが、ちょうど夏場で、抱っこひもで出掛けて子どもと2人で汗だくになったことも・・・。
念願のクルマを手に入れたことで、徒歩や自転車だと微妙に距離があって行けなかった公園やショッピングモールなどに出掛ける機会が格段に増えましたね。デリカD:5を買うまで、クルマが必要になったら近所の格安レンタカーでホンダ フィットを借りて移動していたのですが、大型連休など、需要が集中する時期は予約がいっぱいで借りられなくて困ったことが何度もあったんです。自分たちのクルマを手に入れたことで、そういった心配がなくなりましたね(ご主人)」
デリカD:5がかなりお気に入りのようだが、購入後、モディファイした箇所は?
「購入した時点で自分たちの好みの仕様にカスタムされていたので、手を加えたところはわずかです。まず、内外装と同じ色味のハンドルカバーを付けました。あとは、チャイルドシートとカーテンですね。それと、リアゲートに子どもの愛称である"HAL"というエンブレムを貼っています。"DELICA"の文字に似たデザインにこだわって探したので、ガソリンスタンドの店員さんたちが『こんなモデルあったっけ?』って話していましたね・笑(ご主人)」
はるちゃんのためでもあり、ご夫婦の理想を叶えた1台でもあるデリカD:5の気に入っているところは?
「見た目の雰囲気やデザインですね。手に入れてみて、リノベーションしたマンションのように、少し前のクルマをカスタマイズして乗るスタイルもありだなと思いましたね。車名のエンブレムや三菱のロゴまでサンドベージュに塗られていて、作り手のこだわりを感じます。それとベージュの内装も外装と同じ色合いで好みです。デリカD:5ってブラックの内装が多くて、ベージュは少ないみたいです。
はるちゃんのために購入しようとデリカD:5を選んだけど、自分たちの好みも重視した分、かなり満足度が高いです(ご主人)。目線が高いところもいいですよね。運転するのが楽しくて、仕事に行くときにデリカD:5を使うこともあるくらいです(奥さま)」
当初の希望どおり、まさに「個性的なクルマ」でもあるこちらのデリカD:5、周囲の反応は?
「このクルマを運転していると視線を感じることが結構ありますね。特にデリカオーナーからは必ずといっていいほど見られます(ご主人)。親族やご近所さんからは『めちゃめちゃかっこいい』っていってもらいましたね(奥さま)」
まさに家族の一員となったデリカD:5、今後はどのように接していきたいと思っているのだろうか。
「私が物心ついたときには家に父親のスバル360があったんです。動かなくなっても家に置いてあって、どこで知ったのか全国から『このクルマを売ってください』と人が訪ねてきてもすべて断っていたことを憶えています。デリカD:5には"HAL"の文字も貼ってあるし、将来、はるちゃんが『これ、自分のクルマなんだよ』って自慢できるようになるまで乗りつづけたいですね(ご主人)。はるちゃんをこのクルマに乗せて、これからいっぱい思い出を作っていきたいです。早くキャンプにも行ってみたいな(奥さま)」
自分たちの愛車に愛する我が子のニックネームを愛車のエンブレムとしてカスタマイズする。今回の取材を通じて、「HAL」という、たった3文字のアルファベットに込められたご夫婦のはるちゃんに対する深い愛情と、デリカD:5への愛着をひしひしと感じ取ることができた。
今後、はるちゃんの成長にあわせて、出掛ける場所や行動範囲もぐんぐん広がっていくだろう。家族3人でキャンプに行く日もそう遠くない未来に実現するはずだ。デリカD:5のサードシートを格納したことによってラゲッジスペースを確保しているので、キャンプ用品の置き場所にも困る心配もなさそうだ。
ご夫婦とはるちゃんにとって、これ以上ないといえるくらい理想的な愛車と巡り逢えたことで、愛車であると同時に「家族の一員」として大活躍するであろう、サンドベージュ色のデリカD:5。これから先も、はるちゃんの成長とともに、ご家族にとってかけがえのない思い出を紡いでいくことを願うばかりだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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