“つなぎ”のつもりが“かけがえのない”相棒に。2000年式日産スカイライン 25GT-X ターボ改(ER34型)
何らかの理由で“本命の1台”とは別のクルマを愛車にすることがあると思う。それでも結局長く乗ってしまうのは、クルマ自体が魅力的であるか、オーナーの懐の深さと楽しめる力量があるかのどちらか、ではないだろうか。
今回紹介するオーナーは、その両方に恵まれた人かもしれない。
以前、日産ステージア25RS/Sのオーナーとして登場いただいた、34歳の男性オーナーだ。
愛車のステージアの本来のグレードは「25RS」だが、理想のカタログモデルを目指してオーナー自ら設定し、手を加えた架空のモデル「25RS/S」だった(しかも、まったく違和感がないほどの完成度に、思わず脱帽してしまうレベルだ!)。
このときの取材で強く印象に残っていることがある。一貫して自己主張が巧みに抑えられているというべきか、これ見よがしでないところにオーナーの美学と人柄を垣間見た次第だ。
ステージアの取材時に、他にも魅力的な愛車を複数所有していると伺った。これは取材しないわけにはいかない!ということで、今回はもう1台の愛車、日産スカイライン 25GT-X ターボ改(ER34型)とのカーライフに注目してみたい。
「このクルマは2000年式の日産スカイライン 25GT-X ターボ改(ER34型/以下、スカイライン)です。2012年に就職活動で希望の会社から内定をもらってすぐに購入しました。当初はATでしたが、MTに換装してサーキット走行も楽しんでいます。納車当時の走行距離は12万4800キロでしたが、現在の走行距離はおよそ19万2600キロ。所有して今年で12年目になりました」
シリーズ10代目、R34型スカイラインは1998年5月にデビュー。先代(R33型)よりもホイールベースが短縮され、高められたボディ剛性から「DRIVING BODY」と謳われた。「ボディは力だ」というキャッチコピー、ヴァン・ヘイレンの「You Really Got Me」にのせて華麗なドリフトを決めるCMに、当時鮮烈な印象を受けた記憶がある。
オーナーの個体は、25GT-X ターボの中期型にあたる。ボディサイズは全長×全幅×全高:4705×1720×1375mm。駆動方式はFR。搭載される排気量2498ccの水冷直列6気筒DOHC24バルブICターボエンジン「RB25DET型」の最高出力は280馬力を誇る。
まずはオーナーに、このスカイラインを普段どのように乗っているのか伺ってみた。
「もう1台のステージアは父の形見でもありますし、最近は錆を避けるため雨の日は乗らないようにしているんですが、このスカイラインは天候を気にすることなく乗っていますね。街乗りだけでなく、サーキット走行も楽しんでいます。先日、友人たちと北海道までこのスカイラインで行き、“ケンメリの木”と一緒に撮影してきました」
サーキットを攻め込みながらロングドライブもこなす、オーナーにとってオールマイティに付き合える1台のようだ。ちなみに、取材に同席していただいた奥様もこのスカイラインを運転するそうで「乗りやすく、気軽に乗れる」点が気に入っているとのことだ。
そんなオーナーのカーライフ、まずはクルマ好きの原体験、そしてスカイラインとの出逢いから伺っていこう。
「私の祖父が西武グループに勤めていて、当時の販売チャネル『西武日産販売』で父がブルーバード(312型)、セドリック(P130型) 、セドリック(H130型)、・ローレル(C31型)を購入して乗っていました。その後もプレーリーとステージアで日産車を乗り継いでいますね。ですから、私が幼少期の頃は「プリンス系」ってあまり縁がなかったんです。だから、どちらかというとグロリアよりセドリックだし、スカイラインよりローレルでした。
でも、スカイラインも大好きで、小学3年生のときには夏休みの自由研究で父と一緒にスカイラインの歴史を調べ、中島飛行機~当時最新のR33スカイラインGT-Rまでのプラモデルを作り、ショーケースもアクリル板で作って学校に持って行ったこともありました」
スポーツ走行に興味を抱いたきっかけは?
「私自身、ベストモータリングやホットバージョンの影響をかなり受けています。ミニバンも含めた市販のノーマルカーがサーキットを走っていて、グランツーリスモがリアルになったような映像に夢中でした。運転免許を取得してからステージアで筑波サーキットなどを走ることもあったんですけど、走るならやはり『MT車に乗りたい』と、ずっと思っていました」
ベストモータリングやホットバージョンには、車載映像もふんだんに盛り込まれていた。ワインディングインプレッションやサーキットバトル、プロドライバーが鮮やかに決めるヒール&トゥなど、MT車ならではのドライビングテクニックを駆使した華麗な走りは、当時少年だったオーナーの心をがっちりと掴んだにちがいない。
余談だが、スカイラインのダッシュボードには、ベストモータリングやホットバージョンにも出演していた“ドリキン”こと土屋圭市氏の直筆サインが入っている。
愛車との出逢いは、オーナーの学生時代まで遡る。
「就職先から内定をもらっていよいよ社会人になるというとき、マイカーを持つことになったんです。いよいよMT車を買うぞとはりきったものの、大学時代は講義が忙しくてアルバイトがそれほどできなかったんですね。家にあるステージアが事実上、自分のクルマになっていた時期だったので、この際思いきってMTへの載せ換えも考えたんですが、ATの良さが失われてしまうのでやはりもったいないなと……。
本命はR34型のGT-Rだったんですよ。ベストモータリング編集部が所有していた車種でしたし、今も大好きなクルマです。しかし、学生の身分なのに中古車であっても当時300万円以上もするクルマを買えるわけがないですよね。そこでR34GT-Rに乗るまでの“つなぎ”として、手の届く範囲で楽しいクルマを探そうと気持ちを切り替えたんです」
当時、候補にあがった車種にはどんなクルマがあったのだろうか。
「シルビアやシリーズ3代目のプリメーラ20Vが候補でした。シルビアは価格が高すぎました(笑)。つなぎで買うのなら、ちょっと趣向の違うクルマが良いなと思ったので、プリメーラ20Vも候補だったんです。6速MTでVTECみたいな可変バルブタイミングが搭載されていました。当時、あまり人気がなかったようで、手が届く価格だったんです。
このクルマの中古車を行きつけの日産ディーラーで探してもらおうとしたタイミングで、「みんカラ」繋がりの友人がスカイラインを手放すと知りました。彼とはクルマ繋がりなのに、なぜかクルマに乗って会ったことはこれまでなくて(笑)。好きなアーティストが偶然一緒だったのでライブへ行ったり、食事したりしていた仲ですね。その友人に『売ってくださいよ』と冗談半分で言うと『本当に買う?』と返ってきて、トントン拍子で話が進んで“お友達価格”で譲ってもらうことができたんです」
こうして、縁あってオーナーのところに「嫁いできた」スカイライン。友人の愛車ながら実際に見るのは初だったというオーナー。当時の印象を伺ってみた。
「コンディションは良かったですね。友人もこのスカイラインでサーキットを走っていたので壊れたら修理したり、それなりにお金を掛けてリフレッシュしたりしていたようですが、何より歴代のオーナーさんが全員綺麗に乗っていたことに驚きました。私が4人目のオーナーで、歴代オーナーの中では最長だそうです。そういえば、好きな刑事ドラマの劇用車と同じだったことがうれしかったですね。『はみだし刑事』で同じシルバーのR34スカイラインが出てきます」
25GT-X ターボには本来、デュアルマチックM-ATx(4AT)が搭載されているが、この個体はオーナーによってMTに換装されている。詳しく伺ってみた。
「ミッション本体はネットオークションで購入し、作業はR34スカイラインの専門店『ストレンジ』にお願いしました。オークションなので出品元の素性やこれまでどんな使われ方をしてきたかがわからないため、最初は難色を示されたんですが、もし調子が悪いようなら、再度載せ換えをするという覚悟で説得して作業してもらいました。R34を取り巻く環境が大きく変わりましたし、現在では難しいかもしれませんね」
“つなぎ”のつもりがなぜ10年以上も乗り、ミッションまで載せ換えて維持するまでになったのだろうか。
「いちばん大きな理由として、当時の部品事情があったと思います。載せ換え用の部品や中古のミッションにあまり質の良いものが出回っていなかった。部品を待っていたら1年ほど掛かってしまいました。そしていざ載せ換えてみると、これが圧倒的に楽しくなってしまって…。同じクルマでもやはり変わりますね。気がつくと手放せなくなっていました」
MTに載せ換えることで走りの楽しさを味わったオーナー。心境の変化と魅力を語る。
「同じクルマでも、最近のように8速ATとかクロスレシオの多段ATだったらこれで十分と思えるんですが、4速ATだとワイドレンジなので“ゆったりな感じ”になってしまいますね。昔のクルマはMTのほうが楽しいなと思いました。ミッションを載せ換えてから、憧れていたGT-Rがいらないほど満足しています(笑)」
そう話すオーナーに、スカイラインに施しているモディファイも紹介していただいた。まずは購入当時から施されていたモディファイについて伺った。
「見た目はノーマルで、ATでもサーキットを楽しく走行できる“走行会仕様”でした。NISMOの機械式LSD、コンピューター、車高調、ブレーキパッドはサーキット用のものが入っていました。シートはRECAROのレザーのフルバケットシートに交換されていたんですが、友人が次のクルマに移植するとのことで純正に戻していたので、たまたま手頃な値段で売られていたシャレード・デ・トマソ用の純正RECAROシートを見つけて交換したんです。現在は Navan(日産純正) のRECAROシートにしています。ホイールはR34スカイラインGT-R用のものを流用しています。
あと、ステージアと共通の部品があるので、新品はステージアに取り付け、 “お古”をスカイラインに入れて使っています。綺麗に見えるようにしつつもあまりこだわりすぎない、お金をかけすぎないことを意識してはいますが、気づけばそれなりに投じていますね(笑)」
優先順位がありつつも、部品を共有できる2台のコンディションを効率良く維持する方法にはただただ感服した。続いて現在の仕様を伺った。
「外装は純正オプションのエアロを装着。車高調はオーリンズですね。最初はNISMOの純正形状にしていたんですが、やはりサーキットでは軟らかいと思いました。コーナー侵入時のアンダーステアが結構強かったので、純正のヘリカルLSDにした時期もあったんですが、物足りなくてまた機械式LSDに戻したりと行ったり来たりしました。
現在の完成度は75%くらい。あとはもう少し、しっとりとした乗り心地をプラスして街乗りがちょっとだけ楽になればと思い、NISMO×ヤマハのGT-R用パフォーマンスダンパーを流用したり、いろいろ試しているところです」
では、このスカイラインで「もっとも気に入っているポイント」は?
「“カクカクとしたデザイン”が気に入っています。R34スカイラインがデビューしたのは1998年で、同期にはトヨタのプログレとかアルテッツァ、スバルのレガシィB4がいます。あの時代のクルマはみんなロングホイールベースでショートオーバーハング。目の前に迫った2000年を予感させるスタイルを持っていますね。いっぽうでR34スカイラインは古典的、ハコスカやケンメリをリスペクトしたようなスタイルなんです。そこが渋くてかっこいいなと」
さらに「もっともこだわっているポイント」はあるのだろうか。
「メーカーのカタログに載っていても不思議ではない仕様に見せるところですね。例えば、R34GT-Rの純正18インチホイールのセンターキャップに、スカイラインの『S』のエンブレムにレジンを使って流し込み、あたかも純正オプションにあったかのような雰囲気にこだわってみました。あのホイールを履かせるなら、Sマークにしたいという思いがあったんです。R34スカイラインの純正17インチホイールに、オプションで『Sマーク仕様』というキャップがあったんです。それと同じデザインで作りました」
“つなぎ”のクルマからかけがえのない相棒となったスカイラインに、今後どう接していきたいのか伺ってみた。
「もはや手放せない存在……ですよね。あまり焦りすぎず、バランスの良さを出しつつ、いかにも『変えてます!』と主張しすぎないたたずまいを持つクルマに仕上げたいなと思います。見えない部分に現代の耐久性の高い部品を取り入れて維持していけたら良いですね。
これまで何度もサーキットを走っていますし、そろそろエンジンをオーバーホールしたいところです。しかし、GT-Rと比べるとアフターパーツも少なくなっています。特にエンジンは、GT-RのRB26系だとヘリテージパーツでブロックが再販されているんですが、RB25系はブロックもヘッドも製造中止、ピストンリングも出ません。ヘッドやブロックの使い回しができるうちにオーバーホールしたほうが良いんでしょうね」
幼い頃から憧れていたR34GT-Rへの今の思いは?
「所有してみたいとは思うんですが、部品が高騰していて維持に不安があります。我が家には手放せないクルマばかりですから(笑)。ステージアは手放せないですし、もう1台のローレル(C31型)も、父親が乗っていた頃の仕様にしている大切な1台なんです。
もし現行のGT-RやNISMOが出している特別仕様車のスカイラインに試乗する機会があればぜひ乗ってみたいですね。ただ、こういうクルマを作ることが最後だという雰囲気も感じられて寂しいです。可能なら生産し続けてほしいです。スカイラインって一種の哲学みたいなものだと思うので、言葉にするのは難しいですが、この時代までスカイラインやGT-Rの系譜が受け継がれていることは、改めてすごいと思いますね」
クルマ好き、そしてメーカーの人たちも、本能的に「もうこんなクルマは作れない(かもしれない)」と感じているのではないだろうか。これが杞憂に終わるのか、それとも……。少なくとも、楽しめるときに思い切り楽しんでおいた方がいいことは確かだろう。今回のオーナーもそんな1人だ。
冒頭の繰り返しになるが、ステージアと同様に、あくまでもさりげなく、それでいて分かる人には分かる「ツウ好み」なモディファイを貫くオーナーの美学とセンスはスカイラインにおいても変わることはない。取材ということで、ていねいに説明してくださったが、実際には声高に主張するタイプのオーナーではないことを重ねて記しておきたい。
そして何より、今回取材に同席していただいた奥様の理解があってこそ成立していることは間違いない。実は今回、オーナーの奥様もかなり魅力的な愛車をお持ちだということが分かった。こちらも改めて取材をお願いした次第だ。
想定外の愛車だったとは思えないほど、スカイラインへの愛が溢れるオーナー。しかし寛容でもあり、愛車との距離感もちょうど良いのかもしれない。
理想のカーライフを地でいくオーナー。スカイラインとオーナーのカーライフは、素敵な奥様とともにこれから先も続いていくことだろう。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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