26歳のオーナーの静かなる情熱とこだわりに満ちた愛車。1994年式トヨタ カローラFX 1600GT(AE101型)

  • トヨタのカローラ 1.3 GS(EE111型/欧州仕様)

「このクルマは運がいい。クルマの運命は嫁ぎ先で決まる」と記事内で表現することがあるが、それはこの取材を重ねるたびに確信に変わっていっていることのひとつでもある。

今回も、そんなオーナーと出会えた。決してガレージにしまいこむわけでなく、実用性と趣味のバランスをとりつつカーライフを満喫している。なぜオーナーの愛車が恵まれているのかは、順を追ってわかっていただけるだろう。

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主人公は26歳の男性オーナー。愛車はトヨタ カローラFX(AE101型/以下、カローラFX)だ。

カローラFXは、カローラの派生車種として1984年にデビュー。スポーツグレードの最上位モデル「1600FX GT」には、「水冷直列4気筒DOHCエンジン『4A-GELU型』」を搭載。これは当時、本格的2ボックスカーとしては日本初となるツインカムエンジンを心臓部に与えられた。

初代カローラFXはFFのホットハッチとして絶大な人気を誇ることとなった。また、全日本ツーリングカー選手権にも参戦し、1986年には同カテゴリーで総合優勝を果たすなど活躍した。

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オーナーが所有する個体はシリーズ3代目にあたる。

「このカローラFXは1994年式で、グレードは『1600GT』です。2014年に乗りはじめて8年目に入りました。納車当時の走行距離は5万1000キロ、現在は10万4000キロなので、私が走った距離は5万3000キロくらい。このクルマが初の愛車です」

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カローラFXのボディサイズは全長×全幅×全高:4095x1685x1375mm。駆動方式はFF。水冷直列4気筒DOHCエンジン「4A-GE型」を搭載し、最高出力は160馬力を発揮する。スタイリングは走りを感じさせるウェッジシェイプなデザインと端正なハッチバックデザインである。

室内はホールド性のあるスポーツシートや大型の3連アナログメーターなどを標準装備。ゆとりのあるトランクスペースも確保し、高い実用性を備える。

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オーナーのカローラFXを見て、まず息を飲んだのはそのコンディションだった。この個体が30年前のクルマだということに気づく人は限られるだろう。オーナーの気配りが車体の細部にいたるまで滲み出ている。

「撮影してもらうので、おめかししていかなきゃ(笑)」

とオーナーは謙遜するが、この取材を続けているとオーナーにしかわからないこだわりにも気づいてしまうことが多い。

例えば、タイヤワックスを均一にムラなく塗る細やかさ。タイヤを転がしながら少しずつ、そしてまんべんなくワックスを吹きつけて、丁寧に仕上げられていることが分かった。こうした気配りの積み重ねでこのコンディションはつくられていくのだ。

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「内装はある意味、外装よりも替えの効かないものなので、気をつけていますね。例えばシートのサイドサポートの擦れを防ぐため、乗り降りの際はなるべく擦らない姿勢をとっています。それからシフトノブも純正を大切に保管していて、実際に装着しているのは1世代新しいモデルの純正品です。

洗車は、雨の日に乗った翌日やディーラーへ行く前には必ずします。ただ、洗車方法にはこだわっていません。洗車機を使いますし、高級なワックスやコーティング剤は使っていません。紫外線には極力さらさないようにしていて、運転する日まで日数があるときはボディカバーを掛けています」

美しさをキープしつつも、ある程度の緩さを許容しながら実用的に接することがコンディション維持の秘訣なのかもしれない。

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このカローラFXが初の愛車となるオーナーだが、選んだ背景には歴代カローラを乗り継ぐオーナーの父親の存在が大きいようだ。そのルーツを伺ってみた。

「カローラは家族がずっと乗り継いでいるクルマで、私にとって昔から特別な存在なんです。父親は今も現行のカローラスポーツに乗っていますし、妹もカローラに乗っています。

なかでも以前父親が乗っていた6代目カローラの『GT』は特別です。実用的なセダンにスポーツエンジンが搭載されているギャップが好きです。もし良い個体が出てきたなら、乗り換えてしまうかもしれません」

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父親が所有する歴代のカローラを見続けてきたオーナーが感じる、カローラの魅力とは?

「個人的な感覚ですが、カローラというクルマはどんな時代でも価格以上のクルマづくりをしていて、ニューモデルを出すたびに期待以上である点が魅力だと思います。あとはもれなくMTモデルが設定されている点でしょうか。これは他車種にはないことで、こういう魅力が自分の視野を狭めているとは思いますけど(笑)。

父親が乗っているのを側で見たり、実際に所有したりして感じるのですが、30年近くの年月を経てもエンジンや電装品に耐久性があり、全体的に劣化を感じず、長く乗ることに優れている点もすごいですよね」

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オーナーの幼少期の原体験をふまえつつ、カローラFXとの出逢いを伺った。

「運転免許を取得してクルマを探すにあたり、『トヨタのセダンでMTモデル』という条件で探していました。アルテッツァも頭をよぎりましたが、やはり本命は7代目カローラGTでした」

カローラFXはセダンという形状とは異なるが、選んだ理由は?

「カローラGTの売り物が出てきても、コンディションの悪い個体ばかりでした。カローラFXのほうが同じくらいの希少性があり、価格や使い勝手を比較してみるとメリットのほうが多かったからです。

サンルーフ・実用性・ぽっちゃりとしたスタイリングも気に入りました。2ドアは今しか乗れないと思ったことも理由のひとつです」

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当時、すでに就職していたオーナー。東北エリアにあった個体を見つけ、休日を利用して新幹線で見に行き、即決して自走で帰ってきたという。納車当時はフルノーマルだったというこの個体に加えた、さりげなくもこだわりのモディファイを詳しく伺っていく。

「このクルマは『特別仕様車GT-LIMITED』という設定でモディファイしています。新車で購入して純正オプションで固めたというイメージです。フェンダーマーカーやツートンカラーなど90年代のアイコンに憧れがあって、それを表現してみました。

しかし私はこのクルマの現役時代を知らないので、カタログを見て『このグレードならこのパーツが付いていてもおかしくない』という時代考証を進めながら手を入れていきました」

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基本的に“当時モノ”にこだわるオーナー。カローラFXには「新車で手に入れて、純正オプションを加えていくとこのような仕上がりになるだろう」という雰囲気が表現されている。聞けば乗りはじめて1年後には全塗装しているというではないか!

「設定にない色は避けたかったので、カローラレビン(AE101型)のメーカーオプションカラーである『ミステリアスナイトトーニング』を選びました。

カローラワゴンはモールで色分けされていますが、カローラFXのリアバンパーはモールの位置がカローラワゴンよりも少し高く、色分けの位置を迷ったんです。そこでカローラ レビンのツートンカラーを参考にしました。レビンはモールより少し上で色分けしてあるので、カローラFXはリアバンパーの高さに合わせて色分けを指定しました。

その一方で、消耗部品はリフレッシュをほぼ完了しています。その他の主なモディファイは、シエンタの純正スチールホイールの流用。それからテールランプ・ウインカー・ルームランプを電球色のLEDに交換。足回りはTRDのサスペンションにしています。純正オプションのMOMO製ステアリングはブラックしかなかったので、内装に合わせてグレーに染め直してもらっています。

電球色はあのふわふわした感じが良いんです。さりげなく当時感を出しつつ、いかにも弄っている感を出さないように意識していますね」

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カローラといえば、海外でも人気であることは知られているが、海外から部品を取り寄せるということはあるのだろうか?

「『FX』のエンブレムとフロントグリルをパキスタンから取り寄せました。このパーツ、一度パキスタンに輸出されたカローラに付いていたもので、現地で使われてまたこうして“里帰り”した品です。『よく帰ってきたね』と声をかけてあげたくなりました」

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消耗部品はリフレッシュをほぼ完了しているというオーナーだが、部品の確保は思い通りにできているかのを尋ねてみた。

「このモデルだと、最近の車種の部品が流用できるんです。これが1世代前だと難しくなってきます。ネットオークションで買うと安くて助かりますね。ただ、買って使わなかったものも結構あります(笑)。

ある意味、一点豪華主義なんですよね。貴重な純正パーツが出てきたら躊躇なく買うようにしていますが、クルマ弄りは無限ですよね。そういう意味で『純正オタク』の場合、部品がそろえば完成するので、到達点が存在するぶん気は楽かもしれません」

そう話すオーナーだが、このカローラFXを納得がいくまで仕上げるのは容易ではなかったはずだ。社外パーツと比べて手に入りにくい部品も多く、なんとか購入してみたものの使えなかった部品もあるなど、苦労も多かったはずだ。

いっぽうで目標に到達した途端、クルマに飽きてしまうオーナーもいるなか、こうして丁寧なモディファイを施されながら走り続けるこの個体こそ「幸運」といってもいいのではないだろうか。

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絶大な信頼を寄せる主治医の存在についても尋ねてみた。

「メンテナンスはディーラーにお願いしていますが、担当メカニックの方には本当に感謝していて頭が上がりません。プロとして的確なアドバイスをしてくれますし、ベストコンディションで乗りたいという気持ちを尊重してくれます。こちらとしてもその気持ちに応えたくて、作業に負担をかけないよう事前に部品を調べていくようにするなど、できる範囲のことですが努めています」

最近はとくに素っ気なく乗るオーナーが多いなか、こうして大事に乗っているオーナーに出会うとうれしいのではないのだろうか。オーナーと主治医の良い関係も、カーライフを充実させるための大切な要素のひとつだ。

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さて、オーナーの父親が現行のカローラスポーツに乗り換えたことは冒頭でも紹介したが、オーナー自ら運転する機会もあったという。現代のカローラに乗ってみて率直に感じたことを伺ってみた。

「まず便利だと思いました。ナビも標準で付いていて、乗った瞬間に自分のスマホと同期して音楽が流れるだけで感動しました。しかもMTモデルなので運転も楽しめます。

いちばん印象的だったのはペダルを踏み込んだ瞬間ですね。レスポンスが驚くほど良くて、操作していて電子制御が介入しているのを感じられます。スロットルも軽くて乗りやすい。ただ、乗りやすさがかえって不自然な気がしました。ここまでの完成度ならば、MTでなくても良いのではないでしょうか。

そういう意味では物理的に動かすカローラFXのほうが“自然”だと思いました。手足のように動かせるのに、電子制御を入れることでこちらが操作をサボらなくてはいけないような気持ちになってしまいます」

いつのまにか現代のクルマはMTモデルでもエンストすらしにくくなり、ブリッピングもオート機能が備わっている。安全で快適な進化が正常ではあるが、趣味の視点から見ると、一抹の寂しさがあるのかもしれない。

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最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺ってみた。

「この先も変わることなく、普段からカローラFXを使いたいと思っています。実用性と趣味のバランスを、このクルマを購入した当初から追求してきました。今後はそういう部分を深めつつカーライフを楽しんでいけたらいいですね。もし新車を購入したとしても、このクルマと同じように乗っていくのだと思います」

「クルマの運命は嫁ぎ先で決まる」は言い得て妙だ。コンディションにこだわりつつも「あくまでもカローラらしく」と、実用車として接する姿勢にはプライドすら感じる。

オーナー自身は声高にこの仕上げを主張するタイプではない。この年代のカローラ/スプリンターオーナーでなければ気がつかないポイントもたくさんある。徹底的時代考証の結果、過度なモディファイも一切行われていない。手軽かつ定番のモディファイともいえるナンバー灯の白色LED化をしただけでも、この絶妙なバランスが崩れてしまうことを熟知しているのだ。

クルマの現役時代を知る筆者も、今回の取材を通じて、オーナーの「この静かなるこだわりと情熱」に脱帽し、心の底から感激し、つい筆圧が高くなってしまった。オーナーとカローラFXの素敵な関係が、これからも続いていくことを切に願うばかりだ。

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(編集:vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)