トレノは大好きな80~90年代に運んでくれるタイムマシン!



北米仕様にカスタマイズされたトヨタスプリンタートレノ(AE86)を所有されるユッティーさん。ちょうどAE86トレノが生まれた80年代から90年代のモノや雰囲気が大好きで、今では自室も昭和風に飾っているそう。今回はユッティーさんとトレノの物語です。

――ユッティーさんはいつくらいから、クルマ好きになったのですか?

中学生の頃からです。それまでは電車が好きで、特に古い貨物車が好きでした。先輩に「頭文字D」を勧められ、アニメを観たらハマってしまって。

――ではクルマが好きの切っ掛けは「頭文字D」だったんですね

いえ、まだその時はクルマが欲しいとまでは思わなかったんです。
ある時、なにげなく父に「頭文字D」の話をしたら、父が昔、トヨタ「スプリンタートレノ(AE86)」に乗っていたのを教えてくれました。

それで色々と話を聞いているうちに実車に興味が出て、自分も「免許を取得したらトレノが欲しい」って思うようになりました。

――なるほど、お父さんの影響だったんですね

はい。トレノ購入のためにバイトを始め、当時は頑張れば手が届きそうな価格だったんですが、蓄える以上のスピードで中古車価格が高騰してしまって……。

「これは無理だ」って購入を諦めたのですが、そんな僕を見かねたのか、祖父が援助を申し出てくれました。ありがたい話ではあるのですが、僕としては自分のクルマは自分で稼いだお金で買いたかったので、申し出を断ります。
この後はお金を出してくれようとする祖父と受け取りたくない僕の、意地の張りあいが始まっちゃって。

父が「いいからもらっておけ。これからトレノは、もっと買いづらくなるぞ」と間に入ってくれ、それでも納得できない自分がいる。結局、僕と祖父、父と3人で話し合い、互いに1/3ずつ負担することで話がまとまりました(笑)

――皆さん、頑固だ(笑)

ところが祖父にトレノを買うと伝えると、「そんな古いクルマじゃなくて、もっと新しくていいクルマを買え!」って、反対されちゃって。

さすがに受け入れることはできなかったのですが、父から祖父への説得や、祖父も知人から「トレノは人気のクルマで価格が高騰している」と聞いたことで態度が軟化し、最終的には納得してもらえました。

――新しくて丈夫なクルマに乗って欲しいっていう、おじいさまの気持ちも分かります。それではいよいよ購入ですね

はい。予算が決まったこともあり、本腰を入れて探し始めます。けれど程度の良いトレノは、なかなか見つからない。

それで遠方にあるAE86専門の中古車販売店に訪問することにしました。そこでスタッフさんに薦められたのが、北米仕様(カローラGT-Sスポーツ仕様)にカスタムされたスプリンター・トレノGT-APEXです。

――現在、所有されているトレノですか?

そうです。ボディカラーはミディアムブルーメタリックに塗装され、メーターもマイルメーターに交換済み。随所に前オーナーさんのこだわりを感じるトレノです。当初は黒銀ツートン(のボディカラー)が欲しかったのですが、他とは違うこのトレノが気になり、購入を決めました。

――おめでとうございます。具体的にいつの購入ですか?

一2023年の春です。最初に欲しいと思ってから8年が経っていました。

――はじめてトレノを運転されたときの印象は、いかがでした?

いやもう、ただただ嬉しいって気持ちが勝っちゃって、なにを考えていたのか全然覚えていないんですよ。事前に父から「乗り心地には期待するな」っていわれていたのですが、運転して「案外、(乗り心地は)良いな」と思ったのは覚えています。

――ここまで約一年半、トレノに乗られてきての感想を教えてください

やっと自分が所有していると思えるようになりました。これまではトレノを買ったのが夢のように感じられ、運転席に座っているのに「夢なら覚めるな!」って、願ったこともあります。

――8年越しの悲願達成です、喜びもひとしおですね。これまでにトレノを所有したからこそ、得られた経験や出来事はありましたか?

出かけた先で声をかけられる機会が増えました。家族のクルマに乗っていたときには、なかったことですね。海老名SAではマレーシアの方に声をかけられて面識を持つことができ、後日、その方がAE86界隈で有名な動画配信者だと知り、ビックリしたことがあります。

――やはり声をかけてくるのはAE86オーナーでしょうか

大半はそうですが、元オーナーの方も、よく声をかけてくれますよ。「自分も昔、ハチロクに乗っていたんだ」って、当時の話を聞かせてくれます。僕は80~90年代が大好きなので、聞いていてとても楽しいですね。

また、小さなお子さんや中学生くらいの子に「ハチロクだ!」って、声をかけられることもあります。単純に嬉しいのもありますが、かつてAE86オーナーに声をかけていた過去の自分が重なり、「自分も話しかけられる側になれたんだ」って、しみじみと感じますね。もちろん僕がそうしてもらったように、可能な限り彼らと交流し、運転席にも座ってもらっています。

あとは旧車オーナーの方ですね。おかげで多くの旧車仲間を得ることができました。

――ところで、80~90年代がお好きなんですか

はい。自室はブラウン管のテレビや黒電話、ファミコン、ジュースの空き瓶を飾り、80~90年代風にしています。あとトレノでの移動中も、当時の曲を流していますね。

――機会があったら、お部屋を拝見させてください。トレノに手を入れた箇所はありますか?

トレノはキレイに、そして長く乗り続けることを最優先に考えています。課題は消耗品を確保すること。

オイルが上がっているのか、それとも下がっているのか……エンジンの調子が悪くなってしまいました。友人からエンジンを借りられたので、2025年中に載せ替え、オーバーホールを施す予定です。

あと趣味でキンコンチャイムを入手しました。メーターがマイル仕様ということもあり、キンコンチャイムが取り外されていたんです。

――キンコンチャイムって速度警告装置のことですか?

そうです。僕の描くAE86には必須のパーツでした。トレノに配線自体は残っていたのですが、どうしても正常に作動させることができなくて……。仕方がないので手動で(キンコンと)鳴らすか、リバースギアに入れたら鳴るようにしたいと考えています。

――取り付けをあきらめず、応用する発想が素敵です。トレノを購入されて約一年半とのこと、もう長距離のドライブや旅行には行かれましたか?

はい。思い出深いのは2023年、WRCラリージャパンを観戦するため名古屋に行ったこと。競技は迫力があって楽しく、また「ランチアラリー」といった往年のグループBカーが走行する姿は、鳥肌が立つくらい感動しましたね。あの排気音は今でも忘れられません。

あと、たまたま開催されていた旧車イベントに遭遇でき、希少な旧車やクラシックカーを拝見できたのは眼福でした。オーナーさんのご厚意で「メッサーシュミット」に座るといった、滅多にない体験までさせていただきました。

――たしかに、それは貴重な経験です。オフ会やイベントには参加されますか?

トレノの調子次第なところはありますが、機会があれば参加しています。以前参加した「FUJI 86/BRZ STYLE 2023」では、参加車両のレポートに来た谷口信輝選手に話しかけてもらえました。それだけでも光栄なことですが、数時間後、別の場所で会えた時に「あっ、キミ知ってる!」って、覚えてもらえていたのが、とても嬉しかったですね。

あと、僕はホンダの「モトコンポ」に乗っていて、トレノにモトコンポを積んでイベントに参加したことがあります。当日はホンダのシャツを着ていたので、事情を知らない人に「ハチロクに乗っているのに、ホンダのシャツなんですか?」って、怪訝な顔をされましたね。もちろんモトコンポを見せたら、納得してくれました。

――トレノにモトコンポが乗るんですね。ユッティーさんはSNSでも活動されています。SNSが切っ掛けとなったミーティングや集まりにも参加されますか?

トレノが納車され、最初に参加したミーティングがSNS切っ掛けのAE86ミーティングでした。色んな人に話しかけ、また、話しかけられてと、なにもかもが初めての経験。

先にお話ししたマレーシアの動画配信者さんとも再会し、帰路を一緒に移動するなど、思い出の多い一日になりました。長距離の移動もあり、帰宅後は疲れがドッと出ましたね。

あとミーティングではないのですが、トレノの前オーナーさんが僕のアカウントを見つけ、SNSでメッセージをくださいました。実際にお会いする機会に恵まれたら、トレノを北米仕様にした理由をうかがいたいと思っています。

――それでは最後になりますが、ユッティーさんとトレノの関係を一言であらわすと、なんでしょう?

この先もずっと付き合って欲しい友達ですね。購入前、AE86は憧れでした。けれど一緒に色々なところに出かけて情が湧き、今は友達の感覚です。もし失うことがあったら、とても大きなショックを受けそうで怖いですね。

トレノは僕を80~90年代にタイムスリップさせてくれる、タイムマシンでもあります。僕が落ち込んだ時は非日常の世界に案内してくれ、元気づけてくれます。

トレノの運転席で、道だけでなく現代と80~90年代を行き来するユッティーさん。今後の目標はAE86を増車し、細部にこだわったラリー仕様に仕上げることだそう。これからもトレノのある日々を満喫しつつ、趣味のあう仲間と80~90年代談義に花を咲かせることでしょう。

【X】
ユッティーさん

(文・糸井賢一)

トヨタ AE86に関する記事