親から子へ乗り継いで20年。2003年式三菱エアトレック スポーツギア(LA-CU4W型)
自動車メディアで比較的取り上げられることが多い車種があることは事実だ。代表的な例を挙げれば、日産スカイラインGT-R(R32型)やトヨタ カローラレビン/スプリンタートレノ、いわゆる「ハチロク」など。スポーツカーや趣味性の高いクルマに注目が集まるのはいつの時代も同じだ。
事実、これらの車種には熱狂的なファンが多いし、新車で手に入れてから現在まで大切に所有しているオーナーも少なくない。なかにはいまや貴重な「2ケタナンバー」の個体もある。
このように、頻繁に自動車メディアに取り上げられるクルマがある一方で、実用車や、どちらかというとマイナーな車種を大切に所有しているオーナーもいることも忘れてはならないと思う。
スポットライトが当たる・当たらないに関係なく、等しく時間は流れている。そして、愛車を大切にしていることに変わりはない。今回、取材したオーナーの車種も、どちらかというとマイナーな部類にあたるかもしれない。事実、インターネットで検索してみたところ、今回のモデルに特化した記事が見当たらなかった。だからこそ、取材をお願いした次第だ。
「このクルマは2003年式三菱エアトレック スポーツギア(LA-CU4W型)です。母親が手に入れたクルマを譲り受ける形で私が所有しています。現在の走行距離は19万4千キロです。今年が2023年なので、親子でちょうど20年所有している計算になりますね」
2002年、乗用車の快適性とRVの使い勝手を融合させたクロスオーバーRVがデビューした。それが三菱エアトレックだ。その翌年の2003年、アウトドア志向の若いユーザーをターゲットに追加されたのが、オーナーが所有する「エアトレック スポーツギア(以下、エアトレック)」だ。
車高をノーマル比55mmリフトアップし、ルーフレールを追加装備。前後バンパーも大型化された。さらに、専用のフロントグリルの採用、後席シートバックを含むラゲッジフロアの表皮をビニール製に変更、樹脂製レールを採用するなど、アウトドアユースを意識した仕様変更も行われている。
ボディサイズは全長×全幅×全高:4550×1750×1685mm。搭載される排気量2350ccの直列4気筒SOHCエンジン「4G64型」の最高出力は133馬力を発揮する。
このエアトレック、ファーストオーナーは母親だという。まずはこのクルマを選んだ経緯を伺った。
「母は、エアトレックの前はミラージュに乗っていたんです。買い替える目的のひとつが、母親のライフワークである油絵の画材を載せられることが重要なポイントだったんですね。ミラージュからの乗り換えということで、当時発売されていたコルトプラスを考えていたのですが、ショールームにたまたまエアトレック スポーツギアが展示されていたんです。油絵の画材もリアのラゲッジスペースに収納できることが分かり、すぐに決めてしまいました」
偶然の出会いだったエアトレック。特に魅力的に映ったのは?
「このクルマのデザインですね。ショールームに展示されていたエアトレックを眺めていて、親子3人でいいデザインだなって思ったんです。ショールームで出会っていなかったらこのクルマを選ぶことはなかったでしょうね」
ちなみに、オーナーの愛車遍歴は?
「母から譲り受けたこのエアトレック1台のみです。私はいま44歳ですが、24歳のときからこのクルマと接していることになるわけです。ちなみに、私が母親から譲り受けてから12年ほどになります。平日は通勤の足として、仕事が休みの土日もエアトレックに乗るので、このクルマを運転しない日は年間数日程度です」
これまでの人生で所有してきた愛車はこのエアトレックのみ。乗り替えや増車するタイミングもあったはずだが、密かに気になっているクルマはないのだろうか?
「ギャランシグマ、あるいはFTOかGTOです。機会があれば、1度は乗ってみたいという想いがあります。いずれも三菱車ですね(笑)」
たしかに、取材中にオーナーから発せられるモデル名はいずれも三菱車ばかりだ(取材中、偶然、目の前をギャランVR-4が走って行く。思わずオーナーと2人でクルマを目で追ってしまった)。オーナーにとって三菱車ならではの魅力とは?
「両親のクルマも三菱車だったということもあり、我が家のクルマはずっと三菱なんです。逆に三菱車しか知らない……ということでもあるんですが(笑)。三菱車の魅力というと、デザインの良さと随所にこだわりを感じさせるクルマ作りの思想です」
では、オーナーの愛車であるエアトレックの気に入っているところも伺ってみよう。
「内装の話になりますが、シフトレバーやエアコンの吹き出し口、ダッシュボードの時計など、あらゆるところが“丸”で統一されているところです。やはりデザイン絡みなんですよね」
親子で20年、母親から譲り受けて12年。乗り替えるタイミングもあったと思うのだが・・・?
「実は、これまでノントラブルなんです。ディーラーの方からニューモデルのカタログをいただいたこともあったんですが、なにしろ故障しないので、新車に買い替える必要性を感じませんでした。そして何より愛着ですね。時が経てば経つほど愛着が深まっていくことを実感しています。それと、私はオリジナル派なので、モディファイはしていません。その分の費用を各部のリフレッシュに充てています」
モディファイよりもリフレッシュに重きを置くオーナー、どのあたりに手を入れたのだろうか?
「ヘッドライト本体を新品に交換しました。ディーラーの方に調べていただいたら、新品がまだ出るということで即決でしたね。その他、ドア周りのゴム部品、エンジンルームのワイパーの下にある樹脂製のカバー、リヤワイパーアームです。あと、スタッドレスタイヤ用に新品の純正ホイールを手に入れました」
同じデザインの純正ホイールをもう1セット、しかも新品を手に入れるとは!
「雪がほとんど降らない地域に住んでいるので、出番が少ないスタッドレスタイヤ用として使っています。今回、取材のお話をいただいたので、そのホイールを夏タイヤに履き替えてきました」
このオーナーのように、取材のためにわざわざ労力と時間をかけてまで愛車を仕上げてくださる方に何人もお会いしてきた。改めてこの場を借りて御礼を申し上げたい。オーナーにとって、愛車の主治医でもあるディーラーはとても頼りになる存在のようだ。
「部品の検索や注文など、いろいろと無理なお願いをしているにも関わらず、対応していただいて本当に感謝しています。担当の方がいらっしゃらなければここまで維持できなかったと思うんです。ずっとお世話になっている方で、店長になられてからも、私のエアトレックを見てくださるんです」
愛車のメンテナンスは主治医であるディーラーに託し、オーナーはコンディションを保つべく、定期的に洗車を行っているそうだ。
「ありがたいことに、自宅であるマンションには洗車専用のスペースがあるんです。ホースもあるので、水洗いもできます。洗車する前に管理事務所で申し込むことで使える仕組みなんですが、最近はあまり使う人もいないらしくじっくり洗えるんです。ワックスも自分で掛けます。お気に入りはシュアラスターの“スーパー エクスクルーシブ フォーミュラ”ですね。ワックス掛けってじっくりやる分、クルマのちょっとした傷とか、細かい変化が分かるんです。
その他、樹脂製の部品や内装用など、それぞれ使い分けていますね。ずっと手洗いしかしたことがないので、ガソリンスタンドにある機械洗車の使い方も知りません。ディーラーに入庫する前に洗車してから預けるので、担当の方には“洗車はしなくていいですよ”とお伝えしています」
さまざまなオーナーを取材してきたが、点検に預ける前に洗車するという方は初めて会った気がする。頼れる主治医の存在と、オーナーの深い愛情。この2つが成立しないと、1台のクルマとは長く付き合えない。気合いやお金だけではどうにもならないのだ。
最後に、愛車であるエアトレックと今後どう接していきたいのか伺ってみた。
「現状維持のつもり……だったんですが、今回の取材を機に初めてボディカバーを買ったんです。いままでどおり、ワックスの効果が持続する期間を維持しつつ、その都度、洗車して大切に乗っていくことは変わりません。しかし今後は、保存を優先しようと考えるようになりました。乗り替えることはあり得ませんが、末永く保存できるよう考えています」
オーナーの決意表明がその場の勢いで発せられたものではないことは直観的に理解できた。今回の取材がきっかけとなり、愛車と過ごしてきたこれまでの時間、愛車への想い、そして今後の接し方を考える「棚卸しの良い機会」となったようだ。その一助になったとしたら、同じクルマ好きとして望外の喜びだ。
冒頭の繰り返しになるが、自動車メディアで取り上げられやすいクルマのオーナーだけではなく、マイナーなモデルにこそスポットライトを当てて、オーナーと愛車のヒストリーを今後も紐解いていきたいと思う。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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