38年間、家族みんなに愛される世界一幸せなハッチャン!1984年式トヨタ カローラ レビン GTV(AE86型)

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)

タイトルに「世界一」のキーワードを入れようと決めたのはインタビューの後半だった。

実は記事のタイトルにこのキーワードを選ぶのは勇気がいる。多くのオーナーが「自分の愛車こそが世界一」だと本気で思っているからだ。まして、今回のクルマは世代を超えて高い人気を誇る「ハチロク」ことAE86型だ。

しかし、今回ばかりは自信を持って「世界一」のエピソードだと断言できる。なぜ、そこまでいい切れるのか……は、この記事に目を通していただければきっと共感していただけるはずだ。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のLEVINロゴ

今回の愛車のオーナーは60代の女性。このクルマとともに人生の多くの時間を歩んできた方だ。

嫁ぎ先で、クルマの運命が大きく変わる。そのことを改めて実感した。

「私のクルマは1984年式トヨタ カローラ レビン GTV(AE86型/以下、レビン)です。マイナーチェンジ前の前期モデルになります。当時、新古車として手に入れてから今年で38年、現在の走行距離は約22.4万キロ。このクルマとは主人や息子よりも長い付き合いなんです」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のメーター。22万3千kmもの走行距離を重ねている

今年でデビュー40周年を迎えたハチロクことAE86型カローラ レビン&スプリンター トレノ。今や親子2世代でこのクルマのファン(あるいはオーナー)というケースも珍しくないほど、長きにわたって愛されてきた超人気モデルであることはいうまでもない。

カローラ レビンおよびスプリンター トレノは、それぞれ「2ドアクーペ」および「3ドアハッチバック」が用意された。オーナーの個体は、当時そのなかでももっとも人気のある「3ドアのカローラ レビン」だ。現在は頭文字Dの影響もあり、「3ドア・スプリンター トレノ」の人気も非常に高い。

  • 2度のオールペンをし赤いボディが輝くトヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)

そんなレビンのボディサイズは、全長×全幅×全高:4200x1625x1335mm。駆動方式はFR。「4A-GE型」と呼ばれる排気量1587cc、直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は130馬力を誇る。

話を戻そう。このレビンは奥様が独身時代に新古車として購入し、現在にいたるまで所有している「新古車の実質的にはワンオーナーカー」だ。これまでに2度のオールペンを行っており、普段はビルトインガレージに収められていることもあり、ほれぼれするほどのコンディションだ。
それでも、細部に目を向けると、1人のオーナーともに歩んできた38年の歳月を感じさせる「生活傷」がある。それを「経年劣化」と表現するのは失礼にあたるほど、丁寧かつ惜しみない愛情が注ぎ込まれてきたことがひしひしと伝わってくる。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のフロントシート

そんな奥様がご主人や息子さんよりも長く接してきたレビン、独身時代にこの個体を手に入れることになったきっかけについて伺ってみた。

「それまで日産 ブルーバード(810型)に乗っていたんです。あるときこのクルマが壊れてしまい、早急に買い替える必要がありました。当時、本命はトヨタ クレスタでしたが、中古車といえども高くて手が届かなかったんです。そこで、トヨタのディーラーに勤めていた友人が勧めてきたのがハチロクでした。新古車にしたのは新車よりも安く手に入るから(笑)。浮いたお金でタイヤとホイールを交換しようと思っていたんです」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)の左サイド

意外に思われるかもしれないが、奥様はいまも昔も熱心なハチロク(レビン)フリークではない。縁あって、たまたま手に入れたのがハチロクだった・・・というわけだ。

「ちょうどハチロクがマイナーチェンジしたタイミングで、希望を伝えれば中古車のタマ数はたくさんありました。とはいえ、もともと選択肢になかったモデルだけに、こちらはレビンとトレノの違いすら分かりません(笑)。

そこでセールスである友人に質問したところ、『ヘッドライトが固定式なのがレビンで、リトラクタブルヘッドライトがトレノ』だと教えてくれたんです。どちらかを選ぶとするなら、私はレビンの方が好みでした。ボディタイプは友人曰く、3ドアが人気だというので、あまり深く考えずにこちらを選びました。ボディカラーだけは赤が良かったので、この色のクルマを探してもらったんです。たしか、1ヶ月くらいで見つかりましたね。それがいまの愛車です。まだ600キロくらいしか走っていない新古車でした」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)の正面

希望の仕様を伝えれば、走行距離が1000キロにも満たないハチロクの新古車が当時の適正価格で手に入る・・・。現在では夢のような話だが、ハチロクが現役の頃には決して珍しいことではなかったのだ。

オーナーである奥様自身、当時はレビンに対して特別な思い入れがあるわけでもなく、まさかここまで長い付き合いになるとは夢にも思っていなかったという。その後、いまのご主人となる男性と出会い、結婚することになるのだが……。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のドアの運転上のご注意

「結婚することになった当時は2人とも20代で、2台所有するのは難しいだろうという結論に至りました。そうなると、どちらかのクルマを手放さなければなりませんよね。そこで私は主人に“レビンは結婚してもぜったいに手放さないから!!”と、きっぱり伝えたんです」

どちらかというと、ご主人が奥様に対して「結婚してもこのクルマは売らないぞ!」と宣言して一緒になるパターンが一般的なように思えるのだが、今回のご夫婦の場合はその真逆。どちらかといえばレアケースかもしれない。取材に同席していただいたご主人に、当時のことを振り返っていただいた。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のリア

「結果として私が折れました(笑)。当時、ミニクーパー1300に乗っていたんですが、故障が多かったし、家族用のクルマとしてレビンを残すのが妥当だろうという考えはありましたね」

夫婦で1台ずつ所有できれば問題ないのだが、どちらも手放すつもりはないとなると・・・。持つべきものは理解あるパートナーということだろうか。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のエンジンルーム

それはさておき、その後、妊娠・出産を経てもオーナーはレビンを手放すことなく乗りつづけたという。ここでご主人が補足してくれた。

「息子が産まれてから1度クルマを買い替えようかという話になったことはあったんです。私自身、初代セルシオの中古車がいいかな……、なんて思っていた時期もありましたし。でも妻と少し話した程度で、実際に次のクルマを探すとか、見に行くといった行動には至りませんでしたね」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のシフトノブ

後述するが、レビンを乗りつづけたことが、息子さんの人生にも大きな影響を及ぼすことになる。もちろん、良い意味で、だ。

「まだ小さかった頃の子どもをチャイルドシートに乗せると、いつの間にか泣きやんでスヤスヤ寝てくれるんです。それでつい、眠っている息子を乗せたままドライブしたこともありましたね(笑)」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のナルディのステアリング

38年間の家族の思い出がギュッと凝縮されたレビン。これまでどのくらい手を掛けてきたのだろうか。

「手に入れてから8年くらい経ったとき、同じ色に全塗装してもらいました。それからさらに10年くらい経ったとき、今度はいわゆる“ドンガラ”状態まであらゆる部品を外して、錆も除去した形でセミレストアを兼ねたオールペンを。そして、いまから3年前にエンジンを息子の知り合いに頼んでオーバーホールしてもらったんです」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のトムスの井桁ホイール

オーナーのレビンはホイールやマフラーなど、さりげなく交換されている。このチョイスにもこだわりがあるのだろうか?

「長年、お世話になっているタイヤ屋さんに相談したところ、ホイールはTOM'Sがいい!ということで井桁にしました。私自身は、このクルマを購入する前から、ハンドルはNARDI、タイヤはADVANと決めていました。付き合いのあるタイヤ屋さんはBS系列のショップですが、無理いってADVANを取り寄せてもらっています。

これまで数回ステアリングを交換していますが、一貫してNARDIですし、現在、履いているタイヤも“ADVAN HF Type D”です。このレビンはパワステが装備されていないのでハンドルが重たいんですが、最近、タイヤサイズを195から185に替えてだいぶ軽くはなりましたね。マフラーはFUJITSUBO製、オーディオはcarrozzeria製に交換しています。」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のペダル

この年代のクルマを手に入れて「当時感」の演出にこだわる人も少なくないが、紫外線のダメージを防ぐためのダッシュボードカバーの自然なヤレ具合や、autolockのペダルなどの「当時モノ」を含めて必要に応じて交換してきた印象を受ける。そして、そのどれもがこのクルマにしっくり馴染んでいるのだ。これは「当時感」の演出が目的では再現不可能かもしれない。

実はこの日、オーナーである奥様とご主人に加え、息子さんとその恋人にも同席してもらった。言わずもがな、4人の共通点は「ハチロク」だ。息子さんにとって、このレビンは同じ時間を歩んできた兄弟のような存在といえるかもしれない。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)の4A-GE型エンジン

「私が母親のお腹のなかにいるときからのこのクルマのエンジン音を聴いているわけです(苦笑)。いまは別々に暮らしていますが、生まれる前からこのレビンと一緒に過ごしてきたことになるんですよね。そのクルマのエンジンをオーバーホールするわけですから、信頼できる方に託したい・・・。そこでレースにも参加している知り合いの方にオーバーホールをお願いすることにしたんです」

オーバーホールを機にエンジンをチューニングしたりする方もいるようだが、このレビンは敢えてそうしなかったそうだ。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のマフラー

「ヘッドが歪んでいたので面研してもらいました。あとは、ガスケットをTRD製の厚みのあるものを組み込んだくらいで、それ以外はノーマルのままです。オーバーホールはその方にお任せしましたが、エンジン本体の積み下ろしは私が行いました」

クルマのメンテナンスに関する知見をお持ちの息子さんだけに、オーナーも心強いだろう。するととなりにいたご主人が「私個人としてはインジェクションからキャブレターに交換してみたいと思ったんですが、オーナーである妻がOKしてくれないと思うので(苦笑)」と付け加える。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のリアのスピーカー

筆者を含めてその場にいた全員が奥様の方に目を向けると、無言で頷いた。つまり、そういうことなのだろう(笑)。するとすかさず息子さんが

「運転免許を取得してから2年半くらいは運転させてもらえなかったですね。初めて運転したのは、当時、アルバイトしていたガソリンスタンドまで洗車するために移動したときです。母はいまだに私に譲ってくれる気配がないので、自分でハチロクを買いました。3ドアではなく、敢えて2ドアのレビンを選んだんです。でも、自分の愛車と母のレビン、どちらが大事かと聞かれたら迷わず母のクルマを選びますね。いろいろな思い出が詰まったクルマですから。物心ついたとき、リアクォーターのあたりから雨漏りしているのを手で押さえた記憶もありますよ(笑)」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のリアビュー

ご自身が選んだ愛車(しかもハチロク)よりも、母親のレビンの方が大切・・・。これが取材用のリップサービスでないことはすぐに分かった。ここですかさず奥様が大胆(?)発言を。

「私はこのレビンのことを“ハッちゃん”って呼んでるんですけれど、主人と息子とハッちゃん、それぞれ崖から落ちそうになっていて誰を助けるかといえば迷わず“ハッちゃん”ですね(笑)」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のリアのVEVINロゴ

冗談ではなく、おそらく本気なのだろう。ご主人と息子さんは苦笑しつつも「まぁ、そうだろうね」といった具合に同意している。

奥様曰く「ことあるごとにクルマに話し掛けていますよ。“ハッちゃん今日もかっこいいね”とか(笑)。寝る前に“おやすみハッちゃん”とか。いまの家を建てるときも、まずハッちゃんありきで間取りを考えましたから。ビルトインガレージにして、家のなかからハッちゃんが見えるようにしたんです」

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)の再度のGTV、TWIN CAM 16のデカール

ご主人も奥様のとなりで「ガレージを造ったおかげで私の部屋がなくなりました」と苦笑いしているが、同時に納得しているようにも映る。ここまでしてもらえたらハッちゃんも幸せだろう。筆者が驚いているのを察してくれたのか、奥様が

「とにかくハッちゃんを運転して出掛けられるのが楽しくて仕方ないんです。旅行に行くにしても、ハッちゃんに乗って出掛けるのが目的で、現地で過ごす時間はオマケです。ハッちゃんに乗るために目的地を決めたり、出掛ける理由を考えていますね」

と伺い、さらに驚いてしまった(笑)。しかし、今回の取材中、運転していたのはご主人で、奥様は助手席に座っていたような・・・。夫婦とはいえ、これほど大切にしているハッちゃんをご自分で運転しないのだろうか?

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のカバーをかけられたダッシュボード

「運転中に助手席からあれこれいわれると気が散ってしまうんです。それなら助手席に座っている方が気楽ですし。ハッちゃんの運転を楽しみたいときは私1人で走らせます」

なるほど。ハッちゃんとの蜜月の時間は誰にも邪魔されたくないのだろう。最後に敢えて野暮な質問をぶつけてみよう。奥様はこのレビンと今後どう接していくおつもりなのだろうか?

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のサイドビュー

「いまのままの状態を維持していきたいですね。家族の具合が悪かったら病院に連れて行くように、ハッちゃんも調子を崩したらすぐに診てもらうことを心掛けていきたいですね。ハッちゃんが動かなくなるか、私が乗れなくなるか。どちらか先になるかは分かりませんけれど(笑)」

オーナーは愛車を溺愛しているけれど、家族からは冷ややかな目で見られているというケースは少なくない。良くて「黙認」だろう。しかし、ハッちゃんは家族みんなから愛され、大事にされている。オーナーの息子さんの恋人もハチロクオーナーということで(実は今回のオーナーを紹介してくれたのもこの方だ。本当にありがとうございました!)、ハッちゃんの行く末を案じてくれる家族が増えることは間違いなさそうだ。

  • 緑の中にたたずむトヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)

驚いたのは、「ハッちゃんありき」で家族全員の意見が満場で一致している。温度感の差がないのだ。そして、息子さんの恋人もハチロクのオーナーだ。それぞれがハチロクに対する知見を持ち、このクルマの魅力を理解している。まさに「チームハッちゃん」ともいうべき最強の布陣だといえる。そして、いずれハッちゃんが親子3世代で見守られていく日もそう遠くないのかもしれない。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)のエンジンルーム

これほど家族全員から大事に想われ、惜しみない愛情を注がれている愛車もなかなかないと思う。数あるハチロクのなかでも世界一幸せなハッちゃん。おそらく、自他ともに認めるハチロクフリークの方々にも共感していただけたのではないだろうか。

愛車広場のインタビューは筆者にとって「クルマ談義の延長線上」であり、毎回、仕事を忘れて楽しませていただいている。こんなカーライフを送ってみたいなあと思うことも非常に多い。そのなかでも今回は、終始笑いが絶えない、深く思い出に残る取材となったことは確かだ。

  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)が履いているADVAN HF Type D
  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)の運転席のドアの内張り
  • トヨタ・カローラレビン(AE86/ハチロク)

(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

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