『クルマは最高のトモダチ』 ハチロクの魅力…山田弘樹連載コラム
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- これは2代目ハチロク(通算4台)のモヒカン号。自動車評論家の島下泰久さんから、当時12万円(!)で購入したのでした
さてさて今回は、AE86(ハチロク)の楽しさについて迫りましょう!
ハチロクの魅力って、もはや語り尽くされた話題ですよね。
軽くて、FRで、たとえローパワーでも運転が抜群に楽しい。
そして昔はここに、“安さ”があったんです。
現在の高騰ぶりを考えると複雑な気持ちになるのですが、昔はハチロク、とっても安かった。私が免許を取った頃はまだほんのりバブルの感じが残っていて、本当にマニアかビンボーな走り屋しか乗らないクルマだったんです。
友達の誰かに相談すれば20万円くらいで手に入ったし、ピカピカなヤツでも30万円で「高いなぁ…」なんて言ってました。
そしてうまくすると先輩から、ボコボコになったトレノがタダでもらえる(笑)。
当時はレビンの方が、圧倒的に人気だったんですよ。ハチロクといえばレビン。
ボクなんか「ハチロク・レビン」というクルマだと思ってましたから。
ともかく、だからブツけることを恐れず、みんなガンガンに練習できたんですね。
そんなボクがハチロクを手に入れたのは、21歳のとき。ちょっと遅めなのは、自分の働いたお金でクルマを手に入れなければならなかったからです。
そりゃーもう、生活費を削りに削って、貯金してました。
そして第一回目のコラムでも書きましたが、お金が貯まったボクは、当時アルバイトをしていた出版社の自動車雑誌、「レブスピード」の個人売買をいちはやくチェック。年式は忘れたけれど、後期型のGTトレノを手に入れました。
このトレノは2オーナーの無事故車で、冷やかしで見に行ったらオーナーの方に、「キミのような人に乗って欲しい!!」と半ば強引に押し切られちゃったクルマでした。
2ドアのトレノなんて言ったら、当時は最悪に人気のないモデル(笑)。
本当は3ドアのレビンが欲しかったし、もっとボロで安いのを買うつもりだったんですが、結局43万円も払って大赤字という苦い思い出です。
でも、初めてのハチロクを手に入れてからは、毎日が本当に楽しかった!
もう、極太の骨を与えられたワンコのようでしたよ。
毎日どこへ行くにも、ハチロク。2,000円握りしめてガソリン入れて(レギュラーだったし!)、八王子方面の峠やら、箱根やら、たくさん走りに行きましたねぇ。
雪が降ったら夜中に国道を走って、真っ直ぐ走らないだけで大喜び。
ちょうどこの頃から「サーキットを走ろうよ!」という機運も高まっていて、先輩が主催する日光サーキットの走行会に走りに行くようになりました。そこで「お前結構走れるじゃん!」なんて言われたのが運のツキ。
今考えたら恥ずかしいくらいヘッポコなんですが、「えっ、オレうまいの!?」なんて勘違いをして、走りの世界にのめり込んでいったワケです。
ただそんなボクも、最初はハチロクが嫌いでした。それはコラムの第一回目でも書きましたよね。
だって当時ハチロクに乗っているヤツらといえば、ヤンキーかドリフト族というイメージ。板金したボディは金色とか水玉模様とかの鬼キャン仕様で、藤原拓海みたいなカッコいいヤツなんて、ボクの周りにはいなかった(笑)。
同じ小型FRでも、ユーノス・ロードスターの方が1000倍オシャレ!
でも、ボクにはハチロクしか選択肢がなかったんですよ。
必死で貯めたお金を使うなら、絶対に後輪駆動が良かった。EGシビックはSiRーⅡが抜群に速くてカッコ良かったんだけど、「FFにお金を払う余裕はない!」「前輪駆動は贅沢品!」と、本気思ってました。どこまでビンボーだったんだろう(汗)。
そんな調子だからシルビアや180SXなんて絶対買えないし。必然的に、ボクが買えるFRはハチロクしかなかったんです。
実はハチロクの前にロードスターを持っていたんですが、維持できなくて手放したんですよね……。
でもハチロクは、イメージとは大違い!なクルマでした。
実はとってもシンプルで、硬派だったんです。
エンジン(4A-G)は高回転まで気持ち良く回るけど、コーナリングはロードスターよりも限界が低くて、簡単に曲がらない。でもなんだかその感じが、とても楽しい。
パーツもたくさんあって、しかも安かったから、サスペンションの構造とかも勉強できた。
初代ハチロクのホイールは赤い、SSRのスピードスターでした。タイヤはツルツルの13インチ(!)で、アクセルをガバッと踏めばリアが簡単に滑りました。最初から機械式LSDが入っていたのも嬉しかったなぁ。
GTはリアがドラムブレーキなので、サイドを引くだけで180度ターンもできた。初めての“重ステ”は超新鮮で、アンダーステアも豪快に出してました(笑)。
ボクにとってはハチロクも超大切な“スーパーカー”でしたけど、それでも限界が低いから、ブツけずにガンガン練習できたんです。
当時としても10年落ちのクルマだったけど、トヨタ車は頑丈。細かい所はアチコチ壊れたけど、クルマの構造も何となく学ぶことができました。
だからハチロクに乗っていると、たとえビンボーでも、何か誇らしかった。ボクは違うけど、ハチロク乗ってるヤツはみんなうまかったしね!
そんなハチロクも、いまや高級車。かつての“おかわりグルマ”ではなくなってしまいましたよね。価値のないことがハチロクの価値!そこはボクも残念です。
ただ現役のハチロク乗りは、今でもガンガンに走らせてます。そしてきっと今になってアナタがハチロクを手に入れても、走らせればその気持ちがわかると思います。
本当は、現代にもハチロクのような存在があると最高ですよね。
ボクはその最右翼が、スズキ スイフトスポーツだと思っています。
でも本音を言えば、後輪駆動車が欲しい。やっぱりクルマのコントロールを学ぶには、FRの挙動が穏やかで一番いいと思うからです。
現行86も、とってもよいクルマ。でも中古車価格がまだ高いし、ビギナーが運転を学ぶにはちょっとだけ高性能。サイズもひとまわり大きいんですよね。
夢のような話だけど、スイフトスポーツかヤリスに直列3気筒エンジンを縦置きして、ジムニーか86/BRZの縦置きトランスミッションと駆動系をブチ込んで、BセグメントのFRハッチバックを作れたら。
あっ、ハッチバックじゃないとダメです。
コンパクトカーは人と荷物がきちんと積めることが大切。そうすればスポーツカーよりはたくさん売れるから、中古車が増えます。
そんなこと、本当にクルマが好きなトヨタとスズキの開発陣なら、わかっていると思います。でも、現代版KP61スターレットみたいな小型車ができたら……。
後輩たちのためにも、間違いなくボクは買いますよ!
(写真/テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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