『クルマは最高のトモダチ』風洞見たこと、ありますか!? HRC Sakura潜入取材!…山田弘樹連載コラム
みなさんゴキゲンよう!
突然ですが、「風洞」って見たことありますかッ!?
ふうどう? はいッ、コレです。
どーん!
風洞はレーシングカーや市販車の空力性能を向上させるために、人工的に風を流してボディや床面の空気の流れを解析する施設です。自分もこうした1/1スケールでの測定が可能な風洞を見るのは初めてでしたが、その規模の大きさには圧倒されました。
今回訪れたのは、栃木県さくら市にある「HRC Sakura」。そう、先日レッドブル・パワートレインズへの供給を2025年まで延長すると発表したホンダの、F1用パワーユニットを製作している施設です。
そしてこの他にも、スーパーGT GT500クラスに参戦するNSX-GTの開発を始め、モータースポーツに関係する車両の開発が行われています。
ちなみに先日発売されたシビック タイプRも、このSakuraでシミュレーター解析を行いながら、鈴鹿アタックに向けた開発を行ったそうですよ!
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今回訪れた「HRC Sakura」は、もともとは2015年のF1復帰のために作られた「HRD Sakura」(Honda Research and Development Sakura)でした。敷地は230ヘクタール。お約束の東京ドーム換算だと、約50個分! の敷地内には、今回見学した施設だけでなく、先進安全技術の開発を行うテストコースもあるのだそうです。
今回どうして私がこのHRC Sakuraに訪れたのかというと、それは今年の1月にホンダが、新生HRCをスタートさせたから。
HRC(株式会社ホンダ・レーシング)はこれまで2輪のレース活動を担ってきた会社ですが、今後は4輪の研究開発も一緒に行うことになったのです。だから4輪のモータージャーナリストやメディアに、ホンダがこれを公開してくれたわけですね。
ということでシャシー・フェチである私が真っ先にご紹介したいのは、先ほどチラ見せした風洞施設!
サクラ風洞はふたつの風洞設備を使い分けながら車両開発を行っているのですが、まずは「オープンジェット」と呼ばれるシステムから見せて頂きました。
真っ暗な測定室で説明を受けた後、いよいよ風洞内へ。目の前にはカーボン地むき出しのNSX-GT '21年モデルがセットされていました。
うはー、カッコいい!!
機械の作動音と共に前方から風が吹き始めると、同時に地面を仮想したムービングベルトが動き出し、実際にマシンがコースを走る状況がシュミュレーションされます。
そして今回は、オープンジェットでの最高速となる、時速200km/hまでその速度を上げてくれました。
もちろん相手は空気ですから、その流れを目で見ることはできません。
ダウンフォース(荷重)はムービングベルト下にある計測器で、ドラッグ(空気抵抗)はタイヤに連結するポスト(支柱)にある計測器で計測され、その圧力分布状況を可視化して、測定室にいるエンジニアの方達が分析します。
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風洞テストの良いところは、変更点や試作したパーツをすぐにその場で、同一条件のもと何種類も試せること。測定室ではそのテストで得られたデータをグラフやCFDモデルで可視化して、空気の流れを確認しながら性能を高めて行きます。
それでもエンジニアの方が、「リアウイングがプルプルと震えているのは、ダウンフォースの影響なんですよ」と教えてくれて、なるほど! と思いました。
ムービングベルトが作る路面は、真っ平ら。つまりレースなんかで見るウイングのあの揺れって、路面からの振動だけじゃなくて、ダウンフォースが起こしていたんですね。
でも時速200km/hって聞くと、「GT500マシンにしちゃ、ちょっと速度が低くない?」って思いませんか?
そう、このオープンジェットは低中速領域での空力特性を計測する機械なんです。その地面はターンテーブル式になっていて、ヨー角を着けることができるんですよ。
その可動領域は、0~10度まで。実際のコースでは2~3度が主な使用領域とのことですが、ときおり自然風の影響を大きく受けるときがあるので、10度までテストするそうです。
ムービングベルトの上を時速200km/hで走る(?)NSX-GT。今回ハンドルは真っ直ぐですが、ターンテーブルでヨー角を着けたとき、ステアリングにも舵角を着けることができます。ただGTカーはフォーミュラカーほどステア感度が高くないため!? それほど舵角に対するデータは求められないのだとか。またタイヤの適正温度領域で測定したいときはベルトの速度を高めたりと、書き切れないことが沢山! レースヲタには、至福の時間でありました。
対してストレートでの空力特性を高めるために使うのが「AWS」。
これはアダプティブ・ウォール・システムの略称で、文字通り稼働式のアクリル壁を動かして風洞内の流速を上げ、高速領域を再現します。ちなみにAWSでは、288km/hまで再現可能です。
そしてこのサクラ風洞は、オープンジェットとAWSが相互に入れ替え可能な、世界初の風洞システムなんだそうですよ。
ちなみにNSX-GTで280km/hを出すと、コーナーでは遠心力に対して強いダウンフォースを発揮させてタイヤをグリップさせ、ストレートではそのドラッグ(走行抵抗)をできる限り少なくする。このふたつが、レーシングカーに求められる空力要素の主たる要素です。
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風洞内にある巨大な扇風機も見せて頂けました。その大きさ、なんと直径8m!! ここで作られる風が“ロの字”型の通路を循環してマシンに吹き付けられるわけです。
そんなダウンフォースは約1.5tにもなるそうです! その車重はおよそ1000kgほどですから、実に1.5倍ほどの荷重が、ボディに掛かるわけですね。
これ、どういうことだか解りますか?
つまりNSX-GTが280km/hでトンネルを走ったら、理論上ですが天井を走れちゃうわけです!いやー、すごい。実際現役のホンダドライバーからも、「GTカーはスーパーフォーミュラよりも車重は重たいんですけど、ダウンフォース量は多いんですよ!」と聞いたことがあるのですが、こういうことだったんですねぇ。
そういやかつてミハエル・シューマッハが、メルセデスSLS AMGでトンネル一周してたなぁ。NSX-GTなら、ずーっと天井走っちゃうのかな?
いやぁ、すっかり空力の話ばかりになってしまいました。
ということで次回はF1パワーユニットの「RV」(Real Vehicle Bench)や「DIL」(ドライバー・イン・ザ・ループ・シミュレーター)、そしてF1で現場への指示を出すあの司令室、SMR(Sakura Mission Room)でお聞きした、面白いお話をしたいと思います。
お楽しみに~!
(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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