『クルマは最高のトモダチ』オッサンが乗れるレーシングカー(笑)。これが僕の最高の名車!…山田弘樹連載コラム
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なんと日本に導入されたラディカルSR4は、きちんとナンバーを取得して公道走行が可能でした。というのも当時の日本は(今もかな)、純粋なレーシングカーを買ってサーキットでその走りを楽しむというスタイルが根付いていなかった。どうしてもナンバーを付けたいという声が多かったんです。 フロントウィンドーがない状態で走ると、まさに窒息寸前!? お目立ち度も抜群でしたが、やっぱりこういうスポーツカーは、サーキットで走らせるのが一番だなぁ。
先日、寄稿している雑誌の編集部から「ワタシにとってはこれが名車!」(仮)というお題をいただきました。世間はどう思っていても、自分にとってはこれが名車である! というクルマについて、熱く語って欲しい、というオーダーです。
いいお題ですねぇ。
そして私が選んだのは、ラディカルSR4でした!
………って、知りませんよね?(汗。
同じく編集部からも、「他のジャーナリストさんたち、割とみんなが知ってるクルマやバイクを選んでいて……。ヤマダさんの選んだクルマだけが、際だって目立ってしまうのです」と、やんわり言われました(笑)。
つまりこの提案は、ボツ!
でもですね。ラディカルSR4は、真のクルマ好きにとって、夢のスポーツカーなんですよ。クラブマンの心をこれでもかっ! というほど理解して作られた一台なんです。
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安全なクローズドコースで思い切り、ピュアレーシングを走らせる。マイペースでコツコツ練習して、少しずつそれを自分のものにして行く。こうしたスタイルが、日本でもこれから少しずつ増えて行くと思います。そういう意味でラディカルは、ちょっと導入が早すぎたなぁ。ちなみにSR4のタイムは、当時のSタイヤを履いて190PS仕様で1分54秒台くらい。250PSのレーシングパッケージングだと1分48秒台をマークした記憶があります。きちんとレーシングスリックを履いたら、もっと速く走れるでしょうね。でも、何度もいうけれど、ラディカルSR4の魅力はタイムだけじゃないのです。
ボクが初めてラディカルと出会ったのは、今から10年くらい前。
当時輸入元を務めていたサカクラ・テクニカル(STO)の坂倉克之さんが、「ヤマちゃん、理想のスポーツカーに出会ったんだよ!」と興奮気味に、ラディカルを紹介してくれたのでした。
ちなみに坂倉さんは元トヨタ自動車のエンジニアで、スーパーセヴン好きが高じてレースを始め、最終的にはこれを販売するようになってしまったカーガイ。そんな坂倉さんが、「現代のスーパーセヴン」と表現したのがラディカルでした。
それはスポーツカーというよりも、“小さなレーシングカー”でした。
スリーサイズは全長3660×全幅1630×全高1080mm!
車重はなんと490kg!?
オープントップの2シーター、その車体中央に積まれたエンジンは1.3リッターの直列4気筒DOHCで、最高出力はなんと190PS/10500rpm!
「いちまんごひゃっかいてん」でピークパワーを発揮する、自然吸気のエンジンですよ?
興奮しませんか!?
ははーん、と思ったアナタ、するどいッ!
そうです。これはリッターバイクのエンジンなんですね。
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ボクが乗ったSR4は、SUZUKI隼の1.3リッター直列4気筒を搭載し190PSを発揮していました。そしてこれを専用ECUで200PS、クランクチューニングで250PSにまでパワーアップ可能でした。エンジンは横置き配置だけれど、ユニットそのものが小さいので、運動性能は素晴らしくクイック。バイク用のユニットを流用しているので、なんと駆動はチェーンドライブ! 小さいけれど過激で、そして愛らしいレーシングカーでした。
ボクが乗ったラディカルSR4は、「SUZUKI隼」のエンジンでしたが、バリエーションとしては他にも、「カワサキ ZZR」の1.2リッター仕様がありました。
バイクのエンジンを用いたのは、当然コンパクトでハイパワーだからです。なおかつ、オーバーホールもリーズナブルに行えるという理由がありました。
さらにいうと、トランスミッションまでそのまま使います。そう、ラディカルSR4のシフトパターンは、1速の次がニュートラルなんですよ。
スペックだけを聞くと、さぞかし過激なマシンだと思うでしょう。
そして実際ラディカルの走りは、その名のごとく“過激”でした(笑)。
ただそれは、レーシングカーが持つ激しさであり、むしろピュアだった。そしてボクは、何よりこのスポーツカーが持つスピリットに、感動させられたのでした。
ラディカルのコンセプトは、わかりやすく言うと「オッサンのためのレーシングカー」でした。
モータースポーツを極めて行くと、その果てにはフォーミュラカーが見えてきます。その頂点はご存じ、F1ですよね。
速く走ることを最優先にしたフォーミュラカーのレイアウトは、純粋なミッドシップ。車体中央に一番の重量物であるエンジン+トランスミッションを縦置きで配置し、オイル潤滑をもドライサンプにして重心を下げる。そして、人間も合わせてミドシップを完成させる、物理的にも最強のレイアウトです。
これを乗りこなすには、端的に若さが必要。高い動体視力や反射神経、スピードセンス、そしてフィジカルが求められます。
いまでこそフォーミュラ4やフォーミュラ3を楽しむジェントルマンドライバーも出てきましたが、10年前だとそれは完全な若者たちの世界。F1を頂点としたプロカテゴリーを目指し、
「誰よりも速く走りたい!」
「俺はレースで生きて行く!」
と心を決めたヤングの中に、オッサンが割り込んで行くのははばかられました(笑)。
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シートは助手席までがワンピースで作られたFRP製。きちんとサイズを合わせるなら、ここに発泡ウレタンで自分用のシートをはめ込む必要があります。シフトチェンジは、中央のレバーを手前に引いて行うシーケンシャルタイプ。さらにエア・アクチュエーターを付けると、パドルシフトにすることもできました。
だったらもう少し、ゆるいマシンで楽しめないの?
しかも最高のバランスを持ったレーシングカーで。
そんな思いを込めて作られたのが、ラディカルだったんですよ。だからこそラディカルは、2シータースタイルを採っているんですね(シングルシーターのバージョンもあったのですが)。
なぜか? その果てに見ていたのは、偉大なる草レース「ル・マン24時間耐久レース」だったからです。ジェントルマンドライバーでもラディカルで走りを磨いて、最後はル・マンに出よう! 出られるくらいのドライバーになろう! つか、みんなで集まって、これでレースしようよ(笑)。
というコンセプトのもとに、フィル・アボットさんとミック・ハイドさんが1997年にイギリスはケンブリッジ州のピーターバラで起こしたラディカルカーズ。このコンセプトはイギリスを中心に受け入れられ、いまでも世界中で「RADICAL CHALLENGE CHAMPIONSHIP」が展開されています。そして実際ラディカルは2006年に、「ラディカルSR9 ジャッド」というパッケージングで、ル・マン出場の夢を果たしているんです。
日本でもこうしたレースが開催できるくらい、ラディカルが売れたら良かったんですが……。10年前だとそうした自動車文化は、残念ながらまだ花開いていませんでした。
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リアセクションには巨大なウイングとディフューザーを装備しており、ショートホイルベースでもダウンフォースはバッチリ効いていました。ちなみにシャシーがパイプフレームで、ボディカウルやパーツ類が高価なカーボン製ではなくFRP製となっているのは、コスト高騰を防ぐため。万が一のクラッシュでも安価に交換ができ、補修して直せる、クラブマンコンセプトで作られていました。
オッサンが乗れるレーシングカー(笑)。しかしその走りは、最ッ高に刺激的でした。
190PSのパワーを490kgの車重で走らせる。富士スピードウェイの1コーナー、そのブレーキングポイントは、果てしなく奥の方。ツーリングカーに乗り慣れた自分にとっては、どこまで行ってもブレーキが余ってしまうほどでした。
そしてボクは、このラディカルSR4で初めて、本物の「空力」を体験しました。その床面は、完全なフラットボトム。車高を下げれば下げるほど、そのダウンフォースは強くなって行きます。なんとシートポジションが合わないまま乗り込んだ100Rコーナーでは、傾いた首が元に戻せないほどの横Gが。あとからロガーで確認したら、2Gも最大Gが発生していました。
エンジンはレスポンシヴで、シフトダウンのキレも抜群。でもカミソリみたいなピーキーさはなくて、アマチュアにも頑張れば扱える柔軟性がありました。
ちなみにSR4には250PSのレーシングパッケージもあったのですが、190PSで何も文句ナシ! というかクルマは「走る・曲がる・止まる」のバランスが素晴らしければ、それで楽しいんです。
全てが一瞬のうちに過ぎ去ってしまう走りの中にも、ロジックはきちんとあります。走っている瞬間は本能的に操作しているんですが、脳ミソで理論を感じているというか……。
それをあとからロガーで精査して、初めて言葉にできるんですけど。
これってまさに、モータースポーツの魅力そのものなんですよ。
ボクはそんなラディカルが欲しくて欲しくて、仕方がありませんでした。ちなみに当時の価格は1098万円! 少ない台数やガス検査、安定した供給に対するコストを考えると、その値段は納得できたのですが、残念ながら10年前の自分には、それを手に入れるだけの勇気もお金もありませんでした。いや、今もないなッ!
でもユーズドカーが、半額くらいになったら狙える!
そう思ってずーっとチャンスを狙っていたのですが、残念ながらSTOは数年前に、ラディカルの輸入販売を終了してしまいました。
今でもたまにその刺激的な体験を思い出し、また乗りたいなぁ……と思い出に浸るラディカルSR4。たとえ世間はその存在を知らなくても、自分にとってはこれが紛れもない名車なのです。
(テキスト:山田弘樹、写真:市 健治)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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