『クルマは最高のトモダチ』「運転オタク」とスポーツの匠による未体験のシューズ…山田弘樹連載コラム

僕たちジャーナリストの間では、マツダがかなりの「運転オタク」だということはもはや常識です。
車両の動かし方はもちろん、シートやペダルの形状まできっちり作り込んで、その座り方や踏み方を、僕たちがヘトヘトになるまで、みっちり教えてくれます(笑)。

そんなマツダの車両開発エンジニアである梅津大輔さんが、マツダが考える運転操作のノウハウを投入して、ミズノと共に作り上げたドライビングシューズが、今回紹介する「マツダ/ミズノドライビングシューズ」です。

……って、ネーミングそのままですね(汗。
でもこのシューズの美点は何より機能で、その飾り気のなさがなんともマツダ/ミズノらしいのですが(笑)。

  • 左からミズノ グローバル研究開発部の佐藤夏樹さん、 グローバルフットウエアプロダクト本部のい南場友規さん、そしてマツダ車両開発本部の梅津大輔さん。通常の技術交流は勉強会で終わることがほとんどな中、「それだけで終わらせてはもったいない!」という気持ちが高まって今回のプロジェクトが現実化されたのだとか。梅津君いわく「ミズノのみなさんは、熱いです!」とのこと。めっちゃ熱い彼が言うのだから、相当です(笑)。

さて早速ですがこのシューズ、ドライビング用としてはかなり攻めてます。
このまま難燃素材にして、レーシングシューズとして使いたいくらい運転がしやすい。

つま先の微妙な操作が正確にできる上に、今回は1時間ほどの試乗でしたが、これなら「長く運転していても疲れないだろうな」という印象を受けました。
すばり耐久レースで履いてみたい!

その要となるのは、ベルト式のハイカットなボディと、ラウンド形状のソールです。

ところで4年ほど前にマツダの試乗会で、雪上ワインディングを走る機会がありました。
このとき試乗車にはGセンサーが取り付けられていて、ジャーナリストたちのアクセル操作を可視化していました。
この頃からマツダはペダルワークの大切さを説いていたわけですね。

そしてこのときのボクの運転とグラフは、自分で言うのも何ですがかなり優秀でした。
本来はエンジニアがそのグラフを見ながら、アクセル操作が雑になるとどれだけ挙動が乱れるかを説明しようと待ち構えていたのですが、その必要がなくなっちゃった(笑)。

でもボクは、とりわけ難しいことをしたワケじゃありません。その理屈を知っていたんです。

路面ミューが極めて低い状況では、アクセルやブレーキの操作で起こる荷重変動が、ちょっとの操作でも大きく出やすいのはわかりますよね?

だからボクはまず両脇を締めるように構えてハンドルを動かす手の動きを規制し、下っ腹に力を入れて上体を安定させました。
そして下半身は左足をフットレストで固定。右足はすねの筋肉に力を入れて、足首を細かく正確に動かせるようにした。

簡単に言うと、操作に力が入りすぎないように体を筋肉で固定して、ゆっくり正確に動かすようにしただけ。
これはペダルが小さなフォーミュラカーで、雨の中を運転したときに学んだ運転方法です。

ただこの操作をずーっとやると、すねの筋肉(前脛骨筋)が疲れるんですよね。自分の足(と靴)の重さを支えながら、これを緊張して維持するからです。

  • 派手さはないですが、デザインはよくまとめられていると思います。写真だとわかりにくいのですが、ボディの側面にはうねりがあって、これはマツダの「鼓動デザイン」を反映させたからだとか。ターゲットユーザーは40代以上の大人のユーザーとのことで、カラーリングも落ち着いた感じ。この手のシューズにしては野暮ったくないのもいいですね。

このシューズは、こうしたつま先を固定したり、引き上げたりする筋肉の動きをサポートしてくれるんです。だから楽に、正確な運転ができるようになる。
そこがこのシューズのミソです。

具体的にはハイカット部分を、ベルトで段階的に締め上げることで、そこにあるストレッチパーツが引き上げ動作を助けてくれます。

見た目はちょっと大げさだけどこのサポート機能には、すごく可能性があると思います。
長距離を運転するトラックやバス、タクシーのドライバーさんにも有効だと思うし、何より高齢者がクルマを運転するとき、ペダルの踏み替えがとても楽になるんじゃないかしら?

  • つま先の引き上げ時サポートだけでなく、アクセルを踏み込んだとき(底屈時)の動きもサポート。アキレス腱部分にジャバラ構造のメッシュを採用することで操作時にここがスムーズに潰れ、アッパーが変形するのを防げるのだそうです。

そしてもうひとつのポイントは、ソールです。
ドライビングシューズの特徴として、かかと部分をゴムで覆っているのはわかりやすい部分ですよね。
なおかつ、このゴムがラウンド形状になっているから、これを支点にブレーキからアクセルへと、つま先をクルンと回し込むように踏み替えできるんです。

より一般的なドライバーにも普及させたいなら、もう少しだけ形状を角張らせたりして動きを鈍くした方がよいと思いましたが、積極的にクルマを運転したいドライバーには、驚きのスムーズさだと思います。

ソールの剛性も高いので、ペダルの反力で足裏が疲れにくい。
そしてただ固いだけだと足裏感度が落ちるので、「MIZUNO COB」と呼ばれるインナーソールで、ペダルからのフィードバックを伝達しているのだそうです。

試乗はNAロードスターとCX-8で行いました。ロードスターのような寝そべるタイプだと、かかとを視点にしたペダルの移動や、カッチリとした靴底のフィーリングによって運転がより正確に楽しめます。

CX-8のように踏み下ろすタイプのクルマでは、足の自重を支えながら繊細な操作をする際に、ベルトサポートが効果を発揮。自分の靴と比べて、脛(すね)にかかる負担が全然違いました。この快適さ、くせになると思う!

いっぽうで、いわゆる歩行用シューズとしては、少し履き心地が固い印象を受けました。
フィードバックが敏感な分、大げさに言うと路面の様子が足裏に伝わってきます。そしてかかとが丸いから、踏ん張り感が少ない。ここらへんはトレードオフですよね。

もちろんレーシングシューズほどゴム部分が薄くないので、クッション性はある。革靴を履いているよりは快適です。スポーツシューズやスニーカーと比べると、カッチリ系。
クルマで例えるならレーシングシューズはレーシングカーで、このドライビングシューズはスポーツカーという感じでしょうか。操作性の高いクルマに乗るほど、その走りをダイレクトに感じ取れるでしょうね。

いいなぁ。運転オタクとしては、このシューズ欲しいなぁ。
でもこの「マツダ/ミズノドライビングシューズ」、お値段は36,000円(+税)と、ちょっと高いんですよね。
技術的には、それだけの価値はあると思います。

マツダR&Dセンター横浜ではプロトタイプも展示。左はマツダ側の要望を聞き入れて最初に作った底屈サポートの試作と、「MIZUNO COB」をつま先部分に投入したソール。左はマツダのデザイン本部がデザインしたデザイン案だそうです。靴でもクルマみたいにクレーモデル作るんですね。

ミズノとしては初めてのドライビングシューズとのことで(本当はかつて、セナの要望でレーシングシューズを作った歴史があるはずですが)、どれだけ商品として成立するか、慎重な部分もあるのでしょう。

ちなみにミズノ的な視点だと、プロスポーツ選手のオーダーシューズがこのくらいの価格帯なのだとか。へー、プロスポーツ選手のシューズって、もっと高いのかと思っていました。

そしてこのシューズ、実は話題のクラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」で本日、7月6日から販売が始まっています。
というかこのコラム原稿を書いている時点では、まだ発売前なんですけれど。

どうでしょう、きちんと売れているかなぁ?
マツダとミズノが作り上げた、限定1000足のドライビングシューズ。早期購入割引もあるようなので、気になる人はすぐにサイトをチェックです!

ボクはこれがきちんと完売して、もう少し低価格な、スリップオンとか作って欲しいなぁ!

(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[ガズー編集部]

あわせて読みたい!『クルマは最高のトモダチ!』山田弘樹コラム