『クルマは最高のトモダチ』ヤングタイマーに乗るということ…山田弘樹連載コラム

  • ポルシェ911カレラ

    先日、993で初めてサーキットを走りました! 街中は快適に、サーキットでは楽しく走れるようにと地道にセットアップを進めており、ブレーキ性能を確かめるべく遂にサーキットデビュー。そしたら、雪が降りました(笑)。果たしてその結果は? もう、最高です! ハラハラどきどきの初体験は、GENROQ誌「ロングタームレポート」をぜひご覧下さい。

突然ですが、95年式ポルシェ911カレラ(type993)を手に入れてから、丸4年が経過しました!
ん? だからどうした?

いやいやいや。
これでも993を手に入れてからは、「果たしていつまで乗れる(維持できる)のだろう?」と、いつも不安に思っていたんです。そしてさしたる根拠はないのですが「4年間がんばる」というのが、私にとってはひとつの目標でした。
新車で言えば車検を1回通して、もう一年。そのくらいの期間空冷911を維持することができたら、「ポルシェ乗った」と言ってもよいかな? って思っていたのです。
そして、がんばれました! もちろん今後も、可能な限り乗り続けるつもりです。

さてさてそんな993ですが、年始早々大きなトラブルが起こりました(苦笑。
問題の箇所は、デストリビューター。主治医いわく、「type993(と964)のNAエンジン車は、これが壊れると大変なことになるから点検しましょう」というのです。なんでもそのトラブルが、多発しているらしい。

  • <デストリビューター>

    オイル漏れを克服できれば、あとは意外と頑丈! だと思っていた993に、アキレス腱と言うべき弱点が見つかりました。それがこのデストリビューター。さっそく分解清掃をしようとしたら、まず固着して外れない(笑)。やっとの思いで取り外して分解すると、ベアリングの油は枯渇し、樹脂パーツは劣化し、結局はオーバーホールすることになりました。

デッ……デスビ!? そう、この頃の空冷モデルはまだ、ダイレクトイグニッションではないのです。しかも964と993は排気量を、3リッターから3.6リッターへと拡大したことから、燃焼効率を上げるために1気筒あたり、2つのプラグが付いているのです。
いわゆる、ツインプラグ。水平対向6気筒ですから、なんと交換時は12本のプラグが必要です(汗。

そんな993のデスビは、エンジンの動力を直接得て回るローターが、バンク下側の点火を担当。さらにこの動力を使って、ベルトを介して上側バンクの点火を行います。
そしてこのふたつのローターをつなぐベルトが切れると、大変なことになる。ベルトが切れたところでローターが止まると、1気筒だけに火花が連続して打ち付けられて……。

なんとピストンが溶けてしまうというのです!!
いわゆる異常燃焼、デトネーションですね。911はマルチシリンダーで排気量も大きいから、ベルト切れを結構気付かず走り続けてしまう場合があるといいます。
そうなると最悪、ピストンに穴が空く! ひえぇッ!!

ちなみに911は6つのピストン全てがバランス取りされているため(だから気持ちよく回るんですね)、ひとつのピストンを変えたら、6気筒分全てのピストンとシリンダーを新品にするのがベター。よってその性能をきちんと取り戻したいなら、エンジンを降ろしてオーバーホールすることになります(大汗。
普通デスビが壊れても、失火するだけですよ? 怖すぎますよ、パラレル式のデストリビューター!!!

詳しくは、この連載を続けているGENROQ誌の「ロングターム・レポート」をお読みください(ちょっと宣伝)。ともかくこれを未然に防ごうとマイ993のデスビを点検したら……。

  • 993を手に入れたときからGENROQ誌で連載しているロングターム・レポートが、このたびアーカイブとなってGENROQwebで見られるようになりました! これからコツコツ加筆修正して行きますので、こちらもどうぞよろしく! 4年前の私、なんか初々しいなぁ。

やはりベルト交換だけでは済まず、リビルト品を購入する羽目になりました。そしてその価格は昨年の改定で、一気に10万円(!!)も値上がりしていたんです(滝汗。

デスビが壊れることも恐ろしいですが、パーツの価格高騰には驚かされました。
古いクルマは現行車に比べて、その需要の少なさなどから純正パーツの価格が高くなる傾向にあります。
ポルシェは現存率が7割とも言われ、ファンから愛されるクルマの代名詞のように言われていますが、それでもやっぱりパーツ代は、高いです(笑)。作り続けてくれるだけでもありがたい。メーカーサイドの理由を聞けば頷ける部分もあるのでしょうが、めっちゃ高い!
だから古いクルマはカッコいいけど、無責任にあおっちゃダメなのです。

いま、「ヤングタイマー」と呼ばれる80~90年代のクルマたちが人気です。私の911も95年式ですから、まさにこのゾーンにいるクルマです。
なんでこの年代が人気なのかには、様々な理由があります。
この頃はまだクルマも発展途上で、スピードや高性能を、ピュアに目指していた。
クルマのサイズもちょうどいいし、運転している感覚もダイレクト。
クラシックカーほど扱いが難しくなくて、“ひと手間かかる”操作感が楽しく、そこそこ現代的でバランスがよい、などなど。

でも一番の最初のスタート地点は、「当時憧れたクルマたちが、安く買えるから」だったと私は思います。たとえ現行新型車が買えなくても、こつこつリフレッシュして憧れだったクルマに乗る。直しながら知識も増やせるし、愛着も湧きます。
そしてそういう人たちを、昔は「エンス~」なんて呼びました。エンスージアスト。自動車雑誌「NAVI」(ナヴィ)が流行らせましたよね。

  • <GTロマン>

    私が古いクルマに憧れるようになったのは、ちょうど免許を取った頃にこの漫画を読んだから。知る人ぞ知る「GTロマン」(西風・著)です。この世界観に憧れてティーポ編集部に入り、必死の思いで68年式のアルファ・ロメオ GT1300Jr.を手に入れ、ハチロクを4台乗り継ぎ、古いクルマへの耐性ができました(笑)。今でもたまに読み返す、永遠のバイブルです。

空冷911が安いって? 何寝ぼけたこと言ってんだ!?
なんて思うかもしれないですが、10~15年ほど前は、頑張れば手に入る価格でした。
ただ「いつかは欲しいなぁ」「でも……まだいっか」と思っているうちに、どんどん価格が上がってしまった。
そしてその“いつか”を実践した人たちが一気に現れて、価値が見直され、ブームが起きた。ここ数年はそれが、ちょっとばかり行き過ぎている状況です。

そしてこのヤングタイマー人気は、「ヤングタイマーそのものの良さ」をも、奪ってしまったと私は思っています。4年前に無理して買った自分が言うのも怖いけれど、いびつなバブルなんて、弾けたらいい。
高価だった憧れのクルマたちが、安く買えるからこそ修理で泥沼にハマったり、見て見ぬ振りしながら回避したり、ハラハラ・ドキドキできたのです。
最新のクルマと比べ洗練され切っていない、素朴な乗り味のクルマたちに法外な価格が付けられていたりすると、的外れでトンチンカンな気がする。その良さが、薄れてしまう気がします。

WebCGの撮影で試乗することができた、古い方のNSX type S(後期型)。久々に運転した初代NSXは、軽くてエンジンがシューン! と回る、ホンダのバイクみたいなスポーツカーでした。あまりの気持ち良さに「これなら993を手放してもいいかも!?」なんてノンキなことを考えていたらアナタ、後期型の市場価格が天文学的な数字になっていてビックリ。じゃあ前期型で……ということじゃなくて、本気で愛せないなら、手に入れちゃだめだなと思いました。

だから私は思うんです。
ちょっと憧れているだけなら、ヤングタイマーには乗らない方がいい。絶対に新車で楽しむ方が、健全です。
逆を言えば、どうしても欲しくて仕方が無いクルマなら、腹を括って買うしかない。古いクルマはこれ以上増えないですし、これからも当分価格は下がりません。

そして、買った後のことを考えておくことが大切です。
今は色々な情報がネットから得られます。もし本気で欲しいヤングタイマーがあるなら、メンテナンス費用がどれくらい掛かるのかを、トコトン調べた方が良いでしょう。そこでブレーキを掛けられるかもしれないし、その予算があらかじめある程度用意できるのであれば、すごく楽になります。
私はそれが、できませんでした!(笑)。

そうまでして「コッチの世界」に来たならば(笑)、あとはトコトン楽しみましょう。
Well coming to the ヤングタイマーワールド!
いつかそんなクルマ好きたちで、箱根にでも集まりたいですね。

  • ポルシェ911カレラ
  • ポルシェ911カレラ

これは'19年に富士スピードウェイで開催された「GENROQ cars & cafe」でのひとコマ。愛車でかけつけてくれた若者ふたりを同乗走行してあげると「古くても速いんですね!」と大喜びしてくれました。……やかましい!(笑)。他にも空冷ポルシェオーナーが顔を出してくれたり、とっても楽しかったな。休日ただ広場に集まって、コーヒーのみながら話すだけ。それで十分、楽しいんですよね!

(写真協力:GENROQ テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[GAZOO編集部]

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