『クルマはトモダチ』極上の軽やかさと身のこなし「ポルシェ911カレラT」…山田弘樹連載コラム
みなさん、ゴキゲンよう!
10月26日発売のル・ボラン12月号で、「ポルシェ 911カレラT」に試乗しました。911カレラをベースにちょこっと軽量化を施し、スポーティな足周りを与えたグレード。
その走りが、とても軽やかで気持ち良かったんです。
そんな911カレラTのルーツは、1968年に登場した「911T」という廉価グレードでした。Tの文字は、“ツーリング”を意味しています。
当時ポルシェは空冷水平対向4気筒の「356」から、911へとスイッチした時期。6気筒エンジンの搭載やボディのサイズアップ等で高くなってしまった価格に対するフォローとして、まずは1965年に2リッター水平対向4気筒の「912」を用意します。
1968年には6気筒モデルでも、内装を簡略化してエンジン出力を抑えた「911T」をラインナップしました。
この2台を使って、ポルシェは緩やかに上級移行していったわけですね。
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駐車場でわが993と並べてみると、こんな感じ。“素朴なカレラ”なんていいつつも、911カレラTは立派なスポーツカーだ。ボディサイズは全長4530(-285)×全幅1852(-122)×全高1293(-7)mm。( )内は993との差。スプリングで車高を落としているから、大径タイヤを履いても全高は911カレラTの方がさらに7mm低い。
翻って911カレラTですが、その立ち位置は昔とちょっと違います。
内容的にはカレラを少し軽量化して、その足周りをスポーティにしたバージョン。往年の911Tを知る人たちは、「なんで911カレラよりも高いの!?」と混乱したのではないかと思います。
ちなみにそのお値段は、先代では911カレラ(8速PDK)の1309.1万円に対して、911カレラTが122.9万円高の1432万円(8速PDK)。
かたや現行911カレラT(7MT/8速PDK)は、911カレラ(8速PDK)の1620万円に対して、137万円高の1757万円!
※PDK:ポルシェ・ドッペルクップルング(Porsche Doppelkupplungsgetriebe)はドイツ語でダブルクラッチトランスミッションの意味
為替やサプライチェーンの関係もあるのでしょうが、911カレラも高くなったなぁ。それに7MTと8速PDKが同じ値段なの? ちょっとはマケて下さいよ! と言いたいところですが、このMTはPDKベースだから、コストが下がらないのだと思います。
世界的な需要の少なさを考えても、いまやMTモデルは高級品になりつつあります。
とはいえ先代タイプ991から投入された新生911カレラTは市場でも好評だったようで、現行でもカタログモデルとして継続されることになりました。
ちなみに先代が8速PDKモデルだけだったのは、7MTが日本仕様だと騒音規制をクリアできなかったからとのこと。しかし現行モデルでは、7MTがラインナップされました。
これが現行911カレラTで、一番のトピックですよね。
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ターンインは拍子抜けするほど軽やかで、コーナリング中の姿勢はジワッと安定。リアエンジンの危うさはもはや感じられず、ターンアウトでもアクセルがしっかり踏める。911に重厚な乗り味を感じたいならGTSやカレラ4だが、カレラTの走りにはキレと軽さがある。
そんな911カレラTの走りはというと、これが実によかった。
確かにパワーはシリーズで一番低いけれど(とはいえ385PS/450Nmもあるんですけどね)、身のこなしがウルトラ軽やかなんです。
フロントサスはストラットで、その足周りもスポーツサスの割にしなやか。ダブルウィッシュボーンとなった911 GT3の、鬼のような剛性感を放つステアフィールとは対照的で、コーナーの進入がヒラリと軽い。
個人的にはもうちょっと電動パワステの抵抗を増やしてもいいんじゃないかと思うのですが、一見頼りないそのステアフィール越しに路面をタイヤが捉える感覚が、じわりと伝わってきます。
タイヤサイズはカレラから1インチアップでF:235/35ZR20、R:305/30R21と結構なサイズ。このサイド剛性とスポーツサス剛性をPASMダンパーがしなやかにロールさせて乗り味を決めている……といいたいところだが、電子制御がかなり効果的だと思う。
そしてこの走りのリズムだと、マニュアルトランスミッションの呼吸がすごく合います。
私は基本PDK派ですが、レンシュポルト(レーシングスポーツ)とはまた違うスポーツカーとしてのリズム感には、一呼吸置いてシフトする7速MTが思った以上にマッチするんです。
エンジンパワーに対してシャシーが勝っているから、アクセルもきっちり踏める。3リッター水平対向6気筒ツインターボの吹け上がりは、過給器ユニットらしからぬ精緻な気持ち良さ。もうちょっと3速ギアをクロスさせてくれたら、いうことありません。
水冷世代になってちょっと悲しいのは、上からエンジンがまったく見えないこと。開口部をぴっちり塞ぐことでファンの充填効率も上がるのだろう。とはいえ空冷だってファンがあるから、エンジン自体は見えないんですけどね。でも音が聞こえて、ニオイがして、鼓動が感じられる。
ただこうした動きの軽さは、軽量化によってもたらされたものではないと私は感じました。
もちろんリア及びクォーターガラスの軽量化は重心移動の抑制に効果を発揮するはずですが、リアシートの簡略化や軽量バッテリーの採用、遮音材の省略と合わせても軽くできたのは、8速PDKを搭載した911カレラに対してたったの35kgですから。当然そこには、964カレラRSのような、感動的な軽さは感じません。
絶対重量の軽さではなく、動きの軽さが911カレラTの特徴です。
では何が911カレラTに、このヒラリ感を与えているのか?
まずは車高を10mm下げたスポーツサスと、PASM(ポルシェの可変ダンパー)のバランスがすこぶる絶妙なこと。前20/後21インチとなったタイヤの剛性も、ばっちりハンドリングに効いてます。
さらにはトルクベクタリング付きのLSDで、曲がりやすさとトラクション性能の両方を底上げしている。
そして極めつけは、リアアクスルステアリング。タイトターンでは逆位相となって旋回性を高め、高速コーナーでは同位相でスタビリティを保つこのシステムが、911カレラTをスーパー・ナチュラルテイストのコーナリングマシンにしています。
ただこのリアアクスルステアリング、オプションなんですよね。
これほど曲がって、これほど安定してくれる性能が37万5000円で手に入るなら、はっきり言って大バーゲン。下手なチューニングするより、絶対コッチを付けた方がいい。
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レンシュポルトではないから、インナードアパネルはカレラに準ずる形。リアシートまで撤去するなら、ドアノブをRS系のベルトタイプにしてもよかった? とはいえパワーウインドウや電動ミラー、集中ドアロックが欠かせない現代だと、もはやベルトにしただけでは軽くならない。
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レンシュポルトにも通じるリアシートレス仕様。軽量化も多少あるが、コストダウンとスポーティさの象徴としての処理だろう。ただ911のリアシートは実際座れる広さではないし、背もたれで荷台は作れなくなったが、シートがない分容量も少し増えたはず。なにより仕上げがきれいで憧れる。
でも911カレラTの極めて自在な操縦性とヒラリ感が、こうした鉄壁の電子制御で実現されているかと思うと、クルマ好きとしてはちょっと複雑な気持ちです。その挙動やフィーリングに全く違和感がないのもすご過ぎるけど、だからこそフクザツ。
だったら素の911カレラに、7MTモデルを用意してくれないかなぁーと、小声でつぶやいておきます。
それでも911カレラTは、一番ベーシックな素カレラをポルシェがツボを押さえてファインチューンした、かなりステキな911です。
絶対的な価格はちょっと高すぎるけれど、スポーツカー好きなら、究極の憧れにカウントしてもいい。911GT3や718ケイマンGT4 RSにも劣らない、名車になると私は思います。
というかこれが、911というスポーツカーの実力なんですよね。
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空冷時代を連想させる、ひさし付きのインパネとデジタル式の5連メーターはシンプルでスタイリッシュ。7速MTは右ハンドルで引き寄せる動きになるからかゲート間も遠く感じず、フィーリングも自然だった。
山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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