『クルマは最高のトモダチ』もう一台の愛車“空冷最後の”ポルシェ911は「妥協」の結果!?…山田弘樹連載コラム
石の上にも三年と申しましょうか。
ワタクシ、実は赤パン(赤いパンダトレノ)以外にもう1台、26年前の古いポルシェ911を持っているのですが、これが手元に来てから今年で、ようやく丸3年経ちました。
というわけで、そろそろオーナーらしき話をしてもよいかな? と思い、今回の題材にしてみます。
愛車は95年式のカレラ。型式でいうとタイプ993の、一番フツーなグレードです。
もっとも993には「クーペⅠ」(ワン)という、さらにベーシックなグレードもあるのですが、今回は割愛。
エンジンは前期型の「M64/05」で、バリオラムも付かないし、排気量も3745ccではなく3600cc。その最高出力は272PS/6100rpm、最大トルクは330Nm/5000rpmです。
実はこの馬力、GRヤリス(272PS/6500rpm)と同じで、最大トルク(370Nm/3000~4600rpm)に至っては、40Nmも負けています。参考までに車重は993が1370kgで、GRヤリスが1290kg(予防安全装備付き)。競争したら、やられちゃいますね(笑)。
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95年式のカレラ(Type993)。「空冷最後の911」としてある種神格化されていますが、空冷人気が爆発するまでは、空冷なら964カレラRS、水冷なら996GT3の方が人気で、993は「マニアが好む911」なんて言われてましたねぇ。ボクが初めて993を見たのは学生時代に行った東京モーターショー。カエル目じゃなくなったボディが当時は新しく見えて、「このポルシェカッコいいな!」と思ったのを今でも覚えています。
ところでタイプ993といえば、「空冷最後の911」としてちょっと持ち上げられた存在ですよね?
でもボクが993を選んだのは、実は“妥協”の結果でした。
仕事柄これまでも911には色々試乗する機会に恵まれていて、その中でも自分が一番欲しい! と思っていたのは、タイプ964のカレラ2(もっといえばカレラRSなのですが、これも思い入れダダ漏れなので別の機会に)。
あの高圧縮で炸裂感のある空冷エンジンを、小さなボディとセミトレーリングアームのリアサスで走らせるソリッド感が、たまらなく好きなのです。
なぜ前期型993が“妥協”なのかというと、それは狙っていた空冷モデルの中で、一番壊れにくいと考えたから。もちろんそれまで991を所有したことはないので、まったく勝手な思い込みなんですけど。
でもその考えは、993を3年間所有して、あながち間違ってなかったと思います。
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2018年、993を手に入れたばかりの頃「ahead」誌で取材してもらったときの写真。まだにわかオーナーで笑顔もぎこちなかった私ですが、この頃は本当に毎日が楽しくて仕方なかったです。そして3年の月日が経ったわけですが……。さすがに出会い始めのドキドキ感はなくなったけれど、未だに嬉しさは変わらないなぁ。そして乗るほどに、どんどんその奥深さがわかってきます。ボクは一台を長く乗るタイプなので、993もできる限り乗り続けたい。とりあえず3年間は無事に乗れたぞ!(笑)。
993はまず、964よりもクーラーが効きます(※個人の感想です(笑))。
ボクの場合は仕事の移動でも使うので、ここはとっても重要。ただ現代のクルマのように爽やかな空調は、期待できません!(キッパリ)。
そして登場から26年以上経っているクルマなので、やっぱり色々なところが壊れてきます。いや壊れるというより、それは、単なるパーツの寿命なのですが。だからエバポやコンデンサー、コンプレッサーといった大物が動いているうちに、少しずつパーツを新しくしている最中です。
これはハチロクもそうなのですが、古いクルマってエンジンやボディだけじゃなく、エアコンにお金が掛かるんですよ。購入するときその出費をイメージしておくのは、意外と大切なことだと思います。
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既に26年も前のクルマなので、壊れるところはたくさん。……というかそれは故障ではなくて消耗ですよね。オイル漏れこそ若干あるものの(それについてもいずれ説明しましょう!)、エンジンは基本的にタフだと思います。3年間乗って大きな故障は……真夏にエアコンが止まったことと、バッテリー上がりくらい? ただ消耗品のパーツ代がいちいち高いのは頭にきます(笑)。そんな悲喜こもごものレポートは「GENROQ」誌(毎月26日発売!)でレポートしているので、993に興味のある方はご一読ください!
また964は騒音対策のためか、エンジンをカプセル状にカバーしているのですが、渋滞が激しく速度域が低い日本だと、熱がこもりやすいようです。この熱害はエンジンのシール類を痛めやすく、オイル漏れにつながるという話はよく聞きます。
もっとも、このカバーは排気熱からエンジンを守るためにも有効だったのでは? と思うのですが、ともかく993だとその排気系ごと取り回しを変更して、カバーもなくしてしまっています。
そして、993を所有して実感したのは、少なくとも空冷時代のモデルは、このオイル漏れや“にじみ”がずっと付いて回るということ。スポーツ選手でいうところの「ケガ」と同じでしょうか?
普通は縦置きのエンジンが水平に搭載されるだけに、そもそも重力でオイルがにじみやすいですし、漏れている場所によっても深刻度が色々違う。実に奥が深くて、そんなところも含めて楽しまないと、やってられません(笑)。
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エンジンは964由来の水平対向6気筒「M64/05」。パワーは964カレラ2から実に22PSも上がっているのですが、意外やそのフィーリングはもっさり系。964カレラ2の方が断然吹け上がりがシャープで、もっというと930、ナローと先祖返りするに従ってビュンビュン回るようになっていきます。前オーナーさんもそれを感じていたのか、マイ993はフライホイールがカレラRS用に変更されていました。シングルマスのクラッチがちょこっとうるさいけど、適度に気持ち良く走ってくれます。
ちなみにマイ993はかなりの過走行車だったのですが、嬉しいことに前オーナーさんがエンジンを一度オーバーホールしてくれていました。このオーバーホールにも色々話があるのですが、今回は先を急ぎましょう。
ともかくそれでも日本だと、距離の少ないクルマの方が人気。だからかマイ993の価格は、相場より少し安めに設定されていました。それでも自分には、鼻血が出るような金額でしたけどね!
そして学んだのは、こうした低価格帯の個体って、たま~に市場に出て、ほんと“アッ!”という間に売れていくということです(3年前の実感)。
それが分かったのは、実際にお店に電話をかけてみたから。ボクはそれまで10年くらい「いつかは空冷病」に悩まされていて、ことあるごとにカーセンサーやグーワールドを徘徊する911ウォッチャーだったのですが、あるとき感極まって「見ているだけじゃだめだ!」と震い立ったんです。
そしてお店の番号のダイヤルをプッシュし、恐る恐る「Webで見たんですが……」と話しかけてみた。
すると受話器の向こう側からは、こちらの予想に反して
「たった今決まっちゃったんですよー!」とか、「昨日まであったんだけどねぇ!」という答えが連発したんですね。
これには本当に、あっけに取られました。
ーーーーーーーーーーぐずぐずしてたら、一生911乗れないじゃん!ーーーーーーーーーー
これで、ボクの中には火が付きました。
さんざん色々なシミュレーションをして、一番自分の欲しいモデルはタイプ993の前期型と決めていたのですが、そこからは「空冷なら964でも993でも構わない!」とまで思いながら探しました。もう完全に、目が炎!
自分が買えそうな911が出てきたら、とにかく現地まで行って、この目で確かめる。買うかどうかは、そのとき考える!
実はこういうときが、冷静さを欠いて一番アブナイ。
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クルマはこれと赤パンしか持っていないので(2台ともMTで、しかも26年選手と35年選手……汗)、仕事にはもっぱら993で行きます。この他に試乗車も含めるとだいたい年間5万kmくらいは走るのですが、993で昨年一年間走った距離はおよそ1万km弱でした。そんな普通の使い方が今でもできるなんて、やっぱりポルシェってタフですよね。さすがはル・マン24時間耐久レースを走りきるスポーツカーです。ちなみにこれは718ボクスターGT4との2ショット。993、ほんと小さいですよね(笑)。
でもそうして巡り会えたのが、マイ993でした。
それも頭に思い描いた通りの、ごくフツーの初期型。
といいながら、ここでもひとつ紆余曲折がありまして。実はワタクシこの個体を、恐ろしいことに見ないで買っております。マイ993が売られていたのは名古屋地区のお店。これを普段仕事でお世話になっているアイコード(愛知県豊田市にあるポルシェとトヨタ車の専門店)の鶴田代表に話すと「そんなら見に行ったるわい!」と、わざわざ足を運んでくれたのです。
そして「距離は行っとるけど、いいクルマだよ」と太鼓判を押してくれたので、覚悟を決めて、電話口で「買います!」と叫んだのでありました。
こんなふうにクルマを買うなんて……人生でも初めて!
この太鼓判にも後日談があるのですが、それもまたいずれ(笑)。
そういう意味で言うと持つべきは信頼のおけるショップとも言えそうですが、もちろんボクも鶴田代表には常々、「ボロくていいから安いのあったらお願い!」と言い続けていました。でもそういう個体自体が、もうないらしいのです。
だからリアルに言って、空冷911を買うために必要なのは、根性と出会いだと思います。
さて次回は、こうして手に入れた993が、実際乗るとどんなクルマだったのか? についてお話しようと思います。
(テキスト:山田弘樹、撮影:長谷川 徹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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