『クルマは最高のトモダチ』スイスポが教えてくれたニュルの本当の楽しさ…山田弘樹連載コラム
2015年の春に初めてニュルブルクリンクのノルトシュライフェをレーシングレンタカー(BMW 325i)で走り、そのあまりのスケールの大きさに驚きを隠せなかった私。
しかし幸運にもその年は2回目の「ニュル詣で」に恵まれ、しかもお互いの距離を、グッと縮めることができたのでした。
その立役者となったのは、われらがスズキ「スイフト・スポーツ」! 現行モデルのひとつ前にあたる、ZC32型の“スイスポ”でした。
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- 全てのサーキットはニュルに通ず!? アデナウの町には、世界中のサーキットまでの距離が書かれた標識が。一番遠いからだけど、鈴鹿が一番上にあるんですよ!
では一体スイスポの何が良かったかといえば、それは言い尽くされたことではあるけれど、コンパクトスポーツとしての“手の内感”です。
3.89mしかないBセグメントの小振りなボディと、1060kgの車重。パワーなんて136PSしかないけれど、だからこそニュルのようなステージでも、1.6リッターの自然吸気エンジンをきっちり回して走ることができた。
ボクはメーカー試乗会だけでなくスイスポのチューンドカーにも当時乗る機会が多かったので、もちろんクルマに慣れているということもありました。
でも日本で感じていた以上に、アベレージ速度が恐ろしく高いノルトシュライフェで乗ったスイフト・スポーツは素晴らしかった……。
スイスポはそのベースがややハイルーフな庶民派ハッチなので、重心こそちょっと高めなのですが、そのボディはしっかりしていて安定感が抜群。日本でいうSタイヤを履いた、ちょっと硬めの足まわりを見事に追従させて、そのちょっとノッポなボディをキビキビと走らせてくれました。
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- ボクが借りたスイフト・スポーツ。車内は内装がストリップダウンされ、ロールケージとフルバケットシートが2脚。足まわりもほどよく固められていました。いわゆるN1仕様ですね。
今はなき自然吸気の1.6リッターエンジンは、回すほどにパワーを絞り出すコンベンショナルなキャラクター。だからコースに慣れて行く程に、自然とその全開率も高まって行きます。
もしあのときスイスポが現行型のようなターボエンジンだったら、トルクがありすぎて、ビビリなボクはなかなかアクセルを踏み込めなかったかもしれないなぁ。
ちょっと大げさ? いやいや現行スイスポは、ZC32型よりもさらに軽量な1tを切るボディを、やはり先代を上回る140ps/230Nmのパワー&トルクで走らせているわけで。もちろんその分ボディ剛性も上がって正常進化を果たしているわけですが、確実に先代モデルよりも速くなっていますからね。
レブリミットまでずーーーーーーーーーっと、ブーーーーーーーーーーンとアクセルを踏み続けなくてはならないZC32でしたけれど、だからこそ、その全開率を上げることがボクにでもできたんだろうと思います。
だっておっかなビックリ走っているポルシェ911GT3なんかより、非力でもアクセル踏みっぱなしのスイスポの方が、断然コーナリングスピードが速いんですから!
つまりはこの適度な遅さが(笑)、ボクのようなアマチュアドライバーにはむしろ速さにつながったのだと思います。
ちなみにノルトシュライフェには、こんなハイクラスイーターが沢山います。
ボクが走っていたときはプジョー106の若者が、ものすごく速かった!
きっと自分なりにいつも走りにきてはタイムを計っていたのでしょう、終盤のストレートで不用意にスローダウンした前車に対して、泣きそうな顔して「ありえないよぉ~!!」と両手を挙げながらゼスチャーしていたのを今でもよく覚えています。
他にはルノー クリオウィリアムズとか、ユーノス時代のロードスターもいましたね。どっちかというとこういう通い詰め派は、オンボロなクルマが多かった(笑)。
そこにはランニングコストの節約という側面もあるでしょう。でも単なる速さではなく走りの本質を求めるなら、こうした軽くて、パワーをもてあまさないクルマの方が絶対に楽しい! ということも、真実なんだと思います。
非力なクルマだからこそ思い切りアクセルを踏み、ブレーキを詰めることができる。そんなクルマで刻んだタイムは、彼にとっての宝物なんでしょうね。
あっ、くれぐれも普段の北コースは、レースウェイではないですからねッ!
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- レンタルガレージに居並ぶクルマたち。スイスポの隣は、ルノー ルーテシアRS。お金を払えば911GT3やフェラーリ458イタリア、ランボルギーニ・ガヤルドなんてスーパースポーツも選べるようですが……やっぱりスイスポが一番!(笑)。
話を戻すとレーシングレンタカーであるスイスポも、コース上ではよく遭遇するクルマのひとつでした。面白いのは後ろからボクが追いついてくると、自然と向こうのスピードが上がること(笑)。やっぱり同じクルマには、抜かれたくないんでしょうね!
北コースはルールで、左側からしか追い越してはいけないことになっています。それを知ってか知らずか左側を微妙に塞いで、抜かれないように走るちょっとズルいドライバーもいました。
同じクルマですから、加速の仕方も当然同じ。その差を分けるのはずばり、走り方となります。ハイパワーマシンは別ですが、スイスポのようなマシンで走る北コースは日本のようにハードブレーキングを必要とするコーナーが数えるほどしかなくて、そのほとんどがスピードコントロールとライン取りで決まります。
たとえるとそう……延々と続く鈴鹿サーキット(笑)。
そんなコース特性だけに、走っているときはまるでランデブーをしているかのよう。ずーっとアクセル踏みっぱなしで走って、じわーっとその差が縮まって行く。
そこで思ったのは、やっぱり同じクルマで走っていると、ものすごく楽しいなぁ! ということでした。
追いつけなければそれは腕の差であり、追いついてもやはり腕の差。ロードスターは長らくパーティレースを開催しているけれど、やっぱりスズキにももう一度、スイフト・スポーツでワンメイクレースをやって欲しいなぁ!
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- コース上でクラッシュが起こり、走行は一時中断。再開されるまで駐車場に入りきらないクルマたちが列を作っていました。
そんなわけで最初に走ったときはすっかり縮み上がっていたボクも、いつの間にかノルトシュライフェに夢中になっていました。
それもこれも、われらがスイフト・スポーツのおかげ。側溝落としのようなカルーセルも、雑誌で良く見たジャンピングスポットも、ウソみたいな路面のうねりや、気が遠くなるほどハイスピードな下り坂も。ぜんぶスイスポが、その走り方を教えてくれたのでした。
それと同時に、日本にもニュルのようなコースがあればいいのにな……と思います。
エビスサーキットの西コースと東コースをつなげたら、ちょっと近くなるんじゃないかしら? そんな簡単なことではないと思うのですが、もしそんなコースが東北にあったら(なぜか東北のイメージなんですよね(笑))、遠くても通ってしまいそうな気がします。地方活性化にもなるし、その周りにガレージなんかも沢山できたりして、クルマの楽園ができちゃうんじゃないかなぁ。
簡単なことではないですが、もしドイツに行くチャンスがあったら、ぜひノルトシュライフェを走ってみてください。飛ばさなくても、きっと一度走っただけで、クルマ好きの何かを刺激してくれると思います。
そしてそのときはぜひ、スイフト・スポーツを選んでみてください。レンタル料も一番安いはずだし、一番等身大で、ニュルブルクリンクを感じることができると思います。
スイスポは、ニッポンの名車なのであります!
(写真/テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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