『クルマは最高のトモダチ』巨漢でも驚きのコーナリング BMW M6 GT3 初試乗…山田弘樹連載コラム

緊急事態宣言が5月31日まで延長されました。

本来であればスーパーGTは4月に岡山ラウンドが開幕し、この5月はゴールデンウィークの最中は第2戦 富士、月末には第3戦鈴鹿が開催して、各サーキットが賑わっていたはずです。
2011年からずっとこのシリーズを追いかけている私としては、初夏の日ざしと爽やかな風が吹くなかで、各チームの熱い闘いが見られることを今年も期待していたのですが、その開幕が7月まで延期され、その行方すら不透明なことが残念でなりません。

それでも今は月末までこの状況を何としても乗り切り、一方では通常生活へのスムーズな復帰をイメージしながら、がんばって行きたいと思っています。

そんな日常のひとときに、少しでも楽しさを感じてもらえるコラムとなるよう、私もがんばります。みなさん、あらためてよろしくお願いします。

コクピットに収まっただけで、テンションMAX上がります。Aピラーには元BMWワークスドライバーであるヨルグ・ユーラー選手と、'04年ル・マン王者である荒 聖治選手の名前が!!
コクピットに収まっただけで、テンションMAX上がります。Aピラーには元BMWワークスドライバーであるヨルグ・ユーラー選手と、'04年ル・マン王者である荒 聖治選手の名前が!!

さて今回は、いよいよ「BMW Team Studie M6 GT3」に初試乗したときの印象をお話しようと思います!

全幅が2mを優に超えるワイドボディ。4.4リッターのV8ツインパワーターボは585馬力!  実際は'17年の最終戦(ツインリンクもてぎ)を闘ったままの仕様だったため、燃料流量リストリクターの制限(※スーパーGTのウェイトハンディ制の一つ)でパワーはもっと絞られていたはずですが、2018年当時まだまだ現役バリバリのGT3マシンに乗る緊張感は、ボクの予想を遙かに超えていました。
もう観ると乗るとじゃ、大違い。いざ目の前にするとM6 GT3、めちゃくちゃ迫力あるんですよ!

特に心配だったのはタイヤでした。季節は11月と、ちょうど路面温度が低くなり始めた頃で、当然装着タイヤは、スリック(※溝のないレース専用タイヤ)だったのです。
しかしこのときマシンを提供してくれたスタディは、なんとタイヤウォーマーまで用意してくれました。そりゃあ大事なマシンがクラッシュしたら、大変なことになりますからね。ちなみにスーパーGTでは、タイヤウォーマーの使用は禁止されています。

生まれて初めてピットレーンリミッターを効かせて走った経験は、今でも一生の思い出です。アクセルを床までべったり踏んでもエンジン回転が制御され、速度は60km/h以下に保たれます。

車内にはドグミッションや駆動系の高周波がヒューン! と鳴り響き、エンジンは低いうなり声を上げ、少しアクセルを緩めるとエンジンからは“ヴヴァラララッ!”というアンチラグサウンドが響き、駆動系からは“カッカッカ……”とギアの歯打ち音がまき散らされます。

他のピットやサインガードからは「おっ!」という表情と共に視線が集まり、注目度満点。誰が乗ってんの? いやいや、プロじゃないんですぅ……。もうそれは、顔から火が出るほどの恥ずかしさでした。

その巨漢がウソのように、軽快かつするどいコーナリングを見せたM6 GT3。スタディが'17年シーズンを走らせたマシンの乗れるなんて、本当に夢のようでした
その巨漢がウソのように、軽快かつするどいコーナリングを見せたM6 GT3。スタディが'17年シーズンを走らせたマシンの乗れるなんて、本当に夢のようでした

しかしコースインしてしまうとこうした体験がアトラクションにすら思えるほど、純粋で素晴らしい時間が始まりました。

暖められたスリックタイヤは最初から高いグリップ力を発揮して、本当にリアが滑り出す気配はまるでなし!! それ以上に驚いたのは、M6の巨漢が1コーナーで、ライトウェイトスポーツカーのようにクルッ! と旋回したことでした。

どっしりとした安定性がありながらも、ステアリングレスポンスは抜群の切れ味。富士スピードウェイでは最もチャレンジングなAコーナーを軽々とこなし、切り返しての100Rは、アクセル全開でボトムまで駆け下りて行く。体が慣れて行くほどにM6 GT3は、コーナリングマシンの本性を発揮して行きました。

それもそのはず、M6 GT3のホイルベース・トレッド比は全幅計算ですが約1.4と極めて小さいのです。トヨタ スープラがその超ショートホイルベースで話題となりましたが、それでもその数値は1.55。そして伝説のランチア・ストラトスが、1.4台と言われています。つまりM6 GT3はその長いホイルベース(2901mm)で安定性を確保しながら、幅広いトレッドで運動性能を高めていたわけです。

変速はパドルシフトで電光石火。運転はハンドリングとペダルワークに完全集中できるため、その速度感には意外と素早く慣れることができました。
M6 GT3の動きが自分と一体化して行く感覚は、まさにBMWがいうところの「駆け抜ける喜び」です。そして今まで運転したどんなスポーツカーやGTカーよりも、M6 GT3の走りはコーナーが楽しく、運転しやすいものでした。

しかしこれがメリットとばかりは言えないから、レースって本当に難しいです。
なぜなら高根エンジニアいわく、M6 GT3はコーナーでタイムを稼がねばならず、ドライバーは常に“本気モード”で走らなければならない、というのです。ちなみに耐久レースという側面で考えると、メルセデスGTのようにストレート重視なパッケージングの方が、現在は強いと言われています。

また車重は1300kg以下とはいえ、GTカーとしては重量級なため、タイヤの消耗も激しいとのことでした。

M6 GT3の操作系や運転方法について、いちから丁寧に説明してくれた高根チーフエンジニア。なんとしてもこの苦難を乗りきって、またサーキットで会いましょう!
M6 GT3の操作系や運転方法について、いちから丁寧に説明してくれた高根チーフエンジニア。なんとしてもこの苦難を乗りきって、またサーキットで会いましょう!

V8ツインターボの特性は、500PSオーバーの肩書きがウソのようにブーストの掛かり方も穏やかでした。コーナー出口からアクセルを深めに踏み込んでも、リアが急激に滑ることはなく、ステアリングにあるエンジンマッピングダイヤルの数字を、徐々に上げて行くことができました。
それでもストレートでは、冬場だと250km/hを軽くオーバーします。ターボサウンドは低めで威圧感がなく、落ち着いて速度管理ができるのも素晴らしい。

そしてM6 GT3のキャラクターを理解したあとは、どこまでブレーキングを詰められるか? に運転をフォーカスしました。

ただこのブレーキが! アマチュアにはびっくりするほど大変です。
なぜならその踏力は、最低でも100kg以上。最大だと120kgも必要だというのですよ!
数字だけを並べられてもピンと来ないかもしれないですが、私が歯を食いしばりながら、「これでどうじゃいーッ!!」と思い切りブレーキペダルを踏みつけて出したプレッシャーは、たったの77kgでした(笑)。もうシートポジションから何から、根本的に考え方を変えないと、GT3マシンを速く走らせることはできません。

ちなみにあの細身の谷口信輝選手でさえ、ブレーキは「100kgくらいでは踏んでるね」と言っていました。だからレースが終わると腰や背中がバキバキらしいのですが(笑)、ともかくこんなブレーキングをしながら、短いときでも50ラップ、長いときでは160ラップ以上2人(もしくは3人)で走るのですから、GTドライバーって本当にすごい人たちだと思います。

すっかり尻込みモードだった筆者を勇気づけてくれた佐々木雅弘選手(写真左から2番目)。そしてブレーキについて色々教えてくれたのは、ご存じ谷口信輝選手。一番右は、今回写真提供をしてくれた田村カメラマン
すっかり尻込みモードだった筆者を勇気づけてくれた佐々木雅弘選手(写真左から2番目)。そしてブレーキについて色々教えてくれたのは、ご存じ谷口信輝選手。一番右は、今回写真提供をしてくれた田村カメラマン

ブレーキにここまで大きな踏力が必要な理由は、まずパッドの耐久性を高めたいからでしょう。これだけ速く、そして重たいGT3マシンをほぼ全開で300km以上走らせ続けるには、こうしたパッドが必要なのだと思います。
「こんなブレーキ、踏んでられっかい!」と言ったかどうか、当初はGTでも日本人用に効きが強いパッドを付けているチームもあったといいます。しかし競争が激化した今は、ドライバー側がブレーキに合わせるのが主流のようです。だから今のGTドライバーたちは、フィジカルをきっちり作り込んでいるんですね。
ちなみに私はマシンを降りたあと、オシリがつりました!

参考までに私のへっぽこタイムは1分44秒台でした。
それでも初乗りとしては褒めてもらえたのですが、同じピレリタイヤを履くスーパー耐久 ST-X車輌のコースレコードは、日産GT-Rが1分38秒321という素晴らしいタイムを出しています。さらにこれがGT300クラスとなると1分35秒707(ARTA M6 GT3)というのですから、もはや目眩がしてきます。

ただ速さは別にして、少しの心得がありさえすれば、GT3マシンはこのようにアマチュアドライバーでも運転できることは証明されました。
「よくできたレーシングカーほど乗りやすい」とは良く言われることですが、まさにBMW M6 GT3はその好例だと言えますよね。

だから世界中の裕福なジェントルマンドライバーたちの間では、近年FIA-GT3の人気が高まっています。高性能になりすぎたスーパースポーツたちはもはや、公道よりサーキットでその性能を思い切り発揮させた方が楽しくて、リスクが少ないことを、みんな理解しているわけですね。

当日はGTアジアを走ったM4 GT4にも試乗。その改造範囲はGT3より狭く、トランスミッションも市販車と同じものを使っています。GT3の価格が高騰し過ぎた現在、GT4カテゴリーの人気がどこまで上がるかは要注目。
当日はGTアジアを走ったM4 GT4にも試乗。その改造範囲はGT3より狭く、トランスミッションも市販車と同じものを使っています。GT3の価格が高騰し過ぎた現在、GT4カテゴリーの人気がどこまで上がるかは要注目。

さらに価格が高騰し過ぎたGT3に対してFIAは、その直下にはGT4カテゴリーを設定。そして「TCR」や「M2 CSレーシング」といった、より安価なカテゴリーも注目を集めています。

とはいえ、もしボクのような庶民が乗るとしたら……GT10くらいのカテゴリーが必要かな!

写真提供:オートファッションimp
撮影:田村 弥
テキスト:山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[ガズー編集部]

MORIZO on the Road