『クルマはトモダチ』ロータス・エミーラは「GTカー」…山田弘樹連載コラム
みなさんみなさんゴキゲンよう!
GENROQ誌の取材で、ロータス最後の内燃機関モデルとなる「エミーラ」に試乗しました。グレードは「V6 ファーストエディション」。エキシージやエヴォーラに搭載されて実績のある、トヨタ製3.5V6+スーパーチャージャーを搭載したモデルです。
その出力は405PS/420Nm、トランスミッションは6速MTでした。
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かなり大きくなったけれど、事物を目の前にすると素直に美しいと思えます。走りに目くじらを立てず、優雅かつスマートに走りたいならとっても気持ち良いGTカー。サイドシルが太くて、割と乗り降りもしやすいです。
ちなみにエミーラには、AMG製の直列4気筒ターボ(356PS)に8速DCTを組み合わせたバージョンも存在します。これは今年のグッドウッドでお披露目されたようですが、日本にはまだデリバリーされていません。
ちなみにワタクシこのV6モデルが日本に初上陸したとき、袖ヶ浦フォレストレースウェイで走らせているんですよね。ただその個体は、プロトタイプでした。内容はwebCGに詳しいですが、そのときはまだノーマルの足周りでラグジュアリーな印象が強かった。
対して今回のエミーラ V6は完全な市販モデルで、エンジンマッピングも完調。そしてその足周りには、「スポーツシャシー」がインストールされていました。
足周りは、きちんとダブルウィッシュボーンになっているわけですよ。タイヤからの入力をアッパーアームとロワアームで支えられるから、操舵感がスッキリしている。ただ今回はタイヤがロード仕様だったせいか、ビルシュタインダンパーを組んだスポーツシャシーでもちょっとだけ、フロントの収まりが悪かったです。なじめば変わるのかな? パイロットスポーツCUP2も試してみたいところ。
ということでさっそくエミーラを走らせた印象ですが、私はこれをかなり質のよい「GTカー」だと感じました。
ロータスといってイメージされるのは、やっぱり「ライトウェイトスポーツカー」ですよね。誰もが軽さを生かした、俊敏な動きと鋭いハンドリングレスポンスを期待すると思います。
もちろんエミーラにも、こうしたテイストは継承されます。フロントにエンジンを搭載しないミッドシップのハンドリングは軽やかで、ステアリングを切れば狙った方向にスッと向きを変える。
しかし走らせるとその軽やかさと同時に、しっとりどっしりとした乗り心地があるんです。
そして思いました。エミーラはエヴォーラでなしえなかった、プレミアムスポーツカーとしての道を歩み出したんだなぁ……って。
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前から見るとフェラーリ的で、うしろから見るとポルシェ的(笑)。現代のトレンドを取り入れながら効率化を図るとどうしてもそのデザインは似通ってしまうのですが、ちょっと笑えます。でも、カッコいいんだよなぁ! ほんと、うまいデザイン。
こうしたテイストの最も大きな要因となるのは、ボディのサイズアップでしょうね。ちなみにそのスリーサイズは、全長4413×全幅1895×全高1226mm。これってエヴォーラの末期モデル「GT410」と比べると、全長で23mm、全幅45mm(!)も大きいんです。
ただ全高はスポーツシャシーのせいもあってか、14mmも低くなっているんですよね。ちなみにホイールベースは、2575mmで一緒。つまり全長はちょこっと長く、そしてかなりワイドなボディに変身したといえます。
となると気になるのはウェイトですが、6MTモデルでもV6 ファーストエディションは、1458kgになってしまいました。
これって現代の安全基準を満たしたミドル級スポーツカーとしては標準的か、それより少し下くらいの重量ですが、エヴォーラGT410(1375kg)と比べると83kgほど重くなっています。だから身のこなしは、やっぱりエヴォーラの方が軽やか。
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このV6はスーパーチャージャーなので、アクセルレスポンスがかなりリニア。420Nmの太いトルクを、つま先の操作でリニアに扱えます。ただ騒音規制の影響か、あの高回転で発狂するサウンドが大人しくなった。また排気が絞られた影響か、はたまた車重か、トップエンドでの炸裂するパワー感が抑えられた印象。
ただロータスも、その重さをかなりうまく生かしてはいるんですよ。そのGTカー的な乗り味は、歴代ロータスのなかでも、最も完成度が高いと言えます。
むしろGTカーなのに、ステアリングの切り始めにはライトウェイトスポーツカーのようなヒラリ感が味わえる、と言えます。
ロータスの歴史でGTカーというと、初代エスプリを思い出します。そしてエンジニアリングで言うと、縦置きエンジン+縦置きトランスミッションをミッドシップしたエスプリの方が、横置きFFユニットをそのまま使ったエミーラよりも、断然志が高かった。
でも志が高いクルマって、そこにお金が掛かる分だけ、製品としてのクオリティを上げるのが大変なんですよね。そしてクルマそのものの質感は、エミーラの方が断然上。
立て付けや遮音性、乗り心地や居住性、エアコンはもちろん先進安全技術にコストが掛けられているから、GTカーとしての完成度が高いんです。
きっとロジャー・ムーアやリチャード・ギアも、「エミーラがいい」って言うと思います。って、わかるかな?
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ボディサイズ拡大のおかげで室内はとても広くなりました。身長171cmで純日本人体型の私にはもう一回り小さくていいけれど、タイト過ぎるという印象はなくなりましたね。インテリアは黒基調でスパルタンですが、ライムイエローのステッチがセンスよくカジュアルさも出している。スタートボタンにはスイッチカバーが付いて、「ただのラグジュアリーカーじゃないぞ」という雰囲気もきちんと出せてます。
一方で、「そんなの、オレのロータスじゃない!」と心の中で叫ぶファンも多くいると思います。わかるぞ、その気持ち!
でも最近でいうとアルピーヌA110が成功したのも、そこに快適性を提案できたから。アルミバスタブシャシーむきだしのエリーゼはかっこいいけど、実際にはね(汗、ということです。
またロータスにしてみれば、エミーラのようなプレミアムスポーツカーで利益率を上げたいところでしょう。そういう意味でいうとこのエミーラと、電動SUV「エレトレ」が成功したら、みんなが望むライトウェイトロータスを作る余裕が生まれるわけです。
泣かせるのは、ロータスが6速MTを捨ててないことですよ。純正ノブは重さもほどよく、慣性でスコッとシフト操作ができます。ヒール&トゥも、気持ち良く決まる。6ATもあるし、2.0ターボだと8速DCTが選べるけど、エミーラのマイルドな走りには、敢えて6MTの古典的なスパルタンさが合うと思います。
話を戻せばエミーラは、エヴォーラが当初目指して挫折した、プレミアム・スポーツカー路線を歩み出したのだと私は思いました。
そしてガソリン時代最後のロータスというだけに、その終焉が近づけば様々なエヴォリューションモデルが生まれるでしょう。
もちろん私もそれには期待します。ただ一方でエミーラには、むしろエヴォーラのように途中でGTコンセプトを投げ出すようなことはして欲しくないと思っています。
エミーラは、快適でかっこよいGTカーでいいんですよ。
ただその代わりにちゃんと、エリーゼの後継モデルは登場させてね! というわけです。
と言いながら、エリーゼの後継となるEVスポーツカーはアルピーヌとの共同プロジェクトが、双方円満とはいえ解消しちゃったし……。
一体、どうなっちゃうんでしょうねぇ?
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12.3インチのモニターには走行Gやパワー&トルク、ブースト圧、そしてダウンフォース!?(きちんとした測定ではなく、イメージレベルでしょう) が表示されます。でもまじめに走っていたらじっくり見てられないんだから、お遊びですね。ロータスだったらロギング機能付けて、GPSでもいいからデータロガーにして欲しい!
山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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