『クルマは最高のトモダチ』アバルト・チューンが面白い!…山田弘樹連載コラム
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お正月の丸餅みたいなボディは全高に対してトレッドが狭く、重心が高い。おまけにシートも座面が高くて、お世辞にも運転しやすいクルマとはいえないアバルト595。でも、そこが、いーんデス。これを思い通りに走らせるから、楽しいのデス。
みなさん、ごきげんよう!
ようやく“まんぼう”解除の方向性が見えつつも、まだまだウクライナ情勢などを考えると、世界は不安定な状態ですね。
とはいえ日々の生活は元気を出して、楽しくして行きたいところです。
というわけで今回は、こうしたコロナ禍のなかにあっても、着実に人気を伸ばしている小さくて元気なクルマを紹介します!
その名は、「アバルト595」!
フィアットのコンパクトカー「500」(チンクェチェント)をベースに、1.4直列4気筒ターボを搭載したホットハッチです。
ちなみにこのアバルト595、こんなカッコして一番ハイパワーな「COMPETIZIONE」(コンペティツィオーネ)だと、180馬力もあるんです。そのターボラグを隠しきらない古典的な走りは、今となってはむしろ個性的。5速MTもラインナップしているから、趣味のクルマとして人気があるのも頷けます。
ところでいまやフィアットの小さなプレミアムブランドとなっている「アバルト」ですが、もともとは「アバルトさんがやってるチューニングショップ」でした。
オーストリア人でイタリアに移住したカール・アバルト(後にカルロ・アバルトとイタリア式の呼び名に)が、1949年に始めたガレージが、そのルーツだったんです。
そのビジネスは市販車の改造がメインでしたが、なかでもオリジナル・マフラーが大ヒットしたことで一躍有名に。さらにフィアット車やシムカ車をベースにしたコンプリートカーを製作・販売し、これが当時のレースでも大活躍しました。
日本の有名チューニングメーカーである「トラスト」なんかもマフラービジネスがそのスタートだったと言いますし、こうしたサクセスストーリーは、世界共通なんですね~。
格上の排気量を持つマシンたちを、カリッカリにチューニングした小さなアバルトがブチ抜く。その走りに、当時のクルマ好きは熱狂したといいます。
今は閉館していますが、若い頃は「ギャラリーアバルト自動車美術館」に行くと、美味しいコーヒー飲みながら山口館長が、その武勇伝を沢山語ってくれたなぁ。
アバルトの歴史を知りたいなら「カルロ・アバルトの生涯と作品」ルチアーノ・グレッジオ著 がお勧め。かなり分厚くマニアックな本ですが、武田公実さんが日本語訳してくれています。チンク系アバルトはもちろん、シムカ系の愛らしいレーシングマシンたちを見ることができるのもグー。ただ現在は絶版になってしまっているようで、かなりエグい価格で取引されているのがノーグッド(泣。
そして1963年に、アバルトがフィアット500をベースに作り上げたマシンこそが、元祖「FIAT ABARTH 595」だったのです。だから現行アバルトは、「595」という名前を付けたんですね。
さてさて前置きが長くなりましたが、そんなチューニングカーにルーツを持つアバルト595を、あのHKSがチューニング! これにオートファッションimp誌の撮影で試乗しましたよ、というのが今回のお話です。
HKSといえばGR86やGRヤリスでモンスターマシンを作って、サーキットをアタックするイメージ。となるとアバルト595も、やっぱそんな感じ!? と思うかもしれないですが、ところがどっこい。
これが実に、いい感じのストリートカーに仕上がっていたんです。
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今回はブーストコントローラーで10PSほどパワーアップしただけでしたが、HKSの見立てだとエンジンパワーは「300PSまではイケるイメージ」とのこと(笑)。でもその前にまずはラジエターやオイルクーラーでエンジンの熱を下げ、オイル量を増やしたいと言ってました。これから本腰入れて、計器類をごっそり付けてテストするそうです。楽しみ!
ちなみにHKSが輸入車をカスタムするときは、「VIITS」(ヴィーツ)というブランド名を使います。これはHKSの「H」と「K」を分解して作った造語だそうです。
そんなヴィーツ・アバルト595で驚かされたのは、意外やエンジンではなく足周りでした。これがアバルトの弱点といわれるリアの突き上げを、上手に改善していたんですよ。
ベースとなったのは、HKSの名作「ハイパーマックスⅣ」。このしなやかな車高長サスキットをヴィーツでは、さらにアバルト仕様へとアップデートしていました。
特にリア周りは作りが凝っていて、取り付け位置をオフセットすることでダンパーのストロークを増量。しかもそれだけでは終わらせず、専用バンプラバーキットも作っちゃったんです。
これがこだわりの足周り。リアのダンパーがオフセットされて、サイズアップしているのがミソですね。バンプラバーは純正よりもソフトなだけでなく、ボリュームもアップしているから、バンプタッチしても乗り心地とシッカリ感が両立できるのです。
バンプラバーはサスペンションがフルストロークしそうになったときに、これをウレタンのブッシュで止めて、ダンパーが壊れるのを防いでくれるパーツです。
しかし車高を低めるとこれが、想定よりも早めに当たってしまう。するとガツン! と突き上げるから、車高を下げたらカットするのがオーソドックスなやり方です。
対してHKSは、純正バンプラバーのトップ部分だけ残して、中間にホルダーを用意。そしてその下に、ソフトなバンプラバーをくっつけました。
カットするのではなく、むしろソフトなバンプラバーを早めに当てる。こうすることで最初はしなやかに、沈むほどにシッカリ感を出したんですね。普通にソフトなバンプラバー作れば良かったんじゃないのかな? とも思うけど(笑)、よくやるわ!
ちなみに純正形状のリアスプリングも、自社で作ってしまいました。担当エンジニアAさん、アバルトにぞっこんですな。
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とはいえHKSはエンジンでしょ! ということで足周りと同じくらい気合いが入っていた「VIITSエキゾースト」。350PSまで対応可能なキャパシティを持っていて、しかもコンペティツィオーネの純正マフラーより5%軽量。バルブが付いているからコールドスタートが静かで、3000rpmからターボサウンドが楽しめます。でもこだわり過ぎて、1日3本しか作れないんですって(笑)。
ところでワタクシ、アバルトに関しては、実はソフトな足周り推奨派です。なぜならノッポで重心が高く、車幅が狭いこのボディでアシを固めたら、転がりやすくなるから。
アバルト595の最上級モデル「COMPETIZIONE」(コンペティツィオーネ)ですらちょっと硬すぎで、フツーのグレード(ツーリズモ)が一番いい、と思っています。
ヴィーツ・アバルトの足周りは前後5kg/mmのスプリングを組んでいて、ダンパーの味付けも含め乗り味はちょっと固め。
だから最初は大丈夫かな…と思ったのですが、走らせるとその印象は変わりました。
普通に走っているときは、適度にクイックなキビキビ系。そして荷重を与えて行くほどに、タイヤが路面をつかむ感じが出てくるんです。ロール量も適度で、いい感じ!
まだちょっと17×7.5(inset35)のホイールを履きこなせず、フロントタイヤが遠回りしている印象は強いけど、それもキャンバーやアライメントの調整で改善できるでしょう。
そして何よりホワイトの「ADVAN TC4」をツライチで履きこなして、適度に車高を低めたその姿が可愛い!
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ボクはあまりシャコタン派ではないのですが、それでも小さなアバルト595がここまで気張ってる姿を見ると、引き込まれちゃいます。可愛いんだかカッコいいんだか、なんだかわからないけど魅力的!
アバルトでチューニング、いいじゃないか~。
スイスポみたいに速くはならないと思うけど、むしろそれが面白そう! 速さじゃないんだよね、速くするのが面白いんだ。
ホント言うと私の場合はもっとマニアックで、だったらフツーの“チンク”にこの1.4ターボと6速MTを載せて、バカッ速なスリーパー(見た目はフツーでも、中身にはガッツリ手が入ったチューニングカー)を作りたい。ルパンのチンクみたいなヤツね。
でもあの、ドコドコとした吸気音が楽しいツインエアエンジンを降ろしちゃうのはもったいないな……あっ、アバルト500の中古車って、100万円切ってるの!? えっ、チンクだと、さささっ……30万円以下がある!? 5MTでも50万円くらいなのっ!? ひゃー!
もう、妄想が止まりません(笑)。
チンクとアバルト、すっごくカルトだけど、クルマ好きにはお勧めです。
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個人的には、アバルトよりもオリジナルのフィアット500“チンクェチェント”の方がさらに好き。このトボけたチンクをゴリゴリに仕上げて素知らぬ顔して乗りたいなぁ。アバルト買って、バンパーをチンクにしちゃえばいいのかな!?(笑)。

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
(テキスト:山田弘樹)
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