『クルマはトモダチ』極まる足回り! 日産GT-R(MY24)の「T-spec」
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Vモーショングリルをなくしてフロントの開口部を若干小さくし、ほっぺた周りのパネルをスムージング化するなどして空力性能の向上を図りながら化粧直し。実物は立体感があって写真よりもイケメンだが、個人的にはMY23のシャープな顔つきの方が好み。それも時と共に慣れるのだろうか? はたまたMY25ではまた顔つきが変わるのか?
その印象を決定づけたのは、T-spec専用の足周りでした。これが歴代随一と言えるくらい、しなやかに動くんです。
カギを握るのは、RAYS製の鍛造ホイールと共にバネ下重量を大きく削減したであろう、カーボンセラミックローターでした。
MY24のGT-R T-specではなんと、この軽いバネ下にマッチするようにスプリング剛性を決めて、ビルシュタイン製Damp Tronic(可変ダンパー)の減衰力設定を合わせ込んだというのですよ。
つまりそれは、単なるソフトな足周りで乗り心地を良くしたのではないということを意味します。カーボンセラミックローター(と鍛造ホイール)の重量ありきでサスペンション剛性を合わせ込んで、この乗り味を実現したということなわけです。
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T-spec用のホイールはRAYS製の鍛造タイプで、そのサイズがフロント20×10J、リア20×10.5J幅に広げられている。ブレーキディスクは耐熱性と軽さに優れるカーボンセラミック製。足周りはビルシュタイン製の可変ダンパーがデビュー当時から採用されており、その制御はここに極まった感がある。またダンロップ「SPORT MAXX GT 600 DDST」もランフラットとは思えないしなやかさを得ている。
そりゃー、ため息出ますよ。しかもMY24では空力性能も13%ほど上がっているというから、超高速領域でもビターッと来ます。 足周りがこなれればこなれるほど、その乗り味が良くなってくるはずですよ。
1896万700円という価格はそれでもちょっと高過ぎるなぁとは思うけれど、買えもしない購入シミュレーションしちゃいましたよ。
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フロントまわりの形状変更とウイングの取り付け位置を後退させたことでダウンフォースを13%向上。また日本仕様は、騒音規制に対応するためにマフラーを変更。そのサウンドに迫力が無くなってしまったのは事実だが、時代の流れに沿ってGT-Rが生き続けるためには仕方が無い。
日産GT-Rは570PS/637Nmという出力が示す通り、そのポテンシャルを日常領域で発揮することなど、到底できないスーパーツーリングカーです。そしていざサーキットに持ち込んだとしても、ドライバーには一定以上のスキルを求めます。
だからそのあまりの非日常っぷりをして、「無駄」だと思う人もいるでしょう。また逆にそうした非日常性を持つ気高さこそが、GT-Rの魅力だと考えている人もいるはずです。
しかしT-specの魅力は、その先を一歩進んでいました。
日常のワンシーンを何気なく普通に走らせただけで、その性能が「質感」や「楽しさ」として感じ取れるようになったんです。
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日産最強の3.8リッターV6「VR38DETT」ユニット。570PS/6800rpm、637Nm/3300ー5800rpmのパワー&トルクはもはや世界のスーパースポーツたちと比べれば突出したレベルにはないが、それがなんだという感じ。相変わらずその吹け上がりはV6ターボとは思えない滑らかさで、回せば心地よさと強烈さが凝縮されて高回転で弾ける。ただ面白かったのは、そんな最強のV6ターボでさえ、僅かなターボラグで最新のEVより低速トルクの立ち上がりが遅いと感じたこと。まさかGT-Rに出足の鈍さを感じる時代が来るとは思わなかった。
そんな日産GT-Rのキャラクターが大きく変わったのは、MY14からでした。
それまでは機敏なハンドリングと、超高速域でのスタビリティを重視した、硬さを隠さない乗り味だったGT-R。
それがMY14モデルでは、しやなかな足周りでタイヤに荷重を掛けて行くセッティングになった。結果として、乗り心地も良くなりました。
ただ当初は高速域でロールスピードが速すぎて、少し怖かったのを覚えています。
そしてこれがMY17でさらに熟成され、MY24 T-specで極まったというわけです。
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足周りだけでなく、体を包み込むようなシートの座り心地もその乗り味の良さに貢献している。運転していると室内にはエンジンだけでなく、トランスミッションのメカニカルノイズが微かに聞こえてくる。このノイズには改良を経るごとに消音されてきた歴史があるのだが、現状の微かに作動音が聞こえるくらいがGT-Rにはベストだと思う。
こう書くと乗り心地重視のGT-Rになったと思うかもしれないですが、面白いのはNISMOも、基本的には同じテイストであるということです。
MY24のNISMOは機会が合わず試乗できていませんが、スピードレンジこそ違えどアシを動かすセッティングで、路面をじわりと捉えるキャラクターなんですよね。
そしてこれこそが私にとっては、R32世代をほうふつさせるGT-Rの乗り味でした。こんなことを言うとR32とR35を比べるなんて時代錯誤甚だしい! と言われてしまうのですが、シャシーセッティングに対する考え方、方向性が似ているという意味です。
R32 GT-Rは「グループAで勝つために生まれた」のと同時に、「最強のロードゴーイングカー」であろうとしました。
対してR33はベースとなるスカイラインのボディが大きく重たくなり、それでもGT-Rとしての速さと威厳を保つために、足周りを硬めVーspecではアクティブLSDをも備えました。
またR34に至っては、その全長とホイルベースが短縮したにもかかわらず、そのシャシーセッティングはさらにハードになりました。
当時は軽量な4WDターボ車であるランエボとインプレッサの躍進が著しく、GT-Rも基本性能を高める必要があったのではないかと思います。
ちなみにR34 Vーspecで雨の首都高を走ったとき、継ぎ目にすら敏感に反応するあまりのピーキーさに、こりゃあやり過ぎでしょ! と驚愕した記憶があります。「Mスペック」と「ニュルスペック」が登場したのは、その反動だったのではないでしょうか。
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ダッシュ上部はスウェード調素材で防眩しながらドレスアップ。その他の部分もプラをむきだしにせず、レザートリムで質感を高める「T-spec」のインテリア。一見してゴージャスな見た目だが、センタートンネル部をクリアコートなしのカーボン製とすることで、その印象をストイックに引き締めているあたりが実に心憎い。
とはいえR35 GT-RでさえMY14を迎えるまでは、はっきりとハードな乗り味を基本としていました。だから第2/第3世代の長い歴史を通せば、真摯に速さを追い求めたハードボイルドな乗り味こそが、GT-Rの真の姿と言えるのかもしれません。
ただ個人的には現行モデルでたどり着いた、ロードゴーイングカーとしてのGT-Rに私は大きな共感を覚えました。サスペンション剛性を高めて、もっと高い次元でGT-Rをコントロールするのは、NISMOやサードパーティの役目だと思うのです。もっというと、FIA-GT3の領域なのではないかと思います。
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リアシートは身長171cmの筆者がなんとか座れる感じ。ラゲッジスペースと割り切ればいいのだが、もうほんの少しだけ、本当に少しだけリアウインドーのクリアランスがあれば。そこを妥協せずスポーツクーペスタイルを貫いた姿勢が日産GT-Rの速さを生み出した。それは重々わかっているのだが、こんなことが悔やまれるくらいT-specの乗り味はデイユースで気持ちいい。
ちなみに私も試乗後すぐMY24モデルが気になって、近くのディーラーに問い合わせてみたのですが、噂通り店舗での割り当ては、アッという間に受注時で売り切れてしまったそうです(笑)。にわかファンがあれこれ言ってる間に、本当に欲しい人は手に入れているというわけですね。
ただ日産も、これでGT-Rの生産が終わるとは言っていません。むしろエミッションや衝突安全、騒音規制(今回のマフラー変更がそうですね)、先進安全技術系の装備といった法規に対応出来る限り、GT-Rを作り続けるスタンスとのこと。
だからまず今回は、MY24を手にしたオーナーのみなさんにおめでとう! と言いたいです。
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トランクは開口部が狭くて使い勝手が悪そう。またトランクスルーもないが、これらはボディの剛性を優先した結果だろう。容量的には315ℓで、形状によってはゴルフバッグが2セット積めるというから、二人分の小旅行の荷物ならリアシートとの併用でなんとかなりそうだ。
そして今なおGT-Rを夢見るみなさんは、MY25の登場に備えましょう。
とにもかくにも日産GT-Rは、登場から実に16年の歳月を経て素晴らしいロードゴーイングカーになったと私は思います。
山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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