『クルマは最高のトモダチ』“愛娘”ポルシェ911は走りは最ッ高だし、予想以上に実用的…山田弘樹連載コラム

  • 現在マイ993は、じみ~に足まわりをモディファイ中。前オーナーが装着していたビルシュタインB14キットをベースに、ダウンサスから純正スプリングへ交換して車高を上げました。せっかくバッチリ決まっていた車高を、なぜ上げる!? それは見た目よりも、ハンドリングを追求してみたかったから。詳しくはGENROQ誌「ロングタームレポート」で毎月連載しているので、そちらもぜひ見てくださいね!

2017年の暮れに現車を見もせず購入し、それから丸3年間、なんとか手放さず維持することができた95年式ポルシェ911(タイプ993)。今回は、実際そこまでして手に入れた993はどうなのさ? というお話をしてみましょう。

さてそんな993を手に入れたばかりの頃は、本当に何をやるにしても新鮮でした。
26年落ちの古いクルマに乗っているのに新鮮なんて、なんか変ですよね。
でもそこが、クルマに限らず機械の面白さ。空冷時代特有の、ガチャン! と閉まるドアに興奮し、水平対向エンジンの初爆音に背筋を伸ばし、街中をトコトコ走り出すだけで喜ぶ。
四六時中喜んだり緊張したりを繰り返しているから、最初の頃は家に帰ると結構疲れました(笑)。

でも慣れてくると、段々“しっくり感”が出てくるんです。
素のカレラは役付きモデル(※1)とは違い、GTカーのキャラクターが強いので、普通に運転する限り特別な技術は要りません。私の993は6MTなのでクラッチ操作は必要ですが、高速などは2000rpmちょっと回っていれば6速固定でも速度調整が可能で、エンジン音も期待はずれなほど静かです。

  • 前期型カレラが搭載する「M64/05」は、後期型のようにバリオラムは付かないですが、そもそもの排気量が3600ccもあり(最大トルクは320Nm/5000rpm)、リアエンジンの蹴り出しが良いため、街中ではとても扱いやすいです。また空冷ファンが付いている割に、走っている限りはかなり静か。だから純粋な趣味車としては、ちょっと物足りない所もあるかも。272psの最高出力はレッドゾーンぴったりの6800rpmで発揮されるというロマンチックぶりなのですが、そこまで回さないんですよねぇ。

ボクはそれまで赤パン一台で仕事から趣味のサーキット走行まで何もかもこなしていたので、その意外なほどの乗り心地の良さと、古いとはいえポルシェのグランドツーリング性能の高さには、本当に感服しました。

もちろん現代のクルマと比べると、室内の機密性は劣ります。特にフィラメントのライト類は暗いし、雨が降ったときのワイパーはとっても頼りない。
その代わりに乗り味は、とっても個性豊か。油圧式パワーステアリングから伝わる接地感やボディの剛性感の高さや、重心の低さ。様々なインフォメーションが、色濃く伝わってきます。

そして何より、ボディのサイズが良いですね! ボクは小さくて速いクルマが好きなので、このディメンジョン(全長×全高×全幅:4245×1730×1300mm、ホイルベース:2270mm)に、272PSの組み合わせはバッチリなのでした。ちなみに993の大きさは、現行トヨタ86(4240×1775×1320mm)とそんなに変わらないんですよ。

さて燃費はというと、仕事柄高速道路を使うことが多いので、大体7~8km/ℓくらい。大人しく走っていると9km/ℓ台をマークしますが、大台に乗ったことはまだありません。
現代のクルマと比べてしまうと燃費の悪さに気後れしますが、それでも90年代のターボモデルを大切に乗っている方たちからは、羨ましがられるかもしれません(笑)。

最初の頃は何するにしても、ドキドキわくわくしていたワタシ。さすがに3年の月日が経つと恋人と同じで、いつまでも盛り上がってばかりはいられませんが、それでも乗る度に何らかの発見があるのは醍醐味です。

またモータースポーツヒストリーを調べても、主治医のメカニックから話を聞いても、情報量が膨大で、いちいち中身が濃いから楽しい。
ボクは愛車を手に入れると運行日誌を付けるようにしているんですが、既にノートが5冊分になりました。あちこちリフレッシュするのは金銭的にも大変ですが、愛車の構造を、身をもって理解していけるから頑張れます。
そう、この頑張れる感が、日々の仕事への張り合いになってくれていますね。

  • いきなりボロボロのノートをお見せして恐縮ですが、これは993ノートです。運行日誌として走るたびに行く先と距離、そしてガソリン補給量などを書き留めるのはもちろん、メンテナンスする度にその状況をメカさんから聞いて、知識を蓄えています。もともと編集者だったせいもあるのか、ノンブル書いて、目次も作ってます。ノートが増えるごとにガムテープで背表紙を作って行くと、世界一自己満足度の高いメンテ本が作れますよ(笑)。

そしてやっぱり、元気に走らせると最ッ高!
フロントにエンジンを搭載しないハンドリングは軽やかで、リアエンジンのトラクションは、アクセル操作を楽しませてくれます。993はリアサスがマルチリンク化しているので、普通に走らせていればRRの危うさもありません。
ただ993は、空冷カレラの中では最もトルクフル。トラクション性能の高さも合わせて街中から高速道路まで、高いギアでタラ~ッと走れてしまうので、普段エンジンを回すということが、ほとんどない。
これが目下の、贅沢な悩みと言えます。

というのも以前、主治医のメカさんに乗ってもらったとき「調子はいいけど、上がちょっと回らない感じかな」と言われたんですよね。エンジンを回さなければ燃費的にも助かるし、エミッションや交通マナー的にもよい。でも回しぐせがついていないエンジンは、高回転で眠たくなっちゃうということのようです。

どんなエンジンであれピストンはわずかに首振りするようで、それによってシリンダーには微妙なクセがつく。普段回していないエンジンは、シリンダー断面でいうと真ん中あたりが樽型になって、高回転域で抵抗が大きくなるのではないか? と主治医は言っておりました。もちろんピストンは下死点から上死点まで、どんな回転域でもきちんと往復運動するわけですが、高回転を多用した場合と、多用しなかった場合では、首振りによってできるシリンダー形状が変わるようです。

993が現役だった頃、ボクはまだ貧乏学生だったので、オリジナルの乗り味を知りません。だからその話を聞いたときは、少々ガッカリしました。そして「もっと普段から回さなきゃ!」とも思ったのですが。
とはいえ993はそこそこ以上に速いので、普段の運転でエンジンを回しきることなんて、できないしやりません。 低いギアを意識して走らせても、せいぜい5000回転くらいがいいところ。ボクの993は10万kmを軽く超えている過走行車ですが、前オーナーさんも普段はそんな感じで使っていたんじゃないかなぁ。

さらにボクは993を、恋人というより娘のように猫かわいがりしているので(笑)、これまで一度もサーキットを走らせていません。もちろんその気がまったくないわけではないのですが、走るなら色々きちんと準備できてからにしたいのです。

スポーツカーを手に入れて、こんなことは初めて。仕事で筑波や富士、もてぎや袖ヶ浦フォレストレースウェイに行っても、993は駐車場(笑)。
エンジンからのオイル漏れ(これもいつかお話しますね)が一応直ったので、そろそろ頃合いかな……とも思ってるのですが、思い切り走らせるなら赤パンがあるので、なかなかそこに至りません。
911でサーキットを走ったら、絶対楽しいんですけどね!

  • ボクが993を実用できるのは、必要最低限のラゲッジを確保してくれているからだと痛感しています。フロントのトランクルームは燃料タンクがあるにもかかわらず、機内持ち込み用スーツケースが横置きで入ります。そしてリアシートの背もたれを倒せば、ふたり分の旅行カバンくらいは余裕。若い頃はこうした実用性が大嫌いで、「ミドシップこそ本物のスポーツカーだ!」と息巻いていたのですが、これがあるからこそ911は生き残ることができ、己を鍛え上げることができたんだと今では思っています。

ところでこういうクルマを持つと、普段使いは別のクルマがあった方がいいのかな? と悩むのではないかと思います。“アシぐるま”は必要? という話ですね。
ボクも最初はそう考えました。でも今は、そう思っていません。
まず993は、十分なアシになるというのがひとつ。たまにバッテリーはあがるし、大人数では乗れませんけど、トランクは予想以上に実用的だし、リアシートにも結構たくさん荷物が置ける。

だからアシぐるまを買うお金を考えたら、その分メンテナンスしてあげよう! と決めました。常用すると距離は増えてしまうけれど、経験上クルマは走らせていた方が、コンディションをキープしやすい。
「空冷は音を聞け」とは主治医の弁ですが、乗る頻度が高いほど、ちょっとした違いにも気づけます。

  • 古いポルシェを手に入れて、まず目の前に立ちふさがってくるのがオイル漏れ問題(怖。自分の場合は前オーナーさんがエンジンOHをしてくれたおかげで、一番重要視される縦割りクランク周りからのオイル漏れは発生していないのですが、ヘッドカバー周りからは結構漏れていて、これがかなり小心者オーナーの心を揺さぶりました。空冷911は手に入れたら終わりではなく、手に入れてからが本当の始まり? 本気で考えている人のために、こうした部分もお話していきたいですね。

クルマとしての資産価値は下がるかもしれないけれど、ずっと持っているなら関係ない……よね? 3年経って、そんな境地に至りました。
目標は、おじーちゃんになるまで993に乗り続けること!
ル・マンじゃなくてもポルシェは、耐久レースを走るのであります。

※役付きポルシェ:993の頃でいうとカレラRS(レンシュポルト)やGT2、今で言うとGT3系以上のスポーツモデルを指すことが多い。またターボ系はいつの時代も役付きモデルの筆頭。

(テキスト:山田弘樹、写真:市 健司(Kenji Ichi))

 

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[ガズー編集部]

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