『クルマは最高のトモダチ』超貴重な「M2 CS Racing」をドライブ!しかも、S耐富士24時間出ちゃいます!…山田弘樹連載コラム

「クチから胃が飛び出すほどの緊張感」とは、まさにこのことでした。

富士スピードウェイの2番ピット。そこにはBMWの一番小さなレーシングカーである、「M2 CS Racing」が一台用意されていました。そしてこれを取り囲むように、GTやスーパー耐久で活躍するチーム・スタディの面々が、黙々と走行準備を始めていたのです。

さらにピットの奥にはST-Zクラスを走るM4 GT4が収まっていて、「世界の荒」こと荒 聖治選手や、坂本祐也選手がフツーにウロウロしています。

実はボク、以前もこれと同じマシンを富士で走らせているのですが、今回はまったく目的が異なる試乗でした。
というのも舞台となったのは、5月22日~23日に開催される「富士 SUPER TECH 24時間レース」の公式練習走行。そう、なんとアジア唯一のBMWワークスチームであるBMW Team Studieから、耐久レースに参加することになってしまった!? のです。

今回は、チームメイトも強烈です。レーシングドライバーである木下隆之さんを筆頭に、砂子塾長、昨年M4 GT4でスーパー耐久を闘った東風谷高史さん、そして大井貴之お師匠。こんなメンツとレースできるなんて光栄なのですが、それだけに緊張感もメガ盛りです。

われらが8号車は昨年S耐でコンビを組んだ木下アニキと砂子塾長、そして塾長のお弟子さんである東風谷高史選手、大井貴之選手と私の5人。平均してもひとり5時間近く走る計算になります。

ちなみにチーム・スタディの鈴木“BOB”康昭会長が24時間耐久レースにエントリーを決めたのは、このM2 CS Racingの楽しさを、ジャーナリストチームで伝えるというコンセプトからでした。
しかしライセンスや諸問題から、ふたを開けたらいわゆるジャーナリストって、ボクだけだったんですよ。………あれーッ!?

もちろん木下アニキはモータージャーナリストでもありますし、大井さんは今をときめくレーシング・ユーチューバーだから、M2 CS Racingの面白さはバッチリ伝えてくれるでしょう。
でもその前にふたりとも、れっきとしたレーシングドライバーなのですよ。そしてボクは、れっきとしたアマチュアドライバー!
だからこの話が決まったときは嬉しいやら緊張するやら、なんとも言えない気持ちでした。

あー、胃が痛い!

実はこのM2 CS Racing、まだアジアで2台しかない超貴重なマシンで(汗、走らせるまでは本当に緊張しっぱなし。コクピットに収まっている顔を見てもわかりますが、ワタクシずっと、怯えた子供のようでした。でもコースに出たら、そんなこと忘れて夢中に走ってました(笑)。

さてボクの話はこのくらいにして、さっそくM2 CS Racingのお話をしましょう!
これはBMWが各国のワンメイクレース開催やツーリングカーレース参戦をするために作った競技車両で、2シリーズクーペの最高峰Mモデル「M2 CS」がベースとなっています。
ポジショニングとしては入門用マシンであり、ステップアップモデルとしてはこの上にM4 GT3や、M6 GT3(時期型はM4 GT3)が存在します。

  • エンジンは市販車のM2 Competition/CSと同じ「S55」型の3リッター直列6気筒ツインターボで、今回は出力がCSと同じ450PSまで引き上げられています。キャラクターとしてはまったくピーキーなところはなく、低速からトルキー。そしてBMWのストレート・シックスらしく、高回転まできれいに吹け上がって行きます。

エンジンはBMW 珠玉のストレート・シックスである「S55」。3リッターの排気量を持つ直列6気筒ツインターボは、360~450PSのパワーと、550Nmの最大トルクを発揮します。

なんでそんなにパワーの幅があるの?
それは各カテゴリーのレギュレーションに合わせて、性能調整が可能になっているから。パワースティックというUSBメモリーを差し替えることで、出力値が数段階選べるようになっているのです。

そして今回の24時間レースは、450PSのフルパワーバージョンで、ST1クラスに参戦します!!

とはいえこのM2 CS Racing、いわゆるゴリゴリのレーシングカーではなくて、あくまでアマチュアドライバーがモータースポーツに親しむために作り込まれている所が一番のポイントです。
たとえばそのボンネットやバンパー、ドアなんかは全てスチール製。万が一のアクシデントやクラッシュが起こっても、パーツの交換コストが掛からないように、敢えて高価なドライカーボン製パーツの使用を控えているんです。
対して安全に関わるロールケージはガッシリ張り巡らされています。だから内装がストリップダウンされていてもその車重は、約1500kgもあるんです。

というわけで、スーパー耐久としてエンジン格式ではST1クラスでも、速さはちょっと足りてないのが現状です。
ちなみにST1は改造範囲が広く、車両開発が行えるクラスですが、チームコンセプトとしてはピュアなM2 CS Racingの魅力を伝えることが目的なので、今回はこのまま走ります。
といいますか、そもそもこの8号車、おろしたてのド新車で、今回が初走行なのです。

室内にはレース用デジタルメーター(見えなくてごめんなさい!)とステアリング、そしてセンターコンソールのスイッチ類が付けられています。ダッシュボードにはFCY(フルコース・イエロー)用のモニターも。スイッチが沢山で一見目が回りそうですが、よく見ると市販車とあまり変わりません。ピットレーン・リミッターを効かせたときは「おぉ、レーシングカーだッ!!」と感動しました(笑)。

そんなこんなで乗り込んだM2 CS Racingは、BMWファンならずとも思わずうっとりしてしまうレーシングカーでした。
なんせそのルックスが、カッコいい。ハンドルなんてM4 GT4と同じですから!
そして走らせると、拍子抜けするほどフレンドリーなのでした。信じないかもしれないけれど、きっとみんなも普通に運転できちゃいます。

乗った感じは、まんまノーマルカー。いや、ボディがシッカリしていて、スリックタイヤを履いているから、むしろ市販車のM2 CSよりもずっと安定しています。
ストレートでもST-XクラスのFIA GT3車両以外は極端なスピード差がないですし、トランスミッションは6速DCTのパドルシフトだから、エンジンブローの心配もない。
だからボクも、3年ぶりに訪れたS耐の現場を、無事に走ることができました。

ただ速く走らせようとすると、話は別。特に当日は、本当に何のデータもないまっさらな状態から走らせたので、最初はクルマが全然曲がらなかった。
ボクが担当した時間帯は路面温度も高くて、距離を重ねたタイヤだと完全にお手上げ状態でした。

スーパーGTでM6 GT3を走らせるスタッフがボクたちのマシンも面倒みてくれます。プロのエンジニアとメカニックたちの仕事ぶりは迅速で、とっても正確! 当日もドライバーの意見を吸い上げて、素早くセッティング変更に対応してくれました。

そこでチームは走行の合間にドライバーからヒアリングして、車高やジオメトリーを素早く変更しました。
なおかつタイヤの設定内圧がつかめてくると、そのハンドリングが驚くほど良くなったのでした。

そう、こういうところもレースの面白さなんです。先輩ドライバーのコメントは的確だし、エンジニアもすぐに対応してくれる。
いいチームで走ると、レースってとっても面白いんですよ。

そして。
きちんと曲がるようになったM2 CS Racingを走らせると、その魅力がつかめてきました。
レーシングカーというと、すごくシャープなクルマを思い浮かべるでしょう?
でもこのM2 CS Racingは、サスペンションがとてもしなやかなんです。しっかり感があるのに、普通にロールもします。
速さだけを考えたら、もっと足まわりを固めてもいいはず。でもそれをしないから、アマチュアでも乗りやすい。そしてプロが乗っても、奥深い。

こうしたキャラクターはM2 CS Racingが入門用レーシングカーであるのと同時に、ニュルブルクリンクを走るマシンだからだと思います。
山有り谷有り、スタート地点と反対側では天候も違うニュルをハイスピードで走るには、こういう懐の深い操縦性が必要なのでしょう。
乗りやすいけど、速く走らせるにはきちんとしたドライビングテクニックが必要で、それを勉強するためのデータロガーも搭載してる。
まさに近代的な、スタディ・レーサーなんです。

ちなみにBMWはこのM2 CS Racingを、ディーラーで販売する準備を進めています(気になる方は、スタディにお問い合わせを!)。そしてそのお値段は、1500万円から……!!

  • 今回ボクに声を掛けてくれたのは、スタディの会長であるBOBさん。根っからのBMWラバーで、とっても気さく。いまでこそアジア初となるBMWワークスチームのボスだけど、そのフレンドリーさは昔からちっとも変わらないです。

……ちょっと引いたでしょ?

でもその作り込みや、システムの充実具合を考えると、高いとは言いきれません。
そもそも60台限定だった市販車のM2 CSが、1265万円(6MT)もしたんです。
これでワンメイクをやったら、964カレラRS時代のカレラ・カップみたいに、シンプルでエキサイティングなレースになるんじゃないかなぁ……出たことないけど(笑)。

仲間やクラブで一台買って、耐久レースに出るのも夢があるなぁ。
どれくらい耐久性があるのだろう? どれくらいタフなのかな?
そんなところも24時間レースで確認したいですね。

とはいえ1500万円のレースカー。
やっぱり簡単に買える代物ではありません。
でもボクは、別にそれでいいと思います。だってM2クーペを中古で買って、こういう足まわりにすればいいんです。
というか市販車の足まわりも、このくらい懐深ければいいのに!

みなさんがM2 CS Racingを走らせたら、あまりのフツーさに驚くと思います。
むしろBMW好きには、刺激が足りないかも。
最初は「何このボヨンボヨンした足まわり!?」って思うかもしれません。

でも運転が大好きな人ならこのじわり感、わかってくれるはず。こういう質の高い走りを、ボクはみなさんに体験してもらいたい。
そういう機会をこれから作って行くためにも、まずはこの24時間レースを走り抜きたいですねッ!

……はぁ、また胃がシクシクしてきました。

ピットは2台体勢で、♯20 SS/YZ Racing With StudieのM4 GT4にはスーパーGTでコンビを組む山口智英/荒 聖治 組に、坂本祐也選手がジョイント。3人で24時間を走るって、すごいですよねぇ。

(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[ガズー編集部]

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