『クルマは最高のトモダチ』ミライに乗って思う未来のコト…山田弘樹連載コラム
先日、遅ればせながらトヨタ・ミライに試乗しました。
ご存じミライは、水素の化学反応で取り出した電気で走るFCEV(燃料電池電気自動車)の最新版。これに試乗して、いま自分の中で「ミライ欲しい病」が、ジワジワ来ています。
ミライは何より、プロポーションが美しくなりましたね!
そして走らせて、セダンとしての魅力の高さに、ワタクシとっても感激しました。
まずはボディの静粛性。ロードノイズや路面からの衝撃をボディが見事に遮断・ダンピングして、必要な入力だけインフォメーションとして伝えてくるから、とっても静かなのに運転が楽しいんです。
“静かさ”はモーター駆動車の特徴ですが、エンジンがないだけに“粗”も目立つんですね。その点でミライは、ボディのできが素晴らしかった。
インテリアやインフォテインメントのギミックで過度な演出をしなくても、クルマ本来の質感で、すっきりとしたラグジュアリーが表現できていました。インテリアのデザインは、もうちょっとキレがあってもいいけれど(笑)。
ハンドルを切ってからもいい感じ。
初期ロールスピードの速さをうまく利用しながらスッと向きを変え、そこからペターッ! と張り付く感じで曲がって行きます。特に今回は20インチのオプションタイヤを履いていたので、ライントレース性が高かった。逆を言えば、オーソドックス派なら標準設定の19インチでいいかも。
新型ミライは床下にバッテリーセルを敷き詰めていないからか、ピュアBEV ほど低重心さを感じません。むしろFCスタックの搭載位置が高いせいか、重心の移動を感じます。
バッテリーを剛体として利用して、フロア剛性バリバリ! ってわけでもない。
けれどその特性を上手に使って、走りの良さを表現しています。
それは私たちがこれまで慣れ親しんできたセダンの、それもかなり極上な部類のシャシーセッティングだと思います。
1930kgの車重に対し、出力は182PS/300Nmしかないですし、トルク特性もジェントルに躾けられているので加速力に驚きはない。でもアクセルを入れて行った時の、後輪からジワーッと押し出される感覚は、まさにFRセダンの本質。これをモーターの、断続感のないパワーデリバリーで行うから、とっても気持ち良いんです。
そして改めて言いたくなりました。
やっぱりセダンは、走りがいいんです!
世の中のトレンドはいま、間違いなくSUVにあります。
でも、本物のセダンがもたらす走りの質感には、やっぱり敵わないんですよ。言ってみればセダンって、スポーツカーやワゴン、ミニバンといった多くのクルマが持つ特徴を、一番バランスよく持っているクルマです。
SUVに比べてルーフが低く(即ち重心が低い)、ボディバランスが良いセダンで表現できる走りは、やっぱり奥深いとボクは思います。
ボクはクラウンの未来的ニーズが、実はミライで密かに表現されているのかな? と感じています。
セダンは本来家族を乗せるためのクルマだったわけですから、荷物だってそこそこ以上に積めます。室内空間だって、同じセグメントならSUVと大きく差があるわけでもない。そして何より、フォーマルに使えます。
それでも“いまセダンを買う”のってなんの目新しさもないし、お金を出すのに勇気が要りますよね。
そこでボクは、ミライだと思いました。
モーターライドがもたらす新感覚。利用段階での排出ガスゼロのクリーンさ。こういった新らしさが再び、セダンのステアリングを握るキッカケになりそうだ! と思えたんです。
もちろん水素の電気変換効率の低さや、そもそもの価格の高さ、その生成過程における二酸化炭素排出量など、問題も多々あります。だから今ミライを購入するのはアーリーアダプターがメインだと思いますが、もしFCEV普及率の低い今オーナーになれば、こうした問題に消費者として、目を向ける意識もいち早く芽生えそう。
……うぅ、完全に欲しくなってきている(汗。
でもミライ、高い!
そうなんですよね。その価格は一番ベーシックな「G」グレードで710万円、一番高価な「Z Advanced Drive」で845万円!! と、一瞬のけぞるような価格です(笑)。
しかしメディアでは、国および自治体の補助金と、残価設定ローンを組み合わせることで、これが驚くほどリーズナブルに購入できる!? というレポートが沢山展開されています。うーん、ますます面白い。
これからの時代、クルマは二極化の傾向が強くなりそうな気配です。
日常で使うべきは、環境性能に優れたクルマたち。そしてボクの赤パン(AE86)や、決死の覚悟で手に入れた(笑)、911のようなスポーツカーたちは、音量や排気ガス、スピードの側面で、楽しむべきTPOがより明確に限定されて行きそう。
それについては議論が必要ですし、ここでは掘り下げませんが、環境と同時にこうした大切なスポーツカーたちを守るためにも、何か行動したいと思いました。
それなら乗って気持ち良いミライで、未来を考えてみたい! なんて。
大切なのは最初から完璧を求めることではなくて、できることからやってみることだと思います。
もっと単純なところで言うと、水素ステーションを探すときのドキドキ感。まだ全国に137カ所しかないステーションをつないで、日本一周したら面白そうだなぁとも思います。あっ、北海道にはまだないんだった。
いまミライに乗ることは、ひとつの冒険かもしれません。
もしミライを手に入れたら、色々チャレンジしてみたいなぁ。
そうだ、とりあえずディーラーへ行ってみよう!
(テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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