『クルマは最高のトモダチ』チームの団結力に感動! 24時間レース奮闘記…山田弘樹連載コラム
やりましたーッ!!!
BMW team Studieの8号車、われらがM2 CS Racingが、みごとに日本デビュー戦を完走。ST-1クラスで3位、総合12位で24時間レースを闘い抜きましたッ!!
終わってみればこの24時間耐久レースは、ボクの人生の中でも一二を争うほど素晴らしいレースとなりました。しかしそのレースウィークは、やはり人生の中でも一二を争うほど、緊張感の高いものでもありました。
なぜならこのプロジェクトには、壮大なテーマが込められていたからです。
そのテーマとは、M2 CS Racingが高性能な「カスタマーレーシングカー」として、そのポテンシャルを遺憾なく発揮すること。それを実証する場所として「富士24h耐久」は格好のステージとなったわけですが、だからこそ完走することが、絶対条件となったのです。
公式練習走行で走らせた印象からいうと、ボクはM2 CS Racingに手応えを感じていました。
450馬力を発揮する3リッター直列6気筒ツインターボを搭載しながらも、マシン的には余裕たっぷりで、走らせていてもまったく無理をしている感じがない。ボディはうれしくなるほど剛性が高くて、サスペンションもストロークフルだから、シャシーへの攻撃性も少なそう。
これなら24時間を、戦い抜ける気がしていました。FIA格式のGT3車両を世界中のカスタマーに、コンスタントに販売しているメーカーのクオリティは、やはりさすがです。
一方気になる部分としては、カーボン素材を多用しない車両の重量が1500kgを超えていることでした(ガソリンを満タンにして、ドライバーが乗ると1600kgを超えます!)。
その対策としてBMWモータースポーツは前後に大径ローターと、肉抜きされた造形がものすごく美しいモノブロックキャリパーを装備。さらにスーパーGTでもチーム・スタディをサポートするディクセルが、予選/決勝用のパッドを別々に用意してくれました。
とはいえM2 CS Racingは上陸したてのまっさらな新車だったので、ロングランテストが一切できていませんでした。ブレーキやタイヤのライフはもちろん、走行に関するデータが、全くなかったのです。
そんな不安を見事に払拭してくれたのは、僕たち同様今回からチームに加わった、高木トラックエンジニアでした。
高木さんは公式練習走行と1スティント目の状況からベースデータを構築し、それぞれのスティントでペースを調整。当初1時間ちょっとしか走れないと思われていたスティントを、なんと30分近く引き延ばしてくれたのです。
これによってブレーキパッドの交換回数が減り、限られたセット数のニュータイヤで、想定より多くのスティントを走ることができました。
トラックエンジニアとはまさに、作戦参謀でした。そしてボクたちの、大切なムードメーカーだったのです。
かくいう私のスティントは、ちょっとしたドラマがありました。
まず最初に走った第3スティントでは、その終盤に「降らないだろう」といわれた雨が降ってきました。よりによって一番経験が浅い自分のときに、なんでー!!
縁石に乗らず、1コーナーとダンロップコーナーではブレーキをいたわりながら。探り探り走ったラップは、1分52秒中盤をベストにしながら順調に推移していました。
M2の運転もコツがつかめ、そのペースにチームのみんなも驚いていたその矢先。マシンのフロントウインドウには、ポツポツと雨粒がはじけるようになったのです。しかも曇天の空模様が影響して、あたりは真っ暗に!!
わたし:「雨降ってきちゃったんですけどぉ~。ブッ(無線の切れる音)」
高木:「ペースよいので大丈夫でーす……ブッ」
わたし:「スリックで雨なんて、経験ないんですけど……ブッ」
高木:「だいじょーぶでーす」
ひえぇ。いったい何が、大丈夫なんだ?
泣きごとを言っても、どうしようもないんです。慰めてもらったって、仕方ないのもわかってるんですよ? でも思わずグチっちゃうんだから、おかしいですよね。
ちなみに若いドライバーだと「タイヤがない!」とか「走れない!」とか、そんな話はしょっちゅうだそうです。
さらには「あのマシンが○◎で××で△△△~ッ!!!!?」なんて、会話にならない会話をすることも(笑)。レース中は、アドレナリンが出ちゃってるんでしょうね。
そういう意味ではこの8号車チーム、みんな試合巧者のオジサンたちばかりだったので、無線のやりとりはかなり落ち着いていたようです。高木さんいわく「オトナレーシング、最高です!」とのことでした。
でも、雨のスリックはやっぱり怖かったなぁ。
さらに二度目の出番となった朝のスティントでは、ちょっとした試練が待ち受けていました。気温もまだ低めの午前中。クルマもわかってきたことだしここは「一発だけ、ベストラップ狙ってやろう!」とスケベ心を出して飛び出したアウトラップ。
そんなボクの気持ちを察したのかM2のエンジンが、吹け上がらなくなってしまったのです。
どうしてー!?
アクセルを踏み込んでも、エンジンの回転が上がらない。レブカウンターも、グリーンゾーンすら点灯しない。仕方ないからピークトルクが落ち込む寸前でシフトアップして、普段よりひとつ高いギアで各コーナーを走ります。いわゆる、ショートシフトです。
ストレートでは、それまで簡単に抜いていたGT4車両に、逆に抜かれるほどスピードが落ちました。
そう、M2 CS Racingは本当にストレートが速くて、ブレーキをいたわらなければ250km/hくらいは出ちゃうんです。それがだいたい、210km/h程度になってしまった。
無線で「エンジンが吹けません……」と伝えると、今度ばかりは高木エンジニアも焦ったようで、インジケーターを確認させたり、メーターのリセットを行ったりと、色々指示を出してくれたのですが、状況は好転せず。
そして何度かのやりとりが繰り返された後無線が途絶え、最後は「タイムも悪くないので、そのまま行きましょう!」と、明るい返事が戻ってきたのです。
えーッ!! それでいいのーッ!?
結論から言えば、いーんです。
だってもしこれでピットに戻り原因を追求しても、元に戻る保証はどこにもない。そしてロスタイムは、絶対に免れません。
ならばたとえ1~2秒遅くても、走り続けた方が遙かに効率的。
明るく言われるから調子狂っちゃうんですが、それはとても、的確な判断だったのです。
ちなみにこの症状は、バトンを受けた木下選手のスティントでは起こりませんでした。
ピットインに際してエンジンを切ったことで、ECUがリセットされたのかもしれません。……重ね重ね、なんでー!!
その後は、昼を回った大井選手のスティントで、駆動系に若干のバイブレーションが生じました。チームはこれを受け、大事を取ってボクのスティントを大井選手、東風谷選手のスティントを砂子選手と、それぞれのお師匠が担当することに。
万が一トラブルが起きても、余裕をもって対処できる人選で、終盤戦を乗り切るオーダーが組まれたのです。
しかし幸いにもトラブルは一切起こらず、ついに最終スティントで木下隆之選手にバトンが渡されました。
こうして迎えた最終ラップ。24時間を1分19秒過ぎたところでST-Xクラスの♯81 DAISHIN GT3 GT-R(大八木信行/青木隆之/藤波清斗/坂口夏月選手 組)がチェッカーを受けると、長い戦いが終わりを告げました。
そしてわれらが8号車も、無事にチェッカーを受け695周を完走! ST-1クラスはシンティアムアップルKTM(728周)、mutaracing GR Supra(705周)の2台も完走を果たしており、BMW M2 CS Racingはクラス3位となりました。
ST-1は3台しかエントリーのないクラスですが、KTMもスープラも、ST-Zクラスと互して戦える実力の持ち主でした。事実KTMなどはGT4マシンたちを全て押さえ切って、総合2番手でゴールしています。
そんなクラスに加わって、M2 CS Racingが24時間を走り抜いたことは、ちょっとした誇りです。そしてST-XやST-Z、ST-TCRクラスという、遙かにラップタイムが速いマシンたちを従えながら、総合12番手となったことも。
それと同時に、チームの団結力がなければ、ここまでの結果は得られなかったと心の底から思いました。
ピット作業以外に加えて、セット数が少ないホイールを不眠不休で掃除して、組み替え続けてくれたメカニックたち。
ドライバーの予定と行動を完璧に把握して、時間通りにアテンドしてくれたマネージャーたち。
彼らや彼女たちがいなければボクたちドライバーは、その力を発揮できなかった。
不眠不休でマシンを走らせてくれたメカニックと、やはり不眠不休でドライバーを支えてくれたマネージャーの面々。常に明るく接してくれた彼らのおかげで、ボクはレースで何より大切なものが、チームの雰囲気だということを改めて思い知らされました。そしてファンの応援が、ものすごく大きな力になるということも初めて知りました。
そして観客席から手を振ってくれたBMWファンの応援が、こんなにも力になるものだとは思いませんでした。
やっぱりモータースポーツは、人がやるから面白いんですね。
そんな当たり前のことが、がっつり胸に刻まれた富士の24時間耐久レース。アジアで唯一のBMWワークスであるチーム・スタディは、少しも気取ったところのない、最高の仲間たちが集まったレーシングチームでした。
(写真提供:BMW Team Studie テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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