『クルマは最高のトモダチ』ポスト・ハチロクはどれだ!?…山田弘樹連載コラム

さて新型SUBARU BRZが遂に発売し、GR86も発売を目前に控える状況となったわけですが、果たしてこの2台は“買い”なのでしょうか?
もっというと、運転がうまくなりたいドライバーにとって、いま一番買うべき一台って何なのでしょう?

ボクの答えは、新型ではなく旧型の86/BRZです。

えーッ!?

この2台が、いまこそハチロクの後継者(車)だと思うんです。

ちなみに中古車サイトで検索すると、最安値は99万円から(2021年8月20日調べ)。
支払総額になると100万円を超えてしまうのはかなり残念ですが、10万kmを超えれば修復歴なしでも総額150万円以内で見つかる。

マニュアルシフトで後輪駆動のスポーツカーが激減した現在、これがリアルな底値に感じます。
本当なら約10年落ちのスポーツカーなんて、50万以下で買えるべきなんですけどね。

かたやロードスターやフェアレディZは、いまなお適正価格!?
03年式初期型Z33で、修復歴なし16万kmの個体が55万円(本体価格)! っなんて見ると、ムラムラします(笑)。
AT車なんて25万円からッ!? ボディも痛んでないだろうし、これをMTで載せ替えて……。
ロードスターも、底値のNBならMTモデルで30万円以下! 支払総額でも60万円を切りますね。

それでもボクは、先代86/BRZを推します。
なぜなら86/BRZはド初期でも10年くらい新しいので、リフレッシュの負担が少ないと思うから(違ったらごめんね)。

あとは、チューニングを含めたコストバランスです。
特にイニシャルコストは大事。

  • Z33は大排気量エンジンがネックなのか、初期型は恐ろしく安い。でもそもそもは86/BRZよりもひとつ上のクラスなので、何するにしてもお金が掛かる。ガソリンは食うし、タイヤは太いし、仕上げたくなっちゃうし。かつて280PSを誇ったターボ軍団に対しては、タフだしリーズナブルなんだけど、これは大人のハチロク。

最初からチューニングカーを買うという高等テクもありますが、Z33/34はサーキットを走り出すまでに結構お金が掛かります。
ちょっと重たいスポーツカーだから足回りやブレーキをしっかりさせたくなるし、タフに走るなら冷却系、性能にこだわるならエキマニ・マフラーにも手を入れたくなる。換えるとこれがまた、いい音するのですよ!
86/BRZはパワーがそこそこでウェイトも軽いから、そういった負担が少なくて済みます。

軽さという点では、ロードスターこそニッポンを代表するライトウェイトスポーツカーですから、本当はこれが超お勧め。
言葉は悪いけど“おかわり”しやすいし、リフレッシュ込みでも86/BRZよりは安く済む気がする。
そして足周りに手を入れるだけでバッチリ走り回れるんですが……。
いろいろ探して行くと、人気グレードが欲しくなりがちなんですよね(笑)。

  • ロードスターは、ほんとのホントは大本命。格安のNBで走り込んで、最悪クラッシュしても“お代わり”できる超逸材ですが(雑に扱うという意味ではないですよ?)、今回はトータルバランスで86/BRZの勝ちとしました。でも、どっちを選んでも楽しいのは間違いない。ロードスターも永遠の名車ですよ。

そしてストレートは、やっぱり86/BRZの方がちょこっと速い。自分でも原稿には「クルマは速さじゃない!」とよく書きますが、同じような条件なら速い方が楽しいです。
トルクがあればマシンコントロールもしやすいですしね。
なおかつ86/BRZは、タイヤとか工具がきちんと積めて、普段使いしやすい。

そんなボクも、かつてフェアレディZとロードスターを所有していました。どちらもかなり手をかけた、愛車と呼べる存在でしたよ。
つまりこの3台は、NAエンジンを積んだFRスポーツカーだけに似ているんです。
そのなかでいまは先代86/BRZが、一番バランスがいい。いまこそ乗りどきじゃないかな、と思うわけです。

ところで新型GR86/BRZは?
これは文句なしに買いの一台(二台?)です。

先代86/BRZの足りない部分をガッツリ補ったその完成度は、マニア的にはちょっと震えるほど(笑)。
でもかつての自分のようにビンボーだけど、クルマが欲しくて仕方ない若者には、先代を推します。それも、初期型でいっちばん安いヤツ。

だってこれこそが、“ハチロク”の正しい姿なのですよ。
過走行でも、いいんです。たとえ事故車でも、まっすぐ走ればオッケー!
……現代のコンプライアンスだとよくないのかな(汗。
じゃあ言い直して、きちんと直っていればオッケー!
少なくともボクの若い頃は、それでよかった。ボロくても、こうして手に入れたハチロク(AE86)は宝物でした。

  • 86/BRZ後期型は前期型に比べて質感も走りも、すごく良くなったんですが、若者が乗るなら絶対に前期型。いいクルマになんて、年を取ってから乗ればいい。……それだとガソリン車は高騰しちゃうかもしれないから、うまくなってから乗ればいい。うまくなれば壊さなくなるから、前期型でガンガン走って、早くうまくなろう!

確かに先代・後期型は内装の質感が上がって、乗り味も上質になり、走りもすごくバランスが良くなりました。新車だったら、絶対後期型。でも新型でちゃったしね。

若者は、“質感”なんておやじくさいこと言ってちゃいけない!
速さなんて大して変わらないし、腕でカバーですよ。少しはチューニングだってしてみたいだろうし、タイヤ代やガソリン代、サーキットの走行チケット代だって必要なんだから、絶対安い方がいい。
チープを勲章にできるのは、若者だけの特権だよ!

旧型前期を買って、ガンガン走る。トモダチや先輩に「速いじゃん」なんて言われたら、気分は最高。別にプロになるとかならないとか、どうでもいい。
その感覚は、スケボーとかBMXとか、フリースタイルスポーツに近い感じかな。
ハチロクっぽくなってきたぁ!

そういう意味で言うと元祖ハチロクは、もはやハチロクじゃないんです。
コンパクトなボディにガンガン回せる4AGを積んで、後輪を駆動する楽しいクルマだけど、もう10年くらい前からとっくに、“あすなろスポーツカー”じゃない。
ガンガン走れる、ゾンビのようなネオクラシックカーです。

それに巷には、高いくせにきちんと直してない個体がゴロゴロしてる。そんなクルマに「レストア済み」とか言って、200万円とか値段付けてるの、ホントよくない!
ボクらはずっとハチロクに乗ってきたから、ごくろうさんの意味を込めてレストアする。

昔乗っていたのが懐かしくて、多少高いお金払っても大人買いするけれど、若者はよっぽどいい縁がない限り、ハチロクなんて買わない方がいいよ。
アンダー150万円のトヨタ86/BRZを買った方が絶対にいい!
そして愛着が沸いたら長く乗って、ハチロクみたいにすればいいんだ。

  • そして我が相棒、赤パン。AE86レビン/トレノは、知り合いから譲り受けるか、きちんとした専門店で買わない限り、手を出さない方がいいと思う。エンジンがノーマルだといまや激オソだし、速くしようと思うとすごくお金が掛かる。それでもハチロクが欲しい! という人が買うマニアのクルマで、それってもはや“ハチロク”じゃないとボクは思うようになった。ハチロクなんだけどね……。

初代86/BRZで気をつけたいのは、流行りのチューニングに振り回されないことでしょうか。
18インチタイヤを履かせてタイムを出すのが走行会とかでもセオリーだと思いますが、別に純正の215/45R17で気にせず走っていればいい。
一番下の「G」グレードでは走ったことないけど、純正サスなら205/55R16だっていいと思う。
足周りとタイヤとホイールを買うかわりに、タイヤを沢山使った方がうまくなる。純正のトルセンLSDがあるだけでオッケー!
うまくなるにつれてやりたいことも自然に出てくるから、そこでチューニングすればいい。

あとは新型が登場したことで、相場が下がってくれたら最高なんだけどな。
間違っても「初代は貴重!」とか言って、値段をつり上げないで欲しい。

初期型トヨタ86/BRZには、本物の“ハチロク”になって欲しいボクです。

(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[ガズー編集部]

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