『クルマは最高のトモダチ』憧れのハチロク乗りとハチロク談義…山田弘樹連載コラム
先日、憧れの人と仕事をしました!
憧れの人というよりは、憧れの番組を作っていた人かな? その名は、仁禮義裕(旧姓 仁礼:にれい・よしひろ)さん。そう、大井師匠と一緒に「ベスト・モータリング」を制作していたあの“仁礼さん”です。私が大好きだった「ご老公シリーズ」では、うっかり八兵衛・役を担当されてました。
ご老公シリーズはベスモのなかの人気連載番組。黒沢元治さん(ご老公)が大井貴之さん(助さん)、仁礼さん(うっかり八兵衛)を引き連れ全国のサーキットを行脚して、そこの猛者たちと対決するドラテク特訓企画です。
最初は“うっかり八兵衛”こと仁礼さんがロードスターで対決して、ここで勝てるとマイカーで助さんと対決。この難関を打ち破ると、晴れてご老公とロードスターで対決できるという内容でした。そして最後は、参加者全員をドラテク特訓してくれます。
うっかり八兵衛は、ある意味やられ役(笑)。でも当時のベスモは忖度なしのガチ番組でしたから、勝てるときには平気で勝っちゃいます。実際、仁禮さんも「いつも全部、勝つつもりで走ってたよ!」と言ってました。
それでもご老公シリーズは本当に速いヤツらを募集していたので、本物が現れます。その筆頭といえるのは、やっぱり谷口選手でしょう! 助さんが負けたときは、かなり衝撃的でした。
そしてベスモ読者だった私と仁禮さんとの共通見解は、「やっぱり速いヤツは、ハチロクに乗ってんだよね!」でした。
だから当時ビンボー学生だった自分も、バイトで貯めた貯金を全部つぎ込んで、一番最初のハチロク(後期型GT)を手に入れたんですよねぇ。
通算7台のハチロクを乗り継いだ仁禮さん。なかでも一番思い入れがあるのは、新車で買ったレビンでした。「このTVISを効かせたサウンドが、最高でしたね。マフラーはフジツボのスチール製が一番かな。土屋さんのFISCO管加工も良かったな」。そしてこのレビンにTRD製のN2フェンダーが付けられて(写真左)、後のホットバージョンN2号になるわけです!
でもなんで、当時のハチロク乗りはあんなに速かったのでしょう?
アンダーパワーのクルマを無駄なく走らせるなら、シビックだってあった。後輪駆動がいいなら、ロードスターもあるじゃない?
価格が安かったから?
最悪ブツけてもいいや! って感じでガンガン走れたから?
でもボクにとっては宝物だったし、それだけじゃない気がするんだよなぁ……。
そこは、さすが仁禮さん。生粋のハチロク乗りは、私が今までで一番納得できる答えをくれました。
「ハチロクはパワー的な余裕がまったくないからさ(笑)。自分を高めないと、速く走れないんだよ。そして自分を高めて走るとなると、相手が自分になるんだよね。
ガンさん(黒沢元治さん)も速くなるためには『自分に勝てばいいんだ』って言ってた。『ベストな走りをした自分を、絶えず超えること』が大切だって。つまりハチロクに乗ると、ライバルが自分になるんだよ」
なるほどぉ。うっかり八兵衛とは思えないコメントですよ!
ある意味野蛮に走るというか。自分を高めないと速くないから、ハチロクは面白いんだよね。そんなときにあのヘボヘボなリア・リジッドの不安定さと、4AGの“クォーッ!!”って吹け上がりが、高めてくれるんだよね!
そんな仁禮さんは、これまで通算7台(!!)ものハチロクを乗り継いできたハチロクバカ。好きが高じて遂には、あの伝説のHot Version「土屋圭市 AE86 Club」を作った人でもあります。そしてこれを作った理由も、呆れるほど筋金入り。
「初代ロードスターが登場したときベスモで土屋(圭市)さんが『ロードスターはハチロクを超えた』ってコメントしたんだよね」
あの富士フレッシュマンで怒濤の6連勝を飾ったドリキンがそう発言したのを、ハチロクバカの仁禮さんは許せなかった。
「それが聞き捨てならなくて、『もう1回土屋さんに、ハチロクに乗ってもらいたい!』って思ったんだ。だから会社(2&4モータリング社)にも、募集していないのに押しかけたの(笑)。
谷口も熊久保もハチロクに乗っていたし、織戸やアキラ(飯田 章)も『水戸納豆レーシング』やってたから。みんなで楽しくやりたいな! って思ってたんだよね」
……って、スゲー名前ばっかり(汗。
「それにあの頃はまだ『カローラ対シビック』の図式があって。V-TECを搭載するシビックに、カローラは完敗状態だった。でもシビック・タイプR(EK9)の車重が1tを超えたとき(1040~1090kg)にふと、『このクルマすごいけど、また重たくなってる。ハチロクは軽いなぁ、やっぱり…』と思ったんだ。
そしてひらめいたの。ハチロクの4AGはグロスで130PSだったけどAE111用なら165馬力。しかもネット値だし(笑)、5バルブだし、4スロ(4連スロットル)も付いているからチューニングができる。このエンジンを載せて、少し軽くすればEK9に勝てるかも! って」
そうですよ、今となっては最強の定番メニューとなっている5バルブエンジンの搭載も、ハチロク・クラブがメジャーにしたんですよ。
そして仁禮さんは「土屋さん、もう一度ハチロク買いませんか?」と提案しました。
「六本木を1回休めば、ハチロク買えますからって(笑)。当時はまだハチロク安かったからね。そしたら土屋さんは『おぉハチロクか、いいな。でも、六本木は休まない!』って言って、オレがみつけてきた2オーナー車を買ったんだ。たしか25万円くらいだったかなぁ。
エンジンも中古じゃ申し訳ないから、企画書を作ったらトヨタが新品のエンジンを出してくれて。土屋さんが連絡してくれて、TRDの全面協力も頂いた。すごい時代だったよね!」
ハチロク・クラブは、ハチロク乗りのバイブルでした。
毎回土屋さんのハチロク(現在はスーパー豆号と呼ばれていますよね)が、ちょっとずつ進化していく様子を見るのは、すごく楽しかった。
TRDの桜井さんが手作りする5バルブや、仁禮さんが泊まり込みで手伝ったボディ補強は、ため息出るほどうらやましかったなぁ!
当時まだハチロクは15年落ちくらいの中古車で(それでもボロ扱いされてたけど(笑))、それをリフレッシュしたのもトレンドの先取り。ハチロクをレストアする流れって、この頃から徐々にできあがってきたと思います。
その一方で安いハチロクを中古車店でチェックしながら、「ここだけ直ってて、まっすぐ走ればいいんだよ!」なんて土屋さんが言ってくれたのもよかった。
「またハチロクに乗りたいなぁ。ハチロクはドライバーを育てるクルマ。メカニックを育てるクルマだと言われてきたけど、編集者も育ててくれた。そんなクルマだと思います」と仁禮さん。
今はハチロクも高くなっちゃったけど、仁禮さんならきっと安くてボロいのみつけてきて、楽しみながら直すんだろうなぁ。
そしたら仁禮さん、一緒に番組作ろうよ。赤パンと、2台でバトルしよう!
(テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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