『クルマは最高のトモダチ』[角田裕毅インタビュー]一戦、一戦にかける思い…山田弘樹連載コラム

  • オンライン記者会見で取材陣の質問に、とても詳しく真面目に答えてくれた角田選手。1シーズンを終えたその見た目は少し大人びて、そこに強さのようなものを感じました。

先日、ホンダが主催する記者会見に参加して、なんと角田裕毅選手にインタビューをすることができました。

日本人としては小林可夢偉選手以来、実に7年ぶりにF1のレギュラーシートをつかみ取り、デビューイヤーでその個性を存分に発揮した角田選手。私も彼が日本でジュニア・フォーミュラに参戦しているとき、関係者から他と一線を画す才能とキャラクターについては聞いていたので、彼がその速さでアルファタウリに認められたことがまず嬉しかった。
そして'21年シーズンは、久しぶりに有料放送に加入して、毎戦F1中継を見ました。

そんな角田選手と話せる機会が得られたのは、最高にドキドキしましたね。最初は記者会見を聞くだけで済まそうかと思いましたが、“ユウキ”を出して手を上げて良かったです(笑)。

世界最高峰の舞台で戦う若者って、どんな雰囲気なんだろう?
オンライン上ではありましたが、フェイス・トゥ・フェイスでインタビューした角田選手は、実に爽やかな若者でした。もちろんシーズンは終了していますし、最終戦4位の結果からリラックスしていたのでしょうが、ともかく気負いや尖った様子がなく、各記者の質問に対して一生懸命に答えるピュアな21歳でした(デビューは20歳)。

  • @本田技研工業

    開幕戦9位、ポイント獲得のインパクト。そして最終戦アブダビGPでの4位入賞と初の“ガスリー越え”は、多くのファンに勇気を与えたでしょう。今季はタイヤが18インチになり、シャシーの規則が大きく変わります。角田選手いわく「動きはシャープ」。「2021年シーズン前のテストよりもうまく乗れた」と語るマシンで、今年は初表彰台を狙って欲しい!

私が聞いた質問は、ふたつ。
ひとつはシーズン中話題になっていた、無線でのアグレッシブな発言についてです。
時折繰り出された“F Words”がTwitter上で盛り上がったけれど、自分ではどう思っているのか?

私はドライバーにとってアグレッシブさが、非常に大切な要素だと思っています。そしてそれを必要以上に抑えてしまうのはダメだと思うのだけれど、自分ではどう思っているのか? もし抑える必要があるのなら、今後はバランスをどう取って行くのか? と質問しました。

忖度ない質問過ぎるかな? とも思ったのですが、彼には積極性を失って欲しくなかったし、彼がどう考えているのかにも興味がありました。そして角田選手は、少し照れたような笑顔で、きちんと答えてくれました。

「えー、Fワードですよね(笑)。今年はSNSでも、賛否両論でした。叩かれることが多かったときもあったし、逆に面白いと捉えていてくれる方もいました。正直自分は、気にしてなかったですね。否定されようが、それが自分のスタイルというのもありますし」

おぉ、元気ですね! こうして言葉だけで書くと強気が見え隠れするように思えるかもしれませんが、彼からはひとつひとつ言葉を選びながらも、なるべく本当のことを伝えようとしているような気がしました。

「ただ今思うと、アグレッシブ過ぎたというのはあります。F1の世界はチーム全体で戦うので、序盤での無線の使い方は、自分でもやり過ぎたというのはあって。チームのムードも良くなくなるし、何より今年戦うために色々な方々の協力があって、だからあの順位で走れたのですから。よくない無線は、かなりありました」

「その中でもFワードは、反省しています。ただ意外かと思われるかもしれませんが、チーム代表の(フランツ・)トストさんからは3、4戦目くらいの時点では『素のユウキのままでいいから。それで自分のドライビングが速くなるなら、気にしなくていい』と言われていました」

  • @Red Bull

    いまやF1における角田選手のお父さん(おじいちゃんか?)になりつつある、スクーデリア・アルファタウリの代表のフランツ・トストさん。自らもレーシングドライバーだったからこそ、彼の速さとハートを理解することができるのだと思います。

「しかし一年間戦ってきて、自分のチームに対する向き合い方が変わってきたので……。これからも必ずそういう言葉は出てくると思うのですが(苦笑)、まずは自分が速くなれるように、色々吸収したいなと思います」

最後は「これから変わって行くでしょう」と言いたかったのだと思いますが、正直なところもいいですね。彼はレーシングドライバーですし、トークが流ちょうである必要は全くありません。ですからそのたどたどしい言葉をくみ取って、ここでは少し文章になるように直しました。

私が素晴らしいと感じたのは、こうしたインタビューの場でも最後はきちんと「自分が何を問われているのか?」というポイントに彼が立ち返れることでした。そこに世界で通用する、聡明さを感じました。
そして、強いハートがある。今シーズンはそのガッツをできる限り胸に秘めたまま、走りに集中して行くということでしょうね。
叫びたくなったときは、ラジオボタン押さなければいいんです(笑)。

そしてもうひとつは、今の日本人ドライバーのレベルについて質問しました。
これは私見ですが、彼は純粋に速さでF1のシートをつかみ取ったドライバーだと思います。その角田選手から見て今の日本人ドライバーは、世界に通用するレベルにあるのか? もし技術力があるなら、角田選手と同じようにF1に行くには、さらに何が必要か? と尋ねました。

これに対しても角田選手は、真摯に答えてくれました。

「ボクが言える立場なのかどうかわからないですけれど、日本人ドライバーは技術の面で世界に通用すると思います。ボクも色々な先輩ドライバーを見ながら、それを吸収してきたので。先輩に恵まれて、今の自分があります」

ボクが海外で一番感じた差は、レースウィークの過ごし方です。毎戦、一戦一戦にかける思いというのが全然違って。自分の場合だとシーズン序盤から中盤までは、セッション後はもちろんドライビングの比較をロガー(※)でするんですけれど、それが終わると6時、7時くらいには帰っていました」

  • @Red Bull

    ※ロガー:データロガー。マシンに取り付けたセンサーでブレーキ、アクセル、ステアリング舵角といったデータをグラフ化し、その走りを可視化できるシステム。角田選手はチームメイトであるガスリー選手とこれを比べて、走りを修正しています。

「でもたとえば、フェルナンド・アロンソ選手なんか本当に遅くまで残っていて。彼はチャンピオンシップを取っていて、あれほどの経験量があっても、毎回サーキットに一番遅くまで残っていました」

「聞いたところによると22時とか23時まで全然平気で、クルマが速くなるにはどうしたらいいかだったり、自分が改善するにはどうしたらいいのかをチームと話合っているというのを聞いて。あのアロンソ選手でもそうしていることには、すごく衝撃を受けました。身近なところでいうとピエール・ガスリー選手も、自分より残ってました。

「しかしボクは帰るのが速かった(苦笑)。だから自分も変わらなくちゃと思って、そこから少しずつチームとコミュニケーションを増やすようになりました。それがシーズン中盤から、後半にかけて改善できたひとつの要因だと思います。そういったところ、レースウィークの過ごし方ですね。一戦にかける思いが、大切だと大きく感じました」

@Red Bull
常に比較されるチームメイトのピエール・ガスリー選手は、いまやチャンピオンシップを争える力の持ち主といわれています。そして常にレッドブルの一員として、チャンピオンとトップチームの戦い方を一番間近で見ることができます。角田選手は、世界一タフだけれど世界一恵まれた環境にいると思います。

角田選手は、日本人としてF1で優勝できるポテンシャルを持ったドライバーだと言われています。そんな彼が今の日本人ドライバーのレベルを、きちんと語ってくれた。これには日本で走るドライバーたちも、大きく励まされることでしょう。

そしてこうした高い技術力を持つ日本人ドライバーたちが世界に羽ばたくには、何をするべきか? 彼はそのヒントをもくれました。もちろんそれはプロにとって当たり前のことかもしれませんが、その当たり前を改めて世界で戦う彼が言及したことで、様々なひらめきがもたらされると私は思います。

今回は「クルマの話」ではなかったけれど、どうしてもこのインタビューを皆さんにお伝えしたかった。日本から世界に羽ばたくドライバーがもっと沢山出てきたら、私たちの毎日がもっともっと楽しくなりますよね。彼らのガッツを見て、勇気をもらえるでしょう。

ということで2022年もスクーデリア・アルファタウリと角田裕毅選手を、いちクルマ好きとして楽しみながら応援したいと思います。
ユウキ、がんばれ!

  • @Red Bull

    アブダビでレースが終わったあとの1シーン。素晴らしい笑顔ですね。課題はレースウィークの過ごし方。もっともっとチームとコミュニケーションを取って、今季はこんな風に喜びを爆発させる姿が、何度も見られるといいですね。

(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[GAZOO編集部]

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