『クルマは最高のトモダチ』僕の原体験。情熱の赤いジュリアクーペ!……山田弘樹連載コラム

みなさん、ごきげんよう!
わが愛しの赤パン(※)は、先日スターターモーターをリビルト品に交換。そのあと無事に走ったと思いきや、今度はオルタネーターが発電しなくなりましたッ。
………(泣。

※赤パン:86年式? だと思われる筆者のAE86 赤いパンダトレノ

  • 山田弘樹連載コラム「赤パンAE86のスターターモーター交換! だけのはずが……」

とはいえ私がこの赤パンを手に入れてから、既に11年の月日が経っていますし、そもそも手に入れたときで25年選手でしたから、こうした部品が劣化するのは、当たり前のことなんですよね。

それをレーシングメカニックのように距離と時間で管理して、前もって交換してトラブルを避けられたらカッコいいですが、フツーはそんなこと、できませんよ。
元気に走っていたら、それでヤッホー! です(笑)。

ただ段々調子が悪くなっていったとき、「そろそろかな……」なんて気付くことができたら、かなりエンスー。
そういう意味は今回の反省も含め、日頃からプラグの焼け具合はチェックしないとですね。……えっ?、今どきダイレクトイグニッションだって!? 失礼しました。

ところで赤パンで36年、ポルシェ993で27年と、強烈に古いクルマ2台“だけ”しか持っていないワタクシが、なんで度重なる故障やトラブルにめげないのかというと……

いや、めげてはいるんですよ?
でも諦めないでいられるのかというと、そこにはもっと強烈な原体験があったからです。

ということで今回は、伝説のアルファ・ロメオである「ジュリア・クーペ」についてお話したいと思います。

  • アルファロメオのGT1300Jr.

    ティーポ編集部員だったときは、ジュリアでヒストリックカーレースを楽しみました。若気の至りといいましょうか、ジュリアをなんとかカッコよくしようと思って、カッティングシートでアルファマークをどでかくフロントに付けてしまったのも、今となってはいい思い出。

正式名称は1968年式の「Alfa Romeo GT1300Jr.」。
私が所有していたのはジュリア・スプリントGT(1600cc)の廉価版で(正確に言うと年代的には1759GTV)、その頃は既に“ジュリア”の名前が付いていなかった。

本来は“ジュニア”なのですが、勝手にジュリアと呼んでいました。
だって、その方がかっこいいじゃん。

ジュリアに憧れたきっかけは、このコラムで何回も紹介している「GT Roman」や「CROSSROAD」、「DEADEND STREET」といった西風作品の影響です。
特にGTロマン 完全版第4巻 24話に出てくるジュリアスーパーに乗った沢田君のストーリーは、ボクに強烈な印象を与えました。クルマって、そんなに面白いのか!? 峠に走りに行ってみたいな! って憧れた。

西風が描くジュリアはちょっとデフォルメが激しいけれど最高にカッコ良くて、その中でも猛烈に私は、“段付き”に憧れたんです。

“段付き”とはジュリアの、ノーズパネルにある段から付いたあだ名です。ちなみにこれをデザインしたのは、当時カロッツェリア・ベルトーネのチーフだったジョルジェット・ジウジアーロさん!
段を付けた理由は、ノーズを低く見せて、アルファの盾型グリルを大きくかぶせるためだったかな?

そして何よりジュリアが愛らしいのは、丸形のヘッドライトを、ちょこっと内側に寄せたことです。当時は“寄り目”なんて言われていましたが、これによってその表情が、悶絶級に可愛くなった。

  • アルファロメオのジュリアGTA

    ミラノにあるアルファ・ロメオの博物館(Museo Storico Alfa Romeo:https://www.museoalfaromeo.com/)に展示されていたジュリア。これはレースのためにボディ外板をアルミパネルにした伝説の「GTA」です。日本でいうと、箱スカGT-Rのような存在かな? みんなこれに憧れてチューニングしていました。

その後はジュリアもフラットノーズになり、ウインカーがフェンダーパネル埋め込み式から後付けタイプになるなど、洗練という名の下に段々とコストを減らされて行きました。

というわけで私はこの“段付き・寄り目”顔に、ハートをわしづかみされたわけです。
当時はフラットノーズのGT1300/1600Jr.の方がずっと安かったのですが、“段付き”じゃなきゃだめだった。何度も色々なお店に段付きを見に行って、どうしても予算が足りなくて。

そんなバイヤーズレポートを当時在籍していた自動車雑誌「ティーポ」の誌面でページにしたら、読者の方がGT1300Jr.を譲ってくださったんです。
もう最ッ高に、嬉しかったなぁ!

ジュリアが良かったのは、カッコだけじゃありません。
なんとこのクルマ、FRなんですよ!
1290ccの直列4気筒DOHCを搭載した、フロントエンジン・リアドライブ。リアはリジットアクスルですが、フロントサスペンションはダブルウィッシュボーン!!
そしてブレーキは、4輪ディスクローターだったんです!!!

  • アルファロメオのGT1300Jr.

    GT1300Jr.のエンジンは、1290ccの排気量から89馬力(!)を発揮。パワーは笑っちゃうほど少なかったけれど、ウェーバー40DCOEをガボガボ言わせながら、高回転まで回して走るのが楽しかったなぁ。最終的にはこれを1500ccまでチューニングして、911やエランを追いかけ回しました。

1960年当時の市販車で、これだけの性能を持っているのは、とってもすごいことでした。それは正に、レースの技術が投入されたスポーツクーペだったわけです。
当時のアルファ・ロメオはレースと直結したメーカーで、だからこそお金を掛けすぎて、いつもその経営に苦しんでいたわけですが。

そしてヒストリックカーレース用にチューニングされたエンジンを搭載するジュリアが、これまた最高にカッコ良くて刺激的だった。
2リッターのフルチューンだと200馬力近くパワーが出せて、Sタイヤを履いていてもパワースライドできるくらいパワフルだったんです。

ガレージGOTOさんが作ったジュリアを初めて運転したときは、本当にブッたまげました。こんなに可愛いヒストリックカーが、ドリフトしながらコーナーを駆け抜けるんですよ?

もう、フェラーリなんて、いらないよッ!
そもそも買えないけどッ!
って感激して、なんとしてもジュリアに乗ろうと思ったわけです。
この頃のアルファ・ロメオって、めちゃくちゃ熱いメーカーだったんです。

  • アルファロメオのGT1300Jr.

    ボクのジュリアは右ハンドル仕様でした。助手席にある純正シートはふっかふかで、助手席に人を乗っけると居眠りされるほど快適でした。でもホールド性が足りなくて、フルバケを付けたときは感動した。ヘッドレストがデカいから、見た目はアンバランスなんですけどね。クラックが入ったり、錆びが浮いてもわかるように、床は白く塗り直しました(笑)。

ところでこのレイアウトって、何かに似ていると思いませんか?
そう、AE86なんですよ。

ハチロクはフロントサスペンションこそストラットだけど、リアはリジット。
カーン!って回るコンパクトな直列4気筒を積んで、そのパワーを目一杯使い切る走りは、そっくりだと思います。
きっとFR時代のレビン/トレノは、ジュリアとかロータス・コルティナをお手本にしていたんじゃないかな。

GTロマンをむさぼり読みながら、「いつかはジュリア乗るぞ!」と燃えていた私が、学生時代にハチロク(2ドアトレノGT)を手に入れたのは、何かの縁だったのだと思います。

  • A.R.S.C.(アルファロメオ スポーツカークラブ)の筑波走行会に参加したときのひとコマ。途中で水温が急上昇して、コース脇に止めたらラジエターキャップから冷却水が噴水のように吹き出てきたときは、目の前が真っ暗になりました(笑)。ウェザーストリップを新調したら、トランクフードが浮き上がっちゃったのもこれまた良い思い出。

ハチロクを運転しながら、「ジュリアってこんな感じなのかなぁ…」と妄想するのは、楽しかった。
ハチロクがいくらボロくても、ヒストリックカーってもっとボロいんだろうし、これも訓練だ! と、妙に納得していました。
そして気付いたら、ハチロクにもどっぷりハマってた(笑)。

ちなみに二代目ハチロク(ルーフがはげていたから、あだ名はモヒカン号)は、ジュリアの足として買ったんです。
当時ハチロクは安くて維持がしやすかったし、クーラーも付いていました(笑)。真夏や雨の日はハチロクに乗って、ジュリアをコツコツ仕上げていきました。

あっ、肝心なジュリアの苦労話、しませんでしたね。
思い起こせば床が抜けたり、エンジンがブローしたり、色んなことを経験したなぁ……。
というわけで次回は、ジュリアの思い出パート2をお送りしたいと思います。

  • アルファロメオのジュリアとステルヴィオ

    FRセダンとして復活を果たした現行ジュリア(手前)とそのSUV版であるステルヴィオ。恐ろしく運転が楽しいセダンなんだけど、オラオラ系デザインが主流の現代だと、ちょっと埋没気味。すごく美しいんだけどなぁ。かつてのようにクーペとスパイダーを出して、そのデザインをもっとアグレッシブにするのも手だったと思います。GTAmを4ドアで出している場合じゃないよなぁ。

(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


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