『クルマは最高のトモダチ』旧車はつらいよ? でも、楽しくて仕方ない!…山田弘樹連載コラム
みなさん、ごきげんよう!
前回は、私のクラッシックカー原体験である「ジュリア・クーペ」のお話をしました。そして今回は、そんなジュリアで体験した「クラシックカー苦労話」をしてみましょう。
1968年式の「Alfa Romeo GT1300Jr.」。
通称“ジュリア”(ほんとはジュニア)は、最高にホットなクルマでした。
排気量はたったの1290ccで、パワーは80馬力しかなかったけれど、アクセル踏めばファイト一発!
それまでガボゴボ言っていた40φのウェーバー・キャブが足並みを揃え、ツインカムヘッドが高回転まで“グッハー!”ッと回ります。
もうほんと、電気自動車が当たり前になりつつある今の世の中からは考えられないほど、“フババババッ”とか“グオォォ!”な世界。
でもそれはどこか素朴で、なおかつ野性味のあるサウンドでした。
そしてめっちゃ遅い(笑)。だからこそ、いつだって全開でした。
GTAは軽量化が大命題だったので、フロントグリルはメッシュ化され、バンパーにも冷却孔がふたつ開けられて、これがトレードマークとなりました。自分の段付きジュリアに、この孔開けてた人も結構いましたね。R32 GT-RでいうとNISMOバンパーみたいな感じ?
ドアオープナーが簡素な取っ手とプッシュボタンだけだったり、エンブレムがシールだったり。ミッションケースや大容量オイルパンがマグネシウム製だったりと、徹底して軽量化されていたんですよ。
ステアリング形式は、ウォーム&ローラー式。
ラック&ピニオン式に比べてダイレクト感に欠けると言われる古典的な形式ですが、ギアボックスを調整すると、操舵フィールは結構カッチリしましたよ。
さらにフロントサスはダブルウィッシュボーンですから、コーナリングがとっても気持ちいい!
でもリアのリジッドアクスルを吊るトラニオン・アームのブッシュがヘタッていると、アクセルオンでフラフラしてとっても怖い!
これをエンスージアストは“アルファ・ダンス”なんて言ってましたね~。
走らせても抜群に楽しかったジュリアですが、信号待ちとかで止まっていると、みんなが笑顔になってくれたのも最高でした。
小さくて可愛くてガオガオ走るジュリアは、最高の愛されキャラでした。
これはGTA1300Jr. のレーシング仕様となる、通称“おたふく”フェンダーを付けた「コルサ」です! エンジンはジュリア・スプリントGTA(1600ccの方)のショートストローク版で、初期は写真のような半円球型燃焼室のツインプラグヘッド。後期型はアウトデルタ製の狭角ヘッドとスピカ製インジェクションが搭載されました。性能的には狭角ヘッドですが、初期型ヘッドの方が断然ワイルド。このコルサでヒストリックカーレースに出られたのは、一生の思い出ですね。
だから若かりし頃の私は、取材でもプライベートでも、どこに行くにも、できる限りジュリアでした。
真夏の首都高の大渋滞では、汗だくになりながら、自分よりも水温計の針を気にしていたっけ。
隣に乗せていた当時の彼女が、熱中症になっちゃったこともあったなぁ(汗)。
床下の錆びを防ぐために、水を吸う遮音材や断熱材を、取っちゃってたんですよね。
サビついでに言うと、床下が一部朽ちているのを発見して、それをほじくっていたら、最後には道路が見えちゃった……。
なんてことも、ホントにありました。
「パテを削ってたらドアに穴空いた!」とか、「走行中にステーが折れて、ダッシュが落ちてきた!」なんて話は、この頃のアルファ・ロメオだと事欠きません。
広島の友達に会いに行くために自走。往復約1600kmを無事に走り切り、あともう少しで当時務めていた編集部に着くその寸前に、キャブから“パアーン!”とバックファイアして、それきりエンジンが掛からなくなっちゃったことも。
いっとき「アーシング」が流行ってそれを試したら、オルタネーターやらバッテリーやら周辺の電装系が全てパンクして、一通り新品にしたら超元気になった! なんてのもあった。
夢中になって走ってて、水温計が振り切れているのに気がついて、水を足そうと慌ててラジエターキャップを外したら、熱湯が温泉みたいにピューッ!! とか。
先輩たちと闇夜のツーリングへ行ったとき、負けたくなくてハイグリップタイヤを履かせたら、ワインディングでブレーキがフェード。
集合場所で止まれずに、目の前を通り過ぎちゃったり……。
こう考えると、サビ以外は全部自分のせいですね!
ともかく昔のクルマって、ある程度その構造を理解してないと、走らせることや、維持することが難しかった。
でもキャブ車のエンジンをかぶらせずに掛けられたり、シンクロが弱いシフトがスムーズに入るようになったりすると、すごく嬉しかったんですよねぇ。
こまめにラジエターに水を補充しておくとか(笑)、オイルの量を常に気にするとか、いちいち面倒くさいんだけど、その面倒を見るのが楽しかった。
クルマ好きって、やっぱり愛車に触れる理由が欲しいんですよね。特にジュリアは、血が通っているようなクルマでしたから。
ジュリアには「GTC」と呼ばれるオープン4シーター仕様もありました。これは1966年に「アルファ スパイダー」がデビューするまでのつなぎのモデルで、1000台だけが生産されたといいます。ジュリアはサイドシル剛性が非常に高かったので、ルーフをカットしてもその操縦性はなかなかに良好。運転が楽しいオープンカーでした。
そんな愛しのジュリアは、独立した時期に手放してしまうのですが、トコトン乗り倒したので後悔はしてません。
そしてこの強烈な経験があったからこそ今でも私は、赤パン(AE86)や993という、古いクルマに乗り続けることができています。
ジュリアに比べたら、エアコンとパワステが付いているハチロクや993なんて、超高級車ですよ?(笑)。
走らせているとアチコチ消耗パーツが壊れるけれど、床が抜けることなんてないですからッ!
……いや、ハチロクはあるかもしれない。
もちろんクルマは壊れずに、安心して乗れるほうがいい。
だとしたら、なぜ古いクルマってこんなにも面白いのでしょうか?
そこにはタイムマシーンに乗るような憧れや、今にはないデザイン、ガソリンエンジン過渡期の性能など、様々な理由があると思います。
でもきっと大切なのは、クルマとの対話なんですよね。
だからボクは現代のクルマでも、「対話ができるかどうか?」を、とても大切にしています。
(テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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