『クルマは最高のトモダチ』【試乗】最後の硬派なフェアレディZ?…山田弘樹連載コラム
みなさんゴキゲンよう!
今回は赤パンこと、わがAE86の「ボディ復活大作戦!」後編をお届けしようと思っていたのですが、新型フェアレディZが報道解禁されたので、こっちを先にお話します。
ハチロクファンのみんな、ちょっと待っててね!
さて以前もこのコラムでお話したのですが、ワタクシかなりディープなZ33ユーザーでした。
またその次のモデルであり、新型フェアレディZのベースにもなったZ34にもかなり乗り込んでいましたから、新型フェアレディZの進化を確かめるのはとっても楽しみでした。
ちなみにモータージャーナリストとしてのレポートは「GENROQweb」に寄稿してますので、よかったらお読みくださいませ。
そしてここではいつものように、“プロのクルマ好き”視点で、書き切れなかったことをお話しましょう!
ということでさっそく新型フェアレディZの印象ですが、ひとこと速い!
速いといってもGT-Rのような暴力的な速さではなくて、加速を“うおぉ~!”と楽しめる速さ。
ツインターボで低速から素早く400Nmのトルクが立ち上がるので、NA時代よりも押し出しが強い。
その上7000rpmまで、きっちりエンジンが回ってくれます。
GT-Rが3.8リッターで600馬力を発揮していることを考えたら、3リッターで400馬力はやっぱりすごい。後ろ2輪駆動で受け止める数値としては、あと50馬力くらいまでじゃないかなぁ。
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ヘッドの上にインタークーラーまで搭載して、その重心は高まっているはずなのですが、アンダーステアを感じさせなかったそのサスペンションセッティングには感服。Z34オーナーが、車体の補強パーツや足周りを流用できたらかなり面白そう。
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スカイラン400R譲りのエンジンは常用域でとても扱いやすく、高回転でパンチがあるという、スポーツカー好きにはたまらないキャラクター。残念なのは高回転での排気音がちょっと下品なこと。サウンドエフェクトを効かせるなら、最後まできっちりやって欲しかった。
そして今回から採用されたモノチューブダンパーが、驚くほど滑らか。
ふつうモノチューブ(単筒式)ダンパーって、レスポンスが素早く立ち上がる代わりに、封入されたガスの反発が乗り心地に影響しがちなんです。
でもRZ34のダンパーは……、そうそう、今度の型式名は「RZ34」というのですが、すこぶる減衰力の出し方が上質で、ギャップやうねりでもクルマが跳ねない。
聞けばダンパー容量を径方向に増やすことで、ガス圧力の影響を弱めることができたそうですよ。
だからRZ34は、ターンインが絶品!
ブレーキをリリースしながらステアリングを切り込んで行ったときの動きは他に類を見ないほど滑らで、クリップに対して狙いが定めやすい。
操舵フィールはまったりというよりも、滑らか。スポーツカーで一番大事な部分が、Z34時代から本当に大きく洗練されました。
ちなみに今回のターボ化で車重はおよそ90kgほど(ベースグレード比較)、フロントの重量配分も約1%増えているらしいのですが、アンダーステアを意識することはまったくありませんでした。
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エンジンに必要な吸気・冷却風を得るために、かなり大きく口を開けたフロントバンパー。開発陣はこの見た目を、かなり気にしていました。ちなみにカスタマイズプロトではここが上下2段に分かれていましたが、たった3cmの仕切りでも実際に走らせると、約3倍の幅で空気が入らなくなってしまうから、そのデザインは採用されなかったそうです。でもあのバンパーかっこよかったな!
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19インチタイヤを履いたバージョンSTのリアビュー。サイドステップがZ34からさらに絞り込まれていて、リアフェンダー周りがとってもボリューミー。Z32をオマージュしたリアコンビランプもシンプルだし、リアスポイラーも控えめで大人っぽく仕上がっています。
先代からキャリーオーバーのシャシーや、フロントからリア周りまでぐるっと補強されたというボディは、このパワー&トルクをきちんと受け止めていました。剛性不足とか、古さは感じない。
ただ圧倒的な剛性感というか、“凄み”みたいなものは感じられなかった。
とくにテストコースのワインディング路、ニュルのように下りながら旋回する中・高速コーナーでは、リアにちょっとした“むずむず感”があり、私はちょっと怖かった。
小雨が降っていたこともあるんですけどね。
きっとそこから“踏んで”行っても、大きく破綻するようなことはなかったと思うのですが、アクセルをそーっと踏んでコーナーを立ち上がりました(笑)。
もちろんそれって、普通に走る分には関係ない領域の話です。また低速コーナーでドリフトしちゃうのとも、ちょっとワケが違います。
だからこそRZ34は、上級グレードに今回から標準で機械式LSDを装備しています。これって、日産からのボーナスだと思う。
またフロントバンパーにえくぼを付けてタイヤハウスの乱流を引き抜くタービュランス(空気の渦)を作り出したり、フロントとリアには小さいながらもスポイラーも付けたりと、空力的にも車体を安定させようとしています。
ベースグレードは18インチの片押しキャリパー(左の写真)でしたが、対抗4ピストンキャリパー(右の写真)と比べてもそのタッチは遜色ない仕上がりだったのには感心しました。最初から“全部盛り”にしたいのなら上級グレードだけど、チューンドベースとして考えるならベース車はアリ!
それでも車速の高いコーナーのターンインで、リアが若干浮くような感じがするのは、足周りの伸び側減衰力がこの領域では若干ソフトなのと、リアのサブフレームブッシュが動くからじゃないかな? と感じました。
ただここでリアダンパーを固めてしまうと、せっかくのしなやかさが失われてしまう。
Z33やZ34はサブフレームブッシュを固めると動きが落ち着くのですが、市販車的には乗り心地に影響したり、ビビリ音が出るから、それはできないチューニングです。
たとえばこれがポルシェだったりすると、可変ダンパーを付けたり、こうした大きなブッシュやエンジンマウントを磁性流体式にして、高速域ではダンピングを高めたりします。
でもそうすると、価格に跳ね返る。また壊れると、これがトンでもなく高い。ですから、走りたい人が固めればいいんです。
もしこのRZ34にバージョンNISMOが登場するなら、空力でバシッと車体を抑えて欲しいなぁ。S耐で走っていたST-Qマシンが、その開発にも関係していたら面白いですよね。
今の時代に6MTを残してくれたのは嬉しいポイント。ただその操作感は、個人的にはいまひとつでした。操作感は改良してくれたようですが、クルマの速さに対してシフトが追いつかない感じで、9ATの方が運転はイージー。ただ9ATのキャラはそれほどスポーティではないので、きっちり走らせるならやっぱり6MTだと思います。
まとめるとRZ34は、本当に絶妙なバランスで、このツインターボエンジンに対して「FL-Rプラットフォーム改」をまとめあげたスポーツカーだと私は感じました。
普通なら405PS/475Nmの出力に対して、なんとしてもシャシーファースターなキャラクターに仕上げるであろうところを、走りのバランスでまとめあげてきた。
そこが、ハンドリングレスポンスの鋭さにこだわったGRスープラとは違うポイントです。大きなGR86やマツダロードスターといった感じ。
価格は全体的に100万円以上高くなってしまったけれど、このツインターボを搭載したメーカーチューンと考えれば納得かな。
それでもベースグレードを524万1500円、19インチタイヤと機械式LSDがついた「バージョンS」を6MTのみという設定で、606万3200円でしれーっと用意してくれたことに、開発陣の愛を感じます。
液晶メーターの中には油温/水温/ブースト計を標準装備。タコメーターの上にあるバーはシフトアップインジケーターで、松田次生選手のアイデアだそうです。三連メーターは左から電圧/タービンの回転/再びブースト計。正直ちょっと、余計な装備に思えます(笑)。
新型フェアレディZは普段すました顔して走っているけれど、一皮むいたときにきちんとゾクゾク感みたいなものがある。
うまく言えないんですけどガソリン時代最後の硬派な走りが、メッセージとして隠されているような気がしました。電動化が目の前に迫るこの時代にZが戻ってきたのって、偶然ではないような気がするんですよね。
(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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