『クルマは最高のトモダチ』遂に、フィットに「RS」が登場!…山田弘樹連載コラム
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新型フィットRS
みなさん、ゴキゲンよう!
フィット「RS」が、遂に登場しましたねッ!
小さくて走りが楽しいクルマを愛するワタシとしても、心待ちにしていた1台です。
なんで最初から設定しなかったんだよぅ!
そう思う方もいるかもしれないですが、ホンダとしても色々難しかったんだと思います。
2020年にデビューした現行フィット・フォー(四代目という意味)でホンダは、コンパクトカーに新しい価値観を提案しようとがんばっていました。
環境性能に応えるハイブリッドシステムも、それまでの「i-DCD」(1モーターでエンジン主体。トランスミッションはデュアルクラッチシステムを搭載)から、「e:HEV」(イー・エイチ・イーブイ。発電用/走行用2つのモーターを搭載し、エンジンは直結時以外発電機となるシリーズ・パラレル式)へスイッチ。
そしてこの静かで滑らかなパワーユニット特性を、「癒やしのある乗り心地」で表現しようとチャレンジしていました。
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新型フィットはグリルが変わりましたね。標準仕様では小さくエアインテークがついて、RSでは上下二段がガバッと大きくなった。巷では迫力が足りないとか言われていますが、ボクは初期型の方が好き。近未来的なデザインで、洗練されていたと思うんだけどな。
実際そのテイストは「フランス車みたい」と言われていましたし、開発陣もそれを手本にしたと言います。
ホンダのシャシーテイストは、本来キビキビ系。ダンパー減衰力の特に伸び側を高めて、操舵応答性の良さと安定性を両立させる傾向だったのですが、これが伸び側も縮み側も、ふんわりストロークするようになった。
15インチモデルなんかほんと、ビックリするほどまろやかな走りになりましたからね。
だからホンダは「RS」にも、e:HEVで新しい「ロードセーリング」を提案したかったんだと思います。そう、フィットのRSは「レーシングスポーツ」じゃないんですよ。
ただ2020年の時点でe:HEVを走りのハイブリッドにまで高めるには、熟成時間が足りなかったんだと思います。
その証拠に開発陣はフィットがデビューしたあと、モータージャーナリスト有志のレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」と一緒に、「ホンダ エンジョイ耐久レース」でその走りを煮詰めています。
YouTubeで「TOKYO NEXT SPEED」を検索すると、車両の制作日記からジョイ耐参戦まで見ることができますよ。
そう考えるとホンダは、言わなかったけどフィットRSを出すつもりだったわけですね。少なくとも「出したい!」と考えていたことになります。
さらに言うとそれをレースの現場で鍛え上げたわけですから嬉しくなりますよ。
ということで肝心な走りですが。
これが、めちゃめちゃこだわりの「RS」に仕上がっていました。
まず特徴的だったのは、e:HEVの制御がスポーティになったこと。スポーツモードを選ぶとシビックと同じく、エンジンを「リニアシフトコントロール」モードで制御するようになりました。
リニアシフトコントロールは、発電機として稼働するエンジンに有段フィールを与える制御です。アクセルを踏み込んで行くとそれに合わせてエンジンが高回転まで回り、有効トルクバンドを外さない領域内で、エンジンが点火カット・点火と繰り返します。
まるでマニュアルギアボックスでシフトアップして行くかのような、フィーリングになるわけです。
発電効率だけで言うと、エンジンは必要に応じてコンスタントに回っている方がいい。でもそうするとサウンドが平坦になって、ドライバーの加速感覚とは、ズレが生じます。
正直1.5リッターの排気量だとエンジンを回してパワーを出すことが優先されるので、シビックほど細かい有段フィールは感じなかったのですが、それでもエンジンは気持ち良く高回転まで吹け上がってくれます。
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開発陣が練りに練り込んだ足周り。特にフロントは、柔らかいんだけどロールした後にしっかり踏ん張る感覚が新鮮でした。タイヤのグリップで攻撃的に曲がる感じではなくて、姿勢を作ってコーナリングさせる感じ。クルマとの対話ができる足周りです。
というわけでPU(F1式に言いましょう! つまりパワーユニット)が元気になったフィットRSですが、私が一番唸らされたのは、サスペンションの作り込みの良さでした。
コーナーのアプローチでステアリングを切って行くと、初期ロールで車体がスッと斜めに入り、その後足周りがグッと車体を支えて、コーナリング。そのときリアサスは伸び側をほどよく規制して、車体がめくれ上がらないように姿勢を安定させます。
ようするにターンインが軽快で、コーナーではボディがピシッと安定している。それなのに乗り心地は、悪くなっていない。
たとえばフィットのメーカーコンプリートカー「モデューロX」と比べると、断然RSの方が快適です。もっともモデューロXはそうした“硬さ”を承知の上で、旋回性能を上げているのですが。
とはいえフィットRSのコーナリングがそれより劣るかといえば、絶対性能はわからないけれど間違いなく気持ちいい!
そんなフィットRSの足周りは、なんとフロントのスプリングレートがノーマルのフィットよりも低めに設定されているんだそうです。だからノーズの入りが、スムーズで気持ちいいんですね。
代わりにスタビリティは、ダンパー減衰力とスタビライザー径を上げることで対処。これがロールしてからの、踏ん張りを出しています。
対してリアはダンパー&スプリングレートをフロントより高めて、旋回時の安定性やピッチングに対応している。
このセッティングは、“超”が付くほどマニアックですよ。
本当にクルマ好きなエンジニアとテストドライバーが、快適性を犠牲にしない範囲で、気持ち良いハンドリングを作り出しています。
このセッティングができたからこそ、14PS上がったモーターの出力を、スポーツモードで立ち上げることができた。鋭く加速しても、車体がピッチングしないようになったのです。
そしてこれこそが、JOY耐に参戦して得られた知見なわけです。
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e:HEVは1.5直列4気筒エンジンが106PS/127Nm、走行用モーター出力は123PS/253Nmを発揮。日常領域で走らせる分にはリニアシフトコントロールでとても気持ちよく走れます。ただ全開領域が続くサーキット走行だと、バッテリーの充電が追いつかない。だから入門用スポーツコンパクトには、まだちょっとの間だけガソリンエンジンと6MTの組み合わせが必要だと思います。
ただ残念なのは、ガソリンエンジンの「RS」。
これに、マニュアルの設定がないことでした。
ちなみにフィットは今回のマイナーチェンジで、ガソリンエンジンを1.3リッター直列4気筒(98PS/118Nm)から、1.5リッター直列4気筒(118PS/142Nm)へとバージョンアップしています。その理由は、実用燃費とドライバビリティを良くするため。
でもこのエンジンはフラットトルク型。高回転でパワーを出すエンジンじゃないから、6MTを組み合わせても気持ちよい走りができないから設定しなかったというのです。
えーッ。
それはちょっと、違うなぁ。
だとしたら「RS」だけは燃調を変えたり、フライホイールを軽くしたりして、なんとかカタチにして欲しかった。なんならe:HEVのエンジンを乗っけちゃってもいい。
もちろんクルマの開発が、そんなに簡単じゃないことはわかっています。みんなが欲しがるほどは、6MT車が売れないことも。なんてったって新車販売試乗のおよそ99%は、ATだと言いますからね。
でもね、フィットはヤリス1.5(6MT)と並ぶ、モータースポーツの入門車なのですよ。
クルマが好きで、お金がなくて、それでも走りたい若者たちのためには、今はまだなくしちゃいけないクルマです。
そして若い世代をホンダは、育てて行かなければいけないんです。
「Yaris Cup」は大盛況なのに、「FIT 1.5チャレンジカップ」が同じようにならなかったことを、ホンダは今一度しっかり考えて欲しい。そしてボクは、HRC(ホンダ・レーシング)に期待します。
動くフィットRSが見たい人は、大井師匠の「Driving Lab」をご覧ください!
MTとフィットの関係については、もう少し言いたいことがあります。
ただ、それは次回以降で。
まとめると新型フィットRS e:HEVは、とっても走りが気持ちいいコンパクトカーでした。
開発陣が丹精込めて作り上げたこのエンジン制御とサスペンションを、みなさんにも味わって欲しいな。
ハンドル曲がったままでごめんなさい(笑)。インテリアは変わらず、すっきりテイスト。まさに水平基調のダッシュボードはノイズがなくてクリーンだし、必要なものがミニマルに表示されるメーターもとてもいい。この「less is more」な感じが、ボクは本当に大好きです。
サイズは標準車と同じ185/55R16ですが、コンパウンドは同じヨコハマでも標準車が「BlueEarth-A」、RSが「BlueEarth-GT」を履いていました。BlueEarth-Aはエコタイヤですが、ウェット性能がきちんと確保されたいいタイヤです。GTはそれをもう少し、ハイグリップにした感じ。
(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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