『クルマは最高のトモダチ』タイプRのいまと未来に10点!…山田弘樹連載コラム
みなさんゴキゲンよう!
今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーで私は、「ホンダ シビック タイプR」に10点を入れました。
いまや新車の約4割を占める軽自動車に、いち早くEV化を実現した「日産サクラ/三菱eKクロス」には私も6点入れており、平均点の高さでこれが日本カー・オブ・ザ・イヤーに輝くことは予想できました。
でも、だからこそ、こんな時代に本気でスポーツカーを作り上げたホンダと、シビック タイプRに10点を入れました。
第43回 2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー 選考委員別配点表(外部サイト)
エントリーは「シビックe:HEV/タイプR」だったけれど、気持ちとしては「タイプR」に10点です。
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走り慣れないオートポリスでも、安心して攻めることができたその懐の深さと、車体のタフネスさ。クラブスポーツとしての完成度の高さが、シビック タイプRで最大の評価ポイント。
ただその思いは、最初ちょっと複雑でした。
そもそもシビックは、ガソリンモデルが昨年にデビューしており、2021-2022年もノミネート対象だったんです。
だから今年のクルマとして判断するのはどうなんだろう? 少なくとも、自分はそう思いました。
ホンダ的には、電動化への未来の架け橋となる「e:HEV」がシビックの大本命。そして、ホンダ・スポーツの象徴である「タイプR」も今年デビューした。だから彼らは今年のクルマとして、「シビックe:HEV/タイプR」をエントリーしたわけですが。
しかしそんなモヤモヤを吹き飛ばしてくれたのは、肝心要なその走りでした。
これについては様々なメディアで評価されていますし、私も試乗記でレポートしているので繰り返しませんが、シビック タイプRはガソリンエンジン最後の世代で、世界に誇れるクラブスポーツになりました。
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九州試乗会では一般道も走った。肝心な乗り心地はというと、ダンパーをコンフォートにしても、家族を乗せたり通勤に使うには、“少し”固い印象。足周り自体はしなやかだから、タイヤのコンパウンド剛性とプロファイルが大きく影響しているのだろう。
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スポーツカーじゃなくて、クラブスポ-ツ?
わかりやすく言うとそれは、「ノーマルでもそのままサーキットを走れるクルマ」です。
ハイパワーなスポーツカーは世の中に沢山あるけれど、サーキットをタフに走り続けられるクルマって、実はとても少ないんです。力持ちではなくて、アスリートという感じ。
そのためにシビックはエンジンのパワーアップよりも冷却性能を重視したり、ボディや足周りを鍛え上げたり、ブレーキ性能を高めました。
世界の例を挙げると、ポルシェ911 GT3/GT3 RSや、ケイマンGT4 Rはクラブスポーツです。ポルシェは単に速さを誇るのではなくて、トラックを何周走ってもへこたれない耐久性を追い求めています。その上で高い操作性がもたらす、高純度なドライビングプレジャーが評価されているんです。
エンジン出力は330PS/420Nmと先代から10PS/20Nmの向上に留まるけれど、タービン軸受けの改良や吸気経路の見直し、インタークーラーのコア増し(9段→10段)、そしてボンネットへのエア抜きでそのパワーをより長く持続できるようになった。冷却系チューンの負担を減らせるのは、ユーザーにとって大きなメリット。
「サーキット、関係ないなぁ」
「普段乗れないクルマじゃ、現実味ないや」
などと思う人もいるでしょう。
しかしホンダは先代モデルから可変ダンパーを投入して、普段の乗り心地も両立を図っています。個人的にはタイヤ剛性の高さから、一般道はやっぱり少し固いなぁと感じましたが、ベースが5ドアハッチですから、ファーストカーとして使うユーザーは確実に増えたと思います。
しかもシビック タイプRはこのパッケージングを、499万7300円という価格で実現しました。
これって北米や欧州の経済水準から見ると、400万を切るくらいの感覚なんじゃないかなぁ(ちなみに北米での価格は$42,895から)。アメリカでシビック タイプRは大人気のようですが、彼の地のクルマ好きたちもそのコスパには、ビックリしているはずです。
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この時代に6MTを残したことはひとつのキャラクター。純粋に速さを求めるならDCTだが、ホンダはその開発を止めてしまった。だから軽さとコスト、そして耐久性を取って、その操作性を磨き上げたのは潔い英断。インテリアの赤はタイプRのシンボルカラーだが、ホーンボタン以外は黒も選べた方がよいのでは?
でもね、その一方で吹っ切れない思いもあります。
強烈なデフレと円安に見舞われている日本だと、アンダー500万円でも、やっぱり高いんですよ。そう感じるのは、紛れもない事実です。
一番良いのは日本経済が回復することなんですが、そんなの急には無理だし、高いもんは、やっぱり高い。
だから日本人として本音を言わせてもらうと、ホンダにはもっと身近なタイプR“も”出して欲しかった。
日本で唯一それができているのは、スズキです。
私はことあるごとに言ってますが、スイフト スポーツこそ「僕らのタイプR」ですよ。後輪駆動では、GR86/BRZ!
この3台は、クルマ好きの味方です。
ホンダは昔、こういうクルマ作りをしていました。
GT-Rやスープラ、RX-7が買えなくても、シビックSiRや3ドアハッチの頃のタイプR(EK9)があった。そのちょうどよい速さとがんばれば手に届く価格で、多くのドライバーが楽しみながら腕を磨いたわけです。私はハチロクでしたけど。
でもその後シビックは北米市場で受け入れられて、どんどん大きくなってしまった(これでも北米では、小さなクルマなんですけどね)。
そんなシビックをベースにタイプRを作ったら、価格も性能も、すごくなりすぎてしまうのは仕方のないことです。
タイプRで高くつくのが、265/35ZR19サイズのタイヤ。これはオプションのミシュラン「パイロットスポーツ CUP2 CONNECT」で4LAP×2setしたときのタイヤだが、センターリブの消耗が激しい。中央部分が減るのはハイパワーFWDだけにそれは致し方ないことだが、タイヤ代は間違いなく掛かる。ショルダーが落ちていない点や、操舵フィールに変化がなかったことは、大いに評価できる。
いまホンダのラインナップを見渡すと、小さなクルマはフィットになります。だとしたらロードセイリングな「RS」もよいけれど、やっぱりフィットで「タイプR」を出して欲しい。
フィットをベースにしたら、補強や高出力エンジンの搭載で、余計にお金が掛かってしまう?
車体剛性や各部のポテンシャルが、タイプRの基準に合わない?
だとしたら、「SiR」にすればいい。
速いに越したことはないけれど、別に速くなくたっていいんです。スポーツドライビングしたとき感動できれば、それでいい。
クルマ作りがそんなに簡単なことでないことはわかっているけれど、私はホンダに、日本人のためにスポーツカーを作って欲しい。F1でチャンピオンになっても、Moto GPで一世を風靡しても、庶民のために熱いクルマを作ってくれる。
それがホンダなんです。
だからカー・オブ・ザ・イヤーでは、未来への願いも5点ほど込めて10点を入れました。
タイヤやスプリング剛性の高さを絶妙に減衰してくれているのが、このシート。じんわり体を包み込んで乗り心地が良く、なおかつホールド性も高い。そしてアクセスのよいリアシートを備えているところも、3代目FD2以来の大きな特徴。
ただ皮肉なことに、シビック タイプRは売れているんですよね(笑)。
次回は、そんな「スポーツカーのいま」についてお話してみたいと思います。
(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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