『クルマはトモダチ』究極のFRクラブスポーツ「BMW M4 CSL」…山田弘樹連載コラム
みなさんゴキゲンよう!
というわけで(どういうわけで? は前回参照!)、今回はいよいよ現行BMW「M4 CSL」のお話をしましょう。
世界限定1000台、日本導入はたったの25台。いやはやこういうスペシャルモデルの試乗は、嬉しい反面とっても緊張します。
試乗したのは2月の初旬でしたから、峠道のはじっこには溶けていない雪がチラホラ。当然気温も低いわけですが、M4 CSLが履くタイヤはなんと、ミシュラン パイロットスポーツ CUP2の「R」だったのです。
しかも数日前にスタディがこれを富士スピードウェイへ持ち込み、ワークスドライバーの荒 聖治選手が、1分49秒台(!)を出したときのタイヤそのまま。
当日M4 CSLを撮影現場まで運んでくださったスタディの相澤さんは、「残り溝はまだあるから大丈夫!」と笑顔で送り出してくれたわけですが、こちらとしては一度サーキットレベルで熱が入ってから冷えたタイヤは、走り始めに気をつけないといけないわけです。
だから最初は本当に、ゆ~っくりとタイヤに負荷を掛けながら、M4 CSLのフィーリングを確かめました。これがサーキットなら、ブレーキングやスラロームで、素早く暖められるんですけどね。
その一方でこうやって、ひと手間かけてウォームアップしてあげなきゃいけないクルマって、それはそれで愛おしいなぁと思いました。
さてさてそんなM4 CSLですが、見た目の派手さとは裏腹に、走りはとってもフレンドリーでした。
もちろん550馬力もあるFRクーペですから、雑な操作はできません。しかし丁寧に荷重を与えながら操作していくと、すごく気持ち良いシャシーワークで、応えてくれたんです。
そこに利いているのが、車重の軽さ。
なんとCSLはスタンダードモデルから、約100kg(!!)も軽量化されているんです。
最近のスーパースポーツはカーボンパーツへの材料置換が当たり前になってきていますが、100kgってなかなかできないですよ。
そしてツーリングカーでの100kg減は、ドライバーが確実にその軽さを体感できます。
ちなみにスタンダードなM4は、すごく俊敏なスポーツカーです。ボディは大きいけれど剛性が高く、ワイドトレッドにハイグリップタイヤの組み合わせは、コーナーの切れ味抜群。
そしてロングホイールベースだから、直列6気筒ターボのパワーに対して安定感もすこぶる高い。全方位的に、バランスがいいFRクーペです。
リアシートの撤去の他に、様々なパーツをカーボンに材料置換して約100kgの軽量化を達成。巨大なボンネットやトランクリッドだけでなく、キドニー・グリルやエア・インレッド、ドアミラーキャップ、リアディフューザーもCFRP製になっているのだという。ウイングを着けず、ドライカーボン製のトランクリッドをダックテールにしているのがとても大人っぽくて好き。
対してM4 CSLは、面白いことに動きがゆっくりなんです。
ブレーキングしてもそこからステアをしても、挙動が穏やかで正確。ピロボールの感触こそ少しゴツゴツしていますが、車体がガッシリしているから、ピーキーな動きをしないんですね。
これならドライバーは、3.0L直列6気筒ツインターボのアウトプットに集中できる。そしてこのS58ユニットが、ターボなのにすごく気持ち良く回るから、純粋に運転が楽しいんです。
「この感じ、何かに似ているなぁ」
と思い出したのは、日産GT-R NISMOでした。もちろん異なる部分は沢山ありますが、まずフロントエンジン・リアドライブをベースとしたツーリングカーボディの走り味が、似ています。
ポルシェやフェラーリ、マクラーレンような重心の低さはないけれど、そのハンディを克服するために、箱型ボディを徹底して磨き上げたドライブフィールです。
その上でM4 CSLには、ドライビングプレジャーがありました。
クルマと真剣に向き合うほどに、手の平には接地感が、体にはターンインで姿勢変化して行く様子が伝わってくる。
それは前後重量配分を50:50に近づけたシャシーバランスと、1630kgという車重、そしてあくまで後輪駆動にこだわったシャシーセッティングがもたらしています。
ちなみに2024年モデルの日産GT-R NISMOは、1720kgです。
もっとも日産GT-R NISMOはそのアイデンティティを、「速さ」と「ロードゴーイング」に見い出していますから、両車のキャラが違うのは当たり前。
第二世代のGT-RはR32が、グループAという改造範囲の狭いカテゴリーで、ぶっちぎりで勝つために「アテーサE-TS」を投入した。その歴史が今なお、途切れず続いているわけですね。
インテリアはステアリングがバックスキンタイプになって、要所要所がカーボントリミングに。そしてシートは、「CSL」のロゴが入ったレザー張りのMカーボン・フルバケットを装着。軽さを求めながらも、過激にならずスタイリッシュなのがBMWらしい。対して後部スペースは、シートが取り払われてもうちょっとスパルタンな雰囲気。でも実際は、空いたスペースにヘルメットやサーキットギアが置けるから、かなり便利だ。
実際ニュルブルクリンク北コースでのタイムは、日産GT-R NISMOがブッチギリです。GT-Rは2013年の時点で7分8秒679のタイムを叩き出していますが、かたやM4 CSLはBMW最速とはいえ、7分20秒207ですからね。コースにもよりますが、サーキットを走らせたら日産GT-R NISMOの方が、全方位的に速いでしょう。
でもね、きっとそこじゃないんですよ。
BMWがM4 CSLに求めたのはラップタイムじゃなくて、ドライビングプレジャーを提供することだと思うんです。だからその操縦性が、アマチュアドライバーにもフレンドリーなのでしょう。
これだけ貴重なクルマだと走らせる方も覚悟は必要ですけれど、サーキットで思い切り走らせたらその時間はとても濃密なんだろうな。
もしBMWがM4 CSLに純粋な速さを求めたら、ここからさらにGT-R NISMOのようなウイングや、長いフロントスプリッターが付くでしょう。そしてエンジンパワーも、600馬力超えを狙うはず。
それはそれで、魅力的だな(笑)。
でもそうするくらいなら、「あなたはもう、レースをやるべきだよ」と彼らは思っているんじゃないかしら? だからBMWは、M2 CS RacingやM4 GT4、そしてM4 GT3といった、カスタマーレーシングを用意しているのだと思います。
こうした限定車、しかもCSLという伝統のネーミングが付くスペシャルモデルをして、流行りに乗らなかったBMW。あくまで「駆け抜ける喜び」にこだわった、そのちょっと頑固なところも面白い。
CSLは「Competition Sport Lightweight」の略称ですが、私にとっては究極の「クラブ・スポーツ・ライトウェイト」という印象でした。
(テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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