『クルマはトモダチ』足周りは、シャコチョーに限らない!…山田弘樹連載コラム
みなさんゴキゲンよう!
今回は「元気で小さなクルマ」の続きを書こうかと思っていたのですが……。前回の原稿を書いていて「もっときちんと説明したい!」と思ったので、サスペンションのことについて、もう少しだけ書かせてください。
マニアックな内容になっちゃうけど、ゴメンネ!
というわけで。
前回はざっくり言うと、「純正形状のサスペンション(スプリングとダンパー)をわざわざ作るのって、実はすごい」というお話をしました。
サスペンションチューニングって、「シャコチョー(車高調)が一番エライ!」ってイメージ、ありますよね? でもいまや車高調整式サスペンションの素材ってかなり普及が進んでいて、むしろコストが落としやすい一面もあるんです。
パーツに汎用性があるから、その組み合わせで車種ごとのダンパーが作りやすい。スプリングも直巻きなら、幅広くレートや内径・外径、自由長が選べます。
もちろん、レース用の高性能な3WAYとか4WAYのダンパーシステムなんかは別。でもそれだって需要が多ければ、もっと単価は安くなるはずです。
そこには「高性能だから高い」だけではなくて、「需要がないからコストが掛かる」という、ふたつの理由があると思います。
というわけでイマドキ、わざわざ純正形状のスプリングが装着できる、純正形状のスプリングシートを持った減衰力調整式ダンパーを作るのってすごいなぁ…と私は思ったわけです。昔はむしろ、こっちの方が多かったんですけどね。
イラスト協力:株式会社テイン https://www.tein.co.jp/index.html
そして本題。
こうした純正形状サスペンションの、良いところってどこなんでしょう? それは、まず足周りがスムーズに動くことです。
上のイラストは、私が日頃いろいろ教えて頂いているテイン開発部の、渡邊エンジニアから頂いたイラストです。
これを見るとタイヤが路面からの入力を受けたとき、その入力が弧を描くようにダンパーを曲げようとしているのがわかります(①)。
しかしこのときその入力を、純正形状の外側にオフセットされたスプリングが、踏ん張って受け止めてくれるんですよね。
だからダンパーにストレスが掛かりにくくなって、スムーズに伸縮したり減衰力を立ち上げてくれるわけです。
イラストは、ストラット式サスペンションの場合。そしてこれがダブルウィッシュボーンになると、アッパー/ロアアームが2本で横力を受けてくれるようになります。するとダンパーにも、ストレスが掛かりにくくなる。
だからNSXなんかはフロントのスプリングが直巻きのようになっていて、スプリングシートが車高調のように小さい。またストラットでも、ポルシェ911のようにフロント荷重が小さいクルマの場合は、同じような形になっています。
じゃあストラット形式の足周りで車高調と直巻きスプリングを使った場合は、この横力にどうやって耐えるの?
そのときはダンパーケースの外形を広げたり、板厚を増したり、ピストンロッド径を拡大して、ダンパー単体の剛性を確保します。
逆に言うと純正形状はスプリングを外側にオフセットさせていることで、ダンパーのコストを節約できるわけですね。
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純正形状がなんだというより、既にノーマル状態で足周りの完成度がすこぶる高い「GR86」。乗り心地もいいし、コントロール性も高いし、タイムとか考えなければ「ノーマルでいーじゃん!」というのが素直な感想。昔は「何はなくともアシ換える!」ってのが走り屋の定番でしたけど……いい時代になったよなぁ。
ただ個人的な経験でいうと、ダンパーを倒立式にしたりピストンロッド径を太くしても、伸縮時のフリクションが大きくなる印象なんですよね。
大きな入力がジワーッと掛かるサーキットでの性能的はよくなっても、様々な入力が細かく掛かる街中では、純正形状サスの方が乗り心地が良い気がするんです。
オッサンになったのかなぁ?
だったら純正形状のスプリングとダンパーで、さらにケースを肉厚にできたりしたら、すごくよさそうじゃない?
ちなみにテインの純正形状サスキットは、純正肉厚と同等かそれ以上の剛性・強度で作られています。そして、減衰力調整機能まで着いている。
これはGENROQ誌で初めてテインと取材したときの一コマ。スバル BRZに装着された足周りは純正形状だったのですが、その乗り味がとても素直でした。あと第5世代の電子制御ダンパーコントロールシステム「EDFC5」が着いていて、走っているときに自動で減衰力調整できちゃうんです。これもいつか、みなさんに詳しく紹介したいなぁ。
だったらいっそ、そこに車高調整用のネジ山まで切って、好みの前後バランスが得られたら……すごくない!? それって、究極のアシじゃない!?
実はそんな車高調も、あるんですよ。ラリーやダートラのような、入力が大きなステージで走るためのキットだと思うんですけど、でっかいスプリングシートが着いた車高調が。ただそこまで求めるニーズがないから、世の中にはあまり広まっていないんです。
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うはー! これですよ、これ。私の理想は、レーシングカーというよりラリーカーなんですね。もちろん、ジャンプなんてしませんけど(笑)。要するにストローク量をきちんと確保した、乗り心地がよくてコントローラブルな足周りが究極の理想なんです。目指すはこの境地! つかGRヤリス欲しい!!(c)TOYOTA GAZOO Racing
えっ? 車高調を入れる理由は、車高を低めるためだろって?
うーん。確かに、車高を下げたらカッコいい。そして低重心化が運動性能を上げるのは事実なんですけど、却ってロールが大きくなる場合もあります。
車高を下げすぎてロワアームが水平よりバンザイすると、フロントのロールセンターが適切な位置から簡単に外れる。そうすると、すごく乗りにくいクルマになっちゃう。
私の911が、以前そうでした。前オーナーが装着したローダウンスプリングが既にヘタッていたのでしょう、見た目は抜群にカッコいいのだけれど、操縦性がとてもピーキーだった。
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これが私のポルシェ911 カレラ(Type993)です。タイヤは純正の17インチだし(チューニングの定番はRS仕様の18インチ)、ホイールは引っ込んでるし、スプリングが純正だから車高は高いしで、実にノホホンとした見た目なんですが……これがいーんです。
写真提供:GENROQ
それを純正スプリングに換えたらバンプ時のトー変化がなくなって、すっごく乗りやすくなったんです。カメラマンの友達にはいつも、「かっこ悪ッ!」ってからかわれるんですけどね(笑)。
サーキットで走ることを第一の目的にするなら、路面は一般道より遙かにフラットだから、既存の車高調で性能を追いかければよいでしょう。
でも愛車で走る割合って、圧倒的に普通の道が多いですよね? だから私はここ数年、純正志向。純正サスのデータをベースに、色々磨き上げた足周りが欲しいと思っています。
そして今まさに、テインと一緒に911の足周りを作ろうとしているんです。その模様はGENROQ誌のロングターム・レポートでお伝えしますが、面白いエピソードやこぼれ話は、このコラムでも書いてみなさんにお伝えしますね!
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見た目はさておき、走らせるとめっちゃコントローラブルなポルシェ911。あとはもう少しだけ、レイクバランスを変えたり減衰力調整ができたら、いうことないなぁ……と思ってとある試乗会でテインに相談したら、一緒にサスキットを作ってくれることになりました。テインは古い輸入車のサス制作にも、実績があるメーカーなんですよ。
※写真提供:GENROQ
山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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