『クルマはトモダチ』「N-BOX スロープ」を知って欲しい!…山田弘樹連載コラム
みなさん、ゴキゲンよう!
今回みなさんにご紹介するのは、「ホンダ N-BOX スロープ」です。
いつもこのコラムでは、走りが楽しいクルマたちを中心に取り上げています。しかし今回私は、どうしてもこの「N-BOX スロープ」という名前を、みなさんに覚えてもらいたいのです。
そのレポートはモーターファンjpでも寄稿させて頂いたのですが、このコラムでもぜひお話させてください。
N-BOX スロープは、いわゆる「福祉車両」です。
トランクルームに設置されたスロープを使うことで被介護者は、車いすに乗ったまま、クルマに乗り込めるようになります。
車いすをウインチで引っ張ることで、介護者の負担も大幅に減らすことができます。
「福祉車両なら、知ってるよ」
「そういうクルマ、大切だよね」
そう思ってくださる人は、きっと沢山いらっしゃるでしょう。
でもほとんどの方が、「自分にはまだ関係ないな」と、考えているはずです。
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N-BOXスロープは福祉車両として消費税が免除となるため、車両価格はFWD車で184万4000円。スロープを装着しても、なんと標準車の19万5100円高で購入可能だ。また4WD車(196万5000円)やカスタム仕様(FWD:206万7000円/4WD:218万8000円)を選ぶこともできる。筆者としては、より質感の高いターボが選べないのは残念。だが認知度が上がってニーズが高まれば、それも実現できるかもしれない。
実際こうした福祉車両は、驚くほどに普及していません。
ホンダが提供してくれたデータでは、2020年時点で被介護人口が約681.9万人もいます。これって、東京23区の人口の7割を超えた人数です。そしてこの数は、年々増加傾向にあります。
対して同じ2020年に販売された福祉車両の台数は、国内自動車メーカー合計で、たったの3万2378台。約4.8%でしかないんです。
その中でもN-BOXスロープは一番売れている福祉車両なのですが、年間販売台数は4000台を下回ります。ご存じの通りN-BOXはいま日本で一番売れているクルマで、シリーズ合計ではあるけれど、同じ2020年に販売された台数は19万5984台にも登ります。
しかしそのうちN-BOX スロープの販売台数は、たったの2%でしかないんです。
私はこうした数字を知って、愕然としました。
つまりそれは多くの自宅にいる、車いすが必要な方たちが、デイサービス等以外での「外出の喜び」を、手にしていないということだとも解釈できるんです。
被介護者の方はご自分で運転できないから、「移動の自由」とは言いません。でも「どこかに行きたいな」とか「あの風景が見たいな」と思っても、なかなかそれが簡単ではないわけです。
2基掛けのウインチはリモコンで操作可能。巻き上げ時に左右の長さが揃うように制御されているので、車いすの向きが真っ直ぐになっていなくてもこれを自動で補正してくれる。またその速度も二段階選べ、固定する位置に来ると減速してくれる。出演は押す人が福祉事業課 アシスタントチーフエンジニアの井上秀剛さん、車いす役は福祉事業課チーフの田口健人さん。このふたりが、とても熱い。情熱を持って、福祉車両の普及に努めています。
かくいう私も母が90歳まで生きたので、介護の苦労は経験しています。専用の福祉車両を購入するなんて間違いなく家計の負担になるし、普段車いすを使っていない場合は、その必要性から目をそらしがちです。
そもそも介護サービスを頼めば、施設の介護車両が迎えに来てくれます。
かくいう私の場合は、年老いた母をなんと911の助手席に乗せて、食事へ行ったり通院していました。それは外から見ればお洒落な親孝行かもしれませんが、今考えれば着座位置が低いクルマに老人が座るのは、楽じゃなかったと思います。おふくろ、悪かったね。
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敢えてウインチなしで車いすを押してみた。開発チームの井上さんは大柄だったから特にだが、スロープを登るのにまず結構な力が必要。また重さに対し車いすのハンドル部がたわんで、力が伝わりにくく、まっすぐ押しづらい。ウインチがあれば、介護する側の負担は大きく減らせることを実感できた。
さてここからが本題なんですが、ではどうやったらこの「福祉車両」が普及するのでしょうか?
そもそもこれだけ高齢化社会が叫ばれるなかで、なぜこれほどまでに、福祉車両が普及しないのでしょう?
それは冒頭の通り、多くの人々が「自分には(まだ)関係ない」と思っているからでしょう。「福祉車両」という名前が付くだけで、遠く離れた専門的なクルマのように思えてしまうからだと思います。
そして私のように「あったら便利だな」とは思っても、特別なクルマを購入するのに躊躇したり、経済的な余裕がない場合もあります。
そこで福祉車両の開発陣は、考えたわけです。
だったら、「関係あるクルマにしちゃえばいいじゃないか!」と。
だから彼らはまずN-BOXの試乗会で、車いす以外のスロープの使い方を提案しました。具体的にはキャンプ道具を積んだキャリアカーを、電動ウインチで引っ張る実演をしたわけですね。
ちなみにこの電動ウインチは、スライドドア用のモーターを2機掛けしています。最大牽引重量も120kgと力強く、スロープは200kgまで重さに耐えられます。
スロープ仕様のリアハッチは車体底部まで大きく開く構造となっているが、閉じるとダミーバンパーがデザインされており、見た目は普通車と同じになる。「介護車両に乗っている」という特別感をなくして、より多くの人たちに選んでもらうのが狙いだ。黄色い車両は通常のN BOXで、下方の間口がやや丸まっている。傍らで撮影しているのは吉田由美ちゃん。
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フロントシート下にはウインチ用のモーターが2機。リアシートに座ったとき、つま先が入るスペースは塞がれてしまうが、身長171cmの筆者でも膝周りには余裕があり、普通に座ることができた。ベルトをスムーズに引っ張れるように、リアシートバックにスチールバーが装着されているのも細かい配慮。
でもそれだけじゃ、まだまだ説得力が足りません。
自分だったら何に使いますか? みんなも考えてみて。
スロープを立てかけて格納したときの荷室長は1270~1510mmだから、サイズによっては自転車も搭載可能です。塾帰りのお子さんの自転車を持ち上げながら積んでいる方も多いと思いますが、スロープがあれば便利かもしれないですよね。
ミニバイクを積むには、少し長さが足りないかな? そんな場合は、スロープ仕様の「フリード+(プラス)」もありますよ。
もしこのスロープ仕様が介護のため“だけ”のクルマじゃなくなって、生活に役だったり、趣味を広げてくれるクルマとしてみんなに認知されたら、その数はもっと増えそうです。
スロープでできることのひとつが介護であれば、「それはあってもいいよね」と、思ってくれるんじゃないでしょうか。
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折りたたんだスロープは寝かせればラゲッジボードとしても使える。重たいものや泥んこグッズも躊躇なく積めるし、スロープを出せば拭き掃除も簡単にできそう。またボード下も収納スペースとして活用できる。タフギアとしての使い道はかなりあるだろう。
だから開発陣はその名前を「N-BOX 福祉車両」ではなく、先代モデルから「N-BOX スロープ」にしました。
まだまだWebでは、これを純然たる福祉車両として紹介しています。カタログでも名前こそ「N-BOX スロープ」としていますが、小さなスペースにはやはり車いすとセットの写真が載せられています。
それでも開発陣は、まずその名前を変えることで小さな一歩を踏み出しました。このN-BOX スロープをひとつのバリエーションとして普通に選んでくれるようになれば、自然と福祉車両の数も増えるからです。
だから私はみなさんに、まずはこの「N-BOX スロープ」という名前を覚えて欲しい。そして今後はその試乗も含めて、積極的に福祉車両をインプレッションして行きたいと思います。
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リアシートは折りたたみ式となるためクッションを肉薄化しているが、乗り心地を保つためにクッションの素材を厳選。またリアサスペンションもN-BOX スロープ専用にチューニングした。今回は走らせることができなかったが、座り心地はまずまず。いずれきちんと試乗して、その使い勝手と共にインプレッションしたい。
山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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