『クルマはトモダチ』祝!BMW M 50周年。原点復活の3.0CSLに込められたロマン…山田弘樹連載コラム
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BMW 3.0CSLはM社にとって、自身のルーツと言える象徴的な存在。日産プリンスで言えばスカイラインGT-R、アウトデルタで言えばアルファ・ロメオ ジュリアGTA1600や1300GT jr.といった伝説のツーリングカーたちにも比肩する永遠のアイコン。
みなさん、ゴキゲンよう!
BMWのハイパフォーマンスカー製作と、モータースポーツ部門を司るBMW M GmbH(以下 M社)。彼らが自身の50周年を振り返って、その原点である「3.0CSL」を復活させた、というのが前回のお話でした。
そして今回は、遂にこれを走らせます。
世界限定50台。推定価格、75万ユーロ(約1億2000万円)!
ただ走らせるだけでも緊張感漲る3.0CSLはしかし、実際はとびきり気持ち良いスポーツカーでした。
その要となっているのは、元祖と同じく“軽さ”です。
ただその軽さは、車重だけがもたらしているのではない。これが二代目3.0CSLの奥深さでした。
アウタースキンのほとんどをドライカーボンで覆った3.0CSLのパワーウエイトレシオは、たったの2.9kg/PSです。そしてその最高出力は560PSだから、車重は1624kgと導き出せます。
そう、車重だけで見れば3.0CSLは、ウルトラ・ライトウェイトではないんですね。たとえば911GT3 RS(1450kg)の方が、遙かに軽い。でも走らせると、抜群に軽さを感じるんです。
ボンネット、ルーフ、トランク、オーバーフェンダーや前後バンパー、ふたつのウイング、内装まで至る所をドライカーボン誂えにして軽量化を実現。遮音材も省かれたというが、走らせていてまったく快適性は損なわれていなかった。
では何が3.0CSLに、軽さを与えているのか?
それはドライブフィールです。全ての操作系が、車体にトーンを合わせて、軽く設え(しつらえ)られているんです。
たとえばクラッチは、まるで2リッターNAエンジンのような踏力です。しかもそこには、きちんとした節度感があります。
ペダルをゆっくり上げて行くとジャダーひとつ起こさず、スルスルとクルマが進み、シフトチェンジしたときのキレも抜群。
6速MTのシフトフィールも、極オツです。
シンクロの効きが確かな上に、シフトトラベルまで改善されているから、適度な手応えと共にギアがサックサク入ります。むしろあまりにスムーズ過ぎて、最初はそんなシフトフィールすら意識できなかったくらい。
ちなみにこの6速MT、5万kmごとにオーバーホールが義務づけられているそうです。
通常これだけのパワーとレスポンスを発生するエンジンの場合、シフト操作が忙しくなりすぎてMTは使いにくくなりがち。しかし3.0CSLの6速MTはそのシフトトラベルが専用設計されており(どうやらギア比も特別らしい)、S58エンジンのレスポンスに遅れを取らないどころか、それを楽しむことができた。
対する足回りは、ちょっと独特。
操舵に対するゲインがすごく高くて、直列6気筒ツインターボを積んでいるとは思えないほど、ノーズがインにスパッと入ります。電動パワステも、ちょっと頼りないほどの軽さです。
この味付けにはタイヤの影響も大きく関係していると思います。
同じミシュランでもM4 CSLは、グリップ重視の「パイロットスポーツ CUP R」を装着していました。対して3.0CSLは、ロードユースよりの「パイロットスポーツ4S」を選んでいるのです。
そしてこのサラッとした接地感が、より軽快感を高めている。
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車体の軽さからバネレートを攻めないで済むのだろう、乗り心地はソリッドだが予想以上に良好。これなら普段使いも可能だが、50周年記念エンボスが入った予備のないタイヤの扱いを考えると街乗りは止めた方がよさそう(笑)。今後はどうするのだろう?
極めつけは、エンジンでした。
市販車としてはシリーズ最強となる、560PSの直列6気筒ツインターボ。それをこの軽さ極まるシャシーで走らせるのは、かなりの緊張感でした。
それでもゆっくりとアクセルを開けながら、徐々に徐々にエンジンの回転を引っ張って行くと、S58ユニットは拍子抜けするほどスムーズに、高回転まで回り切ったのでした。
ブースト制御はきめ細やかで、唐突なトルク変動は一切なし。パワーは確かに出ているのに、リニアに回転を盛り上げて行く様は、まさに最強のシルキーシックスと呼ぶに相応しい出来映えでした。
確かにこれなら、場所さえ選べばガッツリ踏める。
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560PS/550Nmという高出力を、トロけるようなスムーズさで捌ききったM社の制御技術には脱帽。これは間違いなくBMWの3リッター直列6気筒史上最高のエンジンだと思う。
ターボという性格から音質は低めで、昨今の騒音規制もありアクセルオフからのバブリングも抑えられている。サウンドは正直往年の自然吸気には及ばないけれど、直列6気筒の吹け上がりは変わらずスムーズであり、排気の歯切れもいい。
そしてこのエンジンをこのシャシーにシンクロさせて初めて、私は3.0CSLの目指した走りがわかった気がしました。
たとえばM社はポルシェのように、レーシングマシンであるM4 GT4をロードバージョン化することもできたと思います(それはそれで見てみたい!)。
でもこの3.0CSLに彼らが込めたのは、古典的な走りの楽しさ。ドライバーがダウンフォースに頼らずシャシーのバランスを取りながら、エンジンをレブリミットまで回しきって走るドライビングプレジャーです。
カーボンセラミックローターをじゅわっと挟み込む、極上なタッチのブレーキで、その都度フロントタイヤに適正な荷重を与えてターンイン。ステアレスポンスは超クイックだから、操作には細心の集中力が必要でしょう。
その高い旋回性能を使って、ブレーキングポイントはどんどん奥になって行く。攻めすぎれば、オーバーステアだって出るはず。
そんなときこそ、このリニアなターボエンジンのレスポンスで、挙動をバランスさせる。
そういう、クラシカルだけど熱い走りを、この3.0CSLに込めたのだと思います。
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かつては“バットモービル”とあだ名されたエアロボディだが、現代のレーシングマシンと比較するとダウンフォースはずっと少ない印象。空力でボディを押さえつけるというよりは、前後バランスを整えているという感じだろうか。それゆえに3.0CSLは、ツーリングカーらしさ溢れる走りを楽しめる。
ちなみにBMWはオーナーに、この3.0CSLでレースやタイムトライアルに出ることを禁じています。その理由は、単なる速さやラップタイムでこのクルマの価値を論じて欲しくはないからでしょう。
私はオリジナルの3.0CSLに乗ったことはないですが、きっとそこには、沢山の共通点があるのだと思います。
つまりM社は50周年に際して、3.0CSLの形だけでなく、ドライビングプレジャーにおいても自身のルーツを再現したのだと思います。
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元祖3.0CSLほどではないけれど、現行M4よりもクラシカルに仕立て上げられたキドニーグリル。昔気質な筆者にはこちらの方がより“らしく”感じるけれど、それにしてもやっぱりちょっと大きめかも。
協力:BMW Studie
撮影:田村 弥(Wataru TAMURA)
山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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