『クルマはトモダチ』あきれるほどの進化!「究極のポルシェ911」・・・山田弘樹連載コラム
みなさんゴキゲンよう!
今回ご紹介するのは、最新世代の「ポルシェ 911 GT3 RS」です。
その名の通りFIA-GT3マシンのベースとなる「911 GT3」を、さらに高性能化した「RS」。ポルシェの伝統“レン・シュポルト”のネーミングは「レーシング・スポーツ」を表していて、「スポーツカーとレーシングカーの狭間」を意味するものだと解釈されてきたわけですが……。
これはもう、「公道を走れるレーシングカー」。
事前資料を見たときは、正直高を括っていたんですよね。
だってその出力も、「GT3」からたったの5PS増しでしたから。
4リッターの自然吸気エンジンは既に520PSも出ていたわけで、「そりゃもう限界だよね~」と思ってました。
そして「あとはブリスターフェンダーが付いて、空力性能がちょっと上がるくらいでしょ?」と考えていた。
しかしその空力性能が、あきれ返るほどに進化していたのですよ。
タイヤハウス内の空気を排出するダクトと、後端がカットされたフェンダー。その後ろにあるバージボードの平らな部分には、タイヤが巻き上げた小石が溜まっていた。
新型911GT3 RSの外観は、見れば見るほどエグさ満点。
前後のフェンダーは、後ろ側がスパッとカットされていて、タイヤがかき乱した空気を吐き出せるようになっています。こうすることでタイヤハウス内の圧力を下げて、ダウンフォースを稼ぐわけですね。
だからちょっと走るだけでバージボードの周りには、小石が沢山たまります。というか、市販車にバージボードですよ!
トランクはなくなり、その中に大型ラジエターが1基装着された。グリルから吸い込まれた空気がこれを通過し、ファンで強制排出されてフロントのダウンフォースを高める。フードはカーボン製だ。
またフロントのトランクは、とうとう無くなりました。そこには大型のラジエターが1基収まっており、フロントグリルから入った風が、ファンで強制排出される仕組み。これで冷却性能とダウンフォースの両方を向上させるわけです。
何より一番すごいのは、「DRS」(ドラッグ・リダクション・システム)の搭載!
この巨大なウイングは、ーーーーつかこれ車検通るの!?ーーーーー アクチュエーターで動くんです。
ステアリングのボタンを押すと自動でウイングを跳ね上げて、ストレートではドラッグ(空気抵抗)を低減。
そしてブレーキングからターンインにかけては、再びボタンを押してダウンフォースを高めることで、姿勢を安定させることができる。このとき、フロントバンパー内のフラップも連動します。
ステーを吊り下げタイプとして、ウイング下面の流速をスムーズ化するスワンネックタイプの巨大なウイング。そのステーにアクチュエーターを付けることで二段ウイングの下側を動かし、ダウンフォースを2段階で調節できる。
マクラーレンやランボルギーニも可変エアロデバイスを市販車に投入しましたが、ここまで直接的に巨大なウイングを可変させた市販車はなかったんじゃないかな?
FIA-GT3マシンではこうした可変デバイスが禁止されているはずだから、スリックタイヤを履かせたら911GT3RSの方が、コースによってはレーシングカーより速くなっちゃうかもしれません。
そして面白いのは、こうした空力の変化が、我々のようなアマチュアでも体感できちゃうところ。
ダウンフォースが増えると、乗り心地が良くなるんです。空気でボディを押さえつける力が増すから、ダンパー減衰力を高めても車体が跳ねなくなるんですね。
ダウンフォースを増やす本来の目的はもちろんタイヤのグリップを上げることですが、高速道路だとそれを乗り心地の変化で体感できてしまうわけです。
液晶メーターをダンパーモードにするとフロント/リアのバンプ/リバウンドの減衰力がそれぞれ別々に調整できる。サスペンションは現行GT3からフロントがWウイッシュボーンに。そのステアリングレスポンスは劇的に良くなった。
またその足周りは、ダンパーが自動調整式の2WAYになりました。
モードを選択してステアリングのダイヤルを回すだけで、前後ダンパーの減衰力が、伸び/縮み別々に調整できるようになったんです。しかも9段調整!
これって、すっごく画期的なことなんです。サーキットでアタックしたあと、いちいちピットに戻らなくても、すぐさま自分の考えをダンパーに反映できます。
またタイヤや路面、天候といったコンディションにも、素早く対応できるようになるはずです。
正直伸び・縮みの減衰力調整は、経験が少ないと使いこなせないと思います。走りの基礎が定まっていないと、きっと頭が混乱しちゃうでしょう。
でもね、こうしたレーシングデバイスをアマチュアが体験できるようになったのは、すごいことですよ。そしてオーナーは、「ESC」(車両安定装置)や「TC」(トラクションコントロール)の恩恵を受けながら、長い時間を掛けて、ひとつずつその使い方を理解していけばいいんです。
それはとっても、とっても贅沢な時間です。
ステアリング上に備わる4つのダイヤルを使ってモードやESC/TCS、ダンパー制御等を行う。スポークにあるDRSボタンを押せばハイ/ローダウンフォースが選択できる。トランスミッションは7速PDKで2ペダルドライブが可能。試乗車のシートはカーボンシェルタイプだった。そして、遂にロールケージまでもがカーボン製になった。
最初この911 GT3 RSに試乗したとき、私はその過激さにちょっとシラけていました。
しかし乗れば乗るほど、911 GT3 RSのピュアさが体に伝わってきた。
レーシングカーはその性能が優れているほど、きちんとしたウォームアップが必要になります。それと同じでドライバーも、ウォームアップが必要なんですね。
低回転でジャラジャラと盛大なメカニカルノイズを発していたエンジンは、回すに従って滑らかさを増して行きます。漲るパワーは右足にとても従順で、ダブルウィッシュボーンとなったフロントサスが恐ろしくダイレクト、かつ緻密にその行く先をトレースしてくれるのがわかるようになる。
私はオープンロードでの試乗しかしていないのでその片鱗しか味わえなかったけれど、それでも片足をゾーンに突っ込んだ911 GT3 RSの走りは、やっぱり素晴らしかったです。
この完成度の高さと内容を踏まえると、オプションなしで3134万円という価格は、高くないと思います。FIA-GT3やカレラカップ車両でレースを楽しむのは確かに究極のホビー。かたや自分の好きなときにガレージからひっぱりだしてサーキットへ行けるこの911GT3 RSは、究極のクラブレーサーです。
そこには「ピュアスポーツってなんだ?」という、ポルシェの回答が込められています。CO2の削減と電動化が押し寄せるこの土壇場で、彼らは「究極の911」を提案した。そして世界には、これを求めるニーズがきちんとあるわけですね。
パワーウインドーやミラー調整モーター、小物入れまで付くドアの内張り。かつてのRSのように、ストイックに軽さを求める姿勢はなくなった。ドアオープナーをわざわざベルトタイプにして、ドアハンドルをカーボンに材料置換したのは最後の意地か。
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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