『クルマは最高のトモダチ』ミッドシップに乗りたい!…山田弘樹連載コラム

いちクルマ好きとしてボクは定期的に、“ミッドシップ欲しい症候群”になります(笑)。
なぜかといえばそれが、物理の法則に則った、究極のハンドリングを持つスポーツカーだからです。

ところでミッドシップが優れているのは、最大の重量物であるエンジンとドライバーが、ほぼクルマの真ん中にあるからです。さらにエンジンが後ろにあることでトラクションが掛かりやすくなる。
そしてこれドライサンプ化して縦置き搭載すると、まず重心が低くなり、重量配分も整えやすくなり、さらにダブルウィッシュボーン・サスペンションを搭載するスペースが確保しやすくなります。

こうしてでき上がったミッドシップマシンは、ハンドルを切ったときヨーモーメントが起こしやすく、その慣性を納めることも容易です。簡単に言うと、曲がりやすくて、コントロールしやすいクルマになる。

でもミッドシップのスポーツカーって、運転が難しいイメージない?
そこには、車体のサイズやパワーが関係しているとボクは考えています。

いまやフェラーリやマクラーレンといった、ハイパーカーにしか用いられない“縦置き”ミドシップレイアウト。しかしそのルーツをひもとくと、これはどうやら庶民派レイアウトだったようなのです。

ボクもまだ勉強不足ではありますが、1940年代後半にクーパー・カーズ(そう、あのミニ・クーパーを作った会社です!)が小排気量のミッドシップフォーミュラ「クーパー500」を制作しました。

なんと彼らはフィアット500用のエンジン(!)で格上マシンを相手に勝利を重ね、これがミッドシップレイアウトのブレイクスルーとなったのです。
それまでにもエンジンをミッドシップしたレーシングカーはありましたが、1950年代前半はまだ高出力なエンジンにものを言わせる戦い方が主流だったんですね。

しかしこのクーパーがF3やF2を席巻したことで、最後はF1までもがミドシップ時代に突入しました。

クーパー500ではないですが、本来ミッドシップはローパワーで小さなボディに向いているのだと思います。
ボクはそれを、スーパーFJで体験しました(そのお話もいずれ!)。

  • 2014年から15年にかけて、B-MAX RacingでスーパーFJを経験させてもらいました。スーパーFJはフォーミュラカーの中で入門カテゴリーですが、ボクが経験したどのスポーツカーよりもピュアでした。乗りやすさや気持ちよさで言うとF4よりもフレンドリーだったし、フェラーリやランボルギーニ、マクラーレンといった一流のスーパースポーツたちよりも刺激的(笑)。このくらいシンプルな構造のスポーツカーがあればいいのにな……と、ことあるごとに思うのです。

大きなクルマをミドシップにすると、確かに曲がりやすいけど、大きなボディが速く動く分だけコントロールも難しくなります。
現代のF1や、ハイパースポーツたちのホイルベースが異様に長いのは、ゴルフバックを積むだけでなく、この動きを穏やかにするためでしょうね。
そして現代の電子制御技術を使えば、安全にマシンを制御できます。そして空力でボディを地面に押さえつけます。

スーパーFJは一応ウイングのようなものも付いていますが(笑)、基本的にはそのレイアウトの良さで運動性能を発揮していました。エンジンなんて、フィット用の1.5リッターで、パワーも120馬力程度だったのですが、そのハンドリングはとってもダイレクト。
車体も500kg程度と抜群に軽く、筑波サーキットを1分を切るタイムで走ります(汗。

だからボクはときどき、小さな縦置きミッドシップのスポーツカーがあったらなぁ…と思うのです。
パワーがなんぼのモンじゃい! って感じの、素朴でピュアなスポーツカー。

そんな理想のレイアウトが市販車で実現されにくいのは、そこにいくつもの障害があるからです。まず室内が、うんと狭くなる。トランクも小さくなる。
ただこれは、ホンダS660だって同じことですよね?

もうひとつはコストです。エンジンを縦に置くと、専用のトランスミッションが必要になります。

ちなみにスーパーFJの前身であるFJ1600は、スバル・レオーネのコンポーネンツを長らく流用してきました。そしてこれが古くなってきたので、フィット用エンジンに加え、戸田レーシング製レーシングギアボックスを新たに用意したわけです。

ピュアに作ると、ミッドシップは高い。というわけで量産車メーカーは、FF車のコンポーネンツ(横置きエンジンと横置きトランスミッション)を使って、そっくりこれをリアに転じる手法でスポーツカーを作ってきました。トヨタMR-2/MR-Sや、初代NSXがそうですね。

市販車の横置きFFコンポーネンツを流用したミドシップで言うと、ロータス・エリーゼ(左)とアルピーヌA110(右)がツートップだと思います。2台とも、重心が高くピーキーになりがちな操縦性を、シャシーチューニングで見事に収めている。でもね、これが縦置きミドシップだったら、もっともっとピュアなんですよ! その気持ちよいハンドリングを、クルマ好きの方々には、ぜひ味わって欲しい! と思うわけです。

ただ横置きコンポーネンツを転用すると、トランスミッションとの位置関係で、どうしてもエンジンと後輪車軸が近くなってしまう。トラクションは掛かりやすくなるのですが、ホイルベースを伸ばしてもエンジンが一緒に後ろへ動くから、リアヘビーになりがちです。
そしてウェットサンプ(通常のオイルパン方式)だと重心が上がり、さらに操縦が難しくなります。

かつて初代NSX-Rをサーキット試乗したときボクは、そのハンドリングのシャープさに感動しながらも、あまりにリアがスパッ! と流れる挙動に恐怖しました(笑)。
NSXは横置きレイアウトを取ることでトランクルームをきっちり確保したからこそ成立したスポーツカーですが、あれが縦置きエンジンだったらなぁ……。

ミッドシップやフォーミュラカーにはこうしたピーキーなイメージがあり、“一見さんお断り!”な雰囲気に腰が引けるのも事実です。しかし本当にバランス良く作って、セッティングを穏やかにまとめれば、最も運転しやすいクルマになるはずなんです。

それを誰でも身近に体験できるのは、カートでしょう。確かにスピンもしやすいけれど、同時にコントロールもしやすいですよね? ブレーキが後輪のみだったりサスがなかったりするけれど、大切な部分は同じです。

  • レースの世界ではGTやル・マンで実現されていましたが、ボクはもし初代NSXが縦置きミッドシップだったらなぁ……と思います。そしたらきっと、中古だけれどポルシェじゃなくてNSXを、鼻血を出しながらでも買っていたでしょう。そういう意味でいうと二代目NSXが、とうとう本格的な縦置きミッドシップとなったのにディスコンしてしまうのは、なんとも皮肉です。

そして、ボクと同じような思いをしている変態な人が作ったと思われるクルマが、世の中にはいくつかあります(笑)。
ひとつはアメリカのフォードが作った「フォーミュラ・フォード エコブースト」。これは1リッターの3気筒ターボ(200bhp!)をミッドシップした公道を走れるフォーミュラフォードです。

そしてホンダの「サイドバイサイド」。オフロードバギーの方じゃないですよ(笑)。
こちらはなんと、ドライバーの横に2輪用の狭角V2エンジン(57PS)を搭載した、ウイングレスのフォーミュラカー。クローズドコース用車両でしたが、結局市販されなかったんじゃなかったかな?

そしてゴードン・マーレーが作り上げた「ロケット」! 詳細は省きますが、あのF1で一時代を築き上げ、マクラーレンF1や「T.50」で話題をさらった人でさえ、素朴でピュアなスポーツカーが欲しいと思ったわけです。
どれも写真が用意できなかったので、ぜひググってみてください。

決してハイパワーなエンジンを積まなくても、車体がワイドトレッドじゃなくっても、とびきりピュアな走りができる小さなスポーツカー。
ボクは定期的に、ミッドシップ・スポーツカーが、欲しくてたまらなくなるのです。

ホンダ本社に仕事で赴いたとき、なんと日本初のF1マシン「ホンダ RA271」のエンジンが展示されていました! この頃(1964年・昭和39年)からホンダは、V12エンジンを横置きミドシップしていたわけですね(笑)。当時はエンジンが重たくて苦戦したようですが、横置きでもトランスミッションとディファレンシャルが専用設計されていて見事ですよね。

(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[ガズー編集部]

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